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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

115. モネの風景画

モンマルトルのシャンソニエモンマルトルのシャンソニエ

風景画を描く際、一般的に360度広がる景色の中から一部を抜き取って題材を決めます。そして最適な構図と色使いで作画するのですが、目には見えないもの、すなわち風や香り、温度感、そして音を入れ込むのが肝となります。さらに切り取った風景の周りに存在する空気感を絵の中にふわっと持ち込むことができれば、より一層その場の雰囲気を表現することができます。

そのことが最も表現されているのが、モネの絵ではないでしょうか。彼の絵を見ていると、まるでその風景の前に立っているかのような感覚に導かれます。草むらから立ち上がるむっとした温度感や香り、木立の向こうに流れていく暖かい空気……絵の中に吸い込まれそうになります。

そんなモネが描いた風景に出会うため、あちこちと訪れたいものです。まずはモネが青年時代を過ごし、あの「印象派」の語源となった作品「印象・日の出」が描かれたル・アーブルの海岸。絵の構図を思い浮かべながら、まるで宝探しをするように「この辺かな、いやそっちかな」と歩き回ります。やがて港の形や左手遠くに見える工場地帯の位置から、およそこの辺りと思われる場所までたどり着きました。この時はタイトルにある「日の出」ではなく、夕暮れ時でしたが、空や海は淡いパープルに染まり、遠くを行く船はブルーグレーにかすんでいて、あの絵の雰囲気を味わうことができました。

ここから東へ1時間ほどバスに揺られ、次の目的地エトルタへ。そう、ここは英仏海峡に面した大きくえぐられた断崖が有名なところです。古くはクールベもこの断崖を描いていますし、モネも何枚も描いています。朝起きて反対側にある教会が立つ丘からこの断崖を見た時は、「おぉ、これか!」と体が震えるほど感動しました。この丘からの眺めも抜群ですが、この奇岩がある断崖にも登ることができます。こちらは草むらを進む自然な感じが残っていて、途中、細い断崖の間を抜けるなど、ちょっとしたスリルも味わえました。

この地でモネは、やはりル・アーブルに住んでエトルタをよく描いていた先輩画家のウジェーヌ・ブーダンから多くのことを学びました。その後モネは、いよいよパリへと向かいます。そしてパリ郊外のフォンテーヌブローの森や、展覧会を開催した大通りのサンジェルマンなど、パリ市内を数多く描きました。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
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