ジャパンダイジェスト

2019年を展望する変革の年を迎える欧州

新年を祝う花火の音とともに、2019年が始まった。今年は欧州にとって大きな変化の年になりそうだ。

BREXITなど、2019年は欧州にとって変化の年となるか
BREXITなど、2019年は欧州にとって変化の年となるか

BREXITという敗北

最も大きな変化が、英国のEU離脱(BREXIT)である。EUと英国のメイ首相が2018年11月に合意した条約案によると、英国は今年3月30日以降にEUを離れる。1952年にEUの前身・欧州鉄鋼石炭共同体が創設されて以来、加盟国のEU脱退は初めてのこと。BREXITによりEUの人口は約6600万人減り、国内総生産(GDP)も約2兆6000億ユーロ減る。英国のGDPは、28の加盟国の中でドイツに次いで2番目に大きい。その主要国が脱退するのは、大きな痛手だ。EUは常に求心力を強める方向に進んできたが、67年間にわたる統合過程はBREXITにより急ブレーキをかけられる。

EUと英国政府は、BREXITが双方の経済に与える悪影響を最小限にするために、去年合意した条約の中で過渡期を設定した。この条約案によると、英国は2020年末までEUの共通市場と関税同盟に残留するため、物の貿易については、1年以上にわたって今とほぼ同じ状態が続く。だがこの条約が施行されるかどうかは、未知数だ。本来メイ首相は12月11日に条約案を英国議会下院で採決させる予定だった。だが与党内でも反対議員の数が増え、否決の可能性が高まったために、首相は採決を今年1月14日の週まで延期した。万一条約案が否決されて、英国がEUとの合意なしにBREXITに突入した場合、英国は一夜にして共通市場から締め出される。つまり英国・EU加盟国は3月30日から関税を導入するので、ドーバー海峡を超えた貿易、物の移動が大きく阻害される。国境検査の強化によって、欧州内のサプライチェーンが滞る危険が高まる。

現状では英国の生鮮食料品の卸売業者が、午前中にオランダの卸売業者に野菜や果物を注文すれば、午後にはトラックで商品が英国市場に届けられる。だがメイ首相の条約案が施行されないままBREXITに突入すると、国境検査に時間がかかるので、このような即日配達は不可能になる。このため英国企業の中には、「合意なしのBREXIT」に備えて、長期間保存できる商品を買いだめする動きが出始めている。

また金融機関をはじめとする多くの企業が英国で働く社員数を減らして、欧州大陸に新しい拠点を設けつつある。中長期的に英国での雇用が減ることは確実だ。

理性ではなく感情が政治を決める時代

現在世界各地でポピュリスト勢力が拡大しつつあるが、2016年に英国で行われたBREXITに関する国民投票で離脱派が勝ったことは、ポピュリストたちの欧州での最初の勝利だった。当時英国のナショナリストやポピュリストたちは、「EUが外国人の域内での移動や就職の自由を保障しているために、移民が増加し社会保障制度を圧迫している。英国の主権が侵害されている」と主張した。つまり移民政策を決める権利を、EUから自国政府に取り戻そうと訴え、僅差で過半数の票を取ったのだ。しかしポピュリストたちはBREXITが英国経済にもたらす混乱や不利益については、十分に説明しなかった。つまり経済的な理性ではなく、感情によって政治が決められる時代がやって来たのである。国際機関に残留するべきか否かという複雑かつ重要なテーマを、国民投票にかけるべきではない。当時英国の首相だったキャメロン氏は、ポピュリスト勢力を過小評価するという、大きなミスを犯した。

メルケル・クランプ=カレンバウアー体制への審判

また今年5月26日に行われる欧州議会選挙も、極めて重要だ。この選挙は欧州の民主勢力とポピュリスト勢力の一騎打ちとなる。ドイツやフランス、イタリアなどのポピュリスト勢力は連携してキャンペーンを行っている。彼らはこの選挙で議席数を大きく増やすことによって、EUの弱体化を目指している。米国でトランプの大統領当選に貢献した右派の論客スティーブ・バノンは、イタリアに拠点を置いてポピュリストたちの選挙運動を支援している。

またドイツでも重要な地方選挙が目白押しだ。9月1日には旧東ドイツのザクセン州とブランデンブルク州、10月27日にはチューリンゲン州で州議会選挙が行われる。これらの州では右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が高い。特にザクセン州では2017年の連邦議会選挙でAfDが27%という高得票率を確保し、第一党の座にある。CDUなど伝統的な政党は、AfD抜きで安定した連立政権をつくれるかどうかが、大きな焦点となっている。これらの選挙でCDUが再び得票率を減らした場合、メルケル首相・クランプ=カレンバウアーCDU党首の集団指導体制について批判が高まることは必至だ。

米国と中国の貿易紛争、EUと米国の貿易摩擦、EUとロシアの政治的対立、イタリアの債務問題にも本格的な改善の兆しは見えない。ドイツ経済は依然として製造業界を中心に好調だが、景気の先行きについて漠然とした不安を抱く企業経営者も増えている。

不透明感が強まる時代に正しい判断を行うためには、情報収集のアンテナをこれまで以上に密に張り巡らすことが重要だ。

ー 筆者より読者の皆様へ ー

旧年中は私の記事を読んで下さり、どうもありがとうございました。今年もよろしくお願い申し上げます。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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