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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

108. モンセラート山

モンセラート山上の祠モンセラート山上の(ほこら)

リヒャルト・ワーグナーが作曲した最後の楽劇「パルジファル」は、修道院を舞台に「聖杯」を守る騎士たちの物語です。そのモデルとなったのが、スペインのモンセラート山にある修道院。ここにはアーサー王時代に「聖杯」を守っていたという伝説が残っていたので、そこからインスピレーションを受けたのでしょうね。

この「聖杯」は、キリストが最後の晩餐でワインを注ぎ、翌日十字架に架けられ槍で脇腹を刺された際に流れた血を受けた器とされています。それがどこに存在するのかをめぐり、長い歴史のなかで捜索され、時には奪い合いにもなりました。「これぞ本物だ」といわれる聖杯は世界に四つほど実存していますが、どれも証拠がなく確定には至っていません。

このモンセラート山ですが、スペイン語で「モン」は山、セラートは「ノコギリ」という意味。長い年月をかけて地層が侵食され、モコモコとした奇岩(きがん)郡で形成されています。

西暦880年のとある土曜日、山腹にいた羊飼いたちが、空に妙な強い光を見ました。それから土曜日になるたびに強い光が現れるので、不思議に思って光の差している場所へと向かいます。そこには洞窟があり、入ってみるとキリストを抱いた黒いマリア像があったそうです。「これはえらい発見だ!」と麓まで降ろそうとしましたが、びくともせず動かすことができません。とうとうこのマリア像はそのままに、その周辺に修道院を設営することになったのでした。

この黒いマリア像は、現在は修道院の一番奥に祭られていて、その右手に持つ黒い球に触れながら祈ると、願いごとが叶うという言い伝えがあります。スペインを代表するソプラノ歌手にモンセラート・カバリェさんという方がいて、「女性の名前でノコギリ山なんてあるのか」と思っていました。最近知ったところによると、彼女のお父さんは難病にかかり、医者にも見離されていましたが、このマリア像に触れながら祈りを重ねたところ、不思議なことに回復しました。その後に彼女が生まれたので、この名前を付けたそうです。

モンセラート山には、バルセロナのエスパーニャ広場からモンセラート鉄道で1時間ちょっと。終点モンセラート駅から登山電車でのんびり行くか、一つ手前の駅からロープウェイでも行くことができます。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
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