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ロンドンのゲストハウス
So. 17. Nov. 2019

独エネルギー革命でエーオン、原子力・火力発電「撤退」

2014年11月30日夜。ドイツ人たちは最初の待降節(アドヴェント)を迎え、静かにクリスマス・シーズンの到来を祝っていた。そこへ、青天の霹靂(へきれき)のようなニュースが飛び込んできた。

エーオン「解体」の衝撃

デュッセルドルフに本社を持つドイツ最大のエネルギー企業E・ON(エーオン)が、原子力発電と褐炭や石炭などによる火力発電事業を切り離して、別会社に担当させると発表した。本社は、再生可能エネルギーなど新しいビジネスモデルに特化する。これはドイツのエネルギー業界だけでなく、経済界そして欧州全体に衝撃を与えるニュースだ。

人々を驚かせたのは、今回発表された機構改革が極めて大規模で、エーオンという巨大企業を根本から塗り替えることだ。同社は基本的に2つに分割される。エーオンの社員数は現在6万人。そのうち4万人は本社に残って、再生可能エネルギー、新時代の送電網ビジネスである通称「スマートグリッド」、そして分散型の発電に関する顧客サービスを担当する。

残りの2万人は新会社に移り、原子力発電と褐炭・石炭、天然ガスによる火力発電、水力発電事業を担当する。新会社の株式の大半は、現在のエーオンの株主が所有するが、一部は株式市場で販売する。大企業が不採算部門を切り離すときなどに使う「スピン・オフ」という手法だ。つまりエーオン本社は、伝統的な発電事業から事実上「撤退」し、21世紀の新しいビジネスへ向けて新たな航海に出るわけだ。

福島事故が間接的な原因

なぜエーオンは、これほど大胆なリストラに踏み切るのだろうか。その間接的な理由は、2011年に起きた東京電力・福島第1原子力発電所の炉心溶融事故にある。メルケル政権は、先進工業国で最悪となったこの原子炉事故をきっかけに、2022年末までに原子力発電所の全廃を決定。同時に、再生可能エネルギーの拡大をスピードアップする「エネルギー革命」を発動させた。政府は2050年までに、再生可能エネルギーの発電比率を80%まで引き上げることを目指している。

エーオンは、2011年にメルケル政権によって2基の原子炉(イザー1号機とウンターヴェーザー)を停止させられたことや、核燃料税の負担のために創業以来初の赤字に転落。さらに同社に致命的な打撃を与えたのが、再生可能エネルギーによるエコ電力の急増だ。再生可能エネルギーの本格的な助成は、2000年にシュレーダー政権が開始。2003年には再生可能エネルギーの発電比率(水力も含む)は7.5%だったが、2013年には3.2倍に増えて24%になった。

特に太陽光発電装置の駆け込み設置が2010年以来急増したことなどにより、電力の卸売市場に大量のエコ電力が流入し、供給過剰状態が出現。電力の卸売価格が大幅に下がったのである。例えば、経済社会の恒常的な電力需要をカバーするベースロードと呼ばれる電力の先物取引価格は、2008~13年までに50%、需要が最も高くなるときのピークロードと呼ばれる電力の先物取引価格は、65%も下落した。

新エネ普及で業績悪化

この価格下落のため、褐炭・石炭、天然ガスによる火力発電所の収益性が悪化。特に減価償却が終わっていない天然ガス発電所では、運転コストすらカバーできないところが現れた。発電すればするほど、損失が膨らむのだ。2013年のエーオンのドイツ国内での発電比率の中では、石炭・褐炭、天然ガスなどの化石燃料が59.5%、原子力が29.2%である。再生可能エネルギーはわずか11.4%と全国平均に比べて大幅に低い。つまりエーオンの発電比率の9割近くが、採算が悪化しつつある部門なのだ。

エーオンの今年1~9月までの当期利益は、前年の同じ時期に比べて25%も減っていた。第4・四半期には、発電所の資産価値の低下によって、45億ユーロ(約6300億円)の特別損失を計上する見込みで、通年では再び赤字決算となる可能性がある。

ヨハネス・タイセン社長は、12月2日の記者会見で「現在の企業構造では、急激に変化する市場に対応できない。これまで通りのやり方を続けていくわけにはいかない」と断言した。同時に、「再生可能エネルギーのうち、風力や太陽光はまだ初期段階にあるが、火力発電などの伝統的な発電事業に比べて、今後急速に伸びると確信している」と述べ、同社の未来は新エネルギーにあるという見方を明らかにした。

株式市場はエーオンの決定を歓迎。2011年以降下がる一方だった同社の株価は、大リストラの発表の翌日に約4%上昇した。

E・ONのヨハネス・タイセン社長
E・ONのヨハネス・タイセン社長

原発廃炉コストは誰が負担する?

メルケル政権は11月に、CO2放出量の削減に拍車を掛けるために、褐炭・火力発電所の閉鎖を事実上命じる計画を打ち出していた。温暖化防止という意味では、エーオンの決定は政府にとって歓迎すべきことだ。ただし、新会社が原発の廃炉費用や、高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵処分場の選定のためのコストを負担できるのかという、新たな問題が浮上する。

福島事故が引き金となったエネルギー転換が、この国のエネルギー業界に革命的な変化を及ぼしたことだけは間違いない。

19 Dezember 2014 Nr.992

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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