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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

メルケル首相 4選へ向け出馬表明

メルケル首相
11月20日、笑顔で登壇するメルケル首相

11月20日にメルケル首相は、ドイツの政局に大きな影響を与える発表をした。来年9月に行われる連邦議会選挙で、再び連邦首相候補として出馬することを明らかにしたのだ。同時に、キリスト教民主同盟(CDU)の党首としても続投する方針を打ち出した。もしもメルケル首相が4選を果たして、2021年まで首相を務めれば、在職16年間となり、これまで最も長く務めたコール元首相と並ぶことになる。

「ドイツのために尽くしたい」

メルケル首相は出馬表明の記者会見の際、あえてにこやかな表情を見せるように努めていた。その理由は、彼女の出馬表明が大幅に遅れたからである。メルケル氏が4期目を目指すことを、なかなか公表しなかったことは、ベルリンの政界で様々な憶測を呼んだ。

たとえば、ドイツではこれまで連邦首相が、同じ党に属する自分よりも年齢の低い政治家に、首相候補の座を自ら明け渡したことは一度もなかった。この伝統がついに打ち破られるのではないかという見方もあった。メルケル氏は、今年62歳。来年から首相を4年間務めると66歳になる。

こうした憶測を吹き飛ばすように、メルケル氏は朗らかな表情で語った。彼女は出馬表明までに長い時間がかかった理由をこう説明した。「11年間首相を務めた後に、さらに4年間この職務を続けるということは、国家、政党、そして私個人にとっても、重大な決定です。このため、私は時間をかけて、考えに考えを重ねました」。

メルケル首相は、この決定を自分の野心よりも、国家と国民のために行ったという点を強調した。「ドイツは、私に多くの物を与えてくれました。私はお返しをしたい。私はドイツのために貢献したい」。「Ich will dienen(貢献したい)」は、メルケル氏が2005年の連邦議会選挙で、初めての首相の座を目指したときに使った、いわば首相のトレードマークである。

不安定な時代だからこそ続投を表明

そしてメルケル氏は、英国の欧州連合(EU)離脱、難民危機、ロシアと西欧諸国の間の緊張の高まり、イスラム過激派によるテロの増加、米国での右派ポピュリスト政権の誕生など、世界中でかつてなかった事態が起きつつある中、首相の座を投げ出すことは、無責任であると主張した。「この困難で不安に満ちた時代に、私がこれまで積み重ねてきた経験と能力を、再び首相として生かさなかったら、多くの人が私の態度に理解を示さないでしょう。したがって私は、もう一度首相の座を目指すべきだと決心したのです」。

確かに、今日の世界では不透明感と不安感が強まっている。特に11月の米大統領選でのトランプ氏の勝利は、英国やフランスで強まっていた市民の政治不信とグローバル化への反感が、米国でも予想以上に広がっていたことを示している。国際的な貿易協定に懐疑的なトランプ氏は、大統領になった初日に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関する交渉を打ち切る方針を表明するとしている。ポピュリストのホワイトハウス入りによって、米欧関係にも大きな変化が生じる可能性がある。

こうした時代に、リーマンショック、ユーロ危機、ウクライナ危機など様々な事態に対応してきたベテラン政治家が続投することは、欧州にとってかすかな安定感を与えるかもしれない。

メルケル氏の苦戦は確実

ただし、昨年メルケル首相がシリア難民を受け入れる決定を行って以来、CDUへの支持率は下がっている。彼女の難民政策を批判する反イスラム、反EU政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、昨年以来多くの州議会選挙で2桁の得票率を確保し、議会入りしている。だがCDUとキリスト教社会同盟(CSU)は、メルケルに代わって首相候補になり得る、力量と経験を備えた政治家を見つけることができなかった。メルケル再出馬は、CDU・CSUの人材不足の結果である。

メルケルの影響力には陰りがさしている。彼女には、もはや2013年当時のような人気はない。たとえば、メルケルはCDU・CSUからガウク大統領(無所属)の後任にふさわしい人物を見つけることができなかった。このため彼女は、東独の秘密警察(シュタージ)の文書を分析・管理する官庁を率いたマリアネ・ビルトラー(緑の党)を大統領候補として推薦した。だがこの人選は保守陣営で全く理解を得ることができず、連立を組む社会民主党(SPD)のシュタインマイヤー外務大臣が来年3月、連邦大統領になる見通しだ。AfDは、連邦議会選挙でも保守陣営の票を奪うだろう。メルケル氏が来年の選挙で苦戦することは確実だ。

人選に苦慮するSPD

CDU・CSUとSPDにとっては、単独過半数を取ることは難しい情勢で、大連立政権以外に道はない。だがSPDの人材不足と弱体ぶりは保守陣営よりも深刻で、11月末になっても連邦首相候補を決めることができないでいた。その理由の一つは、SPD党首のガブリエル経済大臣が、すでに「メルケル首相とは連立しない」という方針を数年前に打ち出しているからだ。この発言にもかかわらず、ガブリエル氏が首相候補として出馬を表明した場合、彼の信用性は一段と低下することになる。

ドイツは混迷の度を深める欧州で、「安定を保証する唯一の錨」としての地位を保つことができるだろうか。来年9月の連邦議会選挙の行方から、目を離せない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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