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アルテ・レーベン

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時おり、エチケットに「アルテ・レーベン(Alte Reben)」と書かれたワインに出会うことがあります。フランス語では「ヴィエイユ・ヴィーニュ(Vieilles Vignes)」と言い、「古木」を意味します。近年「アルテ・レーベン」と表示されたワインは増加傾向にあり、高品質ワインの指標の1つとなっています。「アルテ・レーベン」に法規定はなく、樹齢も厳密に決められてはいませんが、ドイツの造り手は、だいたい樹齢40年以上のぶどうから造られたワインをそう名付けているようです。

ぶどうの木は、樹齢とともに収量が減るため、ドイツの育種業者は25~30年ごとに植え替えることを勧めています。植え替えは、一定の収量を得るためにはやむを得ない方法です。しかし、高品質のワインを生産するための基本は収量を減らすこと。そのため意欲的な造り手たちは、若木に対しては個々のぶどうの木の収量を見極めながら、グリーンハーヴェスト(緑の収穫)を実施しています。これは成熟する前のぶどうを一部摘み取り、残したぶどうの品質を高める方法です。また、彼らは一度植えたぶどうをできる限り守り、樹齢を伸ばすようにしています。古木に対しては、やがてグリーンハーヴェストの必要がなくなります。樹齢およそ50年を越える頃から収量が明らかに減ってくるからです。とはいえ、収量の変化は樹齢だけに左右されるのではなく、自根であるかどうかなど、ほかの要素も影響します。

かつて大学の卒論のテーマに「アルテ・レーベン」を取り上げたS.A.プリュム醸造所のサスキア・プリュムさんは、「秋になると、若木と古木の違いがはっきりするんです。古木のぶどうの粒は明らかに小さく、房に空間があり、腐敗しにくい。リースリングの場合は、若木のものよりも黄色く色付いており、アロマも豊かでよりフルーティーな味わいです」と語っています。古木のぶどうがひときわ豊かな風味を持つのは、収量が少ないことのほかに、その根が地中深くに達しており、いかなる不利な気象条件に見舞われても、必要な水分や養分を確実に吸収できることとも関係しています。

サスキアさんは論文を執筆していた2004年頃、モーゼル地方の古木を探してあちこちの畑を歩き回ったそうです。彼女が調査した範囲で、記録に残る最古のぶどう畑はエンキルヒのエラーグルーブ。1884年に植えられたリースリングの古木がまとまって残っているそうです。現在は、カスパリ=カッペル醸造所など、複数の所有者がいます。サスキアさんの実家のリースリングで最も古いものは、ヴェーレンのゾンネンウアという畑に1905年に植えられたもの。このような樹齢100年を越えるぶどうはフィロキセラ禍(19世紀後半から20世紀初頭に欧州を襲った害虫被害)を免れたもので、自根を持っています。

ドイツ最古のぶどうの木は、プファルツ地方ロト・ウンター・リートブルクのローゼンガルテンという畑にある樹齢約400年のゲヴュルツトラミナーだと言われています。シュテファン・オーバーホーファー醸造所の先代が30年前に購入したこの畑は、収量が極端に少なく、なかなか買い手が見付からなかったそうです。植樹に関する文書は残っていませんが、30年戦争以前からある畑だと口伝されており、樹齢400年と推定されるのは、この畑の一部のぶどうの木だそうです。

 
Weingut S.A.Prüm
S.A.プリュム醸造所

サスキア・プリュムさん
サスキア・プリュムさん

モーゼル川流域、ヴェーレンの伝統ある家族経営の醸造所。プリュム家はモーゼル地方のワイン史において重要な家柄。プリュム家の名は12世紀の古文書にも記されており、当時からワイン造りに従事していた。S.A.プリュム家の興りは18世紀末に生まれたセバスチャン=アロイス・プリュム。その同名の孫が、1911年にS.A.プリュム醸造所を創業した。現在の当主ライムンドは創業者の孫に当たる。S.A.プリュム家は、ラインガウのロベルト・ヴァイル醸造所、モーゼルのDr.ローゼン醸造所、J.J.プリュム醸造所など、いくつもの著名醸造所と縁戚関係にある。所有畑は13ヘクタールですべてが斜面にあり、栽培品種はリースリングのみ。フィンランド出身のプリュム夫人は、故郷のユヴァスキュラでレストラン「Vesilinna」を経営し、彼の地でリースリングを紹介している。5代目のサスキアは、南チロルやオーストリアで醸造経験を積み、2005年から父の片腕として活躍中。ケラーマイスターはミヒャエル・ブリュームリング。ゲストハウスも経営している。

Weingut S.A.Prüm & Gästehaus
Uferallee 25-26
54470 Bernkastel-Kues
Tel. 06531-3110
www.sapruem.com


2013 Wehlener Sonnenuhr Alte Reben Riesling GG
2013年産 ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン
リースリングGG 辛口ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン リースリング
34.50€

S.A.プリュム醸造所はヴェーレンのゾンネンウア(日時計)、グラーハのヒンメルライヒとドームプローブスト、ユルツィヒのヴュルツガルテンなど、世界的に知られたぶどう畑を一部所有している。この「ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン」は、VDPのグローセス・ゲヴェックス(辛口の最高級格付)の基準で生産。ちなみに1842年にヴェーレンにある日時計を建設したヨドクス・プリュムは先祖の1人だ。畑はデボン紀のスレート岩の風化土壌。この畑は本来8ヘクタールだったが、1954年に44ヘクタールに拡張。S.A.プリュム醸造所はそのうち4.6ヘクタールを所有。栽培されているのはリースリングの古木で、樹齢はすべて80年以上。そのうち約半分が1905年に植樹されたもの。2013年産は長い冬を経て、生育期間に遅れがあったが、その後の生育は順調だった。トロピカルフルーツを連想させる透明感のある味わい。残糖は9g/lで辛口の上限。絶妙な酸と糖分のバランスが楽しめる。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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