Hanacell

豊かな州・貧しい州

ドイツ

ドイツを北から南まで旅行してみると、この国にも大きな地域格差があることがわかる。この国には、Länderfinanzausgleich(州の間の財政的な格差を是正する制度)があり、財政的に余裕のある州は、台所事情が苦しい州のために財政支援を行うことになっている。

この制度に、バイエルン州のホルスト・ゼーホーファー首相(キリスト教社会同盟=CSU)がいちゃもんを付けた。彼は、豊かな州が恒常的に負担を強いられるこの制度は憲法に違反しているとして、カールスルーエの連邦憲法裁判所に訴訟を起こすことを明らかにしたのだ。

バイエルン州は昨年、貧しい州を助けるために36億6000万ユーロ(3660億円・1ユーロ=100円換算)を負担した。さらにヘッセン州(18億ユーロ)、バーデン=ヴュルテンベルク州(17億8000万ユーロ)、ハンブルク(6000万ユー ロ)の3つの州も、ほかの州を支援している。

これに対し、財政格差是正制度で支援を受けている州は、12州に上る。最も多いのが財政難に苦しむベルリンで、昨年30億4000万ユーロの支援を受けた。旧東独州はすべて財政援助を受けているほか、ノルトライン=ヴェストファーレン州も2億2000万ユーロの支援を受けた。4州が12州を助ける支援制度は、確かにバランスが悪い。

ゼーホーファー氏は、「我々はほかの州を支援するのが嫌だと言っているわけではない。しかし一部の州だけが常に負担を迫られるような支援制度は、改革すべきだ」と述べ、制度の公平化を求めている。これに対し、北部の州政府は「来年のバイエルン州選挙でCSUの票を増やすための作戦だ」と冷ややかな反応を見せている。

だがバイエルン州政府の主張の背景には、ドイツ国内の地域格差がある。この国では、南部に比較的豊かな州が多い。バイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州には、BMW、シーメンス、ダイムラー、ボッシュなど世界的に有名なメーカーだけでなく、ニッチ市場で大きなシェアを持つ中規模企業が多数集まっている。雇用が多いために、北部や東部から移転する市民が絶えない。このため南部の州政府の金庫には、法人税や営業税だけでなく、市民からの所得税もきちんと流れ込む。

ドイツ連邦労働局によると、今年6月時点でバイエルン州の失業率は3.4%と全国で最も低い。バーデン=ヴュルテンベルク州では3.7%。経済学者は失業率が4%未満の状態を「完全雇用状態」と呼ぶが、この2つの州はその状態を達成したことになる。これに対し、失業率が最も高いのはベルリンで12%。ドイツの平均値6.6%を大幅に上回っている。

旧東独州やベルリンには、南部の州ほど企業の数が多くない。特に旧東独の優秀な若者たちは、東部が経済的に自立するのを待てずにバイエルン州やバーデン=ヴュルテンベルク州、ハンブルクなどの企業にどんどん就職している。この格差を解消するには、ベルリンや旧東独の経済競争力を改善する必要がある。しかし、この目標を達成するには膨大な時間が掛かるので、ドイツの地域格差は当分続くのではないだろうか。

3 August 2012 Nr. 930

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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