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UMAMIの世界 5 ー UMAMIとワイン

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日本の学者によるうま味の発見は1908年のことでしたが、国際的にうま味の概念が認識されたのは、1985年にハワイで行われた第1回うま味国際シンポジウムにおいてでした。また、うま味の歴史において重要な出来事は、2002年にうま味成分の一つであるグルタミン酸に反応する受容体(舌の味蕾にある感覚細胞)が、米国人の学者たちにより発見されたことでした。うま味は言葉で表現しにくい味わいですが、それが確かに存在し、感知できることが分かったのです。

食品に含まれるグルタミン酸は、植物性・動物性食品や、たんぱく質の豊富な食品の細胞膜から得られ、加熱、発酵などのプロセスを経て抽出されますが、ワインにおいてもこのうま味は抽出されるようです。長期間酵母と接触させるシュール・リー製法のワイン、バリック(小型オーク樽)を使用したワインなどに、ほのかなうま味の痕跡を感じることがあります。

ワインの味わいを表現する際、これまでは5つの味覚要素のうち、甘味、酸味、苦味の3つが主に使われていましたが、近年、ワインの「ミネラリティー」(鉱物を連想させる風味)が話題になると共に、塩味という表現が盛んに使われるようになりました。そして今、うま味という表現も使われ始めています。

ガイゼンハイム大学のライナー・ユング教授によると、「グルタミン酸ナトリウムはワインの成分にはないものだが、例えばシェリーのように、フロール(産膜酵母)と接触して醸されるワインには、その産膜酵母に化学分解する細胞があり、アミノ酸が放出されるため、通常のワインにはない、うま味のような風味が感じられることがある」とのこと。

ただ、ドイツではうま味らしき風味から、ラベージ(Liebstöckel)(別名マギークラウト。化学調味料マギーに似た香りがすることから命名された)を連想するケースが多く、その風味はあまりポジティブには評価されません。従来ワインに求められているのは、フルーティーな風味、ミネラリッシュ(鉱物的)な風味、バリックによる樽香などであり、うま味のような風味ではないという根本的な問題もあります。

シェリー以外で、うま味が微かに感じられるのが、シャンパンや伝統製法のゼクトです。ユング教授によると「伝統製法のゼクトは長期間酵母と接触しているが、酵母の自己分解(自己消化)が起こると、アミノ酸が放出され、それがうま味のような香りを放つことがある。ろ過されていない、瓶内に酵母が少し残った状態で熟成したワインにも、うま味らしき風味が感じられる」のだそうです。

日本人は、うま味といえば、昆布やかつお節、醤油などを即座にイメージし、すぐにどのような風味かを想像できますが、うま味がドイツ語で「Wohlgeschmack(美味)」と訳されるため、ドイツ人にとっては、一体どんな味なのかをイメージすることがまだ難しいようです。

ワインの中にうま味を見つけることはまれですが、ワインと食事のコンビネーションにおいて、うま味は考慮されるべき要素です。西洋のうま味だけでなく、日本のうま味の代表格である、だし、醤油、みそなどによく合うワインもあるからです。伝統製法のゼクトは、そのような繊細な味わいの料理との相性が良いように思います。

 
Weingut Bergdolt
ベルクドルト醸造所(プファルツ地方)

カロリン、ギュンター、ライナー
左からカロリン、叔父ギュンター、父ライナー

中世の古文書にも登場する、元修道院の醸造所(Klostergut St. Lamprecht)。1553年に選帝侯フリ-ドリヒ2世の所有となった後、ハイデルベルク大学に遺贈された。1754年にヤーコプ・ベルクドルト氏が醸造所を継いでからは、260年にわたって同家が経営。今日、醸造所を運営するのは、8代目のライナー&ギュンター・ベルクドルト兄弟、9代目に当たるライナーの娘カロリンの3人。ビオ基準のワインはライナー&カロリン父娘のチームワークで造られている。

主要品種は白のヴァイスブルグンダーとリースリング、赤のシュペートブルグンダーだが、ボルドー品種も栽培。1986年からは伝統製法のゼクトも生産し、現在では醸造所の主要なコレクションとなっている。

Weingut Bergdolt - Klostergut St. Lamprecht Dudostr.17
67435 Neustadt an der Weinstraße
Tel. 06327-5027
www.weingut-bergdolt.de

カロリンのパートナー、マグヌス・メヴェスのサイト
www.magnusmewes.de


ライタープファド リースリング 2014 Reiterpfad Riesling GG
2014年 ライタープファド リースリング GG(辛口)26€

ベルクドルト家が所有するVDP基準の特級畑(グローセ・ラーゲ)では、各々の土壌にマッチした品種が慎重に選ばれ、キルヴァイラーにある畑、マンデルベルクではヴァイスブルグンダーが、ドゥットヴァイラーのカルクベルクではシュペートブルグンダーが、ルッペルツベルクのライタープファドではリースリングが栽培されている。ベルクドルト家がブルグンダー種の栽培を始めたのは1940年代。ご紹介する2014年産のリースリングは、凝縮感と軽快さのバランスが見事。みずみずしい桃の風味が立ち上る、繊細で凛としたワイン。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
● ドイツゼクト物語
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