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ロンドンのゲストハウス
Fr. 13. Dez. 2019

迷走!カタルーニャ危機とEUの苦悩

スペイン北東部カタルーニャ州の独立をめぐる混乱は、10月末から11月初めにかけ、一気にエスカレートした。

10月27日、バルセロナにて行われた独立宣言を祝う人々
10月27日、バルセロナにて行われた独立宣言を祝う人々

州議会が「独立」を宣言

10月1日にカタルーニャ州政府が挙行した独立に関する住民投票に続き、10月27日には同州の議会で半数を超える議員がスペインからの独立と、カタルーニャ共和国の樹立に賛成した。

事実上の一方的な「独立宣言」に対して、中央政府は強硬手段に出た。スペイン政府のマリアーノ・ラホイ首相は、憲法第155条に基づいて、カタルーニャ州政府の自治権を停止し、同州に対するコントロールを掌握した。カルラス・プッチダモン首相をはじめとする州政府の閣僚を罷免した。同時にラホイ首相は、12月21日に前倒し総選挙を実施することを明らかにした。中央政府がカタルーニャ州政府に対して取った強硬措置について、改めて国民の信を問うためである。

プッチダモン前首相を国際手配

スペインの検察当局は、10月30日にプッチダモン氏らを反逆や国家権力への不服従、公金の横領の罪で起訴した。プッチダモン氏ら一部の全閣僚達は逮捕を免れるためにブリュッセルに逃走。スペインの検察はプッチダモン氏らを国際手配し、彼はベルギーの警察に出頭して一時拘留されたが、釈放された。カタルーニャ州に残った元閣僚9人は、11月2日にスペインの検察によって逮捕されている。カタルーニャ人達はスペイン語と異なる言語を持ち、自主独立の精神が強い。このため同州の独立問題は、長年にわたりくすぶり続けてきた。これに対しラホイ首相は一貫して「独立は憲法違反」という姿勢を取り、カタルーニャ州政府に対しては話し合いで問題を解決しようと提案してきた。だがプッチダモン氏は10月1日に住民投票を強行。有権者の内投票したのは42.5%だったが、有効票の90.09%は独立に賛成だった。独立に向けて突き進むカタルーニャ州政府の態度を見て、中央政府も堪忍袋の緒を切らせて国家秩序の回復へ乗り出した形だ。

多数の企業がカタルーニャから流出

カタルーニャは、スペインの国内総生産(GDP)の約20%を生み出している。19世紀以来、自動車製造、化学、製薬などの企業がここに集中しており、同国で最も裕福な地域の一つとなっている。その経済力はデンマークにほぼ匹敵する。独立派が「スペインと袂を分かっても自立していける」と考えた理由の一つは、経済力だろう。だがカタルーニャの多くの企業にとって、独立は最悪のシナリオだった。同州がスペインから独立すると、EUから一度脱退することになる。したがってカタルーニャはEUに加盟申請を提出しなくてはならないが、そのためにはすべての加盟国の同意が必要だ。スペイン政府はカタルーニャのEU加盟に反対するので、同国はEUの蚊帳の外に置かれる公算が強い。その場合、カタルーニャからの輸出品に関税がかかり、価格競争力が低下する可能性がある。またEUから輸入する製品や原材料も、価格が上昇する。このため、カタルーニャの1400社もの企業が、本社をカタルーニャからほかの地域に移した。つまりカタルーニャが独立した場合、失業率が高まり、経済力が弱まるのは確実である。独立派はカタルーニャの経済力を過信したのかもしれない。

近年「世界のタガが外れた」としばしば語られる。英国の国民投票でのEU離脱派の勝利、米国でのトランプ大統領の誕生、ドイツの極右政党の連邦議会入りはその例だ。かつての国際政治の常識を逸脱する事態が、次々に現実化している。カタルーニャの一方的な独立宣言についても、多くの人々が「まさか」と思ったに違いない。ドイツでいえば、バイエルン州が独立するようなものである。中央政府が州政府の自治権を剥奪し、州首相らを反逆の罪で刑事訴追しなくてはならないというのは、欧州の歴史でも未曽有の事態だ。

直接民主制のリスク

カタルーニャ危機の背景には、欧州に広まるナショナリズムがある。カタルーニャ独立派の間には、中央政府の態度を、かつての独裁者フランコと同列視する声もあった。だが民主的に選ばれたラホイ首相をフランコと比較するのは、明らかに行き過ぎである。

地域ナショナリズムや孤立主義を優先して、経済的利益を二の次に考えるのは、BREXITを選んだ英国民と似ている。ナショナリスト達は、全国レベルの議会制民主主義よりも住民投票の結果を錦の御旗として掲げ、「我々は民意を代表している」と主張する。

欧州の大半の国々は、カタルーニャに対して冷淡な態度を取った。欧州連合(EU)は一貫してスペインの中央政府を支援し、カタルーニャ州政府との協議を拒否。メルケル首相も「カタルーニャ独立運動はあくまでもスペインの内政問題」として、中央政府と州政府の間の仲介役を果たすことを拒否した。欧州では一部の国で遠心力が強まりつつある。EUがカタルーニャを支援したら、スコットランドやバスク地方、イタリア北部などでも独立機運が強まる危険がある。EUがカタルーニャを冷遇したのはそのためだ。カタルーニャ危機は、地域ナショナリズムや直接民主制がはらむリスクを浮き彫りにした。今後ヨーロッパ諸国は、ナショナリストによる「民主主義」の悪用を防ぐための方策について、真剣な議論を行わなくてはならない。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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