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今見るべき、ドイツのテレビドラマ12選

社会や歴史も深掘りできる!今見るべき、ドイツのテレビドラマ12選

テレビドラマは時代を映し出す鏡だといわれる。ドイツのテレビドラマは、人々の生活や文化をリアルに描くだけでなく、歴史や現代社会が抱える問題にも、時にユーモアをもって切り込んでいくのが特徴だ。そんな数々のドラマから、選りすぐりの12作品をご紹介。テレビドラマを通して、ドイツ社会や歴史についての新たな発見があるかも?(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

※情報は2021年11月現在のものです。

ドイツのテレビドラマ12選

犯罪ドラマ

ドイツの定番ドラマといえば、犯罪ドラマは欠かせない。いわゆる「刑事が犯人を逮捕する」という王道の流れだけでなく、社会に対する鋭い眼差しと説得力のあるストーリー展開が人気の秘訣だ。ここではドイツを代表する犯罪ドラマ2作と、ドイツジョークの効いた作品をピックアップ

ドイツが誇る犯罪ドラマの金字塔Tatort

公開年:1970年〜
各話:約90分
言語:ドイツ語
最新話は毎週日曜日20:15~放送
ARD Mediathekでも視聴可

1970年に西ドイツで制作されてから50年以上続く、刑事ドラマシリーズ。ベルリンやハンブルクをはじめ、ミュンヘン、ケルンなどを舞台に、それぞれの都市ごとに捜査チームが組まれ、毎週異なる刑事チームが事件を解決に導く。扱われるテーマは今日のドイツ社会を反映したものが多く、環境問題や難民、外国人労働者、ネオナチ、貧困などさまざま。オープニングに流れるレトロなタイトルデザインと緊迫したジャズのメロディーは、1970年当初からほぼ変わっていない。

作品をもっと知る

Tatortの魅力は何と言っても、各都市ごとに組まれる個性的な刑事チームの面々。優等生タイプはどちらかといえば少数派で、感情的になって失敗したり、プライベートで問題を抱えていたりと、人間味溢れる刑事たちがドラマの魅力を引き立てる。例えばミュンスターのTatortは、皮肉っぽい法医学者のティールと、それに振り回されるサッカー好きの刑事ボーアの絶妙なコンビネーションで人気が高い。さらにドラマに映し出される各都市の街並みや、登場人物たちが話す方言も見どころだ。

DDR時代に生まれた犯罪ドラマPolizeiruf 110

公開年:1971年〜
各話:約90分
言語:ドイツ語
ARD Mediathek、AppleTVで視聴可

Tatortが放送された1年後の1971年に、ドイツ民主共和国(DDR)で製作された犯罪ドラマ。Tatortとは対照的に、このドラマでは日常の小さな犯罪を扱い、犯人の心理を理解できるような構成になっているのが特徴だ。ベルリンの壁崩後に放送が中止されたが、東西双方で人気が高かったため、1993年に復活。最近の「Bis Mitternacht」(2021年)というエピソードでは、物語の中心となる性犯罪者と殺人事件の容疑者の動機が詳細に分析されており、内容も奥深い。

作品をもっと知る

DDR時代の社会主義体制下では、そもそも犯罪が起きないことが前提。内務省が脚本をチェックし、撮影にも立ち会っていた。そのため、加害者が犯罪を犯した理由を詳細に説明する必要があった。この物語構造こそが、後にPolizeiruf 110の強みに発展していったのだ。Tatortとの違いは、捜査員の固定チームがないことと、舞台となる地名がほとんど出てこないこと。またPolizeiruf 110では、1971年の最初のエピソードで女性捜査官が活躍するが、Tatortで女性捜査官が初登場したのは1978年。

殺人現場の清掃人による異色コメディーDer Tatortreiniger

公開年:2011〜2018年
各話:約25分
言語:ドイツ語
Netflixで視聴可

主人公のショッティは、ハンブルク周辺で清掃員として働いている。といってもただの清掃員ではなく、凶悪犯罪の現場で警察が捜査を終えてから、遺体を片付けたり血痕を掃除したりするのが専門だ。警察と関わりはないので、事件の詳細については何も知らない。しかし現場を清掃する過程で、ショッティは見ず知らずの被害者の遺族や知人に出会い、不思議な状況に陥る。その出会いから、人間の生と死をめぐる奇妙で難解な会話が展開されていくのだった。

作品をもっと知る

NDRのコメディシリーズで、放送開始当初は広告を控えていたため、一部の人にしか見られていなかった。しかし熱狂的な支持者によって徐々に広まり、評論家に高く評価されたことで、第2シーズン以降は脚光を浴びるようになった。この作品の特徴は約25分間のエピソードが室内劇のように一つの場所で展開され、毎回数人の俳優のみが登場すること。知的なユーモア、秀逸な台詞回し、そして役者の力強い演技が魅力だ。

サスペンス

ドイツのサスペンスドラマといえば、暗い、重い、難解……なのにどんどん深みにハマってしまう!ここで紹介する三つの作品もそうした特徴を持ちつつ、壮大なスケールで独自の世界観を描き出している。手に汗握る展開に、夢中になること必至。

難解すぎる展開にハマる人続出Dark

公開年:2017〜2020年
各話:45〜73分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
Netflixで視聴可

舞台は田舎町ヴィンデン。原子力発電所が中心に佇むこの町で、住民たちは最近起きた子どもの失踪事件に心を痛め、また不安に包まれている。主人公のヨナスは、数カ月前に父親が自殺したことにショックを受けて学校を休んでいたが、周りにはパリに留学していることにしていた。ようやく復帰するも、夜に友人たちと一緒に森の中の洞窟へ肝試しに行った際、さらに仲間の一人が失踪。それきっかけに、この町に暮らす4家族の親子何世代にもわたる秘密が暴かれていく。

作品をもっと知る

ミステリーとタイムトラベルが組み合わさったドラマで、物語も人間関係もあまりに複雑なため、混乱しながらも深みにはまっていく視聴者が続出。登場人物が多いだけでなく、お互いに恨みを持っていたり、あるいは不倫関係にあったりとドロドロ。また2019年、1986年、1953年という主に三つの時間軸が絡み合うので、綿密に組み立てられたストーリーはもちろん、各時代のファッションや音楽なども注目すべきポイントだ。全体を通してほの暗く美しい映像と音楽が、物語の世界をより立体的に魅せる。

美しく退廃的なベルリンに酔うBabylon Berlin

公開年:2017年〜
各話:約45分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
ARD Mediathek、Amazonプライム・ビデオで視聴可

ヴァイマール共和国崩壊前のベルリンに、ケルンから刑事ゲレオンがやってくる。品行方正なゲレオンだが、第一次世界大戦の退役軍人でPTSDを抱えていた。もう一人の主人公シャルロッテは貧しい家計を助けるため、昼は警察庁の記録係として、夜はナイトクラブで娼婦として働く。ある時彼女は、警察庁のトイレで発作を起こしたゲレオンを助けたことから、捜査を手伝うように。きらびやかで退廃的なベルリンを舞台に、二人は次第に巨大な陰謀に巻き込まれていく。

作品をもっと知る

ドイツのテレビドラマ史上、最大規模の製作費が投じられた超大作。情勢が不安定なヴァイマール共和国期のベルリンでは、民主主義を崩壊させようと企む「黒い国防軍」のほか、トロツキストや共産主義者、ナチ党員など、さまざまな政治的陰謀が絡み合う。さらに世界恐慌によってドイツが混乱に陥るなか、それまで注目されていなかったナチスがどのように勢力を増していくのか、その歴史的な正確さを追求する姿勢も評価されている。政治家の汚職や貧富の差、性的アイデンティティーなど、今日に通じるテーマも。

最先端科学と「倫理の境界線」Biohackers

公開年:2020年〜
各話:約45分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
Netflixで視聴可

ミアが入学したのは、遺伝子研究の第一人者であるロレンツ教授がいるフライブルク大学医学部。実は彼女には秘密があった。教授がまだ医師として病院に勤務していた時に、ミアの弟のベンが遺伝子研究に利用され、死亡したのだ。ベンが亡くなった後に交通事故で両親も失ったが、それにもロレンツ教授が関与していると疑っていた。まずは教授の助手のヤスパーに接近し、助手になる。そして「ホモ・デウス」という名の計画があったことをつかみ、家族の死因へと迫っていく。

作品をもっと知る

自分の兄弟や両親に起きた悲劇の真相を探るべく、事件に関わっていると思われる教授に接近するSF&サスペンスドラマ。配信開始を予定していた2020年4月は、ちょうど新型コロナの感染拡大が始まった時期。ドラマの中でウイルス感染症のシーンがあることから視聴者の感情に配慮し、8月まで配信が延期された。今日、合成生物学は著しく進歩しているが、同時に倫理的な問題も引き起こしているため、リアリティー抜群。

歴史・文化

二度の世界大戦や、その後の東西分裂時代など、ドイツの歴史をテーマにしたドラマも人気ジャンルの一つ。ドイツが経験してきた激動の時代と、そこを全力で駆け抜けた人々の姿は、現代を生きる私たちにも勇気を与えてくれるだろう

