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特集


MUSEUM GUIDE
in Düsseldorf デュッセルドルフのおすすめミュージアム8選

ドイツ最大の日本人コミュニティが暮らすデュッセルドルフ。ビジネス都市としての顔を持つ一方で、この街は現代アートの中心地として国際的に知られている。1773年創設の美術アカデミーからは、ヨーゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターなど世界的アーティストを輩出。街には現代美術館から歴史博物館、映画博物館まで多彩なミュージアムが点在し、年間を通じてアートイベントが開催されている。芸術都市としてのデュッセルドルフの魅力を、ミュージアムとイベントからひもといていこう。(文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

お得なカード

アート・カード Art:card

デュッセルドルフ市内、および近郊のノイスやヴッパータールの指定された美術館や博物館などに無料で入場できる年間パス。デュッセルドルフ観光案内所や美術館、博物館、特定の劇場で購入可能。
www.duesseldorf.de/kulturamt/kultur-duesseldorf/artcard

州立美術館 K20/ K21 K20 / K21 Kunstsammlung Nordrhein-Westfalen

K20 K20

20世紀の絵画を所蔵する「K20」と、1980年以降の国際現代アートの作品を中心に展示を行う「K21」は、特に人気の高い美術館。K20の常設展は20の展示室に200点以上の作品を展示。K21は1988年まで州議会議事堂だった建物を改装し、最上階まで吹き抜けとなったガラスのドームは圧巻だ。毎月第1水曜の18~22時に入場が無料になる「Open House」(オープンハウス)が開催され、毎回多くの人でにぎわっている。K20は美術書やユニークな雑貨が手に入るミュージアムショップ、K21はキューバ出身の芸術家ホルヘ・パルドがデザインしたカフェ「Pardo's」がおすすめ。

K20 Grabbeplatz 5, 40213
K21 Ständehausstr. 1, 40217
www.kunstsammlung.de

K21 K21

K21 K21

クンストハレ・デュッセルドルフ Kunsthalle Düsseldorf

Kunsthalle Düsseldorf

1967年に建てられた、コンクリートの立方体のような建築が印象的なクンストハレ。コレクションを持たず、「知的な芸術実験のための公共の場」としてさまざまな企画展を実施してきた。一方、屋外には常設作品があり、その一つがデュッセルドルフが生んだ巨匠ヨーゼフ・ボイスによる「煙突パイプ」。2026年第2四半期から改修工事に入る予定で、最大3年間は移動型のアートギャラリーとして活動する計画だ。2023年からクンストハレ主催で始まったアートブックフェア「Between Books」は毎年人気で、今年は9月25日(金)~27日(日)にデュッセルドルフ芸術専門大学Peter Behrens School of Artsで開催予定。

Grabbeplatz 4, 40213
www.kunsthalle-duesseldorf.de

クンストパラスト美術館 Kunstpalast

Kunstpalast

2023年に常設展が全面リニューアルしたクンストパラストは、古代から現代、傑作から日用品に至るまで、さまざまな芸術品およそ800点が展示されている。また、子ども向けに四つの小さな展示室が設置されているので、ぜひ探してみて。館内には1960~70年代にかけて音楽とアートのホットスポットだった伝説のクラブ「クリームチーズ」の内装がそのまま再現されており、毎週土曜の18~翌1時までバーとしてオープン。毎月第1木曜の18~21時は常設展が無料になる。別館のNRW フォーラム(NRW-Forum)では、写真やポップカルチャー、デジタルアートを扱っており、また一味違うアートを楽しむことができる。

Ehrenhof 4-5, 40479
www.kunstpalast.de

KIT KIT – Kunst im Tunnel

KIT – Kunst im Tunnel

2007年にオープンしたライン川の遊歩道の真下に存在するアート空間。その名の通り、1993年に開通したライン河畔トンネルの建設の際に残った空間がアートスペースとして活用されている。コンクリートに囲まれた地下空間は、端に行くほど天井が低くなっていたり先細りしていたり、トンネルの名残が感じられ、建築好きの人にもおすすめしたい。毎年およそ四つの企画展が開催され、彫刻、絵画、写真、映像、インスタレーションなど幅広いジャンルの若手アーティストを重点的に取り上げている。地上部分はカフェバーになっているので、鑑賞後や散歩の途中に立ち寄るのも◎。

Mannesmannufer 1b, 40213
www.kunst-im-tunnel.de

デュッセルドルフ市立博物館 Stadtmuseum Düsseldorf

Stadtmuseum Düsseldorf

1874年設立のデュッセルドルフ市立博物館は、かつてシュペー伯爵の宮殿だった建物を使用している。1288年の都市創設から、選帝侯時代の文化の中心地としての発展、19世紀の経済大都市への成長、戦後の州都としての歩みまで、デュッセルドルフの歴史を幅広く展示。ヴァイマール共和国時代およびナチス政権下にデュッセルドルフで活動した芸術家たちのコレクションも充実している。

