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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

高レベル放射性廃棄物の処理費用をめぐる激論

ドイツは、2011年に東京電力福島第一原発で起きた炉心溶融事故をきっかけに、2022年12月31日までに、全ての原発を停止させることを決めた。

高レベル放射性廃棄物
高レベル放射性廃棄物の処分場の
場所をドイツは2031年までに決める

高レベル廃棄物との戦い

しかしその後も、原子力発電の負の遺産との戦いは続く。原発を使い終わっても、使用済み核燃料や、強い放射能を帯びた圧力容器など、高レベル放射性廃棄物を処理しなくてはならないからだ。

核のゴミは、長期間にわたって放射線を出し続ける。このため放射線が人体や環境、地下水などに悪影響を及ぼさないように万全の注意が必要だ。例えば原子力発電の燃料に使われるウラン235の半減期は約7億年。核のゴミの捨て場の安全は、気が遠くなるほど長い歳月にわたって確保されなければならないのだ。

こうした原発からの廃棄物の処理にかかるコストのことを、電力業界ではバックエンド費用と呼ぶ。今ドイツでは、この費用の負担をめぐり、連邦政府と電力会社の間で激しい議論が行われている。

国と企業が責任分担

ドイツ連邦議会の「脱原子力のための費用負担に関する調査委員会(KFK)」は、今年4月27日に、原子炉のバックエンド費用に関する提案を発表した。この中でKFKは、政府(納税者)と電力会社が、バックエンド費用を分担するという案を打ち出した。つまり電力会社は原発の廃炉と解体、廃棄物の貯蔵容器への収納を担当し、国(納税者)は廃棄物の最終貯蔵処分場の建設・運営を担当する。

原発を運転している大手電力会社4社(エーオン、RWE、ENBW、バッテンフォール)は、2014年末の時点で、バックエンド費用として約370億ユーロ(4兆8100億円)の準備金を積み立てている。FKKの提案によると、大手電力はこの内198億ユーロ(2兆5740億円)を使って、原子炉の解体、廃炉、廃棄物の貯蔵容器への収納を担当する。

KFKは、「2022年以降、高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵処分場の建設と運営については、国が責任を負うべきだ」と提案。つまり、電力会社は最終貯蔵処分については一切の費用負担責任を免除される。そのかわりKFKは、大手電力会社4社に対し、233億ユーロ(3兆290億円)の資金を、2022年までに公的な基金に払い込むよう要求した。万一電力会社が倒産した場合にも、準備金を確保するためである。だがこれまでに電力会社が積み立てている370億ユーロから、廃炉解体費用198億ユーロを差し引くと、172億ユーロしか残らない。KFKは、「最終貯蔵処分場の建設と運営のためのコストがいくらになるかについては、不確定要素が多い。このため電力会社の準備金だけでは足りなくなる場合に備えて、61億ユーロ(7930億円)上乗せした」と説明している。

大手電力4社にとって、2022年以降、放射性廃棄物に関する一切の費用負担責任とリスクから一切免除されることは大きなメリットだ。最終貯蔵処分場の運営者は、今後何百年にもわたって安全を保障しなくてはならないからだ。投資家はこの提案を歓迎した。KFKがこの提案を発表した日、エーオンの株価は4%、RWEの株価は6%上昇している。

電力会社は提案を拒絶

しかしKFKが、払い込む額を61億ユーロも増やしたことは、電力会社にとって大きなショックだった。電力会社はこの資金を準備するために、国内外の発電所や子会社などを売却しなくてはならない。メルケル政権の脱原子力政策だけでなく、再生可能エネルギー拡大による電力の卸売り価格の低下のために、大手電力会社の業績は、大幅に悪化している。バックエンド費用の負担増加によって、電力会社の業績がさらに悪化する可能性もある。

このため大手電力4社は、「我々はバックエンド費用について、相応の負担を引き受ける覚悟がある。だが61億ユーロの増額は、我々の支払い能力の限界を超える」という声明を発表し、KFKの提案を拒絶。同時に電力会社は、「脱原子力の費用をどう負担するかについて、KFKとの合意を目指したい」として、政府と話し合いを続ける用意があることを明らかにした。

これまで電力会社は「我々が1950年代に原子力発電を始めたのは、西ドイツ政府のエネルギー政策によるものだ。したがって、政府もバックエンド費用を負担するべきだ」と主張してきた。KFKの提案は、電力会社の主張を部分的に受け入れたものである。

2050年に稼働開始へ

フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)のエネルギー専門記者アンドレアス・ミームは、「KFKは、今回の提案の中で、大手電力が過度な負担によって倒産しないように、配慮した。政府と企業にとって公平な内容であり、電力会社はこの提案を受け入れるべきだ」と主張している。

ドイツ政府と電力会社が基金に払い込む金額について合意できれば、この国では核のゴミ処理のためのプロジェクトが大きく前進する。ドイツ政府は2031年までに最終貯蔵処分場を作る場所を決め、2050年頃に廃棄物の搬入を開始する方針。しかし候補地を選定する際には、地域の住民が激しく反対することが予想される。今後も紆余曲折がありそうだ。日本政府も、高レベル放射性廃棄物をどう処分するのかについて、本格的な議論を始めるべきではないだろうか。

3 Juni 2016 Nr.1027

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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