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ぶどうという植物 2 クローン

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ワイン好きの方なら「クローン」という言葉を、きっと一度は耳にされたことと思います。中には、1990 年代後半に話題になった、世界初の哺乳類の体細胞クローンである羊のドリーを連想なさる方がおられるかもしれません。

しかし、ぶどう栽培におけるクローンは遺伝子操作とは縁がありません。クローンとはギリシャ語で「枝」および「挿し木」のことだそうで、これがワイン造りにおけるクローンの意味するところです。

ある1本のぶどうの木は、挿し木をすることで無限に増やすことができます。例えばある古い畑に、丈夫で病害に強く、おいしく、質の良い実をつける理想的なリースリングの古木があれば、その枝を伸ばし、芽一つ分ごとにカットし、台木と接ぎ木して植えれば、その古木と同じ性質を持つぶどうの木が育ちます。今日のぶどう畑は、このように選別された優れたクローンで成り立っています。各々のぶどう品種だけでなく、台木にもクローンがあります。

クローンとは、このように一つの親株から無性生殖で増やした個体群のことを言います。その個体群は、すべて母株と同一の遺伝的組成を持つため、同一クローンを栽培すると、畑のぶどうが均質化されます。例えば病害などに対する反応が同じになるため、同時期に同じ方法で対処することができます。生育状態も同じなので、同時期に収穫することが可能になり、ぶどうの収量やクオリティーが安定します。区画ごとに一定のクローンを植えるメリットは非常に大きく、クローンが現在のワイン産業を支えています。

フィロキセラ来襲以前、造り手たちはぶどうの木が枯れてしまったら、「挿し木」や「取り木」で株を増やしていました。「取り木」とは、隣接するぶどうの枝を伸ばして地中に埋め、枝先だけを地表に出して生育させ、単独の株として成長したら、親株から切り離す方法で「挿し木」より確実だそうです。しかし、現在では台木が必要ですので、接ぎ木をしない「挿し木」や「取り木」を実施することはできません。

クローンの話に戻りましょう。リースリングを例にとると、ガイゼンハイム研究所の登録リストには、現時点で68種類のリースリング・クローンが登録されています。古いものでは1920年代に選別され、今日まで受け継がれているクローンもあります。ただ、このように長い年月を経ると、増やされたクローンが、遺伝的に一定でなくなってくるため、増やしたクローンの中から厳選したサブクローンを得ます。クローンはいずれも複数のウイルス病検査を受けており、市場に出回るものは確実に「ウイルスフリー」となっています。

同じリースリングであっても、クローンごとに個性があり、収量、糖度、酸度などがわずかながら異なります。また個々のクローンからできあがるワインの風味も異なり、非常にフルーティーな香りとなるクローン、 ニュートラルな香りになるクローン、 ペトロール香(リースリングに特有の鉱物、石油に似た熟成香)をほとんど生成しないクローンなどがあります。  このほか、個々のクローンには、それぞれに適した土壌や生育条件があります。最良のクローンというものはなく、複数の優れたクローンがあり、造り手は所有畑やその中の一定の区画、そして自らが造りたいと考えるワインにふさわしいクローンを選びます。

 
Sektkellerei Kasimon
ゼクトケラーライ・カージーモン

貝瀬
ケラーマイスターとして11年のキャリアを持つ貝瀬さん

カージーモンは、伝統製法ゼクトの旗手として評価の高い「ゼクトハウス・ラウムラント」のオーナー兼醸造家フォルカー・ラウムラント氏の元でケラーマイスターを務める貝瀬和行さんが、アルスバッハ(ヘッセン州)を拠点として友人と共同運営するマイクロワイナリー。貝瀬さんは東京農業大学短期大学部醸造学科卒業後、山梨県のワイナリー「あさや葡萄酒」勤務を経て、1997年に来独。ラインガウのシュロス・ラインハルツハウゼン醸造所で働きながら、2005年にケラーマイスター(醸造責任者)の資格を取得、2009年にはガイゼンハイム大学飲料工学科を卒業した。2012年に「ゼクトハウス・ラウムラント」に転職。「自分の理想ではなく、ワイナリーの理想を形にするのが僕の仕事」と裏方に徹し、ラウムラント氏を支えている。

Sektkellerei Kasimon GbR
Kazuyuki Kaise
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ヴォルケンタンツ リースリングShuwa Shuwa Cuvée Extra Brut
シュワシュワ・キュヴェ・エクストラブリュット12€

「シュワシュワ」は貝瀬さんが結婚記念に造ったプライベートゼクトで、その後も継続して生産しているもの。現在入手可能なのは2009年産で、シュペートブルグンダー50%、ヴァイスブルグンダー30%、リースリング20%のブレンドのロゼ。ベースワインはラインガウ地方産。研究熱心な貝瀬さんが、少量ずつデゴルジュマン(澱抜き)し、熟成過程を定期的に確認している「観察用」ゼクトでもある。酵母とともに6年以上寝かされ、ナッツのような香ばしさとふくよかさを獲得した。 味わい深く余韻の長い底力のあるゼクト。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
● ドイツゼクト物語
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