ドイツの歴史も見える医療ドラマCharité

公開年:2017~2021年
各話:約45分
言語:ドイツ語
ARD Mediathek、Netflixで視聴可

1888年のある日、シャリテー病院にイーダ・レンツェが駆け込んできた。盲腸を患っていた彼女は一命を取り留めたものの、治療費を払えないため、そのまま看護師として勤務することになる。シャリテーには、細菌学者のロベルト・コッホをはじめ、後世に名を残した研究者らが所属し、多くの男子学生が学んでいた。イーダは自分のように貧しい人々を看病するかたわら、研究者たちに付いて働いたり、大学の講義に紛れ込んだり、自身も医師になりたいと夢見るようになる。

作品をもっと知る

ベルリンに実在するシャリテー病院はペストが流行していた1710年に創立され、その後大学病院となった。主人公イーダは架空の人物だが、実在した人物も多数描かれており、コッホに師事した細菌学者の北里柴三郎も登場する。医療ドラマでありながら、女性の権利向上のほか、反ユダヤ主義や軍国主義などの問題を取り込んでいるところはドイツドラマらしい。シーズン2は第二次世界大戦期、シーズン3は東ドイツ時代が舞台で、その時代ごとの問題意識を通じてシャリテーの歴史を描く。

実話に基づいたビールをめぐる抗争Oktoberfest 1900

公開年:2020年〜
各話:約45分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
ARD Mediathek、Netflixで視聴可

1990年、野心的な醸造家カート・プランクがミュンヘンにやってきた。彼はビールの祭典「オクトーバーフェスト」で、6000人を収容できる巨大なビールテントを建設するという壮大な夢を抱いているが、そのためには脅迫や賄賂、殺人も辞さない構えだ。カートはミュンヘンの伝統的な五つの小規模醸造家から土地を奪い取ろうと画策し、壮絶な覇権争いが幕を開ける。職人たちのビール造りへの情熱や、ビール醸造協会と政治的な思惑、さらに許されざる恋など、見どころあるシーンも盛りだくさん。

作品をもっと知る

主人公のカート・プランクのモデルになったのは、ニュルンベルクの実業家ゲオルグ・ラングという実在の人物。実際、19世紀のオクトーバーフェストでは、会場のテレージエンヴィーゼで各醸造家が小さなブースでビールを提供するだけだった。1889年にラングは五つの屋台スペースを確保して巨大なテントを建設。ドラマのような血みどろの抗争はなかったものの、そこから世界最大のビール祭りへと発展していった。

冷戦最盛期のリアルなスパイドラマDeutschland 83, 86, 89

公開年:2015〜2020年
各話:約45分
言語:ドイツ語
Amazon プライム・ビデオほかで視聴可

舞台は1983年、冷戦の最盛期の東ドイツ。国家人民軍の若き兵士、マルティン・ラウフは、シュタージの対外諜報機関に属する叔母のレノラによって、スパイ任務につくことが決まった。マルティンは病気の母とガールフレンドを東ベルリンに残していけないと一度は拒否したものの、目覚めるとすでに西ドイツの首都ボンにいた。彼に与えられた任務は、ドイツ連邦軍に潜入してNATOの計画を暴くという重要かつ危険なもの。そして、名前も経歴も全てを偽り、スパイ生活をスタートさせるのだった。

作品をもっと知る

2015年のベルリン映画祭で公開後、米国で初めてドイツ語(英語字幕付き)で放映されたドラマシリーズで、数々の国際的な賞を受賞したヒット作。原案には、80年代に実際にドイツ連邦軍のラジオ局で働いていたヨルク・ヴィンガーが携わっており、よりリアルな物語に仕上げられている。続くシーズン2は86年、シーズン3ではベルリンの壁が崩壊した89年が舞台に。任務遂行下で東西の異なる価値観に挟まれ、イデオロギーに揺らぎを感じていくマルティンを時代の流れとともに描く。

戦後の激動を駆け抜ける三姉妹Ku'damm 56, 59, 63

公開年:2016〜2021年
各話:約90分
言語:ドイツ語
ZDF、Netflixで視聴可

ベルリンでダンススクールを経営する保守的な母親・カテリーナ。彼女は3人の娘の社会的地位を結婚によって上げようと必死だ。長女のヘルガは将来有望な若手弁護士ヴォルフガングと結婚し、三女のイーファは上司で富豪のファスベンダー教授を狙っている。しかし二女のモニカは何をやってもうまくいかず、学校からは追い出される始末。ただしモニカはダンスの才能に恵まれていた。ヘルガの結婚式の日、カテリーナはモニカに裕福な工場主の息子で気難しいヨアヒムを紹介したが……。

作品をもっと知る

Ku'dammシリーズは、1956〜63年という第二次世界大戦の終戦から経済成長を遂げるまでの時代が舞台。シリーズ1〜2では、戦後の混乱期に保守的な母親の元で育った娘が、経済成長を遂げる社会と共に新たな価値と向き合っていく姿が描き出される。そしてシリーズ3では1960年代初頭、社会的な制約や個人的な制限から解放され、娘たちが新たな自立への道を探していく。まさに激動の時代を生きた女性たちのドラマだ。

クロスカルチャー

今やドイツ全人口の25%が移民を背景に持ち、名実ともに移民国家となったドイツ。異文化同士の交流は、時に衝突を生むこともあるが、新たな発見や多様性の中で生きることの大切さを教えてくれる。クロスカルチャーを題材にしたこれらのドラマは、近年のドイツ社会を反映した注目すべきジャンルだ。

ドイツ×トルコ家族のドタバタ新生活Türkisch für Anfänger

16歳のレナは、ある日弟のニルスと共に母親のドリスのボーイフレンドと会うことに。そのお相手とはトルコ人のメティンだった。そして、メティンと息子のジェム、娘のヤグムルとの共同生活がスタートする。宗教も考え方も異なる人々が一つ屋根の下、小さなハプニングは日常茶飯事。多感な時期の子どもたちの悩みは尽きない一方で、ラブラブなドリスとメティンも彼らに寄り添おうとして空回りしてしまう。そんな一見シリアスともいえる状況を笑いをもって描きつつ、それぞれが少しずつ変化してゆくファミリードラマ。

作品をもっと知る

ドイツには数百万人ものトルコ系移民がいるが、「ドイツの中のトルコ」は異文化を象徴するものとしてたびたび話題になる。タイトルの「初心者のためのトルコ」の通り、特に厳格なムスリムであるヤムグルは、まさに異文化的な存在として分かりやすく描かれている。また国籍問わずパッチワークファミリーが多いドイツでは、レナの家族も新しい家族スタイルの一つともいえる。描かれる文化や家族のすれ違いには、実は誰もが経験することも含まれ、「あるある」と笑ったり考えさせられたりするシーンもあるはず。

ベルリンで見つけた自由と解放Unorthodox

公開年:2020年
各話:約50分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
Netflixで視聴可

ニューヨークに住む19歳のエスティ。彼女は、ハンガリー出身でホロコーストの生存者である祖母のもとで育ち、超正統派ユダヤ教コミュニティーの一員だ。同じく超正統派のヤンキーと見合い結婚をしたが、子どもにも恵まれず不幸な結婚生活を送っている。ある安息日、エステルは全てを捨てて、ベルリンへと旅立った。ベルリンでは、さまざまな国から来た音大生たちと出会い、初めて多様性や自由を知る。しかし夫とその家族は、彼女を連れ戻そうと計画する。

作品をもっと知る

2012年に出版されたデボラ・フェルドマンの著書『アンオーソドックス』(辰巳出版)が原作で、イディッシュ語(東欧のユダヤ人の間で話されるドイツ語に近い言葉)で初めて制作されたドラマ。 超正統派ユダヤ教では、女性は結婚すると髪を剃ってスカーフやカツラで頭を覆い、できるだけ多くの子どもを産む義務があるという。1人の女性が産む子どもの数は、なんと平均6.6人。その背景には、ホロコーストによって尊い命を失った過去があり、そのため子孫を増やさなければならないという考えに基づいている。

最終更新 Montag, 08 November 2021 09:32
 

マイセンで生まれた「白い金」 美しきドイツの白磁器たち

マイセンで生まれた「白い金」美しきドイツの白磁器たち

18世紀、欧州各国の王侯貴族たちが自らの名誉を誇示するために東洋の磁器を買い求めるなか、ザクセン州マイセンでは白磁器の魅力に取りつかれた王の命令により、才能ある職人たちが欧州初の白磁器の製造に取り組んでいた……。そうして始まった白磁器をめぐる物語は、今なおドイツ各地の名窯で紡ぎ続けられている。そんな磁器の歴史をはじめ、伝統と革新を併せ持つ5大名窯のものづくり精神を通して、ドイツが世界に誇る「白い金」の魅力に迫ってみよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:www.porzellan-museum.com、ad-magazin.de「China, made by Meissen」、Deutschlandfunk「Weißes Gold aus der Wiener Porzellanmanufaktur」、holst Porzellan Germany「François Vatel」

1739年に完成された「ブルーオニオン」(青い玉ネギ模様)の絵柄は、マイセンの代名詞的存在 1739年に完成された「ブルーオニオン」(青い玉ネギ模様)の絵柄は、マイセンの代名詞的存在

