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ロンドンのゲストハウス
Mi. 20. Nov. 2019

テロ組織ISIS、 欧州への新たな脅威

イラク情勢が、再び緊迫の度を高めている。その理由は、シリアでアサド政権と戦っているイスラム過激組織ISIS(イラクとシャームのイスラーム国)が、隣国イラクにも侵入し、マリキ政権を打倒するために首都バグダッドへ向けて進撃しているためだ。

イラクで破竹の進撃

ISISのテロリストたちは今年6月上旬にイラク第2の都市モスルをわずか1日で陥落させ、全世界を驚かせた。彼らはこの町にあったイラク政府軍の武器や米国製のヘリコプターを捕獲したほか、銀行から4億7000万ドル相当(470億円、1ドル=100円換算)の現金を奪った。さらにイラク最大の製油所がISISに制圧されたという情報もある。

ISISは捕虜にした多数のイラク軍兵士を処刑し、その映像をインターネット上で公開している。このためイラク軍では、ろくに戦わずに退却したり、ISIS側に寝返ったりする兵士が続出した。そこでマリキ首相は、米国に対してISISの部隊を空爆するよう要請。オバマ米大統領は、300人の軍事顧問団をイラクに派遣するとともに、空母をペルシャ湾へ移動させた。このことは、米国がいかに事態を深刻に受け止めているかを物語っている。

ジョージ・H・W・ブッシュ
ペルシャ湾に緊急配備された米海軍の空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」

アルカイダよりも強力な組織

ISISの母体となったテロ組織は、2004年初め頃に、ヨルダン生まれのテロリストA・ザルカウィが「イラクのアルカイダ」として創設。中東の各地で爆弾テロや欧米人の誘拐、処刑を繰り返してきた。現在はアルカイダから分かれているが、約1万5000人の戦闘員を擁す、「イスラム世界で最も強力で凶悪な組織」と見られている。

またISISは、「世界で最も資金が豊富なテロ組織」と言われている。イラク軍が押収したISIS関係者のコンピューターを分析したところ、ISISはモスルの銀行から現金を強奪する以前から、すでに8億5000万ドル(850億円)もの資金を持っていた。彼らは占領した地域の原油や美術品を売って、資金を調達しているのだ。

ISISとイラク政府の戦いは、宗教戦争でもある。ISISではイスラム教のスンニ派が主流。これに対しイラクのマリキ首相はシーア派だ。マリキ氏は政権をシーア派で固め、スンニ派を冷遇したために、スンニ派市民から批判されていた。米国も、マリキ首相がスンニ派を差別したことを批判していた。ISISが破竹の進撃を続けている裏には、イラクのスンニ派の支援を受けているという事実がある。シーア派国家であるイランが、イラクのマリキ政権を支援する方針を打ち出しているのもそのためだ。

つまり、かつて敵国だった米国とイランが、イラクのシーア派政権を守るために協力する可能性があるのだ。かつて米国は、イランと戦っていたイラクのサダム・フセインを支援したことがある。そう考えると、現在の米国とイラクの「共同戦線」は奇妙に思えるが、国際政治の世界には、「敵の敵は味方」という鉄則がある。米国はその時々の「国益」に応じて、支援する国家を次々に変えていくのだ。

ISISに加わる欧州市民

さてISISは、ドイツをはじめとする欧州諸国にとっても重大な脅威だ。その理由は、ドイツやフランス、英国など8カ国の狂信的なイスラム教徒約2000人がシリアでISISに加わってアサド政権と戦い、一部が戦闘経験を積んだテロリストとして欧州に戻り始めているからだ。

彼らの多くは、中東や北アフリカ諸国から欧州に移住した市民の子どもや孫たちである。欧州の社会や価値観の違いに失望し、インターネットの世界で流されるイスラム過激派のメッセージに共感して、中東の戦場へ向かった人々だ。「シリア帰還兵」は実際にテロ事件を起こしている。

今年5月末に、ブリュッセルのユダヤ博物館でテロリストが自動小銃を乱射し、イスラエル人ら4人を殺害した。犯人は、シリアでISISに加わって欧州に戻ったフランス人のイスラム教徒と分かった。

この男がフランクフルト空港に着いたとき、ドイツ人の国境検査官はフランス政府がこの人物を要注意人物に指定し、パスポートのデータをシステムに入力するよう要請していることには気付いたが、フランス政府は逮捕を要請していなかったので、この係官はデータを入力しただけで男を入国させた。テロリストはその直後、ブリュッセルで4人を殺害した。つまり、ドイツの警察がこの男を直ちに拘束していれば、ブリュッセルでのテロは防げたのである。ある意味、警察の失態だ。

このため欧州の捜査当局は、シリアやイラクに滞在した後に欧州に戻って来る人物に対する監視を強化しており、6月15日にも、ベルリン空港警察はシリアから戻って来たISISのメンバーを逮捕した。

捜査当局は、ISISで戦闘訓練を受けた一部の欧州市民が、今後も欧州でテロ事件を起こす可能性があると見ている。欧州では、国境の垣根が取り払われつつある。シェンゲン協定に加盟している国の間には国境検査はないので、テロリストが一度入国してしまえば、発見が極めて難しい。

欧州の捜査当局にとっては、頭の痛い問題だ。イスラム過激派による無差別テロの防止を最優先の課題にしてほしい。

4 Juli 2014 Nr.981

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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