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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

注目のNRW州議会選挙で なぜSPDは惨敗したのか

ハンネローレ・クラフト元NRW州首相
SPDの惨敗により退任した、
ハンネローレ・クラフト元NRW州首相

「どうしようもないほどの惨敗だ(Eine krachende Niederlage)」。社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ党首は、硬い表情で、5月14日にノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州で行われた州議会選挙の結果をこう評した。

SPDと緑の党の票が激減

実際、同州の有権者達は今回の選挙で、ハンネローレ・クラフト首相が率いるSPDと緑の党の左派連立政権に対し、「落第点」を与えた。「ミニ連邦議会選挙」と呼ばれる重要な州議会選挙は、キリスト教民主同盟(CDU)の圧勝に終わった。

SPDの前回(2012年)の選挙での得票率は39.1%だったが、今回は7.9ポイントも減って31.2%となった。NRW州は、SPDの牙城である。この州では、1966年からの51年間の内、2005年からの5年間を除けば、常にSPDの政治家が首相の座を占めてきた。だが31.2%というのは、SPDのNRW州での得票率としては、史上最低である。

またSPDと連立していた緑の党も、得票率を11.3%から6.4%に減らして敗退した。ルール工業地帯を抱えるNRW州では、かつて重厚長大産業が重要な役割を果たしていた。この歴史的な背景から、労働組合を支持母体とするSPDはNRW州で最強の党だったのだ。だが2012年に「SPDは市民の世話をする党(Kümmerer-Partei)になる」と宣言して勝利したクラフト氏は権力の座から駆逐され、敗北の責任を取ってSPD・NRW州支部長の職を直ちに辞任した。

これに対し、保守・中道勢力は大きく躍進した。CDUの得票率は、前回の選挙に比べて6.7ポイント増えて、33%に達し、また自由民主党(FDP)も得票率を8.6%から12.6%に増やしている。

教育政策で多くの市民が失望

なぜSPDと緑の党は、これほど悲惨な負け方をしたのだろうか。その理由の一つは、クラフト政権が5年前に行った「市民のための政党になる」という約束を果たさなかったことである。今回の選挙の争点の中で、市民が最も高い関心を持っていたのが、教育問題である。NRW州では、他の州と同様に、学習意欲が乏しく授業についていけない子供をいかに救済するかが、重要なテーマとなっている。

ドイツ語でInklusionと呼ばれるこの問題を解決するには、教職員の数を大幅に増やしたり、新たな教材を導入するなど、教育予算の増額が必要である。だがクラフト政権のズィルビア・レーアマン教育大臣(緑の党)は、政府内で予算増額を要求せず、むしろ地方自治体に費用の一部を負担するよう要請したため、議論が長引いた。結局クラフト首相の「私は落ちこぼれる子供を1人も出さない」という公約は、空約束に終わった。さらにギムナジウムでの学習年数を8年にするか、9年にするかという議論でも、レーアマン大臣は頻繁に態度を変え、有権者の不信感を強めた。

治安確保でも落第点

もう一つの争点は、治安問題である。2015年の大晦日から元日にかけて、ケルン中央駅前の広場で北アフリカからの難民ら数千人が、人混みに紛れて約1000人の女性の身体を触ったり、財布を盗んだりするという事件が起きた。ここには200人を超える警察官が配置されていたが、犯行を防ぐことはできなかった。警察は元日の朝に「ケルン中央駅前は平穏」というとんちんかんな報告を州政府に行っていた。また夜間の人混みの中での犯行だったために、警察が犯人を特定する作業も難航し、有罪判決を受けたのは6人にすぎない。この事件は、NRW州警察の非力を暴露するとともに、ドイツ人に2015年の難民流入後の「体感治安」の悪化を痛感させる分水嶺となった。

また昨年12月に、過激組織イスラム国(IS)を信奉するチュニジア人のアニス・アムリ容疑者が、ベルリンのクリスマス市場に大型トラックで突っ込み、12人を殺害し約60人に重軽傷を負わせた。彼は当初亡命申請者としてNRW州に住んでいた。同州の警察はアムリ容疑者を危険人物と見なし、密偵や携帯電話の盗聴によって監視していた。だが無差別テロを起こす兆候を見せていたにもかかわらず、警察はこの男を逮捕しなかった。警察は、アムリ容疑者がベルリンに移り、麻薬の売買に手を染めてからも、摘発しなかった。もしも警察が彼を逮捕してチュニジアに送還していたら、ベルリンでの無差別テロは防げたはずだ。

市民に不安感を与えているのは、イスラム・テロの脅威だけではない。NRW州では、2016年に5万件を超える空き巣被害が起きている。これは、全国で最も高い数字だ。しかも犯人の検挙率は、わずか16%。州政府は、扉や窓の強化などの対策を取り始めているものの、市民の不安は完全に払拭されていない。

立ち消えになった「シュルツ効果」

欧州議会の議長だったシュルツ氏が今年初めにSPDの党首に選ばれて以来、党の支持率は一時CDUに肉迫し、党員数も約1万人増えた。しかし彼が具体的な政策を直ちに発表しなかったことから、「シュルツ・フィーバー」は時間が経つにつれて先細りとなった。SPDが負けたのは、今年3月のザールラント州議会選挙、5月初めのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙に続いて、3回目。NRWでの選挙結果は、連邦議会選挙の行方を映す鏡である。メルケル首相四選の可能性は、一段と高まったと言える。

 

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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