「白い金」の誕生秘話

王侯貴族を虜にしていた白磁器

時は17世紀、欧州の王侯貴族たちは競い合うように白磁器を買い集めていた。欧州では18世紀初頭になるまで白磁器を造り出すことができなかったため、彼らは中国の景徳鎮や日本の伊万里焼などのたくさんの白磁器を購入し、富と権力の象徴としてそれらを宮殿に飾っていたのである。

そんななか、1701年にベトガーという19歳の錬金術師が、プロイセンからアウグスト強王が治めるザクセンのドレスデンへと逃れてきた。ベトガーに興味を持ったアウグスト強王はザクセンで保護することを決め、彼に金を生み出すように命じたのだった。

一方、白磁器に関して30年近く研究を続け、欧州中の窯元を視察していたザクセン出身の科学者がいた。エーレンフリート・ヴァルター・フォン・チルンハウスである。彼は1704年の時点で、原材料の改善さえ進めば白磁器まであと一歩というところまで到達していた。

錬金術師ベトガーが白磁器を発明

ベトガーやチルンハウスたちが幽閉され、白磁器の研究を行っていたマイセンのアルブレヒト城 ベトガーやチルンハウスたちが幽閉され、白磁器の研究を行っていたマイセンのアルブレヒト城

アウグスト強王は、白磁器の研究においてベトガーの錬金術に期待をかけていた。1705年、強王はベトガーとチルンハウスを空き家となっていたマイセンのアルブレヒト城に移し、共同で実験を行わせることに。チルンハウスはベトガーと実験を重ねるうちに彼の才能に気付き始める。そしてベトガーはチルンハウス指導の下、本格的に白磁器の制作に取り組むようになった。

1708年7月、ついに白磁器の試作品が出来上がった。しかしこの試作品は釉薬に問題があることが判明し、まだ完成には至っていなかった。そんななか、チルンハウスが9月になって突然体調を崩し、そのまま帰らぬ人となってしまう。チルンハウスの死後、ベトガーは完全な釉薬を開発し、1709年3月にとうとう白磁器を完成させたのだった。「白い金」と呼ばれたマイセン磁器の誕生である。

アルブレヒト城内の壁画には、アウグスト強王に実験の成果を見せるベトガーらの姿も アルブレヒト城内の壁画には、アウグスト強王に実験の成果を見せるベトガーらの姿も

瞬く間に世界へ広まったマイセン磁器

1710年になると、王立マイセン磁器工場がアルブレヒト城の中に設立され、操業が開始された。ベトガーは十分な報酬を得ていたものの、製法が外に漏れないように、幽閉に近い状態で過ごさねばならなかった。その後、マイセン磁器の生産は順調に続けられ、欧州初の白磁器はたちまち世間に知れ渡った。世界最古として知られるライプツィヒのメッセでは飛ぶように売れたという。ベトガーはそれから間もなくして、拘束を解かれて自由にどこへでも外出できるようになった。しかし、長年にわたる換気の悪い狭い部屋での実験生活は彼の体を蝕んでいたのだろう、1719年3月にベトガーは37歳でこの世を去っている。

翌年、マイセンの発展に欠かせない人物がやって来た。名前はヨハン・グレゴリウス・ヘロルト。彼は焼成可能な多くの磁器用顔料を開発し、マイセン磁器に鮮やかな色彩をもたらすことになる。早くから東洋の飾色を研究していたヘロルトは、色鮮やかな絵の具の開発に貢献したほか、マイセンの絵柄の基礎を築いたのだった。

ヘロルトは当時流行していた中国的趣味を取り入れた絵付けをいち早く完成させ、人気を博した ヘロルトは当時流行していた中国的趣味を取り入れた絵付けをいち早く完成させ、人気を博した

マリア・テレジアが食器として使い始める

マイセン磁器が生産されるようになっても、上流階級の人々は銀もしくは金の皿で食事をしていたため、磁器で食事をする文化はまだなかった。磁器が食器として成功を収めたのは、ウィーンの宮廷といわれている。1718年、マイセンに続いてウィーンにパキエ磁器工房が創設された。独特のデザート文化を持つウィーンの宮廷では、磁器製のテーブル装飾品をいち早く生産。そしてオーストリアの皇帝マリア・テレジアは、デザートだけは磁器の皿で食べたいと言い出し、磁器の皿で食べるようになったのだとか。

またカフェ文化の普及によってコーヒーが市民の飲み物として広まったことから、磁器のコーヒーカップが浸透していく。19世紀はじめになると、欧州のブルジョワ階級の食卓でも次第に使われるようになっていくのだった。

アウグスト強王の妙案!?「マイセンからフンメルを壊さずに持ち帰れ」

アウグスト強王は、ドレスデンから毎日マイセンのアルブレヒト城に使者を送っては、白磁器の研究の進捗状況を報告させていた。しかし城の周囲には、おいしいマイセン・ワインが飲める居酒屋がたくさん。使者は酔っぱらってドレスデンに帰ってくることが多く、アウグスト強王はその報告になかなか満足がいかなかった。そこで強王は、マイセンのパン屋に薄くて壊れやすい「フンメル」(Fummel)というパンを焼かせ、使者には毎回これを持って帰るように命じた。フンメルを壊さずに持ち帰ることができたら、その日は合格というわけだ。

それ以来、使者はマイセンでワインを飲むことができなくなった。現在でも、このフンメルを焼いているお店がある。マイセンにある1844年創業の老舗ケーキ屋、ツィーガー(Konditorei Zieger Meißen)だ。アウグスト強王の時代と同じレシピでフンメルを焼く許可を同市から得ているのはこの一軒だけだが、店の人によれば「小麦粉だけで焼いているのでおいしくはない」という。

アウグスト強王ゆかりのマイセン土産として購入してみるのもいいが、壊さずに持ち帰るのは至難の業らしい アウグスト強王ゆかりのマイセン土産として購入してみるのもいいが、壊さずに持ち帰るのは至難の業らしい

白磁器の「今」が見えてくる!ドイツ5大名窯&おすすめ商品

1710年に欧州初の白磁器がマイセンで産声を上げてから、ドイツでは1746年にヘーヒスト、1747年にフュルステンベルクとニンフェンブルク、1751年にベルリン……と、相次いで磁器工場が誕生した。これらの歴史ある名窯は、伝統的な手仕事の技術やブランド精神を守るだけでなく、今日では気鋭のアーティストやデザイナーと協働するなど、白磁器の可能性を広げ続けている。そんなドイツの5大名窯について、彼らの「今」が垣間見える逸品と共にご紹介しよう。

Meissenマイセン

創業年:1710年
創業場所:マイセン
www.meissen.com

Der Ring Blüte 花の指輪 Der Ring "Blüte" 花の指輪

「白い金」の誕生秘話 でも紹介した欧州初の磁器メーカーであるマイセンは、300年以上の伝統を受け継ぎ、最高品質の製品を造り続けてきた。国内外のさまざまな分野のアーティストとコラボレーションし、ユニークなモチーフのオブジェからモダンなデザインの食器まで、常に新しいものを生み出している。そんなマイセンでは、珍しい磁器のアクセサリーも生産。この指輪の花は、もともとは1739年にアウグスト3世が「王妃に枯れない花を贈りたい」と願ったことから生まれた装飾で、現在でも花瓶などに散りばめるように使われているモチーフの一つだ。一輪だけでもしっかりと存在感があり、手元を美しく飾ってくれる。同じモチーフのピアスやネックレスも。

Königliche Porzellan-Manufaktur Berlin (KPM)ベルリン王立磁器製陶所

創業年:1763年創業
創業場所:ベルリン
www.kpm-berlin.com

To-go Becher コーヒータンブラー To-go Becher コーヒータンブラー

1763年にプロイセン王フリードリヒ2世によってベルリンで設立されたKPM。現在も、食器セットやフィギュアなどの全ての製品がほぼ手作業で造られ、フリーハンドペインティングで装飾されている。ロゴマークは、ブランデンブルク選帝侯の紋章に由来する「王笏」。さらに装飾された全てのKPM製品には、絵付けの種類を表すマークと、絵付け職人のサインが施されており、この世でたった一つの製品であるということを象徴している。数あるKPM商品の中でもおすすめしたいのが、環境に配慮した磁器製のタンブラー。見た目が美しいだけでなく、蓋もしっかり閉まるので、コーヒーなどのテイクアウトにもぴったり。磁器製なので臭いや色移りもなく、手入れが簡単なのもうれしい。

Königliche Porzellan Manufaktur Nymphenburgニンフェンブルク王立磁器製陶所

創業年:1747年
創業場所:ミュンヘン
www.nymphenburg.com

The White Doves 平和のハト The White Doves 平和のハト

バイエルン選帝侯であったヴィッテルスバッハ家のマクシミリアン3世ヨーゼフの命によって、1747年にミュンヘンにあるノイデック城内に磁器工場が設立された。設立当初は、莫大な投資をしたにもかかわらず大きな成功を得られなかったため、次第にヨーゼフは関心を失っていった。1754年にやっと磁器の製造に成功すると、ニンフェンブルクの高品質な磁器は国を越えて知られるようになっていった。ここで製造された全ての商品には、ヴィッテルスバッハ家の紋章をもとにしたロゴが施されている。2020年に発売された「The White Doves」は、白いハトのモチーフを使ったインスタレーションで知られるアーティスト、マイケル・ペンドリーとのコラボ作品。一見シンプルな造りに見えるが、実は胴体と翼、それぞれのパーツを鋳造した後に結合するなど、非常に複雑な工程を踏んでおり、高い技術力が光る逸品だ。