Berger Allee 2, 40213
www.duesseldorf.de/stadtmuseum

デュッセルドルフ映画博物館 Filmmuseum Düsseldorf

Filmmuseum Düsseldorf

1993年に開館した本館は、2200平方メートルの空間で映画の歴史を体験できる施設。1880年代のカメラ・オブスキュラから現代までの映写機やカメラ、セットの模型などが展示されている。チャップリンや黒澤明など名監督の紹介や映画衣装の展示をはじめ、模擬撮影スタジオなども見どころ。毎週日曜日は入場無料!また、館内の映画館「Black Box」では、無声映画や世界各地の映画の上映のほか、毎年1月には「Eyes on Japan 日本映画週間」も開催される。

Schulstraße 4, 40213
www.duesseldorf.de/filmmuseum

海事博物館 SchifffahrtMuseum im Schlossturm

SchifffahrtMuseum im Schlossturm

ライン川沿いの城塔内にある海事博物館では、ライン川に関する最古級のコレクションを展示している。7階建ての館内では、造船、貿易、旅行、川沿いの生活を昔と今で比較しながら紹介。展示テーマも、治水工事前後のライン川の変化から、丸木舟から蒸気船までの造船の発展、デュッセルドルフ港湾施設の歴史など多岐にわたる。塔の頂上にあるミュージアムカフェ「ランタン」では、ライン川と旧市街の360度パノラマビューを楽しめる。

Marktplatz 2, 40213
www.schifffahrtmuseum.de

ベンラート城 Stiftung Schloss und Park Benrath

Stiftung Schloss und Park Benrath

デュッセルドルフ南部に位置する、後期バロック様式の城。18世紀末に選帝侯カール・テオドールの離宮として建設され、ピンク色の外観と美しい庭園が特徴。城内見学ツアーでは、あざやかな天井画やシャンデリア、豪華なフランス家具や陶器などの調度品を見ることができる。毎年8月には庭園で野外コンサート「光の祭典」(Lichterfest)、クリスマスシーズンにはお城の前でクリスマスマーケットが開催される。

Benrather Schloßallee 100-106, 40597
www.schloss-benrath.de


おすすめのアートイベント

Art:walk Festival 2026

6月13日(土)・14日(日)に初開催される新しい文化イベント。従来の「Nacht der Museen」を大幅に拡大し、50以上の文化施設が参加する。13日(土)は16〜24時まで美術館や博物館が開館し、K20/K21、クンストパラスト、NRWフォーラムをはじめとするさまざまな美術館・博物館を巡ることができる。14日(日)は12〜17時まで、劇場やコンサートホールが中心となり、ライン・ドイツオペラ、トーンハレ、市立劇場D’ hausなどが舞台裏公開や野外パフォーマンスを実施。チケット(大人25ユーロ)も発売中!
www.visitduesseldorf.de/erleben/veranstaltungen/art-walk-festival-202

Rundgang

1773年に設立されたデュッセルドルフ美術アカデミーは、ドイツを代表する美術教育機関で、ヨーゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターなど、現代アートを牽引する数多くの芸術家や芸術運動を輩出してきたことで国際的に知られている。毎年2月と7月に開催される学生作品展「ルンドガング」(Rundgang)は、アカデミーの全館が一般公開される一大イベント。次世代のアーティストの生の創作現場に触れられる貴重な機会として、デュッセルドルフ市民をはじめ、美術関係者やコレクターも注目する。入場無料。
https://kunstakademie-duesseldorf.de

Kunstpunkte

毎年8~9月の週末に開催されている「Kunstpunkte」(アートポイント)は、街中で一斉に行われるオープンアトリエ。絵画、彫刻、写真、ビデオアート、インスタレーションなど、さまざまな分野の芸術家400名以上が自らのアトリエやギャラリーを一般公開し、参加アーティストにはデュッセルドルフを拠点とする日本人作家も数多く含まれる。期間中は地区ごとにテーマを設けたガイドツアーも開催されるが、地図を片手に街を散策しながら気になるアトリエにふらりと立ち寄るのも面白い。
www.kunstpunkte.de

最終更新 Dienstag, 17 Februar 2026 11:48
 

ドイツとチョコレートの甘い関係

年間1人当たり9キロのチョコを食べる⁉ ドイツとチョコレートの
甘い関係

カフェのコーヒーカップに添えられた一口サイズのチョコレート、手土産でもらったプラリネ、季節ごとに新作が並ぶスーパーのチョココーナー……。ドイツに暮らしていると、チョコレートから逃れるのは至難の業だ。なんてったって、ここドイツは年間1人当たり約9キロチョコを消費し、チョコの輸出量世界一を誇るチョコレート大国。今月はバレンタインデーということで、そんなドイツの人々の「チョコ愛」を探り、厳選したドイツチョコをご紹介! (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:本誌1139号「チョコレート大国ドイツの愛とおいしさの秘密」

