ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

71. ゴッホ⑩:サン・レミ・ド・プロヴァンスの街へ

山上のチャペル(レ・ボー・ド・プロヴァンス)
山上のチャペル(レ・ボー・ド・プロヴァンス)

ゴッホが入院していたサン・レミ・ド・プロヴァンスのサン・ポール・ド・モーゾール修道院のすぐ裏手には、アルピーユ山脈を背景に「グラヌム」という古代遺跡が広がっています。その歴史は古く、紀元前500年ごろにケルト人によって開拓されました。ここにはアルピーユ山脈からの良質な水が湧いていたそうで、彼らはケルトの神グラニスを祭るために集まってきたそうです。この水に浸かると治療効果が得られると信じられていたようで、古代ローマ時代の軍人、アグリッパが治療のためはるばる訪れたとの記述も。

遺跡の周辺にはオリーブ畑が広がり、ちょっと不思議な形をした古代の巨石が点在しています。さらにアルピーユ山脈の奥にレ・ボー・ド・プロヴァンスという街があり、隆起した巨大な岩盤の上に登ると、こつぜんと中世の街並みが現れます。岩肌には無数の穴が開いていて、一部住居になっていた形跡も。何でもここでボーキサイトが採れたそうで、これらの穴はその採掘跡だとか。ボーキサイトという鉱石名は、レ・ボーの街の名前にちなんで付けられたそうです。

ゴッホは修道院周辺の広々とした景色が気に入ったようで、オリーブ畑や松並木などを何枚も描きました。彼が絵を描いた場所を見て回れるよう、「ゴッホ・プロムナード」と名付けられた散歩コースもあります。それぞれの場所でゴッホが何を描いたのか分かるようにパネルが立てられていて、観光案内所でも、ゴッホの作品と足取りが分かる詳しい地図をもらえます。

修道院から街へ向かう道は、今では「Avenue Vincent van Gogh」と名付けられ、歩道にはところどころ「Vincent」 と書かれた真ちゅうのプレートが埋め込まれています。街の中心に立つサン・マルタン教会は、ゴッホの「星月夜」に描かれている教会で、ステンドグラスや手の込んだ内装が見事。よく手入れされた古い家並みが続きます。小さな街なので、十分歩いて回れるでしょう。それに、この街にはあの「大予言」が外れたノストラダムスの生家も残っています。

さて、ゴッホはこの後、画家のピサロの紹介で精神科医のガッシュを訪ねてオーヴェル・シュル・オワーズへ。そこで最後の7カ月を過ごします。ここでのことは、本誌1002~1005号で「オーヴェルを訪ねて」と題してご紹介しましたので、興味のある方はぜひ電子版をご覧ください。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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