Höchster Porzellan-Manufakturヘーヒスト陶磁器工房

創業年:1746年
創業場所:ヘーヒスト
www.hoechster-porzellan.de

Office-Serie オフィスシリーズ Office-Serie オフィスシリーズ

マインツ選帝侯ヨハン・カール・フォン・オスタインの保護のもと設立された、マイセンに次ぐドイツで2番目に古い磁器工場。手作業で成形・絵付けされた最高品質の磁器を製造する、ヘッセン州唯一の伝統的な窯として知られており、ブランドロゴはマインツの紋章である「マインツの車輪」にちなむ。最高品質の素材をモダンにデザインしたオフィスシリーズでは、レターオープナーがフランクフルトの国際消費財見本市Ambienteでデザインプラス賞を受賞した。そのほかペントレイや名刺スタンド、インク壺など、白と青を基調とするスタイリッシュなアイテムがデスクに落ち着いた雰囲気を与えてくれる。このシリーズは、実店舗で購入可。

Porzellanmanufaktur Fürstenbergフュルステンベルク磁器

創業年:1747年
創業場所:フュルステンベルク
www.fuerstenberg-porzellan.com

Office-Serie オフィスシリーズ Office-Serie オフィスシリーズ

ニンフェンブルクと同年の1747年に、経済や産業、教育の振興に功績があるカール1世(ブラウンシュヴァイク=ヴォルフェンビュッテル公爵)の命によって設立された。フュルステンベルクの商品は、高い職人技術はもちろん、その時代の精神、生活態度、美学を常に反映しているのが特徴だ。創業から270年以上が経つ今でも、その大部分は工房で職人たちの手作業によって造られている。そんな歴史と伝統を兼ね備えるフュルステンベルクだが、近年ではドイツ国内外のデザイナーと協働し、新しいフィールドでの挑戦も。例えば2018年にリリースされた「PLISAGO」は、磁器の優雅さと洗練された雰囲気を現代の生活に取り入れたサイドテーブルだ。ドイツ・デザイン・アワード2019の家具部門で金賞を受賞し、磁器が単なるテーブルウェアでないということを示すとともに、磁器の持つ可能性をぐっと押し広げた。

かつては7大名窯だった?消えてしまった2つの磁器ブランド

Frankenthaler Porzellanフランケンハルター磁器

創業期間: 1755-1799年

国王ルイ15世の時代、フランス国内では王立窯セーヴル以外の磁器生産が禁じられるようになった。それに伴い1755年、ストラスブールのポール・ハノンが率いる窯はカール・テオドール選帝侯の支援を受け、フランケンタールに磁器工場を設立。

白磁器の芸術性としては成功の域に達していたが、販売不振や多額の未払い金に悩まされた。フランクフルトやマインツをはじめとする都市に販売拠点を増やしたものの軌道に乗れず、1780年代末になると生産量も激減。さらにライン川左岸がフランス軍に征服されると、工場の衰退は決定的となり、1799年に生産を終了した。フランケンタールの伝統を受け継ぐニンフェンブルク王立磁器製陶所には、型や優秀な職人たちが移されたという。

フランケンタールにあるエアケンベルト美術館では、今はなきフランケンハルター磁器を見ることができる フランケンタールにあるエアケンベルト美術館では、今はなきフランケンハルター磁器を見ることができる

Ludwigsburger Porzellanルートヴィヒスブルク磁器

創業期間:1758-2016年

1758年、時の大公カール・アウグストが「マイセンよりも素晴らしい磁器を生産する」として、ルートヴィヒスブルク磁器の生産を開始。1759年には、ウィーン窯をはじめとする名門窯元を渡り歩いたベテラン職人、ヨゼフ・ヤーコプ・リングラーを雇い入れたことで最盛期を迎えた。しかし順調だった工場も19世紀前半に行き詰まる。1920年に工場はルートヴィヒスブルク磁器製作所AGとして、実用的な食器の生産にも取り掛かったが、20世紀末には売れ行きが悪化していった。

2004年にドイツの皮革製造社ゴールドプファイルが株主となったが、同社が2008年に倒産。新たな株主を見つけられず、2016年1月に最後の生産が終わったのだった。

最終更新 Dienstag, 19 Oktober 2021 14:32
 

リピート必至のおすすめグッズ19選 ドイツのドラッグストア大調査

リピート必至のおすすめグッズ19選 ドイツのドラッグストア大調査

本誌1149号の「ドイツのスーパーマーケット大調査」に続き、今号はドイツのドラッグストアに注目した。ドイツが誇る三大ドラッグストアをご紹介するほか、インスタグラム(@pickup_doitsu)のフォロワーさんに教えてもらったおすすめ商品をピックアップ!厳選したグッズからお気に入りを見つけてみて。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

※アンケート調査にご協力いただいたフォロワーの皆様に、この場をお借りして感謝申し上げます。
※価格は店舗によって変動します。また、店舗や地域によって手に入らない商品もございますのでご了承ください。

ドイツの三大ドラッグストア

デーエムdm

dm

創業年:1973年
創業場所:カールスルーエ
URL:www.dm.de

売り上げナンバー1を誇るドラッグストアdm-drogerie markt(通称dm)。欧州12カ国で展開し、ドイツだけでも2000以上の店舗を誇る。また1986年には自社ブランドを立ち上げ、1989年にはビオ化粧品ブランドAlverdeを開発。28の自社ブランドがあり、4500点以上の製品を販売している。近年では気候変動への取り組みが盛んで、オンラインショップでは環境に優しいパッケージの製品や自然食品など、サステナブルな商品を紹介するページも。

ロスマンRossmann

Rossmann

創業年:1972年
創業場所:ハノーファー
URL:www.rossmann.de

家族経営のロスマンは、東はトルコ、西はスペインまで4200以上の店舗がある。ロゴのケンタウルスは、創業者のディルク・ロスマンの名前(ドイツ語でRossは馬、Mannは人間)にちなむ。1996年から自社ブランドを展開しており、28以上のブランドで約4600点の製品がある。種類豊富な自然食品やワイン、家電やおもちゃ、文房具などのさまざまな商品を取り揃えており、dmと並んで人気が高い。アプリでもよく10%割引クーポンが配信されているので、要チェック!

ミュラーMüller

Müller

創業年:1953年
創業場所:ウンターファールハイム
URL:www.mueller.de

オレンジ色がトレードカラーのミュラーは、1953年に理髪店としてスタートした。その後、1968年にドラッグストアを兼ねた理髪店としてミュンヘンに支店をオープン。現在はドイツを含む欧州7カ国に800以上の支店がある。最も広い店舗では4500平方メートルの面積があり、ドラッグストア商品のほか、マルチメディアやおもちゃ、文房具など、総勢19万点という豊富な品揃えが特徴だ。dmやロスマンでは手に入らないビオコスメなどが売られているのもうれしい。

おすすめグッズ19選

ヘルスケア

のどが痛いと感じ始めたら

蜂蜜とレモンのトローチ

Dobensana® Honig und Zitronengeschmack Lutschtabletten
蜂蜜とレモンのトローチ

空気の乾燥が気になる季節、持っておくと安心なのが、初期ののどの痛みに効くトローチ。さわやかなレモンの味わいで、ノンシュガータイプもある。さらに症状が悪化した場合は、同じメーカーの商品であるDolo-Dobendanなどを処方されることも(こちらは薬局でのみ購入可)。

症状や気分に合わせて選べる

薬用ハーブティー

Bad Heilbrunner
薬用ハーブティー

ドイツ人の体調管理の強い味方といえば、Bad Heilbrunnerの薬用ハーブティー。種類が非常に豊富なので、「Magen- und Darm Tee」(胃や腸に効く)、「Schlaf und Nerven Tee」(心地良い睡眠)など、その時の自分の体調に耳を傾けつつ、ぴったりなお茶を選ぼう。

健康な髪のための栄養補給

女性のためのヘアビタミン

IvyBears Haarvitamine für Frauen
女性のためのヘアビタミン

髪の健康に必要とされるビオチンや亜鉛、ミネラルやビタミンが豊富に含まれた栄養補助食品。2012年にケルンで開発が始まり、2015年に発売されると瞬く間に人気となった。ドイツではおなじみのクマの形で、100%植物性かつグルテンフリーなので安心して摂取できる。

花粉症シーズンも強い味方

鼻のケアバームメンソール入り

Mentisan Pflegebalsam für die Nase mit Menthol
鼻のケアバームメンソール入り

花粉症やアレルギー性鼻炎で鼻水が止まらない……。そんなときにささっと鼻の入口にこのバームを塗り込むと、メンソールがスーッと香って、すっきりと呼吸が楽になる。乾燥を防いで肌荒れ対策にもなる優れもの。小さな缶に入っているので、お守りのようにポーチに忍ばせて。

