ドイツワイン・ナビゲーター


ドイツワイン今後の楽しみ方はいかに?

1月下旬以降、欧州でも新型コロナウイルスが蔓延し、ドイツでは3月中旬に接触制限措置が発令されましたが、ようやく制約が緩和され始めています。この場をお借りして何よりもまず、医療や介護、食品、日用品などの生産と流通、生活の基盤を支えるさまざまな現場で働いておられる方々に感謝の気持ちを届けたいと思います。多くの人が思いがけずたくさんの時間を自宅で過ごすことになり、仕事や生活のスタイルを見直された方もおられたことでしょう。今回はドイツワインの世界での出来事をご報告します。

接触制限措置の発令後、生活必需品を除く全商店が一時的に閉店しましたが、ワイン専門店に関する規定はなく、州の判断に委ねられました。イベントや試飲販売は全て中止となりましたが、ほとんどの州で、衛生管理を徹底して営業が続けられていました。

消毒液不足に対しては、ワイン業界でも協同組合やガイゼンハイム大学などが臨時生産したり、 大手ワインメーカーが製造元にアルコールを寄付したというニュースを耳にしました。

欧州のワイナリーでは、今回のコロナ禍が人手を多く必要とする収穫期と重ならなかったのが何よりの幸いでした。3月以降は通常、新酒の試飲会をはじめとするイベントが目白押しですが、いずれも中止になりました。テイスティングコーナーでの試飲販売ができなくなったため、醸造所ではソーシャルメディアを活用するなどして、ワインのデリバリーに力を入れ、多くのワイナリーが宅配料金を一時的に無料にしていました。ワインをピックアップする顧客が車を降りなくても済むよう、ドライブスルー・スタイルで販売するようになった醸造所もあります。

ワイン関連のイベントが全て中止となったことを受けて、3月末にcheerswith.meというワイン業界支援のプロジェクトが立ち上がりました。主に造り手と消費者を繋ぐバーチャル・テイスティングで、参加者は試飲ワインを事前購入してテイスティングに臨みます。このライブ・テイスティングは好評を博し、cheerswith.meは5月末の段階で200回以上のテイスティングを達成しました。このほかにも数多くのオンライン試飲会やオンライン・セミナーが行われています。コロナ禍が一段落した後も、遠く離れた生産者と消費者を繋ぐバーチャル・テイスティングは存続するような気がします。

4月17日付の電子版シュピーゲルは、2月末から3月末にかけてのワインの売り上げが昨年の同時期と比較して34%増加したと報道しています。レストランやバーが閉鎖され、家庭での消費が増えているのでしょう。消費量が気になる方は、Wine in Moderation(www.wineinmoderation.eu)のサイトをご参考に、1日の適量(女性200ml、男性300ml程度)を守り、週に2日はアルコールを摂らない日を設けて、造り手の情熱がこもったワインを楽しんでいただけたらと思います。そのようなワインは開栓後も数日間、おいしくいただけるはずです。

さて、2007年から連載を続けてきた「ドイツワイン・ナビゲーター」は今回が最終回です。ドイツワインに関する書籍はまだ少ないため、今後もサイト内のバックナンバーを活用いただければうれしく思います。末筆ながら、読者の方々に心よりお礼申し上げます。

 
Weingut Jürgen Leiner
ユルゲン・ライナー醸造所(プファルツ地方)

ライナー一家。左からスヴェン、ハネス、マリー、ジモーネ
ライナー一家。左からスヴェン、ハネス、マリー、ジモーネ

1974年にユルゲン・ライナーがプファルツ地方南部のイルベスハイムに創業した醸造所。現在は、ガイゼンハイム大学で醸造学を修めた2代目のスヴェン・ライナーが率いる。2005年にビオに移行、2011年にビオディナミ農法の生産者団体であるデメターの認証を得た。畑では健全な土壌を保つことに力を入れ、自然の声を聞き、自然と協調したワイン造りを実践している。ブドウの栽培と、ビオディナミ農法に欠かせない薬草などを素材とするプレパラート(調合剤)作りなどには親子で取り組んでいる。栽培ブドウはリースリングとブルグンダー系の品種が中心だ。セラーにおいてはブドウの持てる力を生かし、畑やヴィンテージの個性をそのまま映し出す、可能な限りナチュラルなワイン造りを実践している。

Weingut Jürgen Leiner
Arzheimer Straße 14,
76831 Ilbesheim/Pfalz
Tel 06341-30621
https://weingut-leiner.de


