ドイツワイン・ナビゲーター


UMAMIの世界 2 ー 東洋のUMAMI

アジア諸国で古来活用されてきたうま味調味料の代表的なものに、魚醤、醤油、塩辛、味噌、豆豉(とうち)などがあります。このうち魚介類を素材にしたものが、魚醤と塩辛。ほかにもシュリンプペーストなどがあります。

魚醤にはタイのナンプラー、ベトナムのヌックマム、フィリピンのパティスなどがあり、日本でも一部の地域で使われています。塩辛には韓国のチョッカルやフィリピンのバゴーンなどがあり、主に調味料として使われているようですが、日本では保存食品でもあります。オキアミや海老から作るシュリンプペーストには、中国の蝦醤(シャージャン)、タイのカピ、インドネシアのトラシなどがあります。アジア諸国には、魚介類を原料とするうま味調味料が約300種類もあるそうで、塩やスパイスを使う感覚で利用されています。

醤油、味噌、豆豉は、大豆や穀類を素材としたうま味調味料です。日本の醤油に相当するうま味調味料には、韓国のカンジャン、中国の老抽(ラオチョウ)や生抽(シンチョウ)などがあります。日本の醤油は、寿司の流行とともにアジア諸国をはじめ世界中で広く普及しています。日本の味噌に相当するものには、韓国の唐辛子味噌であるコチュジャン、中国の豆板醤や上述の豆豉などがあります。

素材の違いや塩分含有量の違いはあるものの、上記のうま味調味料はいずれも発酵を経て得られるもので、食材の持つ味わいを活かしてくれます。

アジアでは、肉類をベースとするうま味も使われています。中国や韓国では、豚骨や鶏ガラを香味野菜と合わせて煮込み、うま味たっぷりのスープを取ります。沖縄でも、豚骨と昆布やかつお節を合わせたスープを取ります。昆布や野菜のグルタミン酸と肉や魚介のイノシン酸が一緒になると、うま味が増幅します。いずれも西洋のブイヨンなどに通じるものです。

日本の「だし」は、上記とは異なる独特のうま味を持つスープです。昆布や干し魚、かつお節、椎茸などから取る「だし」は、肉類を煮込んで取るスープとは違って繊細な味わいを持ち、和食料理の基本の味となっています。

「だし」は、ブイヨンのように何時間も煮込む必要がなく、手軽に取ることができますが、素材自体は大変な手間をかけて作られます。昆布を例にとると、産地は北海道沿岸地域で、3~10メートルくらいに成長するまで数年間待ってから収穫し、天日で干し、その後2~5年にわたって熟成させます。

昆布が含有するグルタミン酸の量は100g当たり2240mgで、グルタミン酸の多い食材としてはトップの座を占めています。ちなみに、2位はパルミジャーノチーズ(100g当たり1680mg)、3位は海苔(100g当たり1378mg)となっています。参考までに、イノシン酸含有量のトップはかつお節(100g当たり474mg)、2位はまぐろ、3位は鶏肉、グアニル酸含有量のトップは乾燥椎茸(100g当たり150mg)、2位はモリーユ茸(編笠茸)、3位は海苔となっています。

ところで、アジア一帯では古くから米が栽培され、食事には欠かせません。米のたんぱく質は麦のそれよりも質的に優れ、米は炭水化物であると同時に、良質のたんぱく質源でもあるそうです。一方、西洋では肉類や乳製品をたんぱく質源とし、パンなどで炭水化物を摂取します。東洋で多くのうま味調味料が発展したのは、米食であることも関係しているかもしれません。

 
Weingut Jülg
ユルク醸造所(プファルツ地方)