バスグッズ

シアバター入りで髪に潤いを

柑橘バジルの固形シャンプー

alverda Festes Shampoo mit Mandarine-Basilikum-Duft
柑橘バジルの固形シャンプーdm
4.95€ /60g

dmの自社ビオ化粧品ブランドalverde シリーズから発売されている固形せっけんのシャンプー。環境に配慮した商品として大好評。ヒトの皮脂とよく似た性質をもつシアバター入りで、ヴェールで包むように髪に潤いをもたらす。固形でも良く泡立つのが人気の理由。

リーズナブルな詰め替え用

詰め替え用 アロエシャワージェル・センシティブ

ISANA Duschgel Sensitiv mit Aloe Vera - Nachfüllbeutel
詰め替え用 アロエシャワージェル・センシティブRossmann
0.99€ /600ml

ロスマンの自社ブランドのISANAの詰め替えタイプのシャワージェル。ドイツでは意外と売っていなかった詰め替えタイプで、環境問題とエコの観点から支持率が高い。保湿力抜群のアロエベラを配合。リーズナブルな価格がうれしく、かさばらないため買いだめする人も。

背中や首回りの疲れを癒やす

バスオイル 背中の健康に

Kneipp Gesundheitsbad Rücken Wohl
バスオイル 背中の健康に
4.49€ /100ml

125年以上前にドイツで誕生したクナイプのバスオイル。湯船にオイルを垂らし、ゆっくり浸かるだけで血行を促進し、肉体の疲労回復を効果的にサポートする。背中や首周りの緊張をほぐす効果があるデビルズクローエキス入り。保湿効果が期待でき、乾燥肌対策にもおすすめ。

化粧品

べたつかずしっとり保湿

尿素入りハンドクリーム

Balea Handcreme Urea
尿素入りハンドクリームdm
0.95€/100m

dmの自社ビオ化粧品ブランドalverde シリーズから発売されている固形せっけんのシャンプー。環境に配慮した商品として大好評。ヒトの皮脂とよく似た性質をもつシアバター入りで、ヴェールで包むように髪に潤いをもたらす。固形でも良く泡立つのが人気の理由。

まつげの密度を高める

まつげ美容液パーフェクト

Balea Wimpernserum Teint Perfektion
まつげ美容液パーフェクトdm
3.75€/4.5ml

同じくdmの自社ブランドBaleaのまつげ美容液。まつげを守る保湿成分が含まれており、ダメージが気になるまつげの乾燥や、抜けやすい、生えにくいなどの悩みを持つ方にぴったり。朝晩の1日2回塗るだけでハリが出て、まつげの強さと密度を高めることができる。

プチプラで高級感のあるネイル

ダブルボリューム&シャインネイルポリッシュ

trend IT UP Double Volume & Shine Nail Polish
ダブルボリューム&シャインネイルポリッシュdm
1.95€/11ml

dmの化粧品ブランドのtrend IT UPから、Double Volume & Shine Nail Polish シリーズのマニキュア。トップコートなしでも爪先が剥げにくく、ひと塗りで高級ネイルのような艶感が出せる。それでいて1本2ユーロ以下というのが驚きだ。写真は最新色のブルーグレー。

サニタリーアイテム

人にも環境にも優しい生理用品

昼用・夜用ビオナプキン

einhorn Bio-Binden Tag Padsy Bonjo / Nacht Padsy Nuit
昼用・夜用ビオナプキン
2.85€・3.15€ /10 St

ベルリン発の企業einhornは「フェアサステナビリティー」を掲げ、公正な取引で生理用品を生産する。オーガニックコットンとコーンスターチ製のビオプラスチックでできたナプキンは優しい肌ざわり。ほかにも月経カップやタンポンなど、ユニークなネーミングとパッケージが特徴。

おりものシートとしても使える

パンティーライナー ストリング

Jessa Slipeinlagen String
パンティーライナー ストリングdm
0.95€ /30 St

dmの生理用品といえばJessa。さまざまな種類のナプキンがあり、自分に合ったサイズや形のものを選べる。羽なしタイプのストリングはコンパクトで細身の下着にも◎。生理前や経血が少ない日に使えるほか、タンポンと併用可能で、おりものシートとして使うのもおすすめだ。

かゆみや臭いの防止にも!

デリケートゾーン・ウォッシュローションマイルドフレッシュ

NIVEA Intimo Waschlotion Mild Fresh
デリケートゾーン・ウォッシュローションマイルドフレッシュ
1.95€/11ml

フレッシュな香りのする、ニベアのデリケートゾーン専用ソープ。有機ホホバオイル、天然カモミールエキスのほか、乳酸が配合されていて、適切なph値でマイルドに洗浄してくれる。肌を清潔に保ち、かゆみや臭い防止にも。敏感肌用や拭き取りシートタイプもある。

クリーニングアイテム

頑固な汚れにシュシュッとひと吹き

胆汁せっけん染みスプレー

Dr. Beckmann Gallseife Flecken-Spray
胆汁せっけん染みスプレー

Gallseifeは牛の胆汁からできたせっけん。衣服などに付いた油やコーヒー、口紅……と、あらゆる染みをきれいに落とすことができる。こちらは便利なスプレータイプ。染みにスプレーをして5分置き、あとはいつも通り洗濯機で洗うだけ!シルクやウールにも使える優れものだ。

一度使ったら病みつきなる白さに

一度使ったら病みつきなる白さに

Denkmit Fleckenentferner Oxi Power Weiß
染み抜き酸素系漂白剤dm
1.95€/750g

白いシャツを新品のようによみがえらせる酸素系漂白剤。使い方は40℃のお湯に漂白剤を溶かし、漂白したいものを漬け置きするだけ。クリーム状にして汚れた部分に付けることで、染み抜きとしても使える。除菌・消臭効果もあるので、布巾やタオルにもおすすめ。

人気のエコ洗剤シリーズから

お酢クリーナー

Frosch Essig Reiniger
お酢クリーナー
1.99€/1000ml

さまざまなエコ洗剤を展開するフロッシュは、今回多くのフォロワーさんからおすすめしてもらったブランドの一つ。このお酢クリーナーは、台所やバスルームのカルキ対策をはじめ、せっけんの残りかすも落としてくれる。さらに頑固な汚れには、Scheuermilchを試してみて。

掃除から料理まで使える万能選手

カイザーナチュロンパウダー

Kaiser Natron Pulver
カイザーナチュロンパウダー
1.99€/1000ml

エコな掃除の代表格として人気の重曹。ドイツでは、1825年創業のホルステ社が販売しているKaiser Natronが有名だ。ちょっぴりレトロで味のあるパッケージが目印で、キッチンの掃除や洗濯物に使ったり、コーヒーやお茶をまるやかにするために入れたりと万能。ちなみに、Natronを入れたお湯でパスタを茹でると、中華麺のような仕上がりに。

ユニークグッズ

dm商品でオリジナルグッズを作ろう!

フォトパラダイス

Fotoparadies
フォトパラダイスdm

dmの一角でよく目にする、写真や書類をプリントできる端末「フォトパラダイス」。写真が入ったUSBやスマートフォンを端末に繋げば、本格的なアルバムやパズルをはじめ、既製品のシャンプーなどにオリジナルのラベルをプリントできる。メッセージなども入れられるので、特別なプレゼントにも◎。

お手頃価格の家電が充実

イデーンヴェルト digitale Küchenwaage
料理用デジタルスケール
6.99€

IDEENWELT
イデーンヴェルトRossmann

家電や玩具などを展開するロスマンの自社ブランドIDEENWELT。ケトルやスケールなどのキッチン家電をはじめ、ドライヤーやヘアアイロンなど美容家電、血圧計などの健康家電まで、リーズナブルな価格で売られている。定期的に商品のラインナップが変わるので要チェック!

