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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

36. ベルギーの田舎町ヴェルヴィエにて

36. ベルギーの田舎町ヴェルヴィエにて

赤い屋根の農家(ヴェルヴィエ近郊)
赤い屋根の農家(ヴェルヴィエ近郊)

パリへは時々行くことがあり、タリス(Thalys)を利用するのですが、アーヘンを出てしばらく走ると、丘に沿って古い家並みが続く町を通ります。タリスは停車せず通過するだけですが、「ここは絵になるなぁ……」と気になっていました。気温も上がり出したある春の日のこと、「ようし、あの町へ行ってみよう!」と決心して出掛けました。

アーヘンから普通列車に乗り換えて30分ほど、そこは「ヴェルヴィエ」という駅でした。ベルギーのリエージュ市とドイツ国境の中間に位置し、古くから水と共に発展した町で、ワロン地域の「水の都」と言われてきました。噴水も多く、駅前から古い建物が密集していて趣を感じます。

取りあえずはコーヒーを飲みながら一休みをしようと、カフェに入りましたが、ここはベルギーのワロン地域、フランス語圏の町。ドイツに隣接しているにも関わらずドイツ語は一切通じず、ガラッとフランス語の世界になっていました。コーヒーのミルクもタップリですが、カフェ・オ・レほど多くはなく、ちょうどドイツとの中間くらいの量だったことには思わず笑ってしまいました。

初めての町を知るために、私は常套手段として、中心部を抜け、なるべく遠くまで行くバスを使います。その日もさっそく見付けて乗り込みました。町の中心部はほんのわずかで、すぐに田園風景が広がる田舎へと入ります。終点の景色も良かったので、ここで1枚スケッチをしました。途中にも小さなお城がある村があり、ここでもう1枚描いてから町へと戻りました。

2、3日滞在してスケッチをするつもりだったのでホテルを探したのですが、一軒も見付かりません。駅でも調べてみましたがやはり無いようです。結局は諦めて近くの温泉保養地「スパ」へ移動することにしました。ヴェルヴィエは、近代化の進んだ時代に取り残されたような町でしたが、食事は美味しいし、その古く趣きのある佇まいは深く印象に残っています。

ところで、後ほど知ったことですが、この町で作曲家のギヨーム・ルクーが生まれていて、町のどこかに銅像もあるそうです。彼は運悪く、チフス菌に汚染されたシャーベットを食べてしまい、24歳という若さでこの世を去りました。

この早逝の天才作曲家のヴァイオリン・ソナタなどは素敵な曲で、ベルギーの名手アルテュール・グリュミオー盤をよく愛聴しています。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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