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ロンドンのゲストハウス
Sa. 19. Okt. 2019

「原子力後」の時代へ突き進むドイツ

ドイツでは原子力に代わり、再生可能エネルギーが拡大
ドイツでは原子力に代わり、再生可能エネルギーが拡大

2011年に東京電力・福島第一原子力発電所で発生した炉心溶融事故から、6年が経った。今も約8万人が避難を余儀なくされている。しかし最近、日本のメディアでは、原子力に関する報道がめっきり減った。

日独のエネルギー政策は大きく異なる

日本政府は再生可能エネルギー、火力発電とともに、原子力発電をエネルギー・ミックスの中に維持する方針を変えていない。原子力規制委員会が安全と判断した原子力発電所は、運転を再開しつつある。電気事業連合会によると、九州電力の川内原発1・2号機、関西電力の高浜原発3・4号機、四国電力の伊方原発3号機の合計5基が再稼働したほか、7基の原子炉が運転を再開する許可を受けている。

ドイツは福島事故の直後に、運転開始から30年以上経っていた原子炉など8基を即時停止させたほか、原子力法を改正して、残りの9基についても、2022年末までに停止することを決めた。つまりドイツは、あと5年で原子力時代に終止符を打つことになる。

急速に普及する再生可能エネルギー

メルケル政権は、原子力を代替するために再生可能エネルギーの拡大に拍車をかけた。同国は再生可能エネルギーが電力消費量に占める比率を、2025年までに40~45%、2035年までに55~60%、2050年までに80%に高めることを、法律の中に明記している。再生可能エネルギーの拡大は着々と進んでおり、2016年末の時点で、この比率は31.7%。2016年の再生可能エネルギーによる発電量は1883億kW時で、褐炭火力、石炭火力、原子力などを追い抜いて首位に立った。

近年では洋上風力発電装置や太陽光発電パネルなどの製造コストが低下していることから、今後もエコ電力の拡大が進むものと予想されている。電力供給会社(シュタットヴェルケ)や、地方自治体の中には、家庭や企業が屋根の上に設置した太陽光発電装置や、農家が共同で設置した風力発電プロペラを接続して、分散型の「仮想発電所」を作ろうとする動きもある。

エコ電力拡大には高額のコスト

再生可能エネルギーの拡大には、莫大なコストがかかる。我々消費者は再生可能エネルギー振興のために、電力を1kW時消費するごとに6.88セントの賦課金を払っている。この額は、過去13年間で約12倍に増えた。デュッセルドルフ大学の競争経済研究所が、「新社会的市場経済イニシャチブ(INSM)」に委託されて行った研究報告書によると、2000年から2025年までにドイツの電力消費者がエネ転換のために支出する金額は、5200 億ユーロ(62兆4000 億円・1ユーロ= 120円換算)にのぼると予想されている。

だがドイツ人達は、2011年の福島事故を教訓として、「コストをかけるならば、原子力よりも健康リスクが少ない再生可能エネルギーを拡大したい」という、国民的合意ができている。去年6月に世論調査機関ユーガブ(YouGov)が行ったアンケートによると、回答者の70%が「ドイツの脱原子力政策は正しい」と答えた。

脱原子力については国民的合意がある

この民意は政治に反映されており、メルケル首相が率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)、社会民主党(SPD)、緑の党などの伝統的な政党は、脱原子力と再生可能エネルギーの拡大に賛成している。反対しているのは、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だけである。ドイツでは、大半の政党が「脱原子力政策の見直しを提案したら、有権者の反発を買って支持率が減る」と考えている。この国の政治家達は、産業界や経営者団体の意見よりも、世論調査の動向を重視する。ドイツ連邦議会は、「核のゴミ」の後始末のための費用負担についても去年、法案を可決した。この法律によるとエーオンなど大手電力4社は、原子炉の解体、廃炉などのための費用約178億ユーロ(2兆1316億円)を負担する。さらに電力会社は、最終貯蔵処分場の建設・運営費用などとして、2022年までに公的基金に約235.6億ユーロ(約2兆8267 億円)を払い込む。大手電力4社は、この金額を支払えば最終貯蔵処分場の建設・運営に関する費用負担や、訴訟リスクなどから完全に解放される。一時的に業績は悪化するが、長期的な利益を重視した形だ。

「負の遺産」との戦いは続く

最終貯蔵処分場の建設・運営にかかる費用が約235.6億ユーロを超えた場合には、納税者が負担を強いられる。最終貯蔵処分場が数千年間にわたり使われることを考えると、235.6億ユーロで十分かどうかは未知数だ。長期的に国民が費用を負担することについては、左派政党「リンケ」だけが「政府は割安な価格で、電力会社を負担責任から解放した」と批判した。しかし興味深いことに、メディアや消費者団体からは不満の声が出ていない。

ドイツ政府の次の課題は、高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵処分場の設置場所を決めることだ。政府は選定方法に関する法律を決めて、どの場所が適しているかについて、調査に入る。だが地層処分の候補地では、住民の猛反対が予想されるので、実際に処分場が完成するまでには年月がかかるだろう。

ドイツ人の「原子力時代の負の遺産」との戦いは、 始まったばかりなのである。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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