ドイツ人とチョコの愛の物語

ドイツ人とチョコの愛の物語

中南米からドイツへの長い旅路

チョコレートの歴史の始まりは中南米。紀元前に繁栄したオルメカ文明にはチョコレートの原料である「カカオ」に似た言葉があり、最初にカカオを利用したといわれている。その後、マヤ文明(4〜9世紀)ではカカオの栽培を開始し、上流階級の間で飲料として重宝された。またカカオは貨幣や神への捧げものとしての役割も果たしていたという。

16世紀初頭、アステカ王国(14〜16世紀)はスペイン軍の征服によって植民地となった。その後、スペイン人たちがカカオ飲料(チョコレート)に砂糖を入れて飲むようになり、欧州にチョコレートが到来。16世紀末には薬用効果もある高級品として、欧州各地の特権階級や聖職者の間で広まり、需要が高まったことで植民地でのカカオ生産が始まった。

産業革命によって大量生産が可能になると、安価なチョコレートが出回るようになり、1847年には英国で初めて固形チョコレートが生産された。その後、1875年にスイスでミルクチョコレートが誕生すると、ドイツでもミルクチョコレートの生産が盛んに。今日にも残るチョコレートメーカーが誕生したのもちょうどこの頃からで、ドイツの一般市民たちもチョコレートを楽しめるようになった。

戦争を経てチョコレート輸出大国に成長

第二次世界大戦中、ドイツではチョコレートのほとんどは軍向けに生産されていた。そのため、終戦後に米国の慈善団体から寄付されたチョコレートが、初めてのチョコレートだったという子どもも少なくなかったという。しかし、戦後復興のなかでドイツのチョコレート生産は再び息を吹き返す。

現在ドイツは、チョコレートの輸出量で世界一を誇り、全体の16.7%を占めている。こうした背景には、戦後にチョコレートを生産し続けてきたドイツの中小企業による地道な努力があるという。人はチョコレートを食べると幸せな気持ちになるとよくいわれるが、チョコレート生産大国の国民がチョコ好きというのは、当たり前のことなのかもしれない。

フェアトレードでカカオ農家に愛を

チョコレート生産でたびたび話題に上がるのが、児童労働問題や森林破壊などの環境問題。ドイツには、農家と公正な取引を行うフェアトレードや環境にも人にも優しい有機栽培に取り組む企業が多数存在する。さらに近年では大手メーカーもそういった問題に積極的な姿勢をみせている。

実際、ドイツ国内で販売されている菓子において、持続可能な方法で栽培されたカカオを使用しているものの割合は、2011年の3%から2024年には86%となり、年々上昇している。一方、欧州ではフェアトレード認証チョコレートが市場全体の約12%を占めるまでに成長しているものの、世界全体で見ると公正に取引されるカカオのシェアは5%未満にとどまっている。

また、フェアトレード認証といっても、一部の製品に条件を満たした原料を使用しているだけなのか、児童労働を禁ずるような100%フェアな製品なのかなど、マークの種類によって幅があることも問題になっている。

とはいえ、ドイツのように大手メーカーもフェアトレードについて積極的という国は、そう多くはないのが現状だ。世界のカカオ生産量の10%以上をドイツが輸入しているため、チョコレートを愛する国としてこのような公正な取引を行うことはある意味で「使命」。誰もが笑顔でチョコレートを食べられるように、ドイツは世界をリードしていくべきだろう。

参考:日本チョコレート・ココア協会ホームページ、CHOCION ホームページ、OroVerde – Die Tropenwaldstiftung ホームページ、WELTEXPORTE「Die international größten Exportländer von Schokolade」

ドイツ人は年間約9キロのチョコレートを消費!

欧州における年間1人当たりのチョコレート製品消費量

ドイツ人はチョコレートに年間100ユーロ以上費やす

ドイツにおけるチョコレートの推定売上高

ドイツで人気のチョコは「ミルクチョコレート」

1位:ミルクチョコレート
18〜24歳の若年層、および45〜54歳層で支持が高い

2位:ビターチョコレート
高年齢層に特に人気で、ビターチョコ愛好者の約49%が55歳以上

3位:ホワイトチョコレート
35 〜44 歳(子育て世代や働き盛りの家族層)で特に好まれている

人気メーカーから高級老舗までドイツのチョコレート&プラリネ
食べ比べてみた!

本特集のため、本誌と姉妹誌JAPANDIGESTのスタッフが、ドイツ各地の9社のメーカーのチョコレート&プラリネ(一口サイズのチョコ)の食べ比べ調査を実施!今回は、①売上トップ3の定番&新作チョコ、②最新商品テストのトップ3チョコ、③老舗チョコレート店のプラリネの三つのカテゴリに分けて試食。それぞれのブランドヒストリーとともに、スタッフのコメントも参考にしてみて!

