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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

トランプ大統領の誕生は世界をどう変えるか

トランプ大統領の支持者たち
トランプ大統領の誕生を喜ぶ米国の支持者たち

11月8日に米国で行われた大統領選挙で、全世界が懸念していた事態が現実になった。政治の経験がゼロの不動産王ドナルド・トランプ候補(共和党)が大接戦の末、ヒラリー・クリントン候補(民主党)を下し、第45代大統領としてホワイトハウス入りすることが決まったのだ。共和党は米国議会の上院でも勝利したため、トランプ氏は民主党に妨害されることなく、絶大な政策実現能力を握ることになる。

全世界に衝撃

この勝利は大方の予想を覆すものであり、多くのメディア関係者を驚かせた。投票日直前の世論調査ではクリントン候補がリードしており、金融市場などでは「トランプが大統領になる可能性は低い」という楽観論が支配していた。トランプ氏が11年前に行った女性に対する差別的な発言を録音したビデオも公開され、多くの人々が、彼の大統領候補としての命運は絶たれたと考えていた。

それだけに、トランプ氏の勝利が世界に与えた衝撃は大きかった。金融市場に「トランプ優勢」の報が伝わると、投資家が円高・ドル安によって、日本の輸出産業に打撃を与えると懸念し、日経平均株価が一時1000円以上下落した。逆に世界中で金の価格が上昇したのは、投資家が「先行きの見えない時代がやってくる」と判断した証拠だ。

なぜトランプ氏は勝ったのだろうか。彼は、「ワシントンの政界や大手メディアは庶民の利益を代弁しておらず、腐敗している。私が大統領になったら、政治や社会を根本的に変える」と主張し続けた。

トランプ氏が選挙運動の中で使った「Make America great again(米国を再び偉大にしよう)」というスローガンは、1981年に第40代大統領になったロナルド・レーガン氏が使ったもの。レーガン氏のこの言葉は、米国民の愛国心をくすぐり、彼は熱狂的な支持を集めた。

「グローバル化の負け組」が支持

クリントン候補がリベラルな考えを持つ市民や、黒人やヒスパニックなどの票に頼ろうとしたのに対し、トランプ氏を最も強く支持したのは、「自分はグローバル化やデジタル化の負け組だ」と感じている白人の単純労働者や低所得層である。ニューヨーク州やカリフォルニア州、マサチューセッツ州など、教育水準が高くグローバル化によって恩恵を得てきた市民が多い地域では、クリントン氏が勝っている。これに対し、保守層が多く、多数の市民がグローバル化について不信感を抱いている州では、トランプ氏が圧勝した。

米国の知識階層だけではなく、ドイツなど欧州諸国でも「クリントン氏に、大統領になってほしい」と望む人が多かった。その理由の一つは、トランプ氏の歯に衣を着せぬ非常識な言動である。

彼は2015年8月の最初の政策提言書で米国に不法滞在している1100万人の外国人を全て国外退去処分にすることや、メキシコからの不法入国を防止するために同国との間に壁を建設し、その費用を同政府に負担させることを提案した。また同年10月に米国に滞在していたシリア難民の国外追放を求めたほか、シリア難民を受け入れたドイツのメルケル首相の決定について、「狂っている。ドイツでは暴動が起こるだろう」とコメントした。

欧州のポピュリズム台頭と同根

彼のこうした言動は、高学歴の市民の眉をひそめさせたが、「メキシコからの不法移民によって職を奪われる」という不安を抱いている低所得層からは、喝采を受けた。その意味で私は、トランプの勝利には、移民問題が大きなテーマとなった英国の欧州連合(EU)離脱に関する国民投票、フランスでの反移民、反EU政党である国民戦線(FN)の躍進と共通するものがあると考えている。つまり、グローバル化や所得格差に不満を抱く「負け組」の反乱である。彼らは、財力も知識も乏しい。しかし有権者として、投票によって政治を変えることができる。つまりトランプ大統領の誕生は、欧州を席巻している右派ポピュリスト運動が、超大国アメリカにも達したことを意味しているのだ。トランプ氏は、今後移民への規制を強化する可能性が高い。

軍事負担の増加を要求か

さてワシントン政界のアウトサイダー・トランプ氏が大統領になった今、内政・外政に大きな変化が生まれることは必至だ。彼は米国の国外での関与を減らし、国富を国内の諸問題の解決に回そうとするだろう。特に防衛面で欧州・アジアに駐留する米軍を減らすために、同盟国に負担を求めることは確実だ。

トランプ氏は、ドイツも属している軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)に大きな変化を及ぼすかもしれない。これまでNATOでは、加盟国が軍事攻撃を受けた場合、他国も自国への攻撃と同等に考えて反撃する義務を負った。いわゆる集団安全保障の原則である。だがトランプ氏は選挙運動の期間中に、「NATOが反撃するのは、攻撃された国がNATOに対して十分な貢献を行っていた場合に限るべきだ」と主張していた。

最近「世界のタガが外れた」という言葉をよく聞くが、多数の核兵器を持つ軍事大国でも同様の現象が起きつつあることは、大きな不安の種である。欧州諸国と対決姿勢を強めているロシアのプーチン大統領は、トランプ勝利の報を聞いて喜んでいるに違いない。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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