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ロンドンのゲストハウス
Mi. 16. Okt. 2019

なぜドイツの 労働時間は短いのか

読者の皆さんの中には、「ドイツの労働時間は、日本に比べて短い」と感じている方もおられるのではないだろうか。

•日独間の労働時間に大きな差

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、日本では就業者1人当たりの1年間の平均労働時間が1745時間(2012年当時)だった。これに対し、ドイツは1393時間と約20%も短く、日本人より年間で352時間も短いというのだ。352時間といえば、およそ14日間に相当する。

ドイツは、世界でも労働時間が最も短い国の1つだ。OECDの調査の対象となった35カ国の中で、オランダに次いで短い。一方、日本の年間労働時間は35カ国の中で8番目に長い。OECDによると、ドイツの1時間当たりの労働生産性は日本よりも高いが、その理由の1つに労働時間が日本よりも短いことが挙げられる。労働生産性は、国内総生産(GDP)を労働時間で割って算出されるからだ。労働時間が短くなればなるほど、1時間当たりの労働生産性は高まる。

シュピーゲル誌の表紙
2012年の就業者1人当たりの労働時間(単位・千時間)

労働時間を法律で厳しく規制

なぜドイツの労働時間は短いのだろうか。その最大の理由は、政府が法律によって労働時間を厳しく規制し、違反がないかどうか監視していることだ。

企業で働く社員の労働時間は、1994年に施行された「労働時間法(ArbZG)」によって規制されている。この法律によると、平日(月~土)1日当たりの労働時間は8時間を超えてはならない。1日当たりの労働時間は、最長10時間まで延長することができるが、その場合にも6カ月間の1日当たりの平均労働時間は8時間を超えてはならない(ただし経営者と社員が特別の雇用協定を結ぶことは許されているほか、緊急事態の例外は認められている)。つまりドイツの企業では、1日当たり10時間を超える労働は、原則として禁止されているのだ。

•役所が労働時間を厳しくチェック

読者の皆さんは「日本でも労働基準法の第32条によって、1週間の労働時間の上限は40時間、1日8時間と決まっている」と考えるかもしれない。だが日独の労働時間規制の間には、大きな違いがある。それは、ドイツでは労働安全局(日本の労働基準監督署に相当する)が立ち入り検査を行って、企業が労働時間法に違反していないかどうか厳しくチェックを行っているということだ。労働安全局の係官は時折、事前の予告なしに企業を訪れて、労働時間の記録を点検する。

労働安全局が検査をした結果、企業が組織的に毎日10時間以上の労働を社員に強いていたり、週末に働かせていたことが発覚すると、経営者は最高1万5000ユーロ(210万円)の罰金を科される。悪質なケースでは、経営者が最高1年間の禁固刑を科されることもある。2009年4月には、テューリンゲン州の労働安全局が、ある病院の医長に対し、ほかの医師らに超過労働をさせていたという理由で6838ユーロの罰金の支払いを命じた例がある。

企業が社員に長時間労働を課さないもう1つの理由は、企業イメージを守るためだ。メディアが「組織的に長時間労働を行わせて、労働時間法に違反していた」という事実を報じると、企業のイメージに深い傷がつく。現在ドイツでは優秀な人材が不足しているので、そのような報道が行われると、「あそこは長時間労働をさせる企業だ」と思われて、優秀な人材に敬遠されることになる。これは企業にとって大きなマイナスである。

このためドイツの雇用者、特に大企業の管理職は、1日の労働時間が10時間を超えないように、口を酸っぱくして注意する。

•社会的市場経済が背景

ドイツでは、残業が必要になるということは、業務量に比べて社員の数が足りないことを意味する。したがって経営者は、繁忙期などに残業をさせる場合には、原則として事業所委員会(企業ごとの労働組合)の同意を得る必要がある。ドイツの企業経営者は、社員にやたらと残業をさせてはならないのだ。

筆者は、「ライフ・ワーク・バランス」を確保するという意味では、ドイツ政府が労働時間を法律で厳しく制限していることは、悪いことではないと考えている。会社で働くだけではなく、誰もが家族と一緒に過ごす時間も持てるように法律が整えられているわけだ。これは、ドイツが戦後一貫して続けている社会的市場経済(Soziale Marktwirtschaft)のたまものだ。つまり米国のような自由放任主義に基づく競争社会ではなく、政府が法律によって社会の枠組みを整える制度である。

時代が変わっても、ドイツ人は社会的市場経済の原則だけは維持していくだろう。

5 Juni 2015 Nr.1003

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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