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ロンドンのゲストハウス
Mo. 21. Okt. 2019

2017年のドイツを展望する

2017年のドイツを展望する

新年早々、あまり物騒なことは書きたくない。しかし今年は2016年に続き、激動と混乱の年になるという気がしている。

トランプ大統領の誕生

1月20日には米国で、政治の経験ゼロのポピュリスト、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任する。「アメリカ・ファースト」の旗印の下に保護主義を掲げ、欧州の安全保障の要である北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れだ」と批判する、初めての米国大統領の誕生だ。

ドイツの最大の貿易パートナーである米国が門戸を閉ざして国内産業と雇用の保護を目指すとすれば、ドイツ経済にも深刻な影響が及ぶ。トランプ氏は、中国の貿易黒字を批判しているが、同じ矛先が多額の貿易黒字を抱える「優等生」ドイツに向けられる危険もある。さらに、台湾問題をめぐって非難の応酬をしている米国と中国が、万一本格的な貿易戦争に突入した場合、世界全体の経済に悪影響が及ぶことは必至だ。ドイツにとって米国の動向は今年最大の関心事である。

BREXIT交渉開始?

ドイツ人にとって、英国政府が今年、欧州連合(EU)離脱の正式な意思を発表するかどうかも気がかりな所だ。メイ政権は、交渉によって、移民を制限しつつEU単一市場へのアクセスを維持しようとしている。だがEU側は、人の移動と就業の自由を受け入れない国に対し、単一市場へのアクセスを許した場合、他国に対して悪しき前例を作ると警戒。英国とEUの交渉は難航するだろう。英国では、同国がEU単一市場へのアクセスを完全に失った場合の「ハード・ランディング」が、巨額の経済負担につながり、税収と雇用を大幅に減らすと予測されている。BREXITによる景気悪化が、ドイツの自動車業界や機械製造業界にも影を落とすことは避けられない。

メルケル苦戦は確実

一方ドイツにとって、2017年は重要な選挙が重なる年だ。9月17日か24日には、連邦議会選挙が行われる。メルケル首相が4選を目指して出馬することを表明したが、難民危機のために同氏への支持率は低下している。このため、キリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が苦戦することは確実だ。CDU・CSUが単独過半数を確保することは困難であり、再び社会民主党(SPD)との大連立を迫られるだろう。メルケル氏の指導力の低下は避けられそうにない。

欧州各国で高まる右派ポピュリズムの波は、ドイツにも到達。ユーロ圏からの脱退や、外国から資金援助されたイスラム教寺院の建設禁止を求める右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、連邦議会入りを果たすと予想されている。ドイツにはこれまでも共和党やDVUなど多くの右派政党があったが、いずれも泡沫(ほうまつ)政党だった。しかしAfDは違う。同党は、難民流入に対する市民の不満をバネにして、中産階級に食い込むことに成功。「CDU・CSUの政策は、メルケル氏のために左傾化してしまった」と疎外感を抱く保守層を着々と取り込みつつある。

昨年11月のARDの世論調査では、回答者の13%がAfDを支持していた。AfDは、昨年ベルリン、メクレンブルク=フォアポンメルン州やザクセン=アンハルト州などで行われた州議会選挙で、二桁の得票率を確保して連戦連勝。排外主義を掲げる政党の初の連邦議会入りは、我々ドイツに住む日本人にとっても、不安の種である。

今年は、地方議会選挙も目白押しだ。3月26日にはザールラント州、5月7日にはシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、さらに5月14日にはノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州で州議会選挙が行われる。特にドイツ最大の人口を持つNRW州の選挙は、連邦議会選挙の方向性を示す選挙として注目される。

フランス大統領選の行方

また他のEU加盟国でも、重要な選挙日程が迫っている。まずドイツにとって最も重要な同盟国フランスで、大統領選挙が実施される。(第1次投票・4月23日、決選投票・5月7日)ユーロ危機の後遺症に苦しむ同国では、英国同様に右派ポピュリズムが地方で強まっている。フランスのEU脱退を求める極右政党・国民戦線(FN)は、20%~30%の有権者から支持されている。保守陣営からは、サルコジ政権で首相を務めたフランソワ・フィヨン氏が出馬する。フィヨン氏は、ドイツのシュレーダー氏が断行した「アゲンダ2010」に似た「痛みを伴う改革」によって、フランス経済の再建を目指している。彼はFNのマリーヌ・ルペン党首の支持層を切り崩すことに成功するだろうか。

また3月15日には、オランダ議会でも選挙が行われる。前回の2012年の選挙では、右派ポピュリスト、ヘルト・ウィルダースが率いる自由党(PVV)は第3党に留まったが、難民問題が大きな争点となっている今日、PVVが得票率を前回の約10%から伸ばす可能性もある。

欧米では、トランプ氏と英国の離脱派勝利の背景に、有権者に関するビッグ・データの分析に基づく、フェイスブックなどのSNSを使った個別プロパガンダ戦略があったと伝えられている。ポピュリスト政党が、同じ手法をドイツやフランスの選挙でも使う危険がある。今年も我々は、想定外の事態に直面するかもしれない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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