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Fr. 28. Feb. 2020

シャルリー・エブド襲撃事件とドイツ

2015年の年明け早々、欧州は凶悪なテロ事件で大揺れとなった。1月7日、フランスの風刺週刊新聞「シャルリー・エブド」の編集部に、覆面をしたテロリスト2人が侵入し、編集長やイラストレーターら12人をカラシニコフ自動小銃で射殺したのだ。

2人は、犯行時に自分たちがテロ組織アルカイダに属することを明かし、「アラーは偉大だ。おれたちはシャルリー・エブドを殺し、預言者ムハンマドの敵かたきを取った」と叫んだ。

イスラム過激派の犯行

犯人たちは2日後にパリ郊外の印刷工場に立てこもった後、フランス警察の特殊部隊に射殺された。またこの犯行と連動して、別のテロリストも同じ日にパリ南部の路上で警察官を殺したほか、2日後にパリ東部のユダヤ系スーパーマーケットに人質を取って立てこもり、ユダヤ人4人を殺害。この男も警官隊に射殺された。一連の事件の犠牲者は17人に上る。シャルリー・エブド紙襲撃は、欧州の言論機関に対するテロとしては、最悪の事態となった。

なぜシャルリー・エブド紙は、イスラム過激派のテロリストに狙われたのか。1992年に創刊されたシャルリー・エブド紙は、政治家をはじめ、あらゆる権威を批判する週刊新聞で、挑発的な風刺画と鋭いジョーク、辛辣なパロディーを売りとしていた。

フランスには19世紀のオノレ・ドーミエ以来の風刺画の伝統があり、国民も政治を風刺するイラストを好む。フランス人のメンタリティーを理解する上で「révolte(反抗)」という言葉は最も重要だ。そこにはフランス革命以来の、不服従の精神が息づいている。シャルリー・エブドはフランス人の反骨精神を象徴するメディアなのだ。同紙は特にフランスの国是である政教分離と世俗主義を重視し、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教などの宗教にしばしば集中砲火を浴びせていた。

ムハンマドの風刺画を掲載

イスラム過激派にとってシャルリー・エブド紙は、憎悪の的だった。2005年にデンマークの日刊紙「ユランズ・ポステン」がムハンマドの風刺画を掲載してイスラム教徒から批判されたが、シャルリー・エブド紙は、2006年にこのイラストをあえて転載。イスラム教は、神や預言者の図像化を禁じており、フランスに住む多くのイスラム教徒はシャルリー・エブド紙の決定を挑発行為とみなした。2011年には、同紙の編集部に何者かが火炎瓶を投げ込んだほか、編集長らに脅迫メールが送られた。

シャルリー・エブド紙での銃撃事件に対しては、欧州全体で怒りと悲しみの声が巻き起こった。フランスでは1月11日に、犠牲者を追悼するデモが行われたが、なんと全国で370万人もの市民が参加した。これは、第2次世界大戦でフランスがナチスドイツによる支配から解放されたとき以来、最も多い数である。

パリでは、「Je suis Charlie(私はシャルリー)」というプラカードを持った市民ら160万人が大通りを埋めた。デモの先頭には、オランド大統領、ドイツのメルケル首相、英国のキャメロン首相が立ったほか、スペイン、イタリア、ウクライナの首相、ロシアの外相、ヨルダンの国王夫妻も参加した。普段は対立しているイスラエルのネタニエフ首相と、パレスチナ自治政府の大統領が同じデモに加わった。44カ国の首脳が駆け付けてデモに参加したのは、極めて異例のことである。

1月11日に行われたフランス共和国の行進の様子
1月11日に行われたフランス共和国の行進の様子

ドイツで高まる反イスラム運動

なぜ彼らは、シャルリー・エブド紙襲撃事件に強い反応を示したのだろうか。それは、欧州の政治家や言論人たちがこの事件について、2001年の米国同時多発テロ並みの危機感を抱いているからだ。テロリストたちは、言論機関の意見を封じるために凶行に及んだ。つまり、銃弾の雨を浴びたのは、「言論と表現の自由」だったのだ。これは欧州人たちが最も重視する価値の1つである。

ドイツでは昨年秋以来、ドレスデンを中心に「欧州のイスラム化に反対する愛国者たち(PEGIDA)」という団体が毎週月曜日にデモを行い、参加者の数が毎回増えていた。シャルリー・エブド紙襲撃事件をきっかけに、ドイツでもイスラム過激派だけではなく、イスラム教徒や外国人全般に対する市民の反感が強まる危険がある。特に、極右勢力はこの事件を利用して支持者を増やそうとするだろう。

このため、1月12日にはミュンヘンやベルリンなどで、約10万人の市民がPEGIDAに反対するデモを行った。ミュンヘンのディーター・ライター市長は演説で、「我々はいかなる人種差別主義、反ユダヤ主義、極右の暴力にも反対する」と述べ、外国人排斥に反対する姿勢を打ち出した。

イスラム教徒の差別を防げ

一方、テロの危険にさらされているのはフランスだけではない。ドイツ政府は、約500人の若者がイスラム過激派の思想にかぶれてイラクやシリアへ渡り、テロ組織「イスラム国」の訓練を受けたり、実戦に参加しているとみている。彼らの中には、ドイツへ戻って無差別テロを計画する者がいるかもしれない。

今後、フランスやドイツで警戒態勢が強化されるのは避けられないが、そのことがイスラム教徒への差別や、市民権の制限に繋がることは防ぐ必要がある。ドイツと欧州にとって、イスラム過激派、そして移民問題への対応が極めて重要な課題となるだろう。

23 Januar 2015 Nr.994

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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