2017 Ilbesheim Gewürztraminer trocken -unfiltriert- 2017 Ilbesheim Gewürztraminer trocken -unfiltriert-
2017年 イルベスハイム ゲヴュルツトラミーナ 辛口 -ノンフィルター-
15€

古代のアンフォラワインにヒントを得て、2015年からリリースしているゲヴュルツトラミーナ。樹齢は30年。トノー(500リットルの木樽)の上部の穴を片手が入る程度に広げて発酵容器とした。完璧なブドウだけを使用し、3割を手で除梗。1年間マイシェの状態で発酵、熟成させ、ろ過をせずにボトリング。ゲヴュルツトラミーナは香りが強く、食事に合わせにくいが、このワインは程よくオキシダティヴに仕上がっており、香りや酸味が一人歩きしていないので、食中酒にもぴったりだ。

最終更新 Mittwoch, 10 Juni 2020 10:37
 

「旬」のドイツワインに出会うために

ドイツに多い家族経営の醸造所では、およそ四半世紀に一度、世代交代があり、そのたびに大きな、あるいは小さな変革が起きています。親世代と考えを異にする次世代が、新しいことに挑戦するからです。

例えば、それまでリースリング一辺倒だった醸造所が、次世代に引き継がれてから、ブルゴーニュスタイルのシュペートブルグンダーやシャルドネを新たに生産するようになったり、シャンパーニュスタイルのゼクトに取り組み始めたりする、といったことが起こっています。毎年、新しい醸造所も誕生しており、ワインの世界は日々、変化を遂げているのです。

一つの醸造所の変革が、やがて共感する仲間を増やし、新しい潮流となることがあります。ドイツでは1980年代に、いくつかの醸造所がフレンチオークの小樽「バリック」を導入し始めました。今日ではバリックで熟成させたフレンチスタイルのワインが、当たり前のように造られていますが、ドイツで初めて樽香のあるワインが生まれた時は、公認検査機関でオフフレーバー扱いされたこともあったのです。1990年代に入ると、バリックを導入した醸造所が、ドイチェス・バリック・フォーラムなどのグループを結成し、互いに協力しあって品質の向上に努め、バリック熟成のワインの評価は徐々に高まっていきました。

1990年代には、上記以外にも醸造家のグループが多く結成されるようになり、やがてそれが、今日まで続くムーブメントになっていきます。中でも、戦後、安価なワインの産地と見なされていた、プファルツ地方やラインヘッセン地方などで、志を同じくする若手の醸造家たちが結集し、情報交換をして品質を高め、見本市などにグループ単位で出展するなどして知名度を上げていきました。その草分けが1991年に発足した、プファルツ地方のフュンフ・フロインデでした。最大のグループは、ドイツワインのマーケティング会社、ドイツワイン・インスティトゥートのイニシアチブにより2006年にスタートしたU35の「GenerationRiesling」で、メンバーは530醸造所です。個々のグループは、ワインの楽しさを飲み手に伝えるために、それぞれユニークな活動を行っています。筆者のサイトに現在活動中のグループのリストを網羅していますので、「旬」のドイツワインを見つけるための参考になさってください。

読者の皆さまの中には、ドイツ暮らしを終えて、日本に帰ってからも、ドイツワインを楽しみたいという方がきっとおられるでしょう。ドイツワイン・インスティトゥートの日本支部、Wines of Germany日本オフィスのサイトには、ドイツワインの基礎知識、イベント情報、インポーターリスト等がアップされています。

リストによると、ドイツワインを輸入している業者は50社以上。各々のインポーターのサイトに飛ぶと、各社がワインを卸している小売店やレストランの情報、一般向けに実施されているワイン会などの情報が得られる場合もあります。毎年のようにドイツに足を運んでいるバイヤーも多いので、日本でもきっと、「旬」のドイツワインを見つけていただけることでしょう。

● 筆者サイトのグループリスト
www.junkoiwamoto.com/detail_deutscheweine_04.php
● Wines of Germanyのインポーターリスト
www.winesofgermany.jp/other/importers

 
Weingut Bäder
ベーダー醸造所(ラインヘッセン地方)

