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ぶどうという植物 1 接ぎ木

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2月中旬にガイゼンハイム大学ぶどう育種研究所の所長であるエルンスト=ハインリヒ・リュール教授を訪ね、ワイン用ぶどうの栽培についていろいろ教えていただきました。これからしばらく、ぶどう畑を様々な角度からクローズアップしたいと思います。

ぶどう畑を眺めるとき、いつも不思議な感覚に襲われます。それは人の手によって合理的に作られていますが、その風景にはそれが自然であるかのような美しさがあります。つる性の落葉低木であり、人間の背丈よりも大きな樹木になるはずのぶどうは、毎冬の剪定(せんてい)により低く育てられます。丹精込めて手入れされるぶどうの樹のコンパクトな姿は盆栽に似て、1本1本が個性豊かな芸術作品のようです。

この「盆栽」の幹を注意深く見ると「瘤(こぶ)」があることが分かります。幹が一カ所ぷっくり膨れているのです。台木であるアメリカ品種のぶどうと、接ぎ木されたヨーロッパ品種のぶどうの枝である穂木はここでつながっています。植えられて日が浅い若木を見ると、継ぎ目の部分とその下の部分がワックスで守られているのが分かります。ぶどうの大敵である害虫フィロキセラが欧州に来襲して150年たちますが、現在もあちこちのぶどう畑に生息しているため、耐性のあるアメリカ品種の台木がぶどうを防護しているのです。

欧州で使われている台木は30品種近くあり、各品種には選別されたクローンがいくつかあります。台木品種はいずれも19世紀後半から20世紀前半にかけて、北米各地で採取された性質の異なる複数のアメリカ品種をかけあわせ、改良されたものです。台木はフィロキセラ耐性を第一に交配されてきましたが、乾燥に強いもの、根が伸びやすいもの、石灰質土壌を好むものなど様々な特性があるため、醸造家は穂木だけでなく、台木と土壌との相性も考慮します。

接ぎ木の手法は、地中海地域ではすでに古代において知られていたそうです。欧州では中世になってから盛んに行われるようになり、りんごや梨などを接ぎ木で増やすようになりました。ぶどうも当初、畑で接ぎ木が行われていましたが、気温が低いため失敗するケースが多く、19世紀末になると、短くカットした穂木と台木を接ぎ木し、暖かい場所で育て、根が出てから戸外に植えるようになりました。

苗木業者が栽培で増やした穂木や台木は、束ねて接ぎ木業者に届けられます。穂木は芽一つ分の短い枝に、台木は芽を取り除いて必要な長さにそれぞれカットし、接ぎ木します。その後28度くらいの温室で4~5週間育て、さらに戸外で1年育ててから出荷します。

現在、ガイゼンハイム研究所に登録のある台木クローンの50%がイタリア、25%がフランスで増やされています。ドイツの醸造家が購入する苗木は、イタリアで増やした台木とドイツで増やしたリースリングの穂木を、イタリアで接ぎ木したものであったりします。

ところで先日、バッフスの古木にシュペートブルグンダーを接ぎ木したという醸造家に会いました。現状での成功率はさほど高くないそうですが、乾燥した暖かい日が40日ほど続くようであれば、戸外での接ぎ木は十分可能になるとのことです。畑のぶどうの幹を生かし、穂木を接ぎ木することで栽培品種を交替させる方法は世界各地で実践されていますが、寒冷なドイツではまだ実験段階です。

 
Kirsten Wein.Sekt.Gut.
キルステン醸造所(モーゼル地方)

インゲ夫妻
ベルンハルト&インゲ夫妻

モーゼル地方クリュセラート村の家族経営の醸造所。1992年に両親の醸造所を継いだベルンハルト・キルステンは同醸造所の3代目、ワイン醸造技士の資格を持つ。15ヘクタールの所有畑はクリュセラートを含めモーゼル川沿いの5つの村に分散している。先代はリースリング中心だったが、ベルンハルトはほかにヴァイスブルグンダー、シュペートブルグンダー、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、グラウブルグンダーも栽培。伝統製法のゼクトの生産にも力を入れており、自社ブランドだけでなく、ほかの醸造所のゼクト醸造も請け負う。ベルンハルトはカリフォルニアでワイン造りに携わったときにバリック(小型オーク樽)の良さを知り、ヴァイスブルグンダーの一部をバリックで仕込んでいる。

Kirsten Wein.Sekt.Gut.
Krainstraße 5
54340 Klüsserath
Tel.06507 99115
www.weingut-kirsten.de


ヴォルケンタンツ リースリング2014 Wolkentanz Riesling
ヴォルケンタンツ リースリング 8.50€

ベルンハルトは醸造所を継いだときから、極端な収量制限を行い、その結果ワインは深みとテロワールの個性を獲得した。「ヴォルケンタンツ(雲のダンス)」は醸造所の名刺とでも言うべきワイン。クリュセラート村の畑のリースリングだけを使用した、いわゆる村名ワインだ。雲のように軽やかな浮遊感を追求したワインは、低酸度、低アルコールで清水のような清らかな味わい。ほのかなハーブの風味が彩りを添える。バランスの良い辛口で、あらゆるシチュエーションにぴったりのリースリング。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
● ドイツゼクト物語
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