ヨハネス
左から父ヴェルナー、ヨハネス、弟フリードリヒ、
母カリン、弟モリッツ

独仏国境の町シュヴァイゲンにある、創業1961年の家族経営の醸造所。所有畑は18ヘクタール。3代目のヨハネスは、ヴァインズベルク醸造専門学校卒。ラインヘッセンのケラー醸造所、モーゼルのクレメンス・ブッシュ醸造所、ブルゴーニュのドメーヌ・デ・ランブレイなどで修業を積んだ。ヨハネスは父親から、いかに困難な状況に見舞われても平静さを保つこと、品質向上のためなら手間を惜しまないこと、トレンドを追わず独自のスタイルを模索することを学んだという。ヨハネスの目標は、個々の畑の違いを見極め、細やかな畑仕事を行い、畑の個性をそれぞれのワインに反映させること。ヴァインシュトゥーベも経営しており、彼の母と祖母が郷土料理を提供している。チーズやソーセージ類も自家製だ。

Weingut Jülg
Hauptstr. 1
76889 Schweigen-Rechtenbach / Südpfalz
Tel. 06342-919090
www.weingut-juelg.de


2014年 リースリング ゾンネンベルク 辛口2014 Riesling Sonnenberg trocken 14.50€
2014年 リースリング ゾンネンベルク 辛口

ドイツとフランスの双方にまたがる畑、ゾンネンベルクのリースリング。
ユルク家が所有する区画はすべてフランス側にあり、このワインには特に石灰岩が多い区画のぶどうを使用している。
畑のフランス名はサン・ポール(St.Paul)。平均樹齢は45年。ワインはシュール・リー製法で醸造。「ボトリングまで7カ月間酵母と接触させたので、ワインのストラクチャーが堅固かつクリーミーになり、より味わい深くなった」とヨハネス。シュール・リー製法のワインには、通常製法のワインよりも、うま味の要素が感じられるといわれる。充実した味わいが楽しめるリースリングだ。


最終更新 Dienstag, 15 September 2015 12:24
 

UMAMIの世界 1 ー ドイツでも意識され始めたUMAMI

今回から5回にわたり、ワインの話題から少し脱線して、皆さんをUMAMIの世界へとご案内しましょう。

人間の五感の1つである味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、そしてうま味の5つの基本味があります。うま味はドイツ語で「Würzigkeit」と訳されることもありますが、通常は日本語の用語そのままに「Umami」といわれ、ドイツでも話題に上るようになりました。

うま味は、アミノ酸の1種で海藻類、チーズ、トマト、大豆などに多く含まれるグルタミン酸、核酸関連物質で主に魚介類や肉類に含まれるイノシン酸、干し椎茸に多く含まれるグアニル酸などで構成されています。自然のうま味は非常にデリケートな味わいで、ほかの味わいを支え、完成させるような役割を果たしています。また、うま味を持つ食材同士を組み合わせると、うま味がより強く感じられます。

1907年にうま味を発見したのは、戦前の日本の化学者、池田菊苗氏でした。池田氏は、アスパラガスやトマト、チーズなどに共通の味わいの要素があり、それが従来の4つの味覚では表現できないことに気付いていました。池田氏は、日本で1000年にわたって使用されている乾燥昆布から取る「だし」の味わいの要素を解明する際に、その味わいのもとになる物質がグルタミン酸であることを突き止め、それをうま味と名付けました。

また池田氏は、グルタミン酸ナトリウム(Monosodium glutamate、MSG)を主成分とする調味料の製造法を開発し、特許を取得しました。池田氏が発見した、強いうま味を持つこの物質は、1909年に「味の素」という名称で商品化されました。それは日本の食品産業における革命的な出来事でした。

当初は植物性たんぱく質を加水分解して生産されましたが、やがて製法が変わり、現在、化学調味料として添加する際は、日本ではアミノ酸、EU圏ではE番号(E620)で表示されます。 ちなみに、1913年には小玉新太郎氏がかつお節からイノシン酸を、1957年には国中明氏が椎茸からグアニル酸を発見しており、これらもうま味成分であることが確認されました。

