ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

72. ベートーヴェン・イヤー①:50年前の思い出

ボン近郊の丘陵
ボン近郊の丘陵

2020年はベートーヴェン生誕250周年の節目の年です。50年前の生誕200周年の時は大阪で万博があり、ベートーヴェンの作品がさまざまな演奏会で取り上げられました。中でもカラヤンとベルリン・フィルハーモニーが来日し、5日間に渡ってベートーヴェン・ツィクルス(交響曲の全曲演奏会)を行うとのことで、クラシック音楽ファンの間では大いに盛り上がったものです。

ただこの演奏会は、全公演が綴りになったチケットが先行発売され、単発のチケットはその後の販売。主催者もうまく考えたもので、一気にまとめて売りたかったのでしょうね。一度でもいいからカラヤンのベートーヴェンを聴いてみたいと切望した私は、その術中にまんまとはまりました。

とはいえ1公演でも高額なカラヤン。綴りチケットなんて、とても一人で買える代物ではありません。そこで「自衛策」として考えたのは、音楽ファンをあと4人募って共同購入し、じゃんけんでどの公演に行くかを決めるという方法でした。

まず母親に尋ねると、二つ返事でOK。折しも長かった私の浪人生活に終止符が打たれたので、母は機嫌が良く財布の紐も緩みがちでした。それから、幼馴染で音楽ファンのK君。もう一人は、高校の同級生のM君。彼はギターをやっていて、クラシックに興味を持ち始めていました。

さて、ついに綴りチケットを手に入れたわれわれは、まるで何かの儀式でもするかのように仲良くじゃんけんをしました。一番先にM君が勝ち、迷わず「9番」のチケットをゲット。次に勝ったのは母で、最もポピュラーな「5番と6番」を選択します。そしてK君がちょっと渋めの「1番と3番」という組み合わせを選び、じゃんけんに負けた私は「4番と7番」に。残り物には福があり、どちらも私の好きな交響曲です。そして「2番と8番」という最も渋い組み合わせは、美術予備校でデザインを教えてくれた先生へ。演奏会に行きたがっていたので、お世話になったお礼として渡しました。

初めて生で聴くカラヤンとベルリン・フィル、それはそれは興奮しました。この頃の彼らの演奏は、ほかに類を見ないほど圧倒的に優れていたのです。そのしなやかな動きと豊かで美しい音楽の響きに圧倒され、生涯忘れられない音楽体験となりました。さて、生誕250周年の今年はどんな演奏会があるのでしょうか。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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