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日経電子版 初割り
So. 19. Jan. 2020

ガブリエル出馬辞退が象徴する、SPDの苦悩

シュルツ前欧州議会議長 ガブリエル党首
SPDの首相候補となったシュルツ前欧州議会議長(左)
とガブリエル党首

1月24日に、メルケル政権のジグマー・ガブリエル副首相(社会民主党=SPD)が行った発表は、ドイツの政界を驚かせた。彼は今年9月の連邦議会選挙に首相候補として出馬しないことを明らかにしたのだ。

ガブリエル党首に対し党内で不満高まる

2009年からSPDの党首を務めているガブリエル副首相は、選挙の約8カ月前に、党内の首相候補を選ぶレースから降りた。このためSPDは、欧州議会のマルティン・シュルツ前議長を首相候補にする予定だ。ガブリエル氏は自発的に出馬を断念したように伝えられているが、現実にはSPD指導層によって詰め腹を切らされたようだ。同党内部で「ガブリエルでは選挙に勝てない。新しい顔が必要だ」という意見が強まっていた。

実際、ここ数年間にわたり、連邦経済エネルギー大臣としてのガブリエル氏の仕事ぶりは、精彩を欠いていた。2015年に、赤字に苦しむスーパーマーケット・チェーン「テンゲルマン」をエデカが買収しようとした際、連邦カルテル庁は「寡占状態が強まる」として、買収を許可しなかった。だが彼は、「1万6000人の従業員の雇用を守る」という大義名分の下に、独占禁止委員会などの抗議にもかかわらず、買収を許可した。

しかしデュッセルドルフ高等裁判所がガブリエル大臣の買収許可を「違法」と断定。ガブリエル氏の面目は丸つぶれとなった。(この問題はまだ完全に決着していないが、エデカだけでなく、そのライバルであるレーヴェがテンゲルマンの店舗の一部を取得することで、連邦カルテル庁の許可を得ることになりそうだ)

経済大臣として失政が続いた

ガブリエル大臣は、カナダとEUの間の自由貿易協定であるCETA(包括的経済貿易協定)を受け入れることを提案し、昨年9月のSPDの会議で参加者の3分の2の賛成を取り付けることに成功した。だがガブリエル氏は、バイエルン州、ブレーメン州支部や党内の左派勢力からは、「CETAはドイツの利益にそぐわない」と激しい批判にさらされた。

またガブリエル大臣は、温室効果ガスの削減をめぐる議論でも、苦い経験を持つ。彼は2015年に、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い旧式の褐炭火力発電所に「褐炭特別税」を導入することを提案した。発電コストを高めることによって、老朽化した火力発電所を閉鎖させるのが目的だ。だが彼の提案に対し、産業界、電力業界、労働組合が「石炭産業が滅亡する」と強く反対。このため大臣は、特別税の導入を撤回した。

さらに彼は、東西ドイツ間で送電線の使用料金(託送料金)を平準化することを提案していたが、平準化によって電力コストが上昇するノルトライン=ヴェストファーレン州政府などの反対に合い、この案も凍結せざるを得なかった。

これらの問題は、ガブリエル氏への党内の支持を、じわじわと浸食していった。彼の「出馬辞退宣言」は突然に見えるが、実はSPD内部で彼に対する不満が高まっていたことを示唆している。

SPD結党以来の危機

SPDに対する世論の眼差しは厳しい。公共放送局ARDが今年1月5日に行った世論調査によると、SPDの支持率はわずか20%だ。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の支持率(37%)に大きく水をあけられている。SPDの支持率は、1カ月前の調査に比べて2ポイント減っている。それに対し、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持率は、前回の調査に比べて2ポイント増えて、15%になっている。つまりAfDは、SPDまであと5ポイントの所まで肉薄しているのだ。

前回つまり2013年の連邦議会選挙で、SPDは25.7%の得票率を確保していた。つまり同党はこの4年間ですでに得票率を5.7ポイントも減らしているのだ。逆にAfDへの支持率は、この4年間で3.2倍に激増した。現在の傾向が続けば、SPDの得票率がAfDよりも低くなるという事態もあり得る。

支持率だけを見れば、SPDは深刻な危機にあると言うべきだろう。支持率の低下も、SPD指導部がガブリエル氏に出馬を断念させた理由の一つであろう。つまりSPDは、全く新しい候補者を立てることによって、起死回生を狙っているのだ。

シュルツ候補でも苦戦は確実

だがシュルツ氏を首相候補として起用することで、SPDの連邦議会選挙での得票率は上昇するだろうか。私にはそうは思えない。大半のドイツ人にとって、欧州議会は遠い存在だ。このためシュルツ氏は多くの有権者に知られていない。唯一よく知られていることは、シュルツ氏が人権擁護と欧州統合を重視する、リベラルな政治家であるということだ。たとえば、シュルツ氏はメルケル首相が2015年にシリア難民のドイツでの亡命申請を許したことを、高く評価している。

その意味でシュルツ氏は、メルケル首相と大連立政権を組むためには、適した人物である。だが次の連邦議会選挙の最大の争点は、難民と治安である。特に多くの有権者が、現在の大連立政権の、難民に関するリベラルな路線に不満を抱いており、次の選挙で厳しいしっぺ返しを行うことは確実だ。

難民受け入れに前向きだったSPDが「人権派」シュルツ氏を首相候補にしても、苦戦することに変わりはない。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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