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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

ケルンの暴力事件とドイツの難民政策

大晦日からにかけて、ドイツ社会と政界を大きく揺さぶる事件が起きた。この出来事は、単なる刑事事件ではない。その地震波は、メルケル首相に対するドイツ市民の信頼感にも大きな影響を与えた。

夜のケルン中央駅前
夜のケルン中央駅前

ケルン・狂気の夜

最も深刻な事態が起きたのは、ケルン中央駅と大聖堂の間の広場である。ここには、花火や爆竹で新年の到来を祝うために、多くの人々が集まっていた。ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州のラルフ・イェーガー内務大臣が発表した報告書によると、ここにいた約1000人の群衆の大半は、北アフリカ、またはアラブ系の外国人だった。その内、酒に酔った外国人たちが、数時間にわたって、市民を取り囲んで財布や携帯電話を奪ったり、女性の胸や下半身を触ったりした。1月18日の時点では、約880人が警察に被害届を出している。その内、約40%が性的犯罪だった。

警察の対応の悪さには、唖然とするばかりだ。現場には約140人の警察官がいたが、外国人が市民を取り囲んで視界を遮っていたためか、多くの警官たちは、現場で女性たちが外国人に襲われていたことに気づかなかった。

NRW州内務省によると、1月10日の時点で警察は19人の容疑者を捜査しているが、その内10人が亡命申請者で、9人が不法に滞在している外国人だった。亡命申請者の内9人は、昨年ドイツにやってきた外国人。また容疑者の内14人は、モロッコとアルジェリア出身だった。

ある外国人は、警察官に対して「俺はメルケルに招待されたのだから、丁寧に対応しろ」と言い放った。

行政側が、事態の深刻さに気がついたのは、事件から4日経った1月5日。当初、主要メディアもこの事件について、ほとんど報道しなかった。

NRW州政府は、ケルン市警察の対応に重大な落ち度があったとして、ヴォルフガング・アルバース本部長を解任した。さらに同様の事件は、ハンブルクとシュトゥットガルトでも発生していた。女性2人が強姦されたという報道もある。

メルケル政権にも強い衝撃

ドイツはこれまで比較的治安が良い国として知られていた。警察官が近くにいたのに、公共の場で多数の女性が性犯罪の被害者となるという事件は、戦後ドイツで初めてだ。メルケル首相は、「一部の外国人は、女性を蔑視しているのだろうか。そうだとしたら、我々は徹底的に取り締まる。ケルンの事件は、氷山の一角だ」と強い不快感を表明。またマース連邦法務大臣は、「ケルンでは、一時的に文明国とは呼べない状況が出現した」と述べた。

メルケル政権は、罪を犯した外国人の国外追放に関する規定を、厳しくする方針だ。これまでドイツでは、罪を犯した外国人のうち、国外追放処分になるのは、裁判所から禁固2年以上の実刑判決を受けた者に限られていた。今後は、禁固2年未満で、執行猶予付きの有罪判決を受けた外国人でも、国外追放が可能になる。さらに政府は警察官を増員するとともに、広場など公共の場所を監視するカメラの数を増やす。

今回の事件で、メルケル首相の難民政策に対する批判が、一段と強まっている。普段はリベラルな論調で知られる「シュピーゲル」誌も、「ケルン事件以来、多くのドイツ人が、自分の国で外国人によって危険にさらされるという疎外感と不安感を抱いている。メルケル政権は、難民数を大幅に減らして、市民の不安を取り除くべきだ」と主張している。メルケル首相の難民受け入れ政策を支援していた人々にとって、ケルンの暴力事件は、大打撃である。これまで右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」などは、「難民に紛れて犯罪者がドイツに流れ込む」と主張して、難民の受け入れに反対してきた。彼らはケルンの事件を見て、「我々の言う通りだったではないか」と豪語している。 

難民数は今後も急増する

昨年ドイツには約100万人の難民が到着した。大連立政権に参加しているキリスト教社会同盟(CSU)のホルスト・ゼーホーファー首相は、「今年ドイツが受け入れる難民の数を20万人に抑えるべきだ」と要求している。メルケル首相は、「難民の数は減らすべきだ」としながらも、受け入れ数に上限を設けることには反対している。ドイツの保守派たちは、「ドイツに到着した難民には、ドイツの法律や規則を守ることや言語の学習を義務付け、この国の社会に適応することを強制するべきだ。従わない者については、国からの生活保護などを削減するべきだ」と主張している。

あと数カ月して欧州に春が訪れ、地中海の波が穏やかになれば、再び多くの難民がドイツを目指す。今後3年間で欧州連合(EU)にやってくる難民の数は、約300万人に達すると見られている。今ドイツで我々が見ている状況は、まだ序章なのだ。

私は、全ての難民を犯罪者と同一視することには反対だ。だが、一人一人の難民を詳しく審査せずに、毎年100万人の外国人をこの国に受け入れることは、ドイツに大きなストレスをもたらす。メルケル首相の「Wir schaffen das(私たちはやり遂げられる)」というスローガンだけでは、もはや国民は納得しない。

メルケル首相への支持率も低下する可能性がある。ケルンの駅前で繰り広げられた光景は、ドイツの「歓迎する文化(Willkommenkultur)」の終わりを意味するのかもしれない。この国で難民に対する目が厳しくなることは避けられない。

22 Januar 2016 Nr.1018

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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