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ロンドンのゲストハウス
Sa. 19. Okt. 2019

ドイツは軍事貢献を増やすべきか?

毎年1月、ミュンヘンで世界各国の外相や国防相らが集まり「安全保障会議」が開かれているが、今年は2月1日から3日間にわたって開催され、「ドイツの軍事貢献」が重要なテーマの1つとなった。

積極的な貢献を求めたガウク大統領

ドイツのガウク連邦大統領は、この会議の冒頭に行った演説で、「ドイツは国際的な安全保障の分野で、十分な責任を果たしていない。我々は、連邦軍の派遣も含めて、もっと積極的に貢献するべきだ」と述べて、大きな注目を集めた。

ガウク氏によると、ドイツは今日、世界でグローバル化が進んだことにより、経済的に大きな恩恵を受けている。そのことは、この国が世界最大の貿易黒字国であることにも表れている。貿易だけではない。ドイツ企業はアジアや北米、南米など、多くの地域で生産活動を行っている。ドイツ政府は、欧州の多くの国との間で関税や国境検査を撤廃し、ユーロ圏では同じ通貨まで使用しており、これはドイツにとって重要な「グローバル化の果実」と言える。

大統領は、「ドイツにとって、21世紀の外交政策の中で最も重要な目標は、現在の国際秩序を守り、将来へ向けて発展させることである」と断言した。

しかしガウク氏は、現在のドイツの努力が不十分であるとみている。「ドイツが、これまでと同じように外国での紛争について知らん顔をすることは許されない。我々は同盟国の良きパートナーとして、国際貢献を増やすべきだ」と主張する。

軍事貢献も選択肢に

最も注目すべき点は、ガウク大統領が、地域紛争などへの対処には資金援助だけではなく、ドイツ連邦軍の派遣も含まれるべきであると主張したことだ。「ドイツはナチス時代の経験のために、長年にわたって他国から軍事貢献は求められなかった。しかし今日の世界では、平和主義を理由に貢献を怠ることは許されない」と述べ、外国の紛争で市民が苦しんでいる時に、ドイツが「自分たちには関係ない」と無視してはならないというのだ。もちろんガウク氏は、軍事貢献さえすれば良いと言っている訳ではない。軍事貢献はほかの手段では効き目がない時に使う最後の手段であり、連邦議会で十分な議論を行った上で、実施すべきか否かを判断しなければならない。

しかし、東独時代に福音主義教会の神父だったガウク氏が「外国での紛争に対処する際の手段として、軍事貢献を選択肢の中から除外してはならない」と主張していることは、非常に興味深い。

ドイツは軍事貢献を増やすべきか?

増加する地域紛争

なぜ、ガウク氏はこのような演説を行ったのだろうか。鉄のカーテン崩壊後、ドイツなど欧州の国々が平和な状態を享受しているのに対し、中東やアフリカでは地域紛争が多発している。

南スーダンの分離独立をめぐる地域紛争では、すでに200万人が死亡し、400万人が難民となった。シリアの内戦では約10万人が犠牲となり、900万人を超える市民が故郷を追われた。1994年にルアンダで起きた部族紛争では、国際社会が見守る中、80~100万人の市民が虐殺された。

米国は世界で最も強大な軍事力を持ち、あらゆる地域での紛争に、短時間のうちに介入する能力を備えた唯一の国だ。しかし、米国はもはや「世界の警察官」ではない。米国は2001年の同時多発テロ以降、アフガニスタンとイラクでの戦争で疲弊し、莫大な財政赤字と債務に苦しんでいる。このため米国は、国益が直接絡まない地域紛争への介入は拒む。

例えばオバマ米大統領は、シリアのアサド政権に対して「化学兵器の使用というレッドラインを越えたら、米国は黙っていない」と見得を切っていた。それなのに、シリア政府軍が昨年8月21日に、ダマスカス近郊で神経ガスのサリンを使用して多くの市民から死傷者を出した時、米国は軍事介入を行わなかったのである。この出来事は米国の権威に深い傷を付けた。米国だけでなく国連でさえもシリアを非難するだけで、紛争を終わらせる上で有効な措置を何も取れなかった。

独自の紛争処理能力を問われる欧州

つまり、仮に将来、欧州で旧ユーゴ内戦のような事態が発生しても、米国が軍事介入して助けてくれるという保証はないということである。90年代に吹き荒れたボスニア・ヘルツェゴヴィナやコソボの内戦は、米軍が軍事介入してようやく終息した。当時の欧州連合(EU)は、自力で紛争を終わらせることができない「張子の虎」だった。

欧州諸国は、米国が参加しなくとも、自力で地域紛争に軍事介入して、停戦させることができる危機管理体制を持たなければならないのだ。

近年では、ドイツ政府の消極的な姿勢が目立つ。例えばヴェスターヴェレ元外相は、国連安全保障理事会がリビア内戦への限定的な軍事介入を決議した際に棄権した。その時、米英仏などの同盟国は、ドイツが軍事介入に賛成しなかったことに驚愕した。

これまでドイツは「経済では巨人、軍事貢献では小人」という態度を取ってきたが、今後はほかのEU加盟国からも、ドイツに積極的に軍事貢献をしてほしいという声が強まるに違いない。自国の兵士の命を危険にさらすだけに、政府にとっては苦しい選択を迫られる局面が増えるだろう。

21 Februar 2014 Nr.972

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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