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ドイツワイン新潮流① 低アルコール時代の到来

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かつては、ワインのアルコール度数を上げるために、果汁に砂糖を加えて糖度を補う「補糖(シャプタリザシオン)」が行われていました。「補糖」は現在もクヴァリテーツワインにおいて認可されています。しかし、気候が温暖になり、ブドウの成熟が早く、充分に熟すようになった現在、「補糖」という言葉をほとんど聞かなくなりました。代わりに、ワインのアルコール度数を下げる研究が進められています。

プファルツ地方を例に挙げると、1980年代は9月下旬から収穫を開始していましたが、近年は1カ月早い8月下旬に収穫が始まっています。最近はより凝縮したワインを造るために収量を削減する傾向にありますが、それによっても糖度は上がりやすくなります。半世紀にわたり、糖度が上がりやすいクローンを優先的に栽培してきたという事実もあります。今日、ワインは以上のような理由で高アルコールとなっているのです。

高アルコールのワインが増えた理由は、ほかにもあります。今日ではワインが飲みごろになるまで何年も待つことは稀で、消費サイクルが早くなっています。造り手は、とりわけタンニンの量が多い赤ワインを早く飲めるようにするため、過熟気味の糖度の高いブドウを収穫するので、アルコール度数が上昇します。過熟ブドウ特有のジャミーな風味を持つ、アルコール度数の高い、味わいのリッチなワインがテイスティングやコンクールで高得点を取りやすい傾向にあることも、高アルコールワインの生産に拍車をかけました。

しかし、現在の市場は健康志向で、低アルコール製品、アルコールフリー製品が求められています。低アルコールワイン、アルコールフリー・ワインの生産は、緊急課題の1つです。

ワインのアルコール量を低く保つためには、栽培段階でも醸造段階においても、対処できることがあります。栽培段階では、除葉することで光合成の進み具合をある程度調整できるため、どの部分をどう除葉すれば効果があるか、実験が行われています。ブドウの葉に植物性オイルを噴射し、光合成を阻害する実験も進められています。収穫のタイミングの見極めによっても調整が可能です。ただし収穫期が早まれば、収穫時の気温も高いため、望ましくない微生物の繁殖を避けるのに、ブドウの冷却が必要になります。そのため、ドイツでも夜間収穫が視野に入ってきています。

醸造段階では活動力の弱い培養酵母を選択する手がありますが、アルコール度数はごくわずかしか下がらず、グリセリンやコハク酸の量が上がるためバランスが失われます。一方、伝統的な赤ワインの製法であるマセレーション発酵を行うと生成されるアルコールが空気中に逃げるので、度数が1~2%下がるそうです。

でき上がったワインからアルコールを除去する方法も研究されています。聞き慣れない設備ばかりですが、真空蒸留器、スピニング・コーン・カラム(SCC)、メンブランコンタクター(MC)による浸透蒸留、逆浸透膜フィルター、ナノフィルターなど、さまざまな方法が実用化され始めています。

(「ドイツワイン新潮流」はラインラント・ファルツ州ブドウ栽培・ワイン醸造研究所の教育機関、ワインキャンパス・ノイシュタットのウルリヒ・フィッシャー(Dr. Ulrich Fischer)教授のプレス向けセミナー「ワイン醸造のトレンド」で得た新情報をもとに、3回にわたってお届けします)

 
Weingut Leitz
ライツ醸造所(ラインガウ地方)

ライツ醸造所のオーナー、ヨハネス・ライツ氏
ライツ醸造所のオーナー、ヨハネス・ライツ氏

ライツ家の起源は18世紀までさかのぼることができる。1980年代半ば、現オーナーのヨハネス・ライツは、母親が維持していた2.5ヘクタールの畑をベースに醸造所を興し、43ヘクタールの規模に成長させた。リューデスハイムの特級畑から、テロワールの個性を生かしたリースリングを生産する一方で、2007年にはカジュアルな辛口リースリング「Ei ns Zwei Dry」という洒落たネーミングのヒット商品を生んだ。2017年には「Eins Zwei Zero」というアルコールフリー・ワインをリリース。1990年に海外進出し、ドイツワインが理解されにくい現実に直面した経験が、革新的なアイデアの源となっている。2011年、ゴー・ミヨ年間最優秀醸造家賞受賞。VDP会員。

Weingut Leitz
Rüdesheimer Str. 8a,
65366 Geisenheim
Tel. 06722-9999-100
www.leitz-wein.de


2017 Eins Zwei Zero Rosé2017 Eins Zwei Zero Rosé
2017年産
アインス・ツヴァイ・ゼロ・ロゼ 7.90€

ライツ醸造所のアルコールフリー・ワイン「Eins Zwei Zero」には、ワインとスパークリングワイン(炭酸注入)がある。いずれもリースリングとロゼの2種類。ご紹介するロゼのベースワインは、メルロ、ポルトギーザー、ピノ・ノワールのブレンドで、グーツワインレベルのもの。真空蒸留器を用い、29度で低温蒸留しアルコールを取り除いた。ローズヒップやラズベリーの風味。ワインらしい味わいも充分に維持されている。残糖は49.6g/Lだが、酸が7.8g/Lあり、すっきりとした軽快な仕上がり。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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