Weingut Bäder
Weingut Bäder

共にガイゼンハイム大学でワイン造りを学んだ、イエンス&カチア・ベーダー夫妻が2009年に興した醸造所。2.5ヘクタールの畑でスタートし、現在10ヘクタールを所有。栽培品種はリースリング、ヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、フリューブルグンダー、シュペートブルグンダーの5種類のみ。リースリングは赤色の砂岩が支配的な急傾斜畑ラ・ロッシュ、フリューブルグンダーは黒っぽい火山岩、メラフィール主体のハイリゲンプファド、シュペートブルグンダーは石灰質のローテンフェルスと、各々の品種を最適の土壌に栽培している。醸造所と所有畑はラインヘッセン地方の北部に位置し、隣接するナーエ地方の土壌に似て多様性がある。ビオラント会員。

Weingut Bäder - Jens & Katja Bäder Unterwendelsheimer Str. 15, 55234 Wendelsheim
Tel. 06734-9140900
www.weingutbaeder.de


2015 Spätburgunder Rotenfels 2015 Spätburgunder Rotenfels
2015年産 シュペートブルグンダー・ローテン
フェルス(辛口)16.50€

ベーダー夫妻のワインはグーツワインとラーゲンワインの2段階というシンプルな構成。シュペートブルグンダーは、アルツァイの畑、ローテンフェルス(赤い岩)のラーゲンワインのみだ。畑にはかつて、赤っぽい砂岩の風化土壌の窪地があり、ローテンタール(赤い谷)と呼ばれていたという。夫妻の畑はシュペートブルグンダーにふさわしい石灰岩土壌。2015年は乾燥した年だったが、ローテンフェルスには十分降雨があった。バリックの新樽と古樽で熟成。上品な果実味。緻密で極めて軽やか。清純さ溢れるワイン。

最終更新 Mittwoch, 08 April 2020 11:02
 

ラインヘッセンからの新風!「MAXIME HERKUNFT」

ドイツ最大のワイン産地、ラインヘッセン地方は、これまで度々ドイツのワイン界に大きな潮流をもたらしてきました。

例えば、世界的に有名なワイン「リープフラウミルヒ」が誕生したのがラインヘッセンです。1786年にヴォルムスで創業したファルケンベルク社がリリースした「リープフラウミルヒ・マドンナ」は、ドイツで初めてブランド名が付けられたワインで、20世紀の始めに英国や北欧の王室で愛飲され、ボルドーワインと並ぶ、世界で最も高価なワインの1つでした。その後コピー商品が出回り、「リープフラウミルヒ」は安価な甘口ワインの代名詞となりましたが、 現在では、オリジナルの畑を所有するリープフラウエンシュティフト醸造所が、高品質で辛口スタイルのものを「リープフラウエンシュティフト・キルヒェンシュトゥック」の名称で復刻し、名誉を挽回しようとしています。

ラインヘッセンはビオワインが産声を上げた地域でもあります。メッテンハイムのザンダー醸造所は、1955年に化学農薬などの使用をいち早く止めたビオワインのパイオニアです。1983年にはドイツ初のビオワインの生産者団体も誕生しました。それが他地域にも伝播し、1985年に全国組織のエコロジカル・ワインぶどう栽培協会が発足します。この団体は、ビオワインに特化した生産者団体「エコヴィン」の前身で、現在、220もの醸造所が会員となっています。

近年では、2002年に結成され、昨年末に約20年にわたる活動に終止符を打った若手醸造家のグループ「Message in a Bottle」が注目を浴びました。ドイツでは1990年代から、若手醸造家の団体が各地でいくつも誕生し、グループ内でオープンに情報交換し、助け合いながら高品質のワイン造りに邁進しています。

「Message in a Bottle」は、古くから偉大なワインを生み出していたライン川沿いの地域「ラインフロント」ではなく、忘れられていた内陸部で生まれました。1980~90年代に、環境に配慮し、収量を抑えた高品質のワインで頭角を現したフレアスハイム=ダールスハイムのケラー醸造所、ヴェストホーフェンのヴィットマン醸造所などの、当時20代だった意欲的な次世代が立ち上げたネットワークだったのです。

約30名いた「Message in a Bottle」のメンバーは、恵まれたテロワール、ビオワインの伝統などの強みを生かし、重要品種であるリースリングとシュペートブルグンダーに力を入れるほか、誰でも気軽に参加できるイベントを行い、消費者とのつながりを大切にしてきました。彼らは現在、それぞれにドイツのワイン界をリードする造り手として活躍しています。

そして2017年、「MAXIME HERKUNFT(マキシーメ・ヘアクンフト)」という団体がラインヘッセンで産声を上げました。ドイツワイン界を牽引する全国組織、VDP(ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会)に倣い、ワイン造りの現状に即した3段階の地理的格付けを採用し、高品質のワイン造りに取り組む団体です。