ドイツのお菓子業界を代表する チョコレートブランド TOP 3

1 Lotus Biscoff®とのコラボ商品 Milka ミルカ Milka Extra Lotus Biscoff 190g
www.milka.de

Milka Extra Lotus Biscoff

ウシのイラストと紫色の包み紙に入ったミルカは、ドイツで人気ナンバーワンを誇るチョコレート。1826年にスイスでフィリップ・スシャールがココアの生産を始めたのがその起源で、1901年にミルクチョコレートが「ミルカ」として商品登録された。発売当初から、現在もお馴染みの紫色の包み紙が使われていたそう。100% アルペンミルクを使用し、代々受け継がれるオリジナルレシピで作られたチョコレートは、舌触りの良い繊細な味わいが特徴だ。

コメント

ロータス好きには絶対におすすめ!/ロータスのザクザク感も加わって、とんでもなく甘いけどおいしい/砕かれたロータスとチョコレートがよくなじんでいる。ガツンとした甘さで一粒の満足感が高い/ザクザク感が良いけど、自分的には甘すぎて口の中に残りすぎるかも

2 キンダーの人気チョコを詰め合わせた 「Kinder Happy Moments」 Kinder キンダー Kinder Happy Moments 161g
www.kinder.com

Kinder Happy Moments

キンダーの故郷はなんとイタリア。数々のヒット商品を生み出してきたフェレロ社のブランドとして1968年に誕生し、初の海外進出先としてドイツで成功を収めた。日本では、卵型のチョコレートの中からおもちゃが出てくる「キンダーサプライズ」(Kinder Überraschung)が知られているが、イースターの卵から着想を得たのだとか。チョコレートからアイスクリームまで、さまざまな商品ですっかりドイツの味として親しまれている。

コメント

「Kinder Riegel」と「Kinder Schokobons」は子ども時代を思い出す味/懐かしいミルクチョコの味/「KinderRiegel」が甘すぎる……という人に「Dark & Mild」を試してもらいたい/疲れた心に甘い活力をチャージできるのがKinder

3 直近の新フレーバーから「Crispy CHOCO」 Ritter Sport リッタースポーツ Crispy CHOCO 100g
www.ritter-sport.de

Crispy CHOCO

正方形のフォーマットがトレードマークのリッタースポーツ。1912年にシュトゥットガルトでリッター夫妻がチョコレートの生産を始め、戦前の1932年にこの珍しいフォーマットの板チョコが誕生した。常時20種類以上の味が販売されているが、消費者のアイデアも取り入れながら毎年新しいフレーバーが開発され、世に送り出される。また2018年以降は、100%持続可能な方法で生産されたカカオを使用していることを公表している。

コメント

機能美あふれる正方形の中に、フレーバーが凝縮されている非常に満足感の高い食感/チョコレートとクリスプの香ばしさが良いタッグ。甘すぎずさっぱりめ/コーンの香りがふわっとして、意外性があっておいしかった/思った以上に結構香ばしいコーンの味。チョコよりもコーンの味が勝る

Stiftung Warentest からピックアップ! お墨付きミルクチョコレート TOP 3

2025年12月にStiftung Warentestが発表したミルクチョコレートの商品テストから、ドイツメーカーの商品トップ3をご紹介する。

Stiftung Warentest
Stiftung Warentestとは?

消費者に代わってさまざまな商品やサービスをテストしてランク付けする独立した機関で、ドイツ版「暮しの手帖」ともいえる。ここで「良い品質」とお墨付きを得れば、売れ行きは保証されること間違いなし。
www.test.de

1 Lauensteiner Tafelschokolade
Edel-Vollmilch ラウエンシュタイン・タブレットチョコレート・リッチミルク
Lauensteiner Tafelschokolade Edel-Vollmilch
5.95€/80g (2×40g) www.lauensteiner.de

Lauensteiner
Tafelschokolade Edel-Vollmilch

60年の歴史を持つラウエンシュタインは、バイエルン州ルートヴィヒスシュタットを拠点とするチョコレートメーカー。今回の商品テストで見事トップを飾ったのは、同社のカカオ含有量45%のタブレット型ミルクチョコレート。力強い香り、カカオのわずかな酸味、フルーティーさが調和し、多面的な味が評価された。同じタブレットチョコのシリーズでは、ほかにもローズマリー・ライム・ペッパーやジン・レモンなどもあり、革新的なチョコにも定評がある。

コメント

カカオの香りとミルクのコクが絶妙な比率で溶け合い、決して甘すぎることのない品位を感じさせる/薄く作れているのに、風味がしっかりと感じられる

2 REWE Bio Edelvollmilch-Schokolade REWE ビオ・リッチミルクチョコレート
REWE Bio Edelvollmilch-Schokolade
2.19€/100g
www.rewe.de

REWE Bio Edelvollmilch-Schokolade

ラウエンシュタインと同じく「sehr gut」を獲得したのは、ケルン発の大手スーパーREWEによるビオ(オーガニック)のリッチミルクチョコレート。カカオ含有量は37%で、全体的に香り高く、ほんのりバニラと香ばしさが感じられる点が評価された。お手頃価格で上質なカカオを使ったチョコレートを味わいたい人におすすめしたい。

