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水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

54. セザンヌを訪ねて②(エクスへの道)

54. セザンヌを訪ねて②(エクスへの道)

プロヴァンス鉄道の石橋(Annot)
プロヴァンス鉄道の石橋(Annot)

ず~っと憧れていたセザンヌの生まれ故郷、エクス・アン・プロヴァンスへの旅は、ある時突然に思い立ちました。それはカンヌで仕事があって、その後に自由な時間ができたからです。

せっかくなので海沿いの近道を行くのではなく、噂に聞いていた山間部を走るプロヴァンス鉄道に乗ってみたくなりました。これはヨーロッパでは珍しい私鉄で、駅はSNCF(国鉄)のニース駅からちょっと北側に行った所に鄙(ひな)びた感じで佇んでいます。列車はまるで遊園地の電車を思わせるような、ちょっと小振りの可愛い感じです。運が良ければ、時々蒸気機関車も走っているそうで、まさに観光列車よろしくといったところ。

駅近くのスーパーでお惣菜やワインを買い込み、心は既に休暇モード。走り出してすぐに山間部へと入り、川に沿ってノロノロと走ります。景色の良さと開放的な気分が相まって、早々に冷えたロゼを開けましたが、ジグザグに喘ぎながら上る小さな電車は上下左右に大きく揺れます。こぼさないように飲むのも大変でしたが、その酔いの早いこと……。この日の目的地アノー(Annot)に着く頃にはすっかり酔っ払っていました。

このアノーも山間にある古くて小さな町で、屋根も壁も石造りの家々が数多く点在し、独特の雰囲気を醸しだしています。高台から眺めるプロヴァンス鉄道の石橋は霞んだ山を背景にし、古くとても趣があるもので、山間には小さなチャペルがへばり付くように建っているのが見えています。さて、いよいよエクスを目指しますが、先ずは終点のディーニュ・レ・バンまで列車、そこからバスに乗り換えSNCFの駅があるシャトー・アンヌ・サン・トーバン(Chàteau-Arnoux-Saint-Auban)へと向かいました。地図を見るとこの駅の傍らにはデュランスという川が流れていますし、そのシャトー(城の意)という地名からも、大いに期待が膨らんで行きました。

バスはクネクネと山間部を下り、遠くには湿地帯のような草原もちょっと見えてきて、「おお! シャトー!」とますます期待が膨らんできました。閑静な住宅街を通り、ポツンと建つ小さな石造りの駅へと到着しました。「さて、シャトーはどの辺にあるのかなぁ?」……駅のホームに佇みあちこち眺めてみたのですが、目の前に広がっていたのはとてつもなく大きな化学薬品工場でした。あぁ、憧れのエクスはまだ遠いなぁ~。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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