「MAXIME HERKUNFT」には、VDP ラインヘッセンの全ワイン生産者、「Message in a Bottle」の全メンバー、ラインフロントの賛同者らが結集し、会員は95醸造所に達しています。今後、VDPに次ぐ影響力を持つことになるであろう生産者団体として、その動向は他地域からも注目されています。

 
Weingut Dreissigacker
ドライシッヒアッカー醸造所(ラインヘッセン地方)

オーナー醸造家のヨッヘン・ドライシッヒアッカーさん
オーナー醸造家のヨッヘン・ドライシッヒアッカーさん

1728年創業の家族経営の醸造所。ドライシッヒは30、アッカーは農地の意。所有畑は38ヘクタール。オーナー醸造家のヨッヘン・ドライシッヒアッカーは、ラインヘッセン地方の名門、ケラー醸造所などで修業、ヴァインズベルクの国立専門学校を終え、2006年に25歳の若さで実家の醸造所を継いだ。2017年に完成した新醸造所は、景観を守り、畑の斜面に這うように建つ。セラーでは重力を生かし、ポンプを排除するほか、電力を太陽光発電で賄い、念願だった複数のヴィンテージのワインを飲み頃まで熟成させるスペースも確保。ベヒトハイム、ガイアースベルクの研ぎ澄まされた味わいのリースリングは同地のリースリングの最高峰の1つだ。「MAXIME HERKUNFT」会員。

Weingut Dreissigacker Untere Klinggasse 4, 67595 Bechtheim
Tel. 06242-2425
www.dreissigacker-wein.de


2017 Bechtheimer Riesling trocken2017 Bechtheimer Riesling trocken
2017年 ベヒトハイマー・リースリング 辛口 18€

ベヒトハイムの複数の優れた畑のリースリングから造られた「オルツワイン」。スキンコンタクトを48時間行い、8割をステンレスタンクで、2割を1200リットル容量の木樽で醸造。自然発酵。2017年9月から2019年1月まで、1年4ヶ月の長期にわたり、酵母と接触させた後にボトリング。直線的で引き締まった味わいの辛口リースリングは、フルーティさとスパイシーさ、酸味のバランスが絶妙で、しかも軽やか。石灰岩、レス、粘土が混在するベヒトハイムの土壌の個性を感じることができる。ビオ認証取得。

最終更新 Freitag, 07 Februar 2020 17:05
 

「キュヴェ」に注目!

今年の始め、ハンブルクの日本人会館で開催しているワイン講座で紹介しようと思い、ドルンフェルダー種を単独醸造した赤ワインを探していたのですが、望み通りの商品を見つけるのにずいぶん苦労しました。インターネット上のワインショップで、ドルンフェルダーに絞って検索すると、出てくるのは他品種とブレンドされたものばかり。なかにはドルンフェルダーを全く扱っていないショップもあります。赤のポルトギーザー、白のミュラー・トゥルガウやケルナーを単独で醸造したワインも、見つかりにくくなっています。

20年くらい前には、一流醸造所やVDPのメンバー醸造所が魅力的なドルンフェルダーやポルトギーザー、ミュラー・トゥルガウやケルナーを生産していました。当時は、シュペートブルグンダーに劣らないハイレベルのドルンフェルダーやポルトギーザー、リースリングに引けを取らないミュラー・トゥルガウやケルナーが生産され、どれもが造り手の誇りだったのです。

最新の統計資料で赤ワインの栽培面積を見ると、ドルンフェルダーとポルトギーザーは、シュペートブルグンダーに次いで第2位、第3位を占めていますが、いずれも年々、少しずつ減少しています。白の栽培面積においても、リースリングに次いで第2位を占めるミュラー・トゥルガウ、第6位のケルナーは、ともに減少傾向にあります。

多くの醸造所では、これらの品種の栽培をやめる傾向にあり、ドイツ品種においては、赤はシュペートブルグンダー、白はリースリングやジルヴァーナーに専念するようになっています。増加傾向にあるのは、ブルゴーニュ、ローヌ、ボルドーで栽培されているフランス品種です。

ドルンフェルダーは、親しみやすい味わいで、香りも魅力的、色は濃厚、タンニンはソフトと、いいことずくめの赤品種です。ワイン講座で紹介すると、赤品種のなかで1番好評でした。しかし、伝統のない交配品種であること、イメージ的な弱さもあって、生産量は今後、さらに減っていくかもしれません。

