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So. 17. Nov. 2019

EUは難民問題に どう対応するのか?

今年、北アフリカや中東から漁船に乗って欧州に渡ろうとする難民が急増している。4月末までにリビアやシリアからイタリア、ギリシャといった南欧諸国にたどり着いた難民は約100万人に上ると推定されている。しかし、満員の漁船が荒天のために転覆する例も多く、1〜4月に約1500人が溺死した。

荒れ模様の地中海
荒れ模様の地中海

•後手に回るEU諸国

「地中海はアフリカ難民たちの墓場になる」。このような見出しが欧州各国の新聞の1面に掲げられた。多くの報道関係者、市民たちは、欧州連合(EU)が難民の増加や海上での救援体制の整備に対し、有効な対策を打ち出さないことについて、いらだちを隠さない。

しかも、この悲劇は今に始まったことではない。2013年10月3日、イタリア南部のランペドゥーサ島の近くで難民の乗った船が沈没し、366人が溺れ死んだ。その8日後には、マルタ島の近くで500人の難民が犠牲となった。この事件を受け、イタリア政府は同年10月に難民救助作戦「マーレ・ノストルム」を開始。フリゲート艦や上陸用舟艇など5隻の軍艦とヘリコプターを投入して難民の救助にあたった。イタリア海軍の900人の将兵たちが約600回出動して約14万人の難民を救助し、作戦は一定の効果を挙げた。しかしこの作戦には年間1億1000万ユーロ(約143億円)の費用が掛かったため、イタリア政府は、「資金の捻出が難しい」として、2014年10月31日にマーレ・ノストルム作戦を打ち切った。だが作戦打ち切りの背景には、資金難だけではなく、アフリカや中東で「イタリア海軍に救助される可能性が高まり、海路による亡命の危険が減った」という見方が強まることが、難民増加に拍車を掛けるとの懸念もあった。

マーレ・ノストルム作戦が打ち切られた後、EUの国境を警備するFRONTEX(欧州対外国境管理協力機関)がトリトン作戦を開始した。だが、艦艇の捜索範囲はイタリア軍の難民救助作戦とは異なり、沿岸から30マイルの海域に限られていた。難民の海難事故の大半は、この海域の外で発生している。さらに、この作戦に充てられた年間予算額は約3000万ユーロで、マーレ・ノストルム作戦の3分の1程度だった。

•EUは難民救助体制の強化を!

世論の批判が高まったため、EUは急きょブリュッセルで首脳会議を開き、トリトン作戦の予算を3倍に増やした。さらに、ドイツ政府は5月中旬から、フリゲート艦「ヘッセン」など2隻の軍艦を難民救助のために地中海に投入し始めた。EU諸国は、難民救助のための努力を強化すべきだ。EUは、第2次世界大戦の惨劇を教訓として生まれた国際機関であり、人権の擁護を大義名分としている。したがって、難民が欧州を目前として海の藻屑と消えるのを、拱手傍観(きょうしゅぼうかん)することは、EU創設の理念に反する。

また、欧州が直面している現在の状況は、難民危機の序幕に過ぎない。特に憂慮されているのがシリア情勢だ。同国ではすでに内戦や虐殺により約20万人が死亡。国連難民高等弁務官(UNHCR)によると、戦火を避けてトルコ、レバノン、ヨルダンなどに避難しているシリア人の数は、398万人に達し、トルコ1国が受け入れた難民の数は、160万人に上る。

•ドイツに45万人が亡命申請か

いわゆる「アラブの春」によって、リビア、エジプト、チュニジアなど北アフリカや中東の国々の一部では国家秩序が崩壊、もしくは大きく動揺している。さらにテロ組織「イスラム国(IS)」は、シリアだけでなくイラク政府にとっても脅威となりつつある。現在これらの国々では、亡命を望む人々から金を取って欧州へ移送する業者たちが暗躍している。

さらに、地球温暖化や気候変動によるかんばつが、将来アフリカでの食糧不足に拍車をかける危険もある。その場合、アフリカから欧州を目指す難民の数はさらに増えるだろう。これに加えて、EUが域内の移動を自由化したことを利用して、ブルガリア、ルーマニア、さらにEU域外のコソボなどから西欧諸国への亡命を望むシンティ・ロマ(いわゆるジプシー)も増えている。彼らは、「東欧諸国で差別されているので、亡命申請した」と主張している。

メルケル政権は5月初め、「今年、ドイツの亡命申請者の数は45万人に達する」という予測を発表し、これまでの見通しを大幅に引き上げた。これは、第2次世界大戦後、最も多い数字だ。

•経済大国に求められるリーダーシップ

ドイツの地方自治体は、現在も難民の受け入れ態勢の整備に苦労している。予算や人手が圧倒的に不足しているのだ。旧東独では、亡命申請者を住まわせる予定の住宅が放火されるなど、極右勢力が不気味な動きを見せ始めている。ドイツは、EU加盟国の中で最も多い貿易黒字を記録し、連邦政府の財政収支も黒字になった。ドイツが戦火に追われて着の身着のままで逃げてくる市民に救いの手を差し伸べることは、当然の義務だと考える。連邦政府は、地方自治体への財政支援を増やすべきだ。さらに、EU各国では難民の受け入れに批判的なポピュリズム政党が支持率を増しており、難民増加は、これらの政党をさらに躍進させるかもしれない。伝統的な政党は、なぜ難民を助けるべきなのかについて、国民を納得させる必要がある。

欧州諸国にとって、難民増加は21世紀最大の政治問題、社会問題に繋がるかもしれない。

19 Juni 2015 Nr.1004

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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