コメント

心地よい甘さでココアの風味あり。毎日食べるのにぴったり/甘味の強いミルクチョコレート。ホットチョコにも合いそう/砂糖が舌に残る感じがなくおいしい

3 Alnatura Vollmilchschokolade アルナトゥーラ ミルクチョコレート
Alnatura Vollmilchschokolade
2.29€/100g
www.alnatura.de

Alnatura Vollmilchschokolade

国内70都市に展開するビオスーパーAlnaturaの自社ブランドのミルクチョコレートが、ドイツメーカーとしては3位の座に。ほんのりと渋み、キャラメル感、ココアの酸味が感じられる点で評価され、gutを獲得した。コーヒーのお供にちょうどいい12.5gのミニサイズも。ほかにも、ダークナッツ、ビターオレンジ、エスプレッソなど10種類以上がそろう。

コメント

ミルク感強め。チョコはなめらかでおいしい/チョコレート特有のビターな風味/素材の個性が光る一枚。噛むほどに深い余韻が広がる

特別な人、特別な日に贈りたい老舗チョコレート店のプラリネ

Elly Seidl
エリー・ザイドル Pralinenmischung München-Serie Föhnlage
(weiße und Vollmilch-Pralinen)
€88.00/600g
https://ellyseidl.de

Elly Seidl 宝石箱のようなプラリネの詰め合わせ

エリー・ザイドルは1918年にミュンヘンにオープンしたチョコレート工房。当時のビジネスは男性中心だったことから、創立者のバーバラ・グラートヴォールは女性経営者としてセンセーショナルを巻き起こしたそう。店名は娘のエリーにちなんで付けられ、その後エリーが事業を引き継いだ。現在は120種類以上のプラリネを展開し、季節限定プラリネや新製品の開発に積極的だ。

コメント

凝ったフレーバーがたくさんあるため、誰しもが自分のお気に入りを見つけられるはず/珍しい素材を使った実験的なチョコも/見た目だけでなく、中の層もちゃんと設計されたチョコ。説明書と一緒に確認しながら食べるのが楽しい/一粒で一つの物語を完結させる。圧倒的な幸福感に満ちる

Rausch
ラウシュ Alkoholfreie Pralinen
19.90€/150g
www.rausch.de

Rausch ノンアルコールプラリネの12個セット

家族経営のパティスリーとして1890年に創業し、1918年にベルリンの高級菓子店として本格的にスタートした。1920年代に開発されたクラシックなプラリネのレシピはラウシュ家によって大切に保管され、今日に至るまでショコラティエたちが愛情を込めて作っている。ベルリンのミッテ地区にあるチョコレートハウスでは、ケーキやアイスクリームなども楽しめる。

コメント

見た目がまずとにかく美しくて、選ぶのが楽しい/一つ一つが繊細な味で、ゆっくり楽しめる/箱がおしゃれで高級感があるためプレゼントにも最適。さまざまな種類があるのでジャケ買いもいいかもしれない/本店のカフェで食べられるチョコレートをベースにした濃厚なケーキもおすすめ

Heinemann
ハイネマン Trüffel mit Champagne
27.50€/220g
www.konditorei-heinemann.de

Heinemann ハイネマン 看板商品のシャンパントリュフ

鮮やかな緑色のパッケージでおなじみのデュッセルドルフのコンディトライ。1932年の創業以来、「最高品質と鮮度」を理念に掲げてお菓子作りを続けている。名物のシャンパントリュフをはじめとするプラリネやケーキは地元の人に愛されるのみならず、欧州で高い評価を得ている。デュッセルドルフ在住の日本人の間では定番の帰省土産にもなっている。

コメント

シャンパントリュフといえばこの味!/しっかりとお酒の味が楽しめ、食べることのできるシャンパングラスのような一粒/おいしい。苦い。上品/噛んだ瞬間にブワッと広がるシャンパンの味/後半にかけてシャンパンのすっきりとした余韻が残るので一粒だけでも大満足

チョコレート好きが訪れたい ドイツの甘い名所

巨大ファウンテンのある博物館から、ドイツ最古メーカーの体験施設、オリジナル板チョコ作りができるショコラワールドまで、チョコレート好きなら一度は行きたいドイツの甘い名所を厳選。見て・学んで・味わえるスポットに行ってみよう。

チョコレートの名所

Chocoversum
チョコヴァーズム Meßberg 1, 20095 Hamburg
www.chocoversum.de

チョコレートの名所

ブレーメン発の老舗チョコレートメーカーであるHACHEZ(ハシェ)が運営するミュージアム。2016年のリニューアルによりインタラクティブな展示へと生まれ変わり、毎年20万人以上のチョコ愛好家が訪れる。巨大なチョコレートファウンテンから始まり、カカオの起源や持続可能性について学べるほか、人気のワークショップではオリジナルの板チョコを作ることができる。ミュージアムショップでは、当館オリジナルチョコ、チョコレートビールやチョコレートティーなどの珍しいドリンク、カカオを使ったコスメまで、あらゆるチョコグッズを販売!

