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ぶどうという植物 3 クローン選別

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ワイン用ぶどうにおけるクローン選別とは、現存する株から望ましい性質を持つ単一の株を選び出す作業で、この手法自体はローマ時代から実践されていたといわれます。同様の選別はリンゴや梨、サクランボなどの果樹においても行われています。このクローン選別とは、具体的にどのような作業なのでしょう? リースリング300 Gm(Gmはガイゼンハイム研究所の略) グループを例に、選別方法を追ってみましょう。

リースリング300 Gmグループには、303 Gm、305 Gmなどのクローンが登録されています。これらのクローンは、1990年代半ばからジーベルディンゲンのユリウス・キューン研究所とガイゼンハイム大学ぶどう育種研究所が共同で実施している「遺伝資源保存プロジェクト」の一環として探し始められたもので、対象はリースリングのほか、ブルグンダー系品種、シャルドネなどです。古いぶどう畑の、優秀な性質を有する古木の遺伝子を後世に残すことがその目的です。

リースリングで選別の対象となったのは、モーゼル地方ロンギッヒの畑に1896年に植えられたぶどうや、ラインヘッセン地方の複数の畑のぶどうなどで、後世に残すに値するぶどうの木を探し求めて、選別作業が進められました。古木が植え替えられてしまう前に最良の株を選別し、大事な「遺産」を守るのです。

畑によって、クローンの対象となるぶどうの木が複数株得られることもあれば、1株も得られない場合もあるそうです。選別作業では、まず候補となるぶどうを選び出し、個々のぶどうの木について、何年にもわたり克明な観察記録をつけ、対象を絞りこみます。その際のチェック事項は、樹木自体の病害への耐性や丈夫さをはじめ、1本の木に実る房の数、房の大きさ、粒の大きさ、粒と粒の間隔、糖度、酸度、香りや味わいなど多岐にわたります。クローンの有力候補が絞られてくると、それぞれ株を増やして育て、マイクロヴィニフィケーションといって、少量ずつワインを醸造し、その質や風味を確認します。

このように選別過程には段階があり、1つのクローンを選別するには約20年かかります。「遺伝資源保存プロジェクト」では最終的に、各地のリースリングの古木から14種類のクローンが選別・登録されました。

クローン選別と対照的なのがマッサル選別です。クローン選別では最終的に1株のぶどうを選別しますが、マッサル選別では複数株を選びます。それは、ある古い「畑」の個性を新しい畑に引き渡す方法といえるでしょう。通常、数年後に植樹するための準備として行われる選別法だそうで、選別に費やす期間は1~2年とごく短期間です。何本の株を選ぶかは、植樹する畑の規模によって異なります。リュール教授の話によると、例えば1ヘクタールの畑に約8000本植樹する場合、マッサル選別された株の一つから直ちに得られる芽数は約50程度ですので、古い畑から少なくとも160本の株を選別することになります。

マッサル選別した複数のぶどうを新しく畑に植える場合は、クローン選別されたぶどうを植える場合と違い、畑の個々のぶどうの遺伝子のタイプが一様ではなくなり、手入れや収穫に困難が生じますが、その畑に特有の多様性は継承されます。また、同じ畑で複数のクローンを栽培する場合は、作業の効率化のため、列ごとや区画ごとにまとめて植樹されます。

 
Weingut Van Volxem
ファン・フォルクセン醸造所(モーゼル地方ザール地域)

貝瀬
ローマン・ニヴォニツァンスキー氏

元はイエズス会修道院の醸造所だったが、19世紀以降はビール醸造所を経営するファン・フォルクセン家が所有。1990年代の一時期は他社の経営だったが、2000年にビール会社ビットブルガー社の創業者のひ孫、ローマン・ニヴォニツァンスキー氏が醸造所を継ぎ、ファン・フォルクセンの名を復活させた。ヴィルティンゲン村のゴッテスフース、シャルツホーフベルクなどの特級畑を所有。栽培面積は約64 ヘクタール。栽培品種はリースリングが96%を占める。ニヴォニツァンスキー氏は1世紀以上前、ドイツのリースリングが世界各地のメトロポールで最高級ワインとして供されていた時代の記憶を呼び覚まし、妥協を許さない高品質のワインを生産することで、ドイツのリースリングのステータス回復に力を入れる。VDP(ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会)会員。

Weingut Van Volxem
Dehenstraße 2
54459 Wiltingen/Saar
Tel. 06501-16510
www.vanvolxem.com


ヴォルケンタンツ リースリング2014 Volz Riesling VDP Grosse Lage
2014 フォルツ リースリング28€

ヴィルティンゲン村のブラウンフェルスの一区画フォルツはファン・フォルクセン醸造所のモノポール(単独所有畑)。シャルツホーフベルクに隣接し、1971年までは単一畑で、1868年のプロイセン王国の格付では最高ランクの畑。デボン紀の灰色粘板岩土壌は火山岩である流紋岩の割合が高い。急斜面で栽培されているリースリングの樹齢は60年、その一部は自根(接ぎ木ではないぶどう)だ。ワインはステンレスタンク内で自然発酵後、木の大樽で熟成。品格あるハーバルな風味。限りなくエレガントなリースリング。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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