西欧でも、ブイヨンやコンソメなどの「だし」が古くから使われていました。イタリア、ロンバルディア州からスイスに移住し、製粉業を営んでいたマギー家の後継者ユリウス・マギー氏は、自社の生き残りを賭け、1882年から濃縮スープの製品化に取り組み、スープの味わいを濃厚にするマギー・ソースを開発しました。同社は世界各地に支店網を広げ、1907年にはマギー・キューブ(コンソメのキューブ)を製品化します。これも植物性たんぱく質を加水分解して得たスープのもとで、肉や野菜を煮込んでスープを取らなくても、手軽に味わい深いスープができるため、西欧で大人気を博しました。ただ当時は、マギー・キューブの味わいのもとがグルタミン酸であるとは知られていませんでした。面白いのは、日本と西洋でほぼ同時期に、うま味のもとが商品化されたということです。

うま味は日本語の固有名詞であるため、日本特有のものと思われがちですが、昆布やかつお節で取るだしも、 肉や野菜などで取るスープも、ともにグルタミン酸などのうま味成分で成り立っています。うま味を持つ食材は世界各地にあり、様々な形で活用されているのです。

 
Weingut J.Bettenheimer
J.ベッテンハイマー醸造所(ラインヘッセン地方)

イエンス・ベッテンハイマーさん
イエンス・ベッテンハイマーさん

ワイン造り550年の伝統を誇る家族経営の醸造所。2011年からはイエンス・ベッテンハイマーが醸造所を継ぎ、品質に磨きをかけている。イエンスは兵役の代替役務として身体障害者の在宅ケアに従事したが、その時に担当した重度の身体障害者が大のワイン好きで、醸造所の息子である彼を質問攻めにしたという。この出会いから、イエンスは実家を継ぐことを決意。ガイゼンハイム大学卒業後、ニュージーランドのフロム・ワイナリーでも実習を積んだ。イエンスは、父親からぶどう畑とぶどうの特性について多くを学んだと言う。醸造所を継いでからは、セラーへの設備投資を行いつつ、バリック貯蔵のワインや自然発酵にも挑戦している。

Weingut Joachim Bettenheimer
Stiegelgasse 32
55218 Ingelheim am Rhein
Tel.: 06132-3041
www.bettenheimer.de


2014年 エーゼルスプファド ジルヴァーナー 辛口2014 Eselspfad Sylvaner trocken 13.90€
2014年 エーゼルスプファド ジルヴァーナー 辛口

インゲルハイムは赤ワインの村として知られる。イエンスの醸造所でも2001年までは生産量の7割が赤品種だったが、現在は白品種が7割を占めるという。ラインヘッセン地方はフランケン地方とならび、古くからジルヴァーナー種が多く栽培されている地域。アッペンハイムのエーゼルスプファドのジルヴァーナーは樹齢50年。石灰岩と第三紀層の砂土壌。2014年産はスキンコンタクトを9日間行い、ワインの持つ特性を十分に抽出。ほのかなナッツとジュニパーベリーの香りに、フレッシュハーブとグレープフルーツのジューシーで奥深い味わい。まろやかで長い余韻が魅力的。

 


最終更新 Dienstag, 15 September 2015 12:25
 

カビネットと シュペートレーゼの物語

ドイツワインについて知ろうとするとき、避けて通れなかった概念がありました。それは、収穫時のぶどうの糖度に従って6つのランクに分類されるワインのカテゴリー、カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼ、アイスワイン、トロッケンベーレンアウスレーゼです。この6つは、いずれもプレディカーツワイン(Prädikatswein)に含まれます(本コラム第3回参照)。

自然条件が整わないと造れず、もともと生産量が少ないベーレンアウスレーゼ、アイスワイン、トロッケンベーレンアウスレーゼは別として、近年、カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼの辛口ワインが、やや減少傾向にあります。ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会(VDP)の「テロワールを基準とする格付け」の影響力が大きくなっている現在、VDP会員以 外の醸造所も、辛口ワインにおいては糖度で分類せず、エステートワイン、村名ワイン、畑名ワインの3段階を採用するケースが増えているのです。そして、甘口ワインを好む少数派の顧客のために、従来のカビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼを限定的にリリースしています。