Halloren Schokoladenerlebniswelt
ハローレン・チョコレート体験世界 Delitzscher Str. 70, 06112 Halle (Saale)
www.halloren.de

ハローレン・チョコレート体験世界

1804年創業、ドイツ最古のチョコレートメーカーとして知られるハローレン。その長い歴史と職人の精神を、楽しみながら体感できるのが「ハローレン・チョコレート体験世界」である。館内では、チョコレートの製造工程を間近に眺めることができ、伝統的なレシピと現代的な技術が交差する現場の空気を感じられる。併設のチョコレート・ギャラリーには、精巧で遊び心あふれるチョコアートが並び、思わず足を止めて見入ってしまう。実際にチョコレート作りに挑戦できるワークショップも外せない体験の一つ。

Schokoladenmuseum Köln
ケルン・チョコレート博物館 Am Schokoladenmuseum 1a, 50678 Köln
www.schokoladenmuseum.de

ケルン・チョコレート博物館

ライン川沿いに佇むチョコレート博物館は、香りと甘さに包まれながら、チョコレートの世界を五感で楽しめるスポット。展示やガイドツアー、試食体験を通して、「知る・感じる・味わう」が自然につながる構成も魅力だ。なかでも圧巻なのが、高さ約3メートルから約200キロものチョコレートがとろりと流れ落ちる名物のチョコレートファウンテン。館内では、ガラス越しに製造ラインやチョコレート工房を見学でき、カカオ豆が一枚のチョコレートになるまでの工程を間近で追体験できる。

Ritter Sport Bunte Schokowelt Waldenbuch
リッタースポーツ・チョコレートワールド Alfred-Ritter-Straße 27, 71111 Waldenbuch
www.ritter-sport.com

リッタースポーツ・チョコレートワールド

リッタースポーツ(p10)の世界観を体験型で楽しめる施設。最大の魅力は、オリジナルの板チョコを作れるワークショップで、子どもから大人まで幅広い層に人気だ。体験を通じて、カカオの特性や品質へのこだわり、さらにはサステナビリティへの取り組みについても学ぶことができる。併設の展示スペースでは、100年以上にわたるブランドの歩みをたどりながら、カカオ栽培から製品化に至るまでのプロセスを分かりやすく紹介。併設ショップには、限定フレーバーや特別商品があるので、お見逃しなく。

ドイツでもバレンタインデーはチョコが人気?

バレンタインデー

日本のバレンタインデーでは、女性が思いを寄せる男性にチョコ レートを贈る……という伝統(?)があったが、近年は職場の男性な どに贈る「義理チョコ」をはじめ、友人同士で贈り合う「友チョコ」、自分へのご褒美として「マイチョコ」、男性が女性に贈る「逆チョコ」などなど、そのバリエーションは時代と共に増え続けている 。では、ドイツではバレンタインデーをどのように過ごすのだろうか?

そもそも2月14日は、3世紀のローマで恋人たちの守護聖人である聖バレンタインが斬首された日。その後、15世紀の英国で2月14日にカップルがお互いに小さなプレゼントや詩を贈り合ったことが、今日のバレンタインデーにおける贈り物文化の始まりとされている。その文化がドイツにもたらされたのは、1950年のこと。ニュルンベルクでバレンタイン舞踏会が開催され、恋人同士のみならず、家族や友人同士でも贈り物を交換したのだそう。そして、西ドイツの経済発展とともに贈り物をする人たちが増えていったという。

ドイツでは今もなお、バレンタインデーはカップルが贈り物をする日として認識されているが、同時にバレンタインデーがあまり重要視されなくなってきた傾向も。IPPEN.MEDIAが2025年1月に実施したアンケート調査によると、バレンタインデーに贈り物をすると答えた人はわずか28%で、27%は未定、45%はプレゼントしないと回答した。その背景には、昨今の節約志向の影響もありそうだ。

同調査によると、バレンタインデーで一番人気のプレゼントは花(40%)。次いでチョコレート・プラリネ(26%)がランクインしている。さらに、香水・化粧品(22%)、食事やアクティビティ(20%)、手作りの品(9%)、アクセサリー・洋服(8%)と続く。もしパートナーへの贈り物に迷っていたら、やはりチョコレートを贈るのが無難なのかもしれない。もちろん相手を思う気持ちも忘れずに!

参考:Pepper「Umfrage zum Valentinstag: 15 Fragen, 15 Antworten」、Statista「VALENTINSTAG Die schlimmsten Geschenke zum Valentinstag」

チョコレートがぜいたく品になる?