現在、ドルンフェルダーは主にブレンドワインに使われています。ドイツではワインのブレンドのことを「キュヴェ(Cuvée)」と言います。キュヴェは、ボトルに内訳が明記されていないケースもありますが、醸造所やワインショップのサイトで情報が得られます。

ドルンフェルダーを使ったキュヴェの先駆には、ファルツ地方、クニプサー醸造所の「Gaudenz」(ドルンフェルダーとカベルネ・ソーヴィニヨンが主体)、アール地方、マイヤー=ネーケル醸造所の「Us de la Meng」(シュペートブルグンダー、フリューブルグンダー、ドルンフェルダーのブレンド)などがあります。ドイツのキュヴェは、型にはまっておらず、ドイツ品種とフランス品種が自在にブレンドされています。それは、気候変動で栽培品種が入れ替わろうとしている、現在のドイツでしか見つからないスタイルのワインです。消え行く品種と、増えつつある品種が、巧みにブレンドされているキュヴェは、造り手の手腕が発揮された、バランスの良い味わいのワインです。

そういえば、近年人気のオレンジワインにもキュヴェを多く見かけますし、ゲミッシュター・ザッツもリバイバルしています。今、ドイツは以前よりはるかに、キュヴェが面白い時代になっています。

 
Weingut Oliver Zeter
オリバー・ツェーター醸造所(ファルツ地方)

セラーにて。オリバー・ツェーター氏
セラーにて。オリバー・ツェーター氏

ノイシュタットの家族経営の醸造所。オーナーのオリバー・ツェーターは父、弟とともにワイン商を営んでいたが、ワイン栽培・醸造技術者の資格を取得し、イタリアと南アフリカでワイン造りに携わった後、自らの醸造所を立ち上げた。初ヴィンテージは2007年、40歳の時だった。とりわけ、樽仕込みのソーヴィニヨン・ブランの評価が高い。主に契約農家からブドウを買い取り醸造する、ネゴシアン・エレヴェール。フランス品種を得意とし、ファルツのテロワールを最大限に引き出しつつ、世界的視野に立つワインを生み出している。醸造所のシンボルである熊は、地元の画家オットー・ディルが、オリバーの曽祖父、ヴァルター=リヒャルト・ベア氏をモデルに描いたもの。

Oliver Zeter GbR
Eichkehle 25,
67433 Neustadt – Haardt
Tel. 06321–9700933
醸造所 /www.oliver-zeter.de
ワイン商 /www.zeter-wein.de


2017 Petz Rotwein trocken2017 Petz Rotwein trocken
2017年 ペッツ 赤ワイン 辛口 10€

「ペッツ」はオリバーの曽祖父の愛称。ハンバッハ、マイカマーほかの選りすぐりの畑のブドウを使用した、エレガントな赤のキュヴェ。2017年は、メルロ58%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、ザンクト・ラウレント12%、ドルンフェルダー10%のキュヴェ。樹齢20年のドルンフェルダーは、収量が少なく高品質のブドウが得られる。フレンチオークのバリックで熟成、新樽は不使用。品種別に10カ月仕込んだのちにブレンド。ろ過は行っていない。果実味が活きた、親しみやすい味わいの赤だ。

最終更新 Mittwoch, 11 Dezember 2019 18:44
 

ドイツワイン新潮流③ オレンジワインとナチュラルワイン

最近、「オレンジワイン」と呼ばれる、新しいスタイルのワインがよく知られるようになってきました(本コラム第88回(第1003号、2015年6月5日発行)参照)。オレンジワインの醸造法は伝統的な赤ワインの醸造法を踏襲しており、果皮と果汁を長時間接触させて発酵に導きます。ドイツ語で「マイシェゲールング(マイシェ発酵)」、英語で「スキンコンタクト」と言われる方法です。

フィッシャー教授の話によると、スキンコンタクト8時間と24時間という短時間の比較実験でも、24時間の方が、アロマがより多く抽出され、酸味がより柔らかになり、ポリフェノールがより多く含まれるワインとなるそうです。濃い黄色、あるいはオレンジ色に染まるのは、フェノール類のエキス分が多く取り込まれるからです。スキンコンタクトの期間は、造り手により、数日から9カ月くらいまでとさまざまです。