歴史を紐解くと、「カビネット」の語源は中世にさかのぼります。16世紀初頭、ラインガウ地方のエーバーバッハ修道院では、修道士の仕事部屋のいくつかをワインセラー代わりにし、「シャッツカマー(Schatzkammer / 貴重なワインの保管庫)」として使っていました。このシャッツカマーが当時「カビネット(Cabinet)」と呼ばれており、今日のワインの等級を意味するようになりました。

シュペートレーゼの語源もラインガウ地方の逸話に由来します。18世紀初頭より、同地方のシュロス・ヨハニスベルクの醸造所はフルダ司教区の管轄下にあり、ワイン用ぶどうの収穫は、領主司教の許可を得た上で開始しなければなりませんでした。1775年の秋、フルダに送り込まれた伝令が2週間ほど遅れて戻ったために、収穫期がずれ込み、修道士たちは腐敗したぶどうを収穫することになりました。幸い、腐敗は貴腐であり、ワインは素晴らしい出来となりました。これがドイツにおけるシュペートレーゼ(遅摘み)、そして貴腐ワインの誕生エピソードです。

カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼは、本来、北国ドイツで生まれた残糖のあるワインでした。気温が低いために収穫期を遅らせることができ、セラー内の温度が低いために完全発酵しないことがあったのです。

畑の格付けの考えが広まり、辛口ワインにおける「肩書き」を省略することが一般化しつつある今、カビネット、シュペートレーゼ、そしてアウスレーゼは、甘口ワインに限定された肩書きに戻りつつあるようです。

ご参考までに、オーストリアにも糖度の基準数値などは異なるものの、カビネット、シュペートレーゼ、 アウスレーゼがあります。シュペートレーゼの英語訳「レイト・ハーヴェスト」は、遅摘みぶどうから造るデザートワインを指し、米国、オーストラリア、チリなどでも生産されています。フランス語ではヴァンダンジュ・タルディヴと言い、主にアルザス地方で甘口のデザートワインが生産されています。

 
Weingut Kruger-Rumpf
クルーガー=ルンプ醸造所(ナーエ地方)

シュテファン&ゲオルグ・ルンプ父子
シュテファン&ゲオルグ・ルンプ父子

1708年創業。シュテファン&ゲオルグ・ルンプ父子の生み出すワインは高品質でリーズナブル。ぶどう畑はナーエ地方のほか、隣接するラインヘッセン地方にもある。長年にわたり、収穫量を極度に切り詰め、完璧なぶどうを選別。作為のない「クルーガー=ルンプ」ならではのスタイルを持つ。1992年よりVDP会員。品種ではリースリングに力を入れており、VDPグローセ・ラーゲ(特級畑)に指定されているミュンスターのピッタースベルク(デボン紀粘板岩土壌)、ダウテンファルツァー(主に珪岩の風化土壌)の樹齢50年を越えるリースリングの古木からは、毎年味わい深い偉大なワインが生まれている。併設のワインシュトゥーベはルンプ家の食卓に招かれたような気持ちにさせてくれる店だ。

Weingut & Weinstube Kruger-Rumpf
Rheinstr. 47, 55424 Münster-Sarmsheim
Tel: 06721-43859
www.kruger-rumpf.com


2013年 シャーラッハベルク リースリング グローセス・ゲヴェックス2013 Scharlachberg Riesling Großes Gewächs
2013年 シャーラッハベルク リースリング
グローセス・ゲヴェックス 30.00€

クルーガー=ルンプ醸造所のぶどう畑のうち、ビンゲンのシャーラッハベルクだけがラインヘッセン地方にある。この畑は19世紀にはナーエ地方に属していたそうだ。VDP グローセ・ラーゲに指定されているこの畑は、VDP会員では同醸造所だけが所有。味わい深いグローセス・ゲヴェックス(辛口)が生まれている。南東向きの畑は、一部勾配率が36%の急斜面。粘板岩の風化土壌で鉄分が多いため、土が赤っぽい色をしている。2013年ヴィンテージは、10月末に糖度95エクスレで収穫。従来ならアウスレーゼの辛口に相当。糖度、酸度ともリースリングにとってほぼ完璧な状態で収穫され、非常にバランスが良く、ジューシーで生き生きした味わい。