カカオ豆

ドイツ連邦統計局によると、2025年10月時点のチョコレート製 品の価格は、前年同月比で21.8%上昇した。なかでも板チョコは 30.7%と突出した値上がりを見せ、プラリネも22.1%高となっている。これに対し、同時期の消費者物価全体の上昇率は2.3%、食品全体でも1.3%にとどまっており、チョコレートの価格上昇がいかに例外的であるかが分かる。

こうした急騰の背景には、原材料価格の大幅な上昇がある。統計局によれば、砂糖の生産者価格は2020年比で2倍超に達し、カカオ豆も世界市場で一時、過去に例を見ない高値を記録した。西アフリカでの不作に加え、国際市場における投機的取引が価格を押し上げたことが主因とされる。

問題となるのは、原材料価格が下落に転じた後も店頭価格が下がっていない点である。砂糖の生産者価格は2024年秋以降に下落し、2025年6月には前年同月比で40.2%のマイナスとなった。カカオ豆の輸入価格も、2025年9月時点で前年同月比4.0%低下している。それにもかかわらず、チョコレートの小売価格は高止まりしたままだ。

もちろん、エネルギー費や人件費、物流費の上昇が続いている現実は無視できない。特に小規模なショコラトリーにとっては、コスト増は経営の存続を左右する深刻な問題である。手仕事によるチョコレートと、大量生産の工業製品とでは、同じ「値上げ」であっても、その意味合いは大きく異なる。

それでもなお、ドイツ人のチョコレート愛が簡単に揺らぐ気配はない。消費者は購入量を抑えたり、セール時期を狙ったりと工夫を重ねながら、日常の甘い習慣を守ろうとしている。専門家は、価格を比較する際には必ず100グラム当たりの表示を確認すること、そして需要が落ち込みやすい時期の割引を賢く活用することが重要だと指摘している。

最終更新 Montag, 09 Februar 2026 15:43
 

生誕270周年記念 モーツァルトと欧州の旅

子どものおもちゃや学校の授業、CMや電話の保留音に至るまで、クラシックファンでなくてもモーツァルトの音楽を耳にする機会は多いだろう。そんな身近で偉大な作曲家モーツァルトが生まれてから、今年で270周年になる。オーストリアの作曲家として知られるが、実はその人生の多くを旅に費やしたモーツァルト。東はプラハ、西はロンドンまで欧州中を旅したモーツァルトの軌跡をたどりながら、彼の人生や作品の魅力に迫る。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

Dチケット

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
Wolfgang Amadeus Mozart
(1756-1791)

モーツァルトってどんな人?

参考:planet wissen「Persönlichkeiten: Wolfgang Amadeus Mozart」「Wolfgang Amadeus Mozart: Wurde Mozart ermordet?」

1. 「神童」として人々を魅了

1756年1月27日、ザルツブルクに生まれたモーツァルト。宮廷ヴァイオリニストだった父レオポルトの影響で、生まれたときから音楽に囲まれて育ち、4歳でピアノを弾き始め、5歳で初めて作曲したといわれている。そんなモーツァルトの才能を見抜いたレオポルトは、6歳のモーツァルトと11歳の娘ナンネルを連れて演奏旅行へと旅立つ。ピアノとヴァイオリンの並外れた演奏技術だけでなく、親しみやすい性格でも人々を魅了し、まさに「神童」としてもてはやされたのだった。

2. 嫉妬されるほどの天才作曲家

11歳になると、初のオペラを作曲。しかし、モーツァルトはほかの作曲家たちからは脅威とみなされ、作曲家として地位を築くのに苦労する。なかには、モーツァルトの作品をわざと下手に演奏して評価を下げた演奏家もいたという。そんなモーツァルトが広く認められるようになったのは、1781年にミュンヘンで初演されたオペラ「イドメネオ」の成功だった。モーツァルトの作品は複雑ながらも、キャッチーなメロディーが巧みに取り入れられ、今日もなお唯一無二の天才作曲家として知られている。

3. フリーランス音楽家のパイオニア

モーツァルトが生きた時代は、宮廷音楽家になることは地位と収入を安定させると同時に、芸術的な自由が制限されることを意味していた。ザルツブルク大司教の宮廷音楽家だったモーツァルトもその限界を感じていたようだ。1781年に宮廷音楽家を辞職してウィーンへ移り、演奏活動や作曲、ピアノの指導を行い、当時としては珍しいフリーランス音楽家となった。権威に固執しなかった彼は、自身の成功については滅多に語らなかったが、音楽愛好家のための仕事となると非常に情熱的だったと伝えられている。

