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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

93. 生演奏でしか味わえない音楽の魅力

フランスのとある庭フランスのとある庭

音楽を聴く媒体として、かつてはレコード、そしてCD、今や気軽にネットからも自由に楽しめる時代となりました。ただ、このような録音からではなく、生の演奏でしかそのすごさや面白さが伝わってこない楽曲もあります。

生の演奏では、録音では聴き取れない息遣いや雰囲気が伝わってきます。中でも生でないと絶対に伝わらないだろうなと思われる作曲家は、ドイツ系ではマーラーでしょう。彼の交響曲は全般的に編成がものすごく大きく、それを録音で捉えるには相当の無理があります。例えば、弦楽器群は全員が同じように弾いているのではなく、パートごとに違うメロディーを弾くことで音楽にゆがみやうねりを加え、立体感や不思議で怪しい雰囲気を醸し出しています。

それに凝った作曲をしているので、時折聴こえてくる不思議な音が、一体どの楽器でいかにして演奏しているのかが分からないところが随所に現れます。交響曲第6番の最終楽章には、打楽器奏者によってくいを打つための大きな木づちが振り下ろされる「ハンマーの打撃」が登場しますが、その衝撃は生演奏でこそ。また、交響曲第7番のギターやマンドリン、そして「大地の歌」におけるマンドリンなども、レコードで聴いていた頃は何の音だかさっぱり分かりませんでした。

もう一人、フランス系で生演奏の魅力を味わうならラヴェルでしょう。「オーケストレーションの魔術師」という異名があるほど、楽曲をオーケストラの楽器にちりばめるのを得意としました。一般的に、作曲はピアノを使用して進められ、その後どのパートをどの楽器に割り当てるかという過程を踏むのですが、彼はピアノを弾いている段階ですでに頭の中に楽器が浮かび上がっていました。ここはどの楽器とどの楽器を絡み合わせ、どう揺れ動くか……そういったイメージが作曲と同時進行で膨らんでいったそうです。

代表作の一つである「ボレロ」では、一定のリズムを刻むスネアドラムをベースに、静かに始まる音楽は同じメロディーを繰り返し、変幻自在に発達しながら進んでいきます。その間、あらゆる楽器のソロが繰り返され、次第にクレッシェンドしていった曲は突然の変調とともに爆発して終ります。音楽はキラキラときらめき、一種の陶酔状態にまで引き込まれます。あぁまた、音の洪水の中に身を任せたいものです。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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