最終更新 Freitag, 31 Juli 2015 14:44
 

ワイン造りの原点への回帰 - オレンジワイン

ここ数年、ドイツでも一部の醸造所で「オレンジワイン(Orange Wein)」が造られるようになりました。白ワイン用品種から造られる、ほんのりとオレンジがかった色調のワインのことです。

オレンジワインの醸造法は伝統的な赤ワインの醸造法とほぼ同じで、果皮と果汁を長時間接触させ、通常はそのまま発酵に導きます。スキンコンタクトと呼ばれるこの工程は、近年、テロワール(本コラム第24回(第790号、2009年11月6日発行)参照)を意識した白ワインを醸造する場合に積極的に取り入れられていますが、長くても数時間から数日程度です。しかし、オレンジワインの場合は、さらに長期間にわたりスキンコンタクトを行い、発酵に導くため、3~4週間果皮と接触させておく造り手もいます。

スキンコンタクトを行うと、果汁の中に果皮の持つ色素やフェノール類、そしてタンニンが抽出され、ワインが濃い黄色、場合によってはほのかなオレンジ色に染まります。通常、白ワインを造る場合には、収穫後すぐに圧搾して果皮と果汁を分けますが、オレンジワインはこのように果皮の成分をしっかりと生かすので、風味にも強い個性が出ます。

ワイン発祥の地といわれるジョージア(旧称グルジア)では、約5000年ほど前から、アンフォラ(クヴェヴリ)と呼ばれる陶製の瓶(かめ)を土中に埋め、その中につぶしたぶどうを入れて自然発酵させていました。それは、オレンジワインの原点ともいえる造り方です。瓶を土中に埋めることで、醸造中の瓶内部の温度が一定に保たれ、ワインが取り込む酸素の量もわずかにとどまります。ジョージアには、現在もこの方法で造られているワインがあり、白ワインも例外ではありません。世界で初めて誕生したオレンジワインは、おそらくクヴェヴリで醸されたジョージアの白ワインだったことでしょう。

ドイツでも、アンフォラを使用した原初的な醸造法に挑戦している造り手がいます。その場合、オレンジワインと言わずに「アンフォラ・ワイン(Amphorenwein)」と言ったりします。筆者は、ドイツのほかにポルトガル、イタリア、そしてクロアチアでアンフォラ・ワインの造り手に出会いました。ほかにも、スロヴェニアやオーストリア、フランスなどにもアンフォラを使用している造り手がいるそうです。

ビオ農法やビオディナミ農法に取り組んでいる造り手たちは、昔ながらのシンプルな醸造法への関心が高く、自然発酵にこだわり、できるだけナチュラルなワイン造りを行おうと努めています。オレンジワインはそのようなワイン造りを目指す彼らの1つの試みです。そして、オレンジワインを極めていくと、アンフォラを使ってみたくなるのでしょう。

オレンジワインの造り手はビオの造り手であることが多く、亜硫酸添加量を極力少なくしようとしています。そのため、造り手たちは完璧なぶどうを収穫し、クリーンな醸造環境を保つことを第一としています。ヴィンテージにより、収穫したぶどうが完璧ではない場合は、オレンジワインの生産をきっぱりとあきらめる造り手もいます。

 
Weingut Ankermühle
アンカーミューレ醸造所(ラインガウ地方)

オーナーのビルギットさんとワインメーカーのヨルンさん
オーナーのビルギットさんとワインメーカーのヨルンさん

 アンカーミューレ醸造所の前身は、14世紀半ばより稼働していたという水車による穀物製粉所。1891年以降は、アイザー家が4代にわたってこの場所で醸造所を営んだ。初代は水車による製粉業と、ワイン醸造業の双方を営んでいたという。同家は後継者に恵まれず、2008年にシュヴァーベン地方出身のビルギット・ヒュットナーさんとヘッセン州出身の夫のホルガー・J・ブップさんが新たなオーナーとなった。ビルギットさんは、広告、石油大手、インターネット・マーケティングなどの業界で活躍した後、醸造所の運営に取り組み始めた。ホルガーさんは、セールスエージェント会社を共同経営するかたわら、週末にアンカーミューレの仕事をサポートしている。2009年に改装オープンした同醸造所には、居心地満点のレストラン(スローフード協会会員)も併設されている。

