Hanacell

ドイツにもイスラムテロの影

イスラム過激派組織のウエブサイトに、イラクでテロリストに誘拐されたドイツ人の母親と息子の疲労困憊した表情が映し出された。誘拐犯たちは、「ドイツがアフガニスタンから軍や人道支援団体を撤退させなければ、この2人を殺害する」と脅迫した。

別の過激派組織は、ほぼ同時期に発表したドイツ語のメッセージの中で、「ドイツとオーストリア政府がアフガニスタンから手を引かなければ、これらの国々でテロを起こす」と警告している。犯人が身代金を目的としている場合には、政府が金を払えば人質が助かる可能性は高い。だが身代金ではなく、政治的な動機を持ったテロの場合、人質が処刑される危険性は高い。シュタインマイヤー外相は「テロには屈しない」と発言しているが、人命がからんでいるだけに、その表情には焦りと苦悩の色が濃い。

ドイツは、他の36カ国とともに、アフガニスタンに戦闘部隊を派遣している。約3000人のドイツ兵士の任務は、この国でタリバンが再び影響力を持つのを防ぎ、戦火で荒廃したこの国の復興を助けることだ。ドイツ軍は、米英軍がアフガニスタン南西部で展開している、タリバン勢力との戦闘には直接参加していない。しかしイスラム過激派の目には、ドイツ軍も米英と同じ占領軍に映るのだ。

ドイツの捜査当局は、インターネットで発表されたアラビア語の脅迫文がドイツ語に翻訳されていたことから、「ドイツやオーストリアに住んでいるテロ組織の協力者が加わっている可能性もある」と指摘する。アルカイダの危険性は、インターネットに発表するメッセージによって、世界中の国々に住むイスラム過激派に、テロ活動を行うようそそのかすことである。ドイツやオーストリアでも、普段は学生や勤め人だが、夜や週末にインターネットのチャットルームを通じて、イスラム過激派と交流している若者が増えているとされる。

捜査当局にとって、そうしたテロリスト予備軍を発見するのは容易なことではない。昨年夏には、ムハンマドの風刺画論争に刺激されたレバノン人が、ドイツの列車にプロパンガス容器を使った爆弾をしかけた。幸い爆発はしなかったが、もう少しで大惨事になるところだった。

こう考えると、アルカイダの呼びかけに応じて、ドイツのアフガニスタン介入に抗議し、狂信者がドイツ国内で爆弾テロを実行する危険は、日に日に高まっている。特にドイツ政府は、北大西洋条約機構(NATO)の要請で、電子偵察装置を搭載したトルナード戦闘爆撃機をアフガニスタンに送る方針である。違憲訴訟に判決が出て、トルナードが投入されれば、ドイツのアフガニスタンへの関与が、これまで以上に戦闘任務の性格を帯びることは間違いない。テロリストたちは、一層ドイツ政府に対する怒りを募らせるだろう。

捜査当局には、テロ組織に対する監視を一層強化し、ロンドンやマドリードで起きたような無差別テロを食い止めて欲しい。

23 März 2007 Nr. 655

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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