Hanacell

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

112. アルハンブラ

アルハンブラ宮殿アルハンブラ宮殿

私の親友で、高校時代にクラシックギターを始め、今も熱心に練習を欠かさない人がいます。アンサンブルにも属していて、アマチュアながらコンクールで優勝するほどの腕前。そんな彼が好んで演奏する曲に、フランシスコ・タレガの名曲「アルハンブラの思い出」があります。これはスペイン最南部グラナダにあるアルハンブラ宮殿を訪れた際の印象をもとに作曲されました。

終始全曲のベースを支えているトレモロは、親友いわく、噴水のこぼれ落ちる水滴を表しているそうです。多分これは、「ヘネラリフェ」といわれる離宮にある噴水のことでしょう。大きなパティオの中央にある水槽に向かって、左右から幾重にも水が噴出してアーチを作っています。この離宮は特に水での演出が豊富で、階段の手すりにまで水路があり、潤いに満たされています。

さて、このアルハンブラ宮殿(「赤い城」という意味だそう)は、当時イスラム教圏の民族によって支配されていたアンダルシア地方のグラナダの丘に建てられました。9世紀ごろに(とりで)が建てられてから、その後何世紀にもわたって増築され、要塞都市として発展していきます。城内には宮殿をはじめ官庁や軍隊、モスクや学校もあって、2000人以上の貴族が住んでいたそうです。

しかしカトリック教圏の国土回復運動(レコンキスタ)によって、グラナダは15世紀に陥落してしまいます。たいていは陥落すると城などは破壊されてしまうのですが、当時の女王イザベルが、この宮殿があまりにも美しいため、そのまま保存することに決めました。そのおかげで今日でも観賞することができるのですが、アラビア風の独特の装飾は繊細で圧倒的な美しさを放っています。この宮殿からダロ川が流れる谷を挟んで対岸の丘に広がる、アルバイシンの白い街も見もの。敵からの襲撃に備え、迷路のように入り組んだ小道が複雑な街並みを形勢しています。

ここからさらに稜線に沿って進むと、サクロモンテという地域に。ここはシンティ・ロマの人たちの洞窟住居が点在しており、妖しげな雰囲気をかもし出しています。今では観光化されましたが、40年ほど前に行ったときは、何となく踏み入ってはいけない感じがしました。歩いていると洞窟の前にいた恰幅 (かっぷく)のいい婦人に、急に腕をグイとつかまれ「手相を見てやる!」と、中へ引き込まれそうになったのを今でも覚えています。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
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