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ドイツワイン新潮流③ オレンジワインとナチュラルワイン

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最近、「オレンジワイン」と呼ばれる、新しいスタイルのワインがよく知られるようになってきました(本コラム第88回(第1003号、2015年6月5日発行)参照)。オレンジワインの醸造法は伝統的な赤ワインの醸造法を踏襲しており、果皮と果汁を長時間接触させて発酵に導きます。ドイツ語で「マイシェゲールング(マイシェ発酵)」、英語で「スキンコンタクト」と言われる方法です。

フィッシャー教授の話によると、スキンコンタクト8時間と24時間という短時間の比較実験でも、24時間の方が、アロマがより多く抽出され、酸味がより柔らかになり、ポリフェノールがより多く含まれるワインとなるそうです。濃い黄色、あるいはオレンジ色に染まるのは、フェノール類のエキス分が多く取り込まれるからです。スキンコンタクトの期間は、造り手により、数日から9カ月くらいまでとさまざまです。

スキンコンタクトを行う場合、収穫するブドウは、健康で微生物の被害を受けていないもの、比較的糖度の高いもの(マイシェ発酵時に1%程度のアルコールが失われることを考慮するそうです)、フェノール分がよく熟しているもの、手摘みで選別されているものなどが適しているようです。品種はジルヴァーナー、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミーナ、ブルグンダー系品種などが向くようです。

フィッシャー教授は、オレンジワインは醸造スタイルが強調され、品種やテロワールの表現が二次的になるため、ピーヴィー品種と呼ばれるカビ菌耐性品種(本コラム第53回(第926号、2012年7月6日発行)参照)など、あまり知られていない品種を活用するチャンスになるだろうと語っておられます。ちなみに、オレンジワインは、必ずしもビオワインやナチュラルワインではありません。色はアンバー(琥珀)と呼ばれたりもします。

一方のナチュラルワインは、ワイン造りの「哲学」と言えるかもしれません。ナチュラルワインにおいては、ブドウ畑での仕事が重視され、何よりも土壌が健全でなければなりません。ビオ基準による栽培・醸造は必須であり、ビオディナミ(本コラム第70回(第967号、2013年12月6日発行)以降参照)を実践しているケースも増えています。醸造過程では、清澄剤を使用せず、ろ過もしないなど、できるだけ手を加えないミニマルな手法を取ります。ただ、手を加えないということを優先すれば、収穫したブドウの品質によっては、ワインが持つおいしさのポテンシャルを十分に表現できなくなる場合もあり、造り手の腕と判断力とセンスが問われるワインです。醸造における生物学的プロセスが落ち着くまで、長期間待たなければならないことも多く、忍耐力も問われます。

オレンジワインとナチュラルワインの造り手の多くは、ワインの酸化防止剤として認めらている、二酸化硫黄の添加を最低限にとどめたり、無添加に挑戦したりしています。フィッシャー教授によると、その前提条件としては、健康で完璧に熟したブドウであること、軸を取り去り、低圧で圧搾して得られた果汁であること、ポンプを使わず重力で発酵槽に入れた果汁であること、完全発酵した残糖のないワインであることなど、細部にわたって奨励されている作業や醸造法があります。自然酵母か培養酵母であるかは問われません。

オレンジワイン、ナチュラルワイン、そしてビオワインの境界はお互いに重なり合っています。今日のワイン造りは、ワイン文化の8000年にわたる伝統を内包しつつ、ダイナミックで多様性に富んでいるのです。

(「ドイツワイン新潮流」はウルリヒ・フィッシャー教授のセミナーで得た新情報をもとに、3回にわたってお届けしました)

 
Weingut Weinreich
ヴァインライヒ醸造所(ラインヘッセン地方)

ヤン(右)とマーク・ヴァインライヒ兄弟
ヤン(右)とマーク・ヴァインライヒ兄弟

ベヒトハイムの家族経営の醸造所。2009年からはヤン&マーク・ヴァインライヒ兄弟が運営。ガイアースベルク、ハーゼンシュプルング、ローゼンガルテンなどの優れた畑を所有。所有畑は 20ヘクタールに及ぶ。リースリングが30%を占め、白はヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、シャルドネ、ジルヴァーナーなどを、赤はシュペートブルグンダー、ドルンフェルダーなどを栽培。ワインの多くは自然発酵。セラーでは小ぶりのタンクを活用し、個々の畑の特徴を生かした醸造を行う。2016年からは「Natürlich Weinreich」の名称で、フランスをはじめとするヴァン・ナチュールのパイオニアたちからインスピレーションを得たナチュラルワインも展開している。

Riederbachstr. 7,
67595 Bechtheim
Tel. 06242-7675
weinreich-wein.de


2018年産タヒェレス2018 Tacheles
2018年産タヒェレス
12.00€

リアリストである兄のヤンとクリエイティブな弟のマークが、絶妙のチームワークで生み出すナチュラルワイン。 2018年産はバッフス、ケルナー、リースリングのブレンド。健康なブドウのみを収穫、除梗し、約6週間マイシェ発酵。バリックとトノーで熟成。ろ過をせず、二酸化硫黄も無添加。フローラルな香り、グレープフルーツとドライフルーツの風味、緑茶のような繊細なタンニン。低アルコール(10.5%vol.)の均衡の取れた辛口ワイン。タヒェレスはイディッシュ語でオープンマインドを意味する。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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