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UMAMIの世界 1 ー ドイツでも意識され始めたUMAMI

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今回から5回にわたり、ワインの話題から少し脱線して、皆さんをUMAMIの世界へとご案内しましょう。

人間の五感の1つである味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、そしてうま味の5つの基本味があります。うま味はドイツ語で「Würzigkeit」と訳されることもありますが、通常は日本語の用語そのままに「Umami」といわれ、ドイツでも話題に上るようになりました。

うま味は、アミノ酸の1種で海藻類、チーズ、トマト、大豆などに多く含まれるグルタミン酸、核酸関連物質で主に魚介類や肉類に含まれるイノシン酸、干し椎茸に多く含まれるグアニル酸などで構成されています。自然のうま味は非常にデリケートな味わいで、ほかの味わいを支え、完成させるような役割を果たしています。また、うま味を持つ食材同士を組み合わせると、うま味がより強く感じられます。

1907年にうま味を発見したのは、戦前の日本の化学者、池田菊苗氏でした。池田氏は、アスパラガスやトマト、チーズなどに共通の味わいの要素があり、それが従来の4つの味覚では表現できないことに気付いていました。池田氏は、日本で1000年にわたって使用されている乾燥昆布から取る「だし」の味わいの要素を解明する際に、その味わいのもとになる物質がグルタミン酸であることを突き止め、それをうま味と名付けました。

また池田氏は、グルタミン酸ナトリウム(Monosodium glutamate、MSG)を主成分とする調味料の製造法を開発し、特許を取得しました。池田氏が発見した、強いうま味を持つこの物質は、1909年に「味の素」という名称で商品化されました。それは日本の食品産業における革命的な出来事でした。

当初は植物性たんぱく質を加水分解して生産されましたが、やがて製法が変わり、現在、化学調味料として添加する際は、日本ではアミノ酸、EU圏ではE番号(E620)で表示されます。 ちなみに、1913年には小玉新太郎氏がかつお節からイノシン酸を、1957年には国中明氏が椎茸からグアニル酸を発見しており、これらもうま味成分であることが確認されました。

西欧でも、ブイヨンやコンソメなどの「だし」が古くから使われていました。イタリア、ロンバルディア州からスイスに移住し、製粉業を営んでいたマギー家の後継者ユリウス・マギー氏は、自社の生き残りを賭け、1882年から濃縮スープの製品化に取り組み、スープの味わいを濃厚にするマギー・ソースを開発しました。同社は世界各地に支店網を広げ、1907年にはマギー・キューブ(コンソメのキューブ)を製品化します。これも植物性たんぱく質を加水分解して得たスープのもとで、肉や野菜を煮込んでスープを取らなくても、手軽に味わい深いスープができるため、西欧で大人気を博しました。ただ当時は、マギー・キューブの味わいのもとがグルタミン酸であるとは知られていませんでした。面白いのは、日本と西洋でほぼ同時期に、うま味のもとが商品化されたということです。

うま味は日本語の固有名詞であるため、日本特有のものと思われがちですが、昆布やかつお節で取るだしも、 肉や野菜などで取るスープも、ともにグルタミン酸などのうま味成分で成り立っています。うま味を持つ食材は世界各地にあり、様々な形で活用されているのです。

 
Weingut J.Bettenheimer
J.ベッテンハイマー醸造所(ラインヘッセン地方)

イエンス・ベッテンハイマーさん
イエンス・ベッテンハイマーさん

ワイン造り550年の伝統を誇る家族経営の醸造所。2011年からはイエンス・ベッテンハイマーが醸造所を継ぎ、品質に磨きをかけている。イエンスは兵役の代替役務として身体障害者の在宅ケアに従事したが、その時に担当した重度の身体障害者が大のワイン好きで、醸造所の息子である彼を質問攻めにしたという。この出会いから、イエンスは実家を継ぐことを決意。ガイゼンハイム大学卒業後、ニュージーランドのフロム・ワイナリーでも実習を積んだ。イエンスは、父親からぶどう畑とぶどうの特性について多くを学んだと言う。醸造所を継いでからは、セラーへの設備投資を行いつつ、バリック貯蔵のワインや自然発酵にも挑戦している。

Weingut Joachim Bettenheimer
Stiegelgasse 32
55218 Ingelheim am Rhein
Tel.: 06132-3041
www.bettenheimer.de


2014年 エーゼルスプファド ジルヴァーナー 辛口2014 Eselspfad Sylvaner trocken 13.90€
2014年 エーゼルスプファド ジルヴァーナー 辛口

インゲルハイムは赤ワインの村として知られる。イエンスの醸造所でも2001年までは生産量の7割が赤品種だったが、現在は白品種が7割を占めるという。ラインヘッセン地方はフランケン地方とならび、古くからジルヴァーナー種が多く栽培されている地域。アッペンハイムのエーゼルスプファドのジルヴァーナーは樹齢50年。石灰岩と第三紀層の砂土壌。2014年産はスキンコンタクトを9日間行い、ワインの持つ特性を十分に抽出。ほのかなナッツとジュニパーベリーの香りに、フレッシュハーブとグレープフルーツのジューシーで奥深い味わい。まろやかで長い余韻が魅力的。

 


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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