Weingut Ankermühle
Kapperweg
65375 Oestrich-Winkel
Tel. 06723-2407
www.ankermuehle.de


2013年 シャーラッハベルク リースリング グローセス・ゲヴェックス2011 Jesaja Riesling trocken, Landwein
2011 イエザヤ(イザヤ)リースリング 辛口ラントワイン (完売)
※2013年産が新ブランド名で近日リリース予定

 同醸造所でワイン造りを一手に引き受けているのは、エアフルト出身のヨルン・ゴツィエフスキーさん。ガイゼンハイム大学卒業後、ラインガウ、スペイン、南チロル、ニュージーランドで経験を積み現職に。オレンジワイン「イエザヤ(イザヤ)」は、ハルガルテン村の畑「ユングファー」のリースリングを除梗・破砕し、低温で1週間スキンコンタクトした後、そのまま自然発酵させた。発酵終了後はさらに1週間放置し、素手で圧搾。バリック(オーク材)の新樽に詰め、2年間熟成させた。濾過をしていないため、ワインには少し濁りがある。ハーブ系の香り、ビターオレンジとバニラの風味。力強い味わい。

ヨルンさんは、最初からオレンジワインを造ろうと狙ったわけではなかったという。ぶどうのアロマなどの成分をより多く抽出しようと試行錯誤するうちに、この製法にたどり着いた。2011年産は、ヴィンケル村の畑「イエズイーテンガルテン」からも、同じ製法のオレンジワイン「イエズス」をリリースしている。2012年はぶどうの質に納得がいかず、オレンジワインは断念。2013年産からは、ヨルンさんの個人ブランドワインとして、新しいエチケットでお目見えする。


最終更新 Freitag, 20 September 2019 12:53
 

シュポンターンなワイン

ドイツにお住まいのワイン好きな方は、きっとどこかで「シュポンターンゲールング(Spontangärung)」という言葉を耳にされたことがあると思います。直訳すると「自発的な発酵」、すなわち自然発酵のことで、短く「シュポンティ(Sponti)」と言うこともあります。自然発酵に明確な定義はありませんが、野生酵母を生かした自然に任せる発酵法のことを指しています。

かつてはすべてのワインが自然発酵で造られていましたが、1970年代頃から純粋培養酵母が流通するようになり、現在では、世界各地のワイン産地で製品化されている、様々な性質の酵母を購入することができます。そんなご時世だからか、あえて純粋培養酵母の使用を拒み、野生酵母による発酵に挑戦している造り手が少しずつ増えています。

自然発酵の過程においては、ありとあらゆる要素が野生酵母の菌数やその活動に影響を及ぼします。例えば、破砕・除梗後のぶどうの果皮と果汁を一定期間接触させ、果皮の成分を抽出する工程(スキンコンタクト)は、収穫したぶどうを房ごと圧搾し、果皮と果汁を分離してしまう方法より、果皮についている酵母をより多く果汁に取り込むことができるのだそうです。

ワイン醸造において重要なのが、サッカロミセス・セレビシエという酵母菌で、ぶどう畑の土壌やぶどうの木、果実の表皮からセラーに至るまで、あらゆる場所に生息しています。この酵母の仲間には、ワイン酵母のほかにパン酵母、ビール酵母、清酒酵母などがいます。サッカロミセス・セレビシエは、発酵力は強いのですが、ワイン造りの過程において得られる多種多様な野生酵母の中では菌数が非常に少なく、その割合は1~5%程度なのだそうです。

環境から取り込まれる野生酵母の多くは、ハンセニアスポラ、ピキア、あるいはカンジダなどの酵母菌で、発酵の最初の段階は、これらの発酵力の弱い酵母によって引き起こされます。そして、温度、残糖量、アルコール量などといった環境の変化とともに、発酵を最後まで牽引してくれるサッカロミセス・セレビシエが活躍し始めます。この酵母はほかの野生酵母と違い、アルコール度数がある程度高くても活動することができるのです。