スキンコンタクトを行う場合、収穫するブドウは、健康で微生物の被害を受けていないもの、比較的糖度の高いもの(マイシェ発酵時に1%程度のアルコールが失われることを考慮するそうです)、フェノール分がよく熟しているもの、手摘みで選別されているものなどが適しているようです。品種はジルヴァーナー、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミーナ、ブルグンダー系品種などが向くようです。

フィッシャー教授は、オレンジワインは醸造スタイルが強調され、品種やテロワールの表現が二次的になるため、ピーヴィー品種と呼ばれるカビ菌耐性品種(本コラム第53回(第926号、2012年7月6日発行)参照)など、あまり知られていない品種を活用するチャンスになるだろうと語っておられます。ちなみに、オレンジワインは、必ずしもビオワインやナチュラルワインではありません。色はアンバー(琥珀)と呼ばれたりもします。

一方のナチュラルワインは、ワイン造りの「哲学」と言えるかもしれません。ナチュラルワインにおいては、ブドウ畑での仕事が重視され、何よりも土壌が健全でなければなりません。ビオ基準による栽培・醸造は必須であり、ビオディナミ(本コラム第70回(第967号、2013年12月6日発行)以降参照)を実践しているケースも増えています。醸造過程では、清澄剤を使用せず、ろ過もしないなど、できるだけ手を加えないミニマルな手法を取ります。ただ、手を加えないということを優先すれば、収穫したブドウの品質によっては、ワインが持つおいしさのポテンシャルを十分に表現できなくなる場合もあり、造り手の腕と判断力とセンスが問われるワインです。醸造における生物学的プロセスが落ち着くまで、長期間待たなければならないことも多く、忍耐力も問われます。

オレンジワインとナチュラルワインの造り手の多くは、ワインの酸化防止剤として認めらている、二酸化硫黄の添加を最低限にとどめたり、無添加に挑戦したりしています。フィッシャー教授によると、その前提条件としては、健康で完璧に熟したブドウであること、軸を取り去り、低圧で圧搾して得られた果汁であること、ポンプを使わず重力で発酵槽に入れた果汁であること、完全発酵した残糖のないワインであることなど、細部にわたって奨励されている作業や醸造法があります。自然酵母か培養酵母であるかは問われません。

オレンジワイン、ナチュラルワイン、そしてビオワインの境界はお互いに重なり合っています。今日のワイン造りは、ワイン文化の8000年にわたる伝統を内包しつつ、ダイナミックで多様性に富んでいるのです。

(「ドイツワイン新潮流」はウルリヒ・フィッシャー教授のセミナーで得た新情報をもとに、3回にわたってお届けしました)

 
Weingut Weinreich
ヴァインライヒ醸造所(ラインヘッセン地方)

ヤン(右)とマーク・ヴァインライヒ兄弟
ヤン(右)とマーク・ヴァインライヒ兄弟

ベヒトハイムの家族経営の醸造所。2009年からはヤン&マーク・ヴァインライヒ兄弟が運営。ガイアースベルク、ハーゼンシュプルング、ローゼンガルテンなどの優れた畑を所有。所有畑は 20ヘクタールに及ぶ。リースリングが30%を占め、白はヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、シャルドネ、ジルヴァーナーなどを、赤はシュペートブルグンダー、ドルンフェルダーなどを栽培。ワインの多くは自然発酵。セラーでは小ぶりのタンクを活用し、個々の畑の特徴を生かした醸造を行う。2016年からは「Natürlich Weinreich」の名称で、フランスをはじめとするヴァン・ナチュールのパイオニアたちからインスピレーションを得たナチュラルワインも展開している。

Riederbachstr. 7,
67595 Bechtheim
Tel. 06242-7675
weinreich-wein.de


2018年産タヒェレス2018 Tacheles
2018年産タヒェレス
12.00€

リアリストである兄のヤンとクリエイティブな弟のマークが、絶妙のチームワークで生み出すナチュラルワイン。 2018年産はバッフス、ケルナー、リースリングのブレンド。健康なブドウのみを収穫、除梗し、約6週間マイシェ発酵。バリックとトノーで熟成。ろ過をせず、二酸化硫黄も無添加。フローラルな香り、グレープフルーツとドライフルーツの風味、緑茶のような繊細なタンニン。低アルコール(10.5%vol.)の均衡の取れた辛口ワイン。タヒェレスはイディッシュ語でオープンマインドを意味する。

最終更新 Mittwoch, 09 Oktober 2019 12:01
 

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