こんなときは薬局へ!ドラッグストアでは買えないもの

ドイツで薬を販売する店舗は、ドラッグストア(薬店、Drogerie)とアポテーケ(薬局、Apotheke)の2種類があるが、具体的にこの二つの違いをご存じだろうか? アポテーケには薬剤師が常駐し、❶処方せんが必要な薬(Rezeptpflichtige Medikamente)、❷処方せんが必要ない一般医薬品(OTC医薬品)のうち、薬剤師のみが販売できる「薬局販売医薬品」(Apothekenpflichtige Medikamente)、❸薬剤師を必要としない「自由販売医薬品」(Freiverkäufliche Medikamente)を販売している。❶は、医師からもらった処方せんをもとに薬剤師が処方。❷は処方せんが必要ないので、薬剤師に医薬品名を伝えて購入するか、自分の症状などを説明して適切な医薬品を勧めてもらう。これらはカウンター奥など、消費者の手の届かない場所に置かれているため、購入の際は薬剤師からアドバイスをもらおう。

一方、ドラッグストアで販売されているのは、一般医薬品のうち滋養強壮剤やビタミン剤、ハーブティーなどをはじめとする、❸の「自由販売医薬品」のみ。日ごろの体調管理や健康ケア商品の購入などには気軽にドラッグストアを利用しつつ、体調に合わせてアポテーケでは薬剤師に相談するなど、うまく使い分けたい。

参考:本誌1002号 Dr.馬場のSprechstunde「薬局に行こう - ドイツの薬事情」、本誌1071号 Dr.馬場のSprechstunde「ドイツで薬を買うには」

ドイツの医薬品の分類

薬の分類 ❶処方せん医薬品 OTC医薬品
❷薬局販売医薬品 ❸自由販売医薬品
処方せん 必要 不要 不要
買える場所 アポテーケ アポテーケ アポテーケ&
ドラッグストア
特徴 服用管理が必要な薬や、作用の強い薬などで、医師の指示が必要 副作用が少なく、安全性がよく知られている薬 具体的な効能や治癒効果はなく、強壮や健康改善、疾病予防などに使用
予防接種ワクチン、糖尿病の治療薬、抗菌薬、睡眠導入薬、新薬 など 解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、多くの植物製剤、外用薬など 健康増進に役立つサプリメント、ビタミン剤、ハーブティー など

本誌1071号 Dr.馬場のSprechstunde「ドイツで薬を買うには」

最終更新 Donnerstag, 06 Januar 2022 10:16
 

石沢麻依さんインタビュー コロナ禍のドイツで震災の記憶と向き合って

祝・芥川賞受賞!石沢麻依さんインタビューコロナ禍のドイツで震災の記憶と向き合って

2021年7月、第165回芥川賞に選ばれた小説『貝に続く場所にて』。コロナ禍のゲッティンゲンを舞台とする本作を執筆したのは、ドイツ在住の石沢麻依さんだ。日本から離れた場所で東日本大震災の記憶と向き合う物語には、ドイツに住む私たちの心情に重なる部分が多々ある。今の時代だからこそ読みたい本作をさらに深掘りするため、石沢さんにお話を聞いた。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

貝に続く場所にて

貝に続く場所にて

著者:石沢麻依 発行元:講談社
ISBN 978-4-06-524188-2

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話せなかった震災の記憶

『貝に続く場所にて』の語り手は、ゲッティンゲンでドイツ美術史を研究する日本人の女性。物語は、仙台の研究室で一緒だった野宮を駅まで迎えに行くところから始まる。しかし、野宮は東日本大震災の津波で行方不明となった人物だった。コロナ禍という、人との「距離」について考えさせる時代に、語り手は野宮の登場によって、これまで「距離」を置いていた震災の記憶と向き合ってゆく。著者である石沢さんもまた、仙台で2011年のあの日を経験した。

「震災の記憶は、東北で被災した友人たちとの間でもどこかタブーで、話すことが難しいと感じていました。津波にのみこまれた沿岸部や原発避難区域で暮らしていた人々、私のように被災地と呼ばれる土地に住んでいても、被害がそれほど大きくなかった人々。そして、被災地から遠く離れた場所で震災のニュースを目にしてきた人々。この三つのグループで記憶を共有するのは無理だろうという感覚があったんです。震災についてのノンフィクションでは、被災者の声などの記録を残すことができても、小説になると難しい。小説では、感情的なものは消費される可能性が高いので、震災をテーマにすることへの嫌悪感や危惧があるのだと思います。ところが『復興五輪』という言葉が出てきてから、震災や復興という言葉が表面的に使われ始め、それこそ震災の記憶というものがゆがめられてしまうと感じるようになって」

さらにコロナ禍で人や国との距離感を生々しく感じるなかで、記憶との距離感を改めて考えるようになった、と石沢さんは続ける。「私はあくまで震災を離れた場所から見ることしかできなかった人間です。それでも自分の記憶を尊重して、大きな被害を受けた人たちの記憶を踏みにじらないことを条件に、震災をテーマに小説を書くことを決意しました」。

執筆中、何度もこれでいいのだろうかと葛藤し、いろいろと思い出して落ち込むこともあった。でも、何とかして自分で声にしたいという思いで書き続け、自身の記憶とも向き合うことができたという。

ドイツと震災の距離感

作中におけるドイツの人々との交流のなかで、地震に対する感覚の違いも描かれる。実際にドイツで3.11が語られるときは、福島の原発事故が取り上げられることが多い。ここでも「距離」がテーマだ。

「日本人にとって地震は切り離せないものである一方で、ドイツでは大きなテーマとして扱われません。それはドイツの人々が全く関心がないわけではなく、経験的なものとして地震が入っていないから。逆に言えば、ドイツ人のチェルノブイリ原発事故に対する距離感と日本人のそれとでは当然違う。そういう『距離』の違いも、小説のなかで考えました。特にこれからの時代、自分の経験の有無にかかわらず、さまざまな場面で相手の目線というものを思い描かなければいけないと思います」

なぜゲッティンゲンが舞台?

ニーダーザクセン州に位置するゲッティンゲンは、石沢さん自身が長く住んでいた思い入れのある街。またゲッティンゲン大学には仙台からの留学生が多く、震災当時も学生たちが国籍を超えて募金活動を行ったそう。ほかにも小説の舞台に選んだ理由がいくつかある、と石沢さんはいう。

「もし震災の行方不明者をドイツに招くとしたら、単純な理由では来てくれないと思ったんですよね。特に語り手と野宮は恋人同士だったわけでもなく、距離のある淡白な関係。そこでゲッティンゲンを選んだ理由が三つあります。一つはホタテ貝をモチーフとする聖ヤコブの巡礼の途上にある街だから。また、作中にも登場するオブジェ『惑星の小径』(*1)がゲッティンゲンという街にきれいに取り込まれていること。それから、寺田寅彦(*2)が1910年から11年にかけての4カ月間、この街に滞在していたことです。

巡礼とは、ある場所へ祈りを込めて向かうことを意味するため、惑星から外されてしまった冥王星を目指すという物語の流れにも重なります。また、ホタテ貝は野宮が行方不明となった石巻の名産物でも。さらに、作品にも登場する寺田寅彦は自然災害についていくつも著書を残しています。これだけの理由があれば、野宮がゲッティンゲンに来てくれるのではないかと思いました」

コロナ禍のドイツに生きる意味

震災とは物理的にも心理的にも距離のあるドイツで執筆された本作。ドイツ在住だからこそ、語り手の気持ちがダイレクトに伝わってくる場面も多い。

「今ドイツに暮らす多くの日本人が、『距離』というとても大きなテーマと向き合っていると思います。一時帰国ができず、日本の家族や友人との隔たりを感じている方もいるでしょう。また、先日のドイツ西部で起こった大洪水で東日本大震災の記憶を思い出された方もいるかもしれません。この小説では、非常に分かりやすい鮮やかな答えを出すことはできませんでした。でも自分が今ここにいる意味だったり、過去に体験したことであったり、それらをつなぎ合わせることについて考えるきっかけに、この本を読んでいただけたらうれしいです」

小説家としてスタートを切ったばかりの石沢さん。二作目以降をどのように書き続けていくのか、模索している最中だという。今度はどんなテーマについて考えるきっかけを、私たち読者にもたらしてくれるだろうか。

*1 ドイツ語でPlanetenweg。街中に太陽系の惑星のオブジェが縮小された比率で配置されている。ドイツ各地の都市に存在する。
*2 1878~1935年。物理学者および随筆家で、夏目漱石に師事した。『天災と国防』をはじめ、防災の必要性なども論じた。

石沢 麻依さん Mai Ishizawa

石沢 麻依さん Mai Ishizawa

1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。ルネサンス期のドイツ美術史を研究するため、2015年からドイツ在住。今年5月に『貝に続く場所にて』が第64回群像新人文学賞に選ばれ、同年7月に同作で第165回芥川賞を受賞した。

最終更新 Freitag, 01 Oktober 2021 16:42
 

ドイツ・オペラとは?歴史や特徴、はずせない代表作から気鋭の演出家もご紹介!

初心者でもオペラの楽しみ方が分かる!ドイツ・オペラを観に行こう

ドイツに住んでいたら、一度は観てみたいオペラ。音楽の国と呼ばれるだけあって、年間6000回近いオペラ公演がドイツでは行われている。コロナ禍で中断を余儀なくされた歌劇場も、いよいよ今シーズンから本格的に再開される。特集では、そんなドイツ・オペラの歴史や特徴を徹底解説。歌劇場にまだ足を運んだことのないビギナーから、さらに作品を深掘りしたいという上級者まで、ドイツ・オペラの世界に浸ってみよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

ドイツ・オペラを観に行こう

お話を聞いた人

藤野 一夫さん
芸術文化観光専門職大学副学長。日本文化政策学会副会長、日本ワーグナー協会理事、ドイツ文化政策協会会員。編著に『地域主権の国 ドイツの文化政策─人格の自由な発展と地方創生のために』(美学出版)、『ワーグナー事典』(東京書籍)、『市民がつくる社会文化 ドイツの理念・運動・政策』(水曜社)など。

ドイツでオペラを観るべき3つの理由

演目の種類が豊富!

