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ロンドンのゲストハウス
Sa. 19. Okt. 2019

ギリシャの緊縮策拒否とドイツの苦悩

2012年以降、沈静化していたユーロ危機の暗雲が、再び欧州の上空を覆い始めた。そのきっかけは、1月25日にギリシャで行われた総選挙だ。

トロイカとの協力を拒否

チプラス党首率いるポピュリスト政党・急進左派連合(SYRIZA)が、2012年の選挙に比べて9.6ポイントも得票率を伸ばし、勝利を収めた。チプラスは、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)がギリシャに求めてきた緊縮策を拒否し、やはり緊縮策に反対する、右派ポピュリスト政党「独立ギリシャ人」と連立することによって首相の座に就いた。

EU、ECB、IMFが構成する監視委員会はトロイカと呼ばれる。約400年にわたってトルコに支配された経験を持つギリシャ人は、外国人による支配を嫌う。その誇り高いギリシャ人にとって、トロイカが政府の箸の上げ下げを監視し指導することは大きな屈辱であり、怨嗟(えんさ)の的である。首相となったチプラスは、トロイカに一切協力しないことを宣言した。

さらに彼は、2月初めに議会で行った所信表明演説の中で、「我々はEUの援助プログラムから脱却する。我々は援助プログラムが与えた傷を癒し、被害を受けた市民たちに手を差し伸べる」と述べた。

EUからの援助に依存するギリシャ

 EU加盟国とIMFは、2009年末に債務危機が表面化して以降、ギリシャが支払い不能状態に陥るのを防ぐために、総額2400億ユーロ(33兆6000億円、1ユーロ=140円換算)の融資を行ってきた。

さらにEUは、ドイツやフランスの金融機関などの民間投資家を説得して、1070億ユーロ(14兆9800億円)相当の対ギリシャ債権を放棄させた。これは、民間投資家の対ギリシャ債権のほぼ半分に当たる。つまり、ギリシャ政府の借金の一部を棒引きしたのである。

またECBは、ギリシャの銀行が倒産するのを防ぐために、緊急流動性援助というプログラムによって、多額の資金を供給してきた。ギリシャの公共債務残高は、国内総生産(GDP)の175%に達している。このため同国は、外国市場で国債を売って、お金を借りることができない。つまりギリシャは、輸血を受けなくては生きていけない重症患者なのだ。EUとIMFは、33兆円を超す金を貸す条件として、ギリシャに対し、歳出削減と増税による財政の建て直しや、市場開放や規制緩和による経済構造の抜本的な改革を要求した。

構造改革を帳消しに

だがチプラスは、「EUの援助プログラムは我が国に深い傷を与えた」として、選挙戦中の公約通り、プログラムからの脱却を宣言した。例えば、2010年以来ギリシャ政府は、「公務員の数を15万人減らせ」というEUの要求に従い公務員を解雇してきたが、チプラスは解雇された公務員を復職させることを明らかにした。

また、ギリシャでは不況が深刻化しており、今年1月の失業率は25.8%とEUで最悪の状態になっている。若年層の失業率は、約50%に達する。このためチプラスは、貧困層に属する30万世帯に無料で食料と電力を供給する方針を打ち出したほか、貧困層の医療費を免除したり、長期失業者に対して交通費の援助を行ったりする方針だ。また、貧しい高齢者への年金を12カ月分から13カ月分に増やすほか、2012年に月額751ユーロから586ユーロに引き下げられた法定最低賃金を元の水準に引き上げる。

チプラスは、「EUが援助プログラムの名の下に押し付けた緊縮策のために、国民が苦しんでいる」と主張しているが、その緊縮策を要求した張本人はEU最大の経済パワーであるドイツだと考えている。同国におけるドイツ政府に対する反感は、非常に強いものがある。

さらにチプラス政権は、2400億ユーロの借金についても条件を大幅に緩和したり、債務額を減らしたりすることを要求している。また、現在の融資プログラムを延長することも求めている。

ユーロマーク
欧州中央銀行本店にあるユーロマーク

EUは新政権の要求を拒絶

ギリシャの要求は、多くのEU加盟国をあきれさせている。特にドイツのショイブレ財務相(CDU)は、「ギリシャの新政権がどのようにして債務問題を解決しようとしているのか、まったく理解できない」と批判。ドイツ政府はチプラス政権に対して、緊縮策を予定通り実行するよう求めている。

EUの資金力に依存している国がEUを強く批判し、しかも「さらに金を貸してくれ」と要求していることを受け、多くのドイツ人がギリシャの態度を虫が良すぎると考えている。チプラス政権のバルファキス財務相は「ギリシャがユーロ圏から脱退したら、通貨同盟はトランプの城のように崩れ落ちる」と警告している。これに対し、ケルンのドイツ経済研究所(DIW)のヒューター所長は、「EUは妥協すべきではない」と述べ、強硬姿勢を打ち出している。ヒューター氏は「債務危機に陥ったEU加盟国が緊縮策や構造改革を放棄する場合には、情状酌量の余地はない。EUは毅然とした態度で臨むべきだ」と、ギリシャがEUの条件を拒否する場合は、脱退もやむを得ないという意見を明らかにした。

ギリシャはEUの資金に依存しているので、選択の余地は少ない。EUでは、「やがて妥協するだろう」という見方が有力だ。しかしギリシャ人の怒りは高まっており、「窮鼠猫を噛む」という事態もあり得る。ユーロをめぐる今後の動きから、目が離せない。

20 Februar 2015 Nr.996

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
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