ところで、自然発酵は予測がつかず、様々な理由で停滞することがあるため、それをサポートする方法があります。例えば、すでに自然発酵しているワインをスターターとして、これから発酵させる果汁に加えたり、健康なぶどうを本収穫の4~5日前に部分収穫し、先に自然発酵させておき、後に本収穫で得た果汁に加えて発酵させたりすることが可能です。このほか、発酵の初期段階は自然に任せ、後に発酵力のある純粋培養酵母を加えて発酵を終了させるケースもあります。このように自然発酵にはいろいろなバリエーションがあるのです。また、ワイン用の純粋培養酵母は人工的なイメージがありますが、その多くは、自然界から得られた固有の株から選抜した優秀な株を純粋培養したもので、自然の酵母がもとになっています。

100%の自然発酵は、それによって起こり得るすべてのリスクを受け入れる覚悟と、停滞するであろう発酵を忍耐強く待つ時間的余裕があり、ワインの力を最後まで信頼して醸造過程を見守ることができる造り手による、究極の挑戦なのです。

 
Weingut Lubentiushof
ルベンティウスホーフ醸造所(モーゼル地方)

アンドレアス・バルト氏とズザンネ夫人
アンドレアス・バルト氏とズザンネ夫人

アンドレアス・バルト氏とズザンネ夫人は、1994年にモーゼル川下流地域、ゴンドルフのルベンティウスホーフのオーナーとなり、同醸造所を刷新した。アンドレアスは大学の法学部を中退し、情熱の赴くまま独学でワイン造りを学んだ。ズザンネ夫人は2007年までインテリアデザイン事務所を運営していたが、その後は醸造所のマーケティングを一手に引き受けている。専門書から得た知識と試飲で培った感覚を頼りに、信念を貫いて造り続けてきたアンドレアスのワインの評価は高い。2人は「僕たちはスロー・リースリングのエキスパート」と言う。いかに時間がかかろうとも、作為を加えない自然発酵を選択したからだ。栽培品種はすべてリースリングで辛口ワインが主体。ステンレスタンクを使用している。ワインは通常、収穫の翌年の夏頃に発酵を終えるという。醸造所の顔でもある畑、ゴンドルファー・ゲンズは典型的なスレート岩の急斜面土壌。所有畑はトータルで3.6ヘクタールのみ。アンドレアスは、2004年からフォン・オーテグラーヴェン醸造所の醸造も兼任。こちらの醸造所は、2010年からテレビジャーナリストのギュンター・ヤオホ氏がオーナー。

Weingut Lubentiushof
Kehrstraße 16
56332 Niederfell / Mosel
Tel. 02607-8135
www.lubentiushof.de


2013 Spontan Riesling Trocken
2013 シュポンターン リースリング トロッケン 2013 シュポンターン リースリング トロッケン
11.00€

アンドレアスは、1994年の初ヴィンテージの段階では純粋培養酵母を使用したが、1995年ヴィンテージからはすべて自然発酵を実践している。テラス式急斜面のぶどう畑で手塩にかけて育てているぶどうの力を信じ、その個性を生かすためだ。ズザンネ夫人は「私たちはワインを造るのではなく、その誕生に立ち会っているの」と言う。アンドレアスは発酵が停滞しても、ひたすら待ち続ける。長年にわたり徹底して何もしないことで、セラーの環境が良くなってきているという。

2人の自然発酵への真摯な挑戦は、2011年に「SPONTAN」という名称のブランドワインを生んだ。ユニークなネーミングは、2人の取り組みを広く知らしめるツールとなっている。「ぜひ若い世代の人にも味わってもらいたい」とズザンネ夫人。2013年ヴィンテージの発酵は5カ月を要した。気品あるフルーティーな風味、シャープで清々しい味わい。100%自然発酵。ヴィンテージありのままのワインだ。


最終更新 Mittwoch, 06 Mai 2015 14:13
 

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