今日、世界で行われているオペラの3分の1は、ドイツで上演されているといわれる。ドイツ国内には、オペラを制作・上演する公立劇場が80以上もあり、コロナ禍前の2018/2019シーズンでは年間5731回のオペラ公演を実施していた(日本は1034回)。またドイツの各劇場は専属の演者やオーケストラ、舞台技術者などの常勤スタッフを雇用しているため、年間を通じてさまざまなレパートリーを上演できる。多種多様な作品を楽しめるのみならず、各都市の劇場が創造の拠点として、競うように実験的・前衛的な舞台を自主制作しているのも魅力だ。

チケットが安い!

スター歌手が出演する公演などを除いて、チケット代は10ユーロ以下〜200ユーロくらいまでと比較的安い。というのも、ドイツの公立劇場(オーケストラやバレエなども含む)には、約27億ユーロという潤沢な年間予算が充てられており、総経費の82%以上は州や市町村などからの公的な補助金で賄われている。そのため平均的なチケット価格が低く抑えられ、地元住民は良質な作品を気軽に鑑賞できるのだ。さらに言えば、それによって観客の目も肥えるため、その反応は手厳しく、ドイツ・オペラのクオリティーを維持することに一役買っている。

ドイツ社会の今が分かる!

ドイツのオペラ界は、世界で起きていることに機敏に反応し、演出に取り入れたり、そのテーマについて新作を発表したりする。というのも、ドイツの劇場文化が担う社会的な役割の一つに、「Reflextion der Zivilgesellschaft」(市民社会の省察)がある。つまり作品を通して、自分たちの社会について再考し、議論するきっかけをつくろうというのだ。例えば昨今のオペラでは、資本主義がもたらす社会の分断や貧富の差、チェルノブイリや福島の原発事故、気候変動などが描かれ、語られることが多い。とはいえドイツ・オペラの持ち味は、そういった社会の問題を切り取りつつも、エンターテイメントとしてうまく昇華させていること。オペラ作品を純粋に楽しみながら、自分が生きる世界や自分の心の中が少しだけ分かったり、逆に分からなくなったり……そんな感覚をぜひ劇場で味わってみてほしい。

今年8月に発表された、ハンブルク州立劇場の新作「Playing Trump」。トランプ元米大統領によって翻弄された世界をテーマにした作品が、退任からわずか7カ月で世に送り出された今年8月に発表された、ハンブルク州立劇場の新作「Playing Trump」。トランプ元米大統領によって翻弄された世界をテーマにした作品が、退任からわずか7カ月で世に送り出された

ドイツ・オペラの歴史をたどる後進国ドイツがオペラの国になるまで

今でこそオペラといえばイタリアとドイツが二大巨頭といわれるが、実はイタリアでオペラが誕生した1600年からしばらくの間、ドイツは戦争の影響で文化的にも経済的にも大きく遅れを取っていた。そんななか、どのようにしてドイツ・オペラが発展してきたのか、代表的な作品とともに歴史を振り返ってみよう。

オペラ後進国だったドイツ

世界最古のオペラは、1600年にイタリアはフィレンツェで誕生したヤコポ・ペーリ作曲の「エウリディーチェ」といわれる。14~16世紀のフィレンツェはルネサンス芸術が最も花開いた場所であり、オペラはその勢いのなかで「ギリシャ悲劇を現代によみがえらせよう」として生まれた。

この新しい総合芸術はフランスやドイツにも渡って来たが、ドイツでは時を同じくして三十年戦争(1618~1648年)によって国土が荒廃してしまう。さらに三十年戦争が終結すると、ヴェストファリア条約によって当時約300あったドイツの領邦国家が固定され、国民国家としてのドイツ統一への道は一層遠ざけられることになった。戦乱に巻き込まれなかったハンブルクでは、例外的にドイツ語による市民のためのオペラが行われていたものの、ドイツ全体としては文化芸術だけでなく、学術や技術などあらゆる面で他国に後れを取ることになった。ましてや、最も贅沢な芸術であるオペラを普及させることは不可能だったのだ。

民衆から生まれた「ドイツ語の歌芝居」

それでも三十年戦争が終わってから80年余りの間に、ドイツの領邦国家のうち48の宮廷が歌劇場を持ち、定期的にオペラを上演するようになる。しかし18世紀までの宮廷では、イタリアやフランス的な趣味が好まれ、オペラもイタリア語の作品が上演されるのが一般的だった。

一方で、民衆レベルではドイツ語による演劇が普及し始める。当時のドイツは300余りの領邦国家に分かれており、隣の国どころか隣の街同士でも言語や文化が異なる状態。そのため啓蒙主義者たちは、当時最大の公共メディアであった演劇によって、共通言語としてのドイツ語を広め、ドイツ国民としての意識を覚醒させようと努めた。また庶民の間でも、旅回りの一座や民間の劇場が人気となり、歌芝居(ジングシュピール)や演劇を楽しんでいた。

こうした流れのなかで、いくつかの宮廷劇場が「国民劇場」を名乗るようになる。特にウィーンでは、啓蒙君主として名高いヨーゼフ二世がドイツ語圏の文化発展に努め、1776年に「宮廷劇場かつ国民劇場」(Hof- und Nationaltheater)を創設。道徳的機関としての劇場を根付かせていった。1782年には同劇場でヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)によるドイツ語オペラ「後宮からの誘拐」が初演され、次第にドイツ語によるオペラが存在感を高めていく。

ドイツ・オペラ生誕の地となったドレスデン

18世紀の啓蒙主義を背景に、ウィーンやマンハイム、ベルリンなどで、いわゆる「ドイツ国民劇場」が創設されていくなかで、反ナポレオン解放戦争後のドレスデンでは、ドイツ・オペラの新たな局面が切り開かれることになる。

ドレスデンを首都とするザクセン王国は、ナポレオン戦争(1803~1815年)で最後までナポレオン側について戦い、おひざ元のライプツィヒ会戦で敗れると領土の半分を失った。プライドを著しく傷つけられたザクセン王国では、ザクセン人としてのアイデンティティーを取り戻すために大胆な文化政策を実施することを思い付く。それは、宮廷オペラに「ドイツ・オペラ部門」を創設することだった。

当時、モーツァルトの「魔笛」やベートーヴェンの「フィデリオ」などのドイツ語オペラが知られていたものの、宮廷では未だにイタリア・オペラが王侯貴族の理想であり、ステータスシンボルだった。そのためドイツ・オペラ部門の創設には宮廷内部からの強い反発もあったという。そこで白羽の矢が立てられたのが、当時プラハの歌劇場で指揮者として活躍していたカール・マリア・フォン・ウェーバー(1786-1826)だった。ドレスデン宮廷劇場の楽長に迎えられたウェーバーは、ドイツの民間伝承を題材にした「魔弾の射手」をドレスデンで作曲。1821年の初演の地にはシンケル新設のベルリン王立劇場を選び、首都の聴衆に新鮮な驚きを与えるとともに、大きな熱狂のうちに受け入れられた。そしてウェーバーには、「ドイツ国民オペラの創始者」の名が贈られたのだった。

完璧主義者ワーグナーの「楽劇」

ウェーバーの「魔弾の射手」の衝撃は非常に大きく、後に大作曲家となる多くの人物が、「魔弾の射手」をきっかけに作曲家を志したといわれる。その一人が、当時9歳だったリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)だった。ワーグナーは1840年代にドレスデンの宮廷楽長に就任すると、1843年に「さまよえるオランダ人」や1845年に「タンホイザー」を初演し、1848年には「ローエングリン」も完成させる。

作曲家として成功を収めたワーグナーだったが、宮廷劇場の改革では衝突を繰り返す。そしてドレスデンで起こったドイツ三月革命の運動に参加したことにより、全国で指名手配されることになった。その後スイスに逃れて15年間の亡命生活を送るが、その間にも数々の作品を生み出す。またワーグナーは同時期に、これまでのオペラの価値観を一転させる「楽劇」の理論を創り上げていく。ワーグナーによれば「楽劇」とは、ストーリーとなる文学やそれに付けられる音楽、舞台装置などの美術、登場人物の演技などが一つの芸術作品へと結集していく総合芸術のこと。実際、ワーグナーは自ら台本を執筆して作曲し、多くの作品において演出から指揮に至るまでを全て1人で行っていた。

1864年に追放令が取り消され、晴れてドイツに戻ったワーグナーは、1868年には「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の初演に成功。さらに、自分自身の作品を上演する専用の劇場を必要とするに至り、バイエルン王ルートヴィヒ2世からの資金援助も一部受けてバイロイト祝祭劇場を建設した。ワーグナーによってドイツ・オペラは急速に興隆し、20世紀にはリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)がその流れを集大成していく。

ドイツ・オペラの代表作

魔笛 Die Zauberflöte

作曲家:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
初演:ヴィーデン劇場(1791年)
上演時間:約2時間40分

モーツァルトが生涯で手がけた最後のオペラ作品で、台本は当時欧州各地を巡業していた旅一座のオーナーであるエマヌエル・シカネーダーが手がけた。18世紀ドイツの民衆的なオペラ形式であるジングシュピールとして作られ、歌や会話など全てがドイツ語で書かれている。

