ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

100. オランダでのサバ釣り①

アムステルダムの風景アムステルダムの風景

以前、毎年オランダにサバを釣りに行っている人から、「一緒に行きませんか」と誘われました。場所は、デン・ハーグの北にある港街「スヘフェニンゲン」(Scheveningen)から船に乗るそうです。船名は「エスペローダ号」というらしく、かっこいい名前の響きに期待が高まります。

さて、当日はおじさん10人ほどが夜中に集合し、出発した車は朝早く港に到着しました。早々に乗船券を購入して釣り竿をレンタルすると、いざ乗船です。100人ほどは乗れそうな大きい船ですが、かっこいい名前とはかけ離れたボロボロの古い船でした。それぞれがポジションを確保して出航です。

港を出て1時間足らずでしょうか、船が減速していよいよ釣りが始まります。碇(いかり)が下ろされ、汽笛の合図で一斉に仕掛けを投げ込みました。すると、仕掛けが底へ付く前にググッと重くなるのが腕に伝わってきます。

まぁ釣れるは釣れるはで大忙しです。あまり釣れなくなってくると船は再びポイントを求めて移動しますが、その間、後方にある洗い場で素早く魚を処理しなければなりません。きれいに洗い流した魚は水分を拭き取り、クーラーボックスへ詰めていきます。

これを何度も繰り返していたのですが、ふとあることが気になり始めました。それはベストポジションである船の先端付近で、簡易椅子にどっしりと座ったおじさんの存在です。

竿もわれわれがレンタルした2メートルほどの安物ではなく、4.5メートルはあろうかという本格的なものを使っています。投げ入れるタイミングも絶妙で、合図の汽笛がなる直前に振り下ろすので、真っ先に投げ下ろされた疑似餌にサバはすぐに食いつきます。一度に数匹ものサバを釣り上げていました。

どうやら彼をサポートする別のおじさんがいて、釣れたサバを足繁く後方へと運んでいきます。これを待ち構えていたまた別のおじさんが、洗い場でせっせと処理し、何と三枚におろしているではありませんか。

これは本格派の人たちだ。おそらくどこかの卸し業者では……。きれいに三枚におろしているところを見ると、日系の業者さんに違いありません。私の悪い癖である闘争心が、ふつふつと沸いてきました。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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