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ロンドンのゲストハウス
So. 17. Nov. 2019

英政府BREXITを正式通告 深まるドイツとEUの苦悩

英政府BREXITを正式通告

ついにBREXITへ向けたカウントダウンが始まった。3月29日に、英国のメイ政権は欧州連合(EU)に対して、離脱の意志を正式に通告したのだ。

2019年にEU離脱へ

EU法によると、離脱通告日から2年が経過すると、その国のEU加盟権は消滅する。昨年6月に英国で国民投票が行われるまでは、欧州の大半の人々が「まさか起こらないだろう」と高をくくっていた、英国とEUの「離婚」が、現実の物になる。BREXITは、ベルリンの壁崩壊並みに大きな影響を欧州に与えるだろう。英国のEU離脱は、1951年にEUの前身である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が創設されて以来、着々と進んできた欧州統合に、初めて逆行する出来事だ。

エリートと庶民の意識のギャップ

BREXITは、1990年代の東西冷戦終結以降、EUが統合と拡大を急速に進める中で、EUのエリート官僚たちが、庶民の感情をいかに軽視してきたかを浮き彫りにしている。

欧州のエリート、つまり政治家やビジネスマン、学者、報道関係者の間では「欧州人」という意識が育ちつつある。彼らは庶民の感情に配慮せずに、独断的にEUの統合と拡大を進めてきた。これに対し、欧州各国の庶民の間では、欧州人というアイデンティティーは希薄である。むしろ彼らは、「EUが移民の流入を許したり、グローバル化を進めたりすることによって、我々の職を脅かしている」という不信感を強め、自分たちはグローバル化時代の負け組だと感じてきた。多くの庶民が、EUをグローバル化の象徴と見なして敵視している。

英国ではグローバル化に賛成するロンドンの政治家、金融業界と、グローバル化に反対する地方の労働者たちとの間で、深い亀裂が生まれていた。エリート層は社会に横たわる格差とこの深い地割れに気付かなかった。いや彼らは格差に気付いても、見て見ぬふりをしていた。反EUを旗印に掲げる右派ポピュリズム勢力は、移民問題を誇張する宣伝によって、市民の不満を増幅した。

グローバル化の「負け組」の逆襲

当時のキャメロン政権は、英国がEUに加盟していることで共通市場にアクセスでき、自由貿易の恩恵を得ていることや、多くの外国企業が英国に投資して雇用を創出していること、コーンウェルなどの地方都市にEUからの援助金が出ていることを国民に伝えた。しかし大半の庶民は、こうした説明に耳を貸さなかった。当時英国に駐在していたあるドイツの外交官は、「離脱派の市民の選択は、最初から決まっていた。これは理性ではなく、感情による決定(Bauchentscheidung)だ」と私に語った。

2016年6月23日の国民投票によって、庶民は自分たちを無視してきたエリート層に対して「NO」の意思表示を行い、一矢を報いたのだ。右派ポピュリストたちの思い通りの結果が生まれた。この危険な傾向は、英国だけに限られるものではない。昨年の米国大統領選挙で右派ポピュリスト、ドナルド・トランプ氏が勝ったように、エリート層と庶民の意識のギャップや社会の亀裂は、他の国にも存在する。右派ポピュリスト勢力は、インターネットを利用した巧みな宣伝により、グローバル化時代の負け組を扇動し、「政治エスタブリッシュメント」に対して反旗を翻させている。

EUの未来を左右する仏大統領選

今ドイツ政府が最も懸念しているのは、4月23日のフランス大統領選挙で右派ポピュリスト政党・国民戦線(FN)が大躍進することだ。フランスは深刻な移民問題、イスラム・テロによる治安問題、大都市と地方の格差、エリート層と庶民の意識のギャップを抱えている。さらにオランド大統領の失策のために、失業率がドイツの2倍に達するなど、経済状態も悪化している。私はフランス社会を分断する亀裂は、英国以上に深いと思っている。反EU派であるFNのルペン党首は、革新勢力のマクロン候補と接戦を繰り広げているが、「大統領になったら、EU離脱に関する国民投票を行う」と宣言している。彼女は「私はEUでメルケル首相に仕える副大統領になる気はない」と述べ、ドイツに対する反感も露わにしている。

保守勢力のフィヨン候補はスキャンダルにより弱体化しているほか、社会党の支持率も低迷している。5月に行われる決選投票で、投票率が低い水準に留まった場合、ルペン候補が過半数の票を集める可能性もある。その場合、多くの人が「まさか起こらないだろう」と思っているFNの勝利が、現実化する。英国、米国で2回も想定外の事態を経験した我々は、もはやルペン勝利のシナリオを頭から否定することはできない。事前の世論調査の過信は、禁物だ。

フランスの反EU派と移民排斥を求める庶民は、BREXITやトランプの大統領就任を追い風と見ている。

EUは、BREXITには耐えられる。しかし、EU創設国の一つであるフランスが離脱した場合、EUは崩壊する。このことは、メルケル首相をはじめ、多くのドイツの政治家に強い不安を与えているはずだ。

ドイツは欧州統合を最も積極的に推進する国だ。EU貿易で最も大きな恩恵を受けているのも、ドイツである。BREXITはEU崩壊の序曲となるのか。それともフランスはオランダ同様に、土俵間際で踏みとどまるのか。我々欧州に住む日本人も、今後数カ月の政局から目を離すことはできない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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