劇中には、聴衆を楽しませるための大掛かりな見せ場も。物語は、王子タミーノが魔法の笛をもって夜の女王の娘であるパミーナを救いに行くところから始まるが、信じていた善悪が途中で逆転するなど、ストーリーも奥深い。モーツァルトやシカネーダーが所属していた思想的結社フリーメイソンのシンボルや道徳観が随所に見られ、その象徴的な内容や、豊かな音楽のアンサンブルから、ドイツ・オペラの出発点ともいわれる。

1815年にドイツの建築家シンケルが描いた「夜の女王のアリア」のシーン1815年にドイツの建築家シンケルが描いた「夜の女王のアリア」のシーン

魔弾の射手 Der Freischütz

作曲家:カール・マリア・フォン・ウェーバー
初演:ベルリン王立劇場(1821年)
上演時間:約2時間20分

「魔弾」とは、ドイツの民間伝説に登場する「意のままに命中する弾」(7発中6発は射手の望むところに必ず命中するが、残りの1発は悪魔の望むところに命中する)のこと。舞台は15世紀半ばのボヘミアの森。若い狩人のマックスは、射撃大会と恋人アガーテとの結婚を明日に控えるも、スランプに陥ったことから誘惑に負け、悪魔が潜む森へと「魔弾」を作りに行ってしまう。

深い森の中に響き渡る狩人の角笛で始まる「序曲」には、オペラ全曲の聴きどころが凝縮されているほか、全編を通して素晴らしい合唱とアリアが連続する。さらに悪魔から魔弾の作り方を教わり、一発ずつ鋳造していく「狼谷」のシーンなど、手に汗握るストーリー展開と音楽に夢中になること必至。

緊張感あふれる「狼谷」のシーンを描いた銅版画緊張感あふれる「狼谷」のシーンを描いた銅版画

ニュルンベルクのマイスタージンガー Die Meistersinger von Nürnberg

作曲家:リヒャルト・ワーグナー
初演:ミュンヘン・バイエルン宮廷歌劇場(1868年)
上演時間:約4時間20分

16世紀のニュルンベルクを舞台にした、ワーグナーには珍しい喜劇作品。ニュルンベルクに来た若い騎士のヴァルターは、そこでエーファと恋に落ちるも「歌合戦で優勝した人がエーファと婚約する」と聞かされる。ヴァルターはエーファと結婚するためマイスタージンガー(親方歌手)の資格試験に挑戦。一度は失敗するが、靴職人の親方ハンス・ザックスに助けられて、見事な歌を歌い上げるように。

作品にはドイツ芸術やドイツ精神の賛美と共に、反ユダヤ的な思想が織り込まれており、第二次世界大戦中はナチス政権に多用された。そのため戦後の演出では、ラストシーンでハンス・ザックスが讃えられるシーンが変更されたり、ユダヤ人という設定で排除されるベックメッサーとの和解のシーンが盛り込まれることも。

ニュルンベルクの街を舞台としたステージデザインニュルンベルクの街を舞台としたステージデザイン

ばらの騎士 Der Rosenkavalier

リヒャルト・シュトラウス
初演:ドレスデン宮廷歌劇場(1911年)
上演時間:約3時間20分

大胆かつ妖しさが漂う作品「サロメ」や「エレクトラ」でオペラ界を騒がせたシュトラウスが、「モーツァルト風のオペラが書きたい」と作ったオペラ。18世紀、マリア・テレジア治世下のウィーンでの貴族生活が舞台で、美しく内省的な元帥夫人、その愛人である若い貴族のオクタヴィアン、野蛮で好色なオックス男爵、裕福な商人の娘でオックスと政略結婚する予定のゾフィーの4人が登場。物語を通して、シュトラウスが得意とする明るく優雅で、そして魅惑的なアリアや重唱が奏でられる。

ワーグナー後期のオペラに匹敵する大規模な作品で、音楽も洗練された官能性が魅力。発表当時からその人気はすさまじく、観劇のために各国から聴衆が押し寄せ、「ばらの騎士」と名の付いた列車がベルリンとドレスデンの間を走ったほどだった。

第三幕、オクタヴィアンとゾフィーの二重唱「夢だわ、本当ではあり得ない」の場面第三幕、オクタヴィアンとゾフィーの二重唱「夢だわ、本当ではあり得ない」の場面

今シーズンのおすすめ作品もピックアップ!ドイツ・オペラの気鋭演出家たち

ドイツのオペラが世界一流であり続ける理由は、その重厚な歴史だけでなく、現代においてもさまざまな歌劇場が伝統を守りつつ、常に新しいオペラや演出を生み出し続けていることにある。ここでは今日ドイツ・オペラ界で活躍する演出家を切り口に、今シーズンのおすすめ作品を藤野さんに聞いた。公演日時などの詳細は、各劇場のホームページでチェックしよう。

ペーター・コンヴィチュニーPeter Konwitschny

ペーター・コンヴィチュニー Peter Konwitschny

著名な指揮者であるフランツ・コンヴィチュニーを父に持ち、2歳からオペラに親しむ。ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で演出を学び、1971年からベルリナー・アンサンブルに所属してベルトルト・ブレヒトなどから多大な影響を受けた。特にワーグナーの作品では挑発的ともいえる演出を次々と発表し、オペラ専門誌「オぺルン・ヴェルト」で年間最優秀オペラ演出家に幾度も選出されている。

今シーズンのおすすめ

さまよえるオランダ人 Der fliegende Holländer

さまよえるオランダ人 Der fliegende Holländer

作曲:リヒャルト・ワーグナー
上演:バイエルン州立歌劇場(ミュンヘン)
www.staatsoper.de

アンドレアス・ホモキAndreas Homoki

アンドレアス・ホモキ Andreas Homoki

西ドイツの街マール生まれのハンガリー系ドイツ人。2002年から10年間、ベルリン・コーミッシェ・オーパーで芸術総監督を務め、ヒューマニスティックかつ社会批判的な演出と、独特のステージ美術が持ち味。2012年からはチューリッヒ歌劇場の芸術総監督。今シーズンは、シュトラウスの「サロメ」などをはじめ、ワーグナーの「ニーベルングの指環」の新演出を手掛けることでも注目されている。

今シーズンのおすすめ

サロメ Salome

サロメ Salome

作曲:リヒャルト・シュトラウス
上演:チューリッヒ歌劇場 
www.opernhaus.ch

バリー・コスキーBarrie Kosky

バリー・コスキー Barrie Kosky

ユダヤ系移民の孫としてメルボルンに生まれる。2012年からベルリン・コーミッシェ・オーパーの芸術総監督(2022年で退任予定)。演出家として多彩な引き出しを持ち、エンタメ性の光る演出で若いベルリン市民を劇場に呼び込むことに成功した。今シーズンも、ベルトルト・ブレヒトの「マハゴニー市の興亡」やモーツァルトの「魔笛」、さらにコスキーの十八番である「天国と地獄」など、見どころ満載。

今シーズンのおすすめ

マハゴニー市の興亡 Aufstieg und Fall der Stadt Mahagonny

マハゴニー市の興亡 Aufstieg und Fall der Stadt Mahagonny

台本:ベルトルト・ブレヒト
作曲:クルト・ヴァイル
上演:ベルリン・コーミッシェ・オーパー
www.komische-oper-berlin.de

シュテファン・ヘアハイムStefan Herheim

シュテファン・ヘアハイム Stefan Herheim

ノルウェー出身。故郷でチェロを学び、ミュージカルや人形劇の演出などで経験を積んだ後、ハンブルクでオペラの演出を学んだ。2013年に上演したザルツブルク音楽祭での「ニュルンベルクのマイスタージンガー」をはじめ、ワーグナー作品では観客をあっと言わせる見応えのある演出で魅了。2022年11月からは、ベルリン・ドイツ・オペラで「ニーベルングの指環」4部作の連続上演が予定されている。

今シーズンのおすすめ

ニーベルングの指輪 Der Ring des Nibelungen

ニーベルングの指輪 Der Ring des Nibelungen

作曲:リヒャルト・ワーグナー
上演:ベルリン・ドイツ・オペラ
www.deutscheoperberlin.de

宮本 亞門Amon Miyamoto

宮本 亞門 Amon Miyamoto

東京生まれの演出家で、ミュージカルやストレートプレイ、歌舞伎など、ジャンルレスに活躍。欧州ではオペラ演出家として高く評価され、モーツァルトの「魔笛」などの演出では、テクノロジーを駆使した表現でオペラの新境地を開拓した。今シーズンは、東京二期会・ザクセン州立歌劇場・デンマーク王立歌劇場の共同制作でジャコモ・プッチーニの「蝶々夫人」を演出。来年4月にドイツでのプレミエを迎える。

今シーズンのおすすめ

蝶々夫人 Madama Butterfly

蝶々夫人 Madama Butterfly

作曲:ジャコモ・プッチーニ
上演:ザクセン州立歌劇場(ドレスデン)
www.semperoper.de

ドイツ・オペラの世界をもっと知りたい人に

今回お話を聞いた藤野さんが監修し、神戸大学国際文化学研究科の学生たちが中心となって制作したウェブサイト「『マイスタージンガー』で考える学びの広場」では、ドイツ・オペラをもっと深く知るためのヒントが盛りだくさん! ぜひチェックしてみて。
https://meistersingersympo.wixsite.com/website

最終更新 Dienstag, 27 September 2022 11:57
 

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