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ぶどうという植物 6 剪定(せんてい)と無剪定

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ぶどうの木はいつから剪定されるようになったのでしょう? これについては、古くから語り継がれている伝説があります。遠い昔、パレスチナ地方のどこかで、ロバが何本かのぶどうの木の枝を食べ尽くしてしまいました。しかし翌年、その木からは、力強い新梢が伸び、より良いぶどうが実ったというのです。以来、人は剪定という技術を手にしたと言われます。

1月から3月にかけて行われる剪定の仕事は、ワイン造りにおいて非常に重要な意味を持っています。このとき、造り手はぶどうの健康状態を確認し、最終的に残す枝と芽の数を決め、収穫量をコントロールするのです。剪定には熟練と瞬時の適切な判断が必要で、手間がかかります。高品質のワインを造るため、盆栽のように切り詰められた1本のぶどうの木から、ほんの数房だけを収穫する造り手もいます。一方で、剪定という作業はぶどうの木を傷つけることでもあります。近年、南欧で被害が多く報告されている、ぶどうの木を枯らしてしまうエスカ(esca)の病原菌は、剪定の傷あとからも侵入するそうです。

剪定の対極には無剪定という選択肢もあります。「ミニマルシュニット」と呼ばれ、1930年代にすでに米国で研究されていた方法は、1970年代前半に労働力が不足していたオーストラリアで実践され、現在も広域で行われています。人件費を大幅に削減できるため、主に安価なワインの生産方法として導入されています。

ミニマルシュニットは通常行われる冬場の剪定を一切やめ、機械で必要最小限の刈り込みを行い、成長するに任せます。最初の数年間は実るぶどうの房が極端に増えるそうですが、年数とともに減少し、バランスがとれてきます。たくさんのぶどうの房が実るので、通常は機械で収穫します。

ミニマルシュニットには、ほかにも様々な利点があります。温暖化傾向にあるといわれるドイツでは、以前に比べてぶどうが早く熟し、腐敗しやすくなっていますが、ミニマルシュニットを導入している醸造所の報告によると、樹勢が抑制され、ぶどうがゆっくりと熟すようになるほか、房や粒が小さくなり、バラ房と言って粒と粒の間に空間ができて房の風通しが良くなり、カビ菌が繁殖しにくくなるそうです。剪定をしないので、エスカのリスクも低くなります。欠点は、毎年の収穫の品質や量にばらつきがあること、品種によって向き不向きがあることですが、将来性のある栽培法の一つです。

このほか、近年「優しい剪定」と呼ばれる剪定方法が少しずつ広まっています。イタリア、フリウリ地方の農業家、マルコ・シモニ氏とピエルパオロ・シルヒ氏が、古来の剪定法を再発見し、今日のワイン造りに適用しているメソッドで、一言で言えば、ぶどうの木の立場に立って行う剪定方法です。ぶどうの木は、毎年の剪定の傷口が深いと樹液の通り道が阻まれ、常に新たな通り道を確保しなければならなくなります。シモニ&シルヒ・メソッドでは、ぶどうの木の生育にダメージを与えない、理にかなった剪定を行い、樹液の通り道となっている枝を活かして育てます。現在イタリア、フランスを中心に世界各地の約130のワイナリーが、このメソッドで剪定を行っています。ドイツではプファルツのビュルクリン・ヴォルフとオーディンスタール、ラインガウのキュンストラー、フランケンのユリウスシュピタールの4醸造所が、この手法を取り入れています。

 
Weingut Wagner-Stempel
ワーグナー=シュテンペル醸造所(ラインヘッセン地方)

ダニエル・ワーグナー
ダニエル・ワーグナー氏

創業1845年の家族経営の醸造所。所在地ジーファースハイムは、ラインヘッセン地方の西端でナーエ地方に近い。急斜面の山々が連なる地域は「ラインヘッセン・スイス」とも呼ばれ、より冷涼で、同地ではまれな火山性土壌のぶどう畑がある。所有畑は20 ヘクタール。90年代初頭からは9代目のダニエル・ワーグナーが醸造所を率いる。リースリングに最も力を入れているが、ジルヴァーナー、ショイレーベ、ブルグンダー品種、ソーヴィニヨン・ブランからも魅惑的なワインを生産している。同地の気候に適応している赤品種、ザンクト・ラウレント、メルロ、フリューブルグンダーをブレンドした、エレガントなキュヴェ「シュタインケーニヒ」にも注目。EUのビオ基準で生産。VDP会員。

Weingut Wagner-Stempel
Wöllsteiner Str. 10
55599 Siefersheim
Tel.: 06703 - 960330
www.wagner-stempel.dee


グーツワイン2015 Gutswein Riesling
2015 グーツワイン、リースリング 辛口 8.90€

ジーファースハイムの南側のヘルベルクと北側のヘアクレッツの二つの特級畑から生まれる、それぞれに味わい深いリースリングは、ラインヘッセンでひときわ輝きを放つ。ご紹介するリースリングのぶどうは、この二つの特級畑のうちの若い畑のもの。いずれも火山性土壌で、基底には斑岩(はんがん)とその風化岩石が横たわっている。ラインヘッセン・スイス特有のテロワールを反映したリースリングには、隣のナーエ地方のニュアンスも感じられる。繊細で引き締まった味わい。果実味とソルティーな風味が絶妙にマッチ。醸造はステンレスタンクとオークの大樽を併用。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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