ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

25. ウィーンのシェーンブルン宮殿界隈

25. ウィーンのシェーンブルン宮殿界隈

シェーンブルンの庭
グロリエッテから望むシェーンブルンの庭。
今年のウィーン芸術週間は、5月13日~6月19日 www.festwochen.at

ウィーンはどの季節も趣があって素敵な町ですが、私にとって特に5月のウィーンはソワソワしてくる町です。5月半ばから「ウィーン芸術週間」が始まり、オペラやコンサートで特に気合いが入った公演が多いからです。夜の公演までは散歩やカフェ巡りをしますが、どこも味わいがあって、ゆったりとした時間の流れを楽しんでいます。たいていは西駅界隈に宿を取ることが多いのですが、朝から路面電車に揺られヒーツィング(Hietzing)で下車、ここから一駅分ブラブラと大通りに沿ってドムマイヤーガッセへと向かいます。カフェ・ドムマイヤーで朝食を取るのですが、お天気が良ければ中庭で時間を忘れるほど心地良い一時を過ごしています。中ほどにはちょっとしたステージがありますが、なんとあのヨハン・シュトラウス2世のデビューは、このステージだったそうです。

朝食後はシェーンブルン方面に戻り、教会脇の坂道を宮殿の壁に沿って上って行きます。途中シュトラウス2世がオペレッタ「こうもり」を作曲した家をチラッと眺めながら、お墓参りのためヒーツィング墓地へ向かいます。ここには、ウィーンにまだ多く現存する建造物でユーゲント・シュティール(ドイツ語圏でのアール・ヌーボー様式)の代表ともいえる数々の名作を設計した、オットー・ワーグナーの堂々としたお墓がありますし、その少し先、しだれ白樺の脇にひっそりと白い大理石が斜めに突き刺さった画家のグスタフ・クリムトのおしゃれなお墓、そして作曲家のアルバン・ベルクも少し離れた寂しい所に眠っています。しみじみとした時間の後はシェーンブルンの庭へと引き返し、ワーグナーが設計したガラス張りの温室パルメン・ハウスを横切って動物園へ。これは宮殿内にマリア・テレジアが作らせた動物園で、厩舎(きゅうしゃ)や柵などロココ調の装飾がされた優雅な動物園です。

グロリエッテの丘にのぼるのも一考です。丘の上にはギリシャ風の建物やカフェもあり、町が一望できて絶景です。丘を下り宮殿脇のバラ園を散歩する頃には足がガタガタ悲鳴を上げ始めます。シェーンブルンを後ろに、すぐ前のU4に乗れば、シュターツ・オーパーもコンサート会場のムジークフェラインやコンツェルト・ハウスへも一本で行けます。さあ、もうひと頑張り……、まるで巡礼のような長い夜に備えます。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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