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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

101. 私の好きな秋の音楽

秋のモチーフ秋のモチーフ

「天高く馬肥ゆる秋」は、欧州の人にとっても同じ感覚のようです。ヴィヴァルディの「四季」より「秋」の楽章では、収穫の喜び、そして農民たちの飲めや歌えの宴がくり広げられます。やがて疲れ果てて眠りに落ちるのですが、一夜が明けると一転して勇ましい音楽となり、冬に備えて解禁された狩りへと出かけていくのです。

秋は空気が澄んでいるので、月明かりもハッとするほどきれいです。欧州に来て初めての秋、私はアーヘンの片田舎に住んでいました。ある夜、窓から差し込んできた月明かりのまぶしさで目を覚ましました。その青白い光はまるでスポットライトのように鋭く、くっきりとラインを作って差し込んでいます。こんな感動的な光景を見ていたら、音楽家たちもきっと創作意欲が湧くなと思いました。そんな「月」をテーマにした音楽は、ベートーヴェンのピアノソナタ14番「月光」が有名です。ドビュッシーではピアノ曲集「ベルガマスク」から「月の光」。ベートーヴェンとは趣が違い、柔らかくロマンティックな曲です。

さて、秋に相応しい作曲家では、何といってもブラームスでしょう。この人の作品は交響曲をはじめ協奏曲、それに室内楽に器楽曲、どれを取っても秋に聴くのにぴったりです。もっとも普段は演奏活動などで忙しく、作曲は夏休みの間に集中して行うことが多かったそうですが、「北方ロマン」ともいわれる彼の音楽は、いぶし銀のような渋い輝きに、なんともほの暗いロマンが分厚い響きから伝わってきます。ハンブルク出身の作曲家が持ち合わせた本来の性格が、このような雰囲気の音楽を作らせたのでしょう。

ある秋の晴れた日、カルヴェンデル(ドイツとオーストリアの境目にある山)の裏、チロルの谷あいにある小さな山村の「エンク」という所に出かけました。谷あいには無数のカエデが見事に紅葉しており、あまりに美しかったので、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、ワンダーフォーゲルよろしく歩きまわりました。

ぐったりと疲れて広場にあったベンチへ仰向けに寝転がり、おもむろにヘッドホンを取り出しブラームスの交響曲第三番を聴きました。抜けるような青空をバックに、見事なカエデが広がっています。しばらく気持ちよく聴いていたのですが、あの第3楽章でホルンのソロが出てきた辺り、両頬に熱いものが伝わるのを感じました。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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