4. 毒殺説も? 35年の短い生涯

1791年12月5日午前1時、ウィーンの自宅で家族と主治医に見守られながら、モーツァルトは35年の生涯に幕を閉じた。今日の研究では死因はリウマチ熱だと推定されているが、死の直後に毒殺の噂も広まっていた。実際に作曲家サリエリが晩年にモーツァルトを毒殺したと告白しており(医学的には否定されている)、このエピソードは映画「アマデウス」にも描かれている。モーツァルトが生涯で作曲した作品はおよそ1060曲だといわれているが、その一部は現在も見つかっていないという。

ゆかりのスポットをめぐるモーツァルトが旅した欧州の都市

モーツァルトはその生涯で計17回の旅に出ており、人生のおよそ3分の1(10年2カ月2日間)を馬車の中で過ごしたといわれる。200以上の都市を訪れたというモーツァルトだが、なかでも彼の人生にとって重要な場所や転機を迎えた場所など、八つの都市をゆかりのスポットと共にご紹介する。

参考:Europäische Mozart Wege、Internationale Stiftung Mozarteum、各都市の公式ホームページ

旅行をしなければ(少なくとも芸術や科学の分野では)、
人は惨めな生き物である。

Ohne Reisen (weni gstens L eute von K ünsten und Wissenschaften)
ist man wohl ein armseli ges Geschöpf!
― モーツァルトの手紙より

モーツアルトの旅

1 モーツァルトの生まれ故郷 ザルツブルク Salzburg

ザルツブルク

旧市街がユネスコ世界遺産に登録されているオーストリアのザルツブルクは、モーツァルトの生誕地。彼が幼少期に初めて作曲をしたのも、11歳でラテン語劇「アポロとヒュアキントス」を制作したのもこの街だった。演奏旅行で不在期間が長かったものの、生涯で作曲した作品の約半分がこの地で生まれたといわれる。青年期からは宮廷音楽家としてザルツブルク大司教に仕えていたが、大司教との確執により25歳の時にこの街を去り、ウィーンに移った。1880年にはザルツブルク市民によって「モーツァルテウム財団」が設立され、モーツァルトの研究やモーツァルト・ウィークを開催するなど、現在も活動を続けている。

ゆかりのスポット

モーツァルトの生家
Mozarts Geburtshaus

ザルツブルク

モーツァルトが生まれてから17年間を過ごした生家は、世界中からのファンが訪れる博物館となっている。18世紀の生活を再現した館内では、手紙や思い出の品、肖像画のほか、モーツァルトが幼少期に愛用していたヴァイオリンやクラヴィコードを見ることができる。

Getreidegasse 9, A-5020 Salzburg
https://mozarteum.at

2 グランドツアーへ出発 ミュンヘン München

ミュンヘン

ミュンヘンはモーツァルトが人生初の旅行で訪れた都市であり、姉のナンネルと共にバイエルン選帝侯マクシミリアン・ヨーゼフ3世のために演奏した。その後、モーツァルト一家は3年半にわたる演奏旅行「グランドツアー」で欧州各地を訪れているが、行きと帰りにミュンヘンを訪れている。モーツァルトは数回にわたってこの地に滞在したが、音楽家のポストを得ることは叶わず、片思いで終わったようだ。ミュンヘンを象徴する作品として、バイエルン選帝侯カール・テオドールのために1781年に作曲したオペラ「イドメネオ」がある。この作品を皮切りに、モーツァルトは瞬く間に売れっ子作曲家となったのだった。

ゆかりのスポット

キュビリエ劇場
Cuvilliés-Theater

キュビリエ劇場

王家の宮殿レジデンツ内にあるロココ様式の劇場。フランスの建築家フランソワ・ド・キュビリエによる設計で、1751~55年にかけて建てられた。モーツァルトのオペラ「イドメネオ」の初演をはじめ、数々のバロック・オペラがこの劇場で上演されてきた。

Residenzstr. 1, 80333 München
www.residenz-muenchen.de

3 モーツァルト一家のルーツ アウクスブルク Augsburg

アウクスブルク

アウクスブルクはモーツァルトの父レオポルトの生まれ故郷。モーツァルト一家はれんが職人や製本職人などを生業として、何世代にもわたってこの地に住んでいた。モーツァルトもこの都市を5回訪れており、アウクスブルクのバールフューサー教会とウルリッヒ教会のオルガンを演奏したという。また、父方のいとこで「ベーズレ」の愛称で知られるマリア・アンナ・テークラ・モーツァルトと出会ったのもこの街だ。いわゆる「ベーズレ書簡」といわれる彼女宛の手紙の数々には、下品な内容も含まれており、モーツァルトの死後長らく公開されなかったこともでも知られる。

ゆかりのスポット

レオポルト・モーツァルト・ハウス
Leopold-Mozart-Haus

レオポルト・モーツァルト・ハウス

レオポルトの生家は現在博物館として公開されており、音楽家や音楽教師であるだけでなく、子どもたちのマネージャーも務めたレオポルトについて深く知ることができる。またモーツァルトが旅先での練習に使用していた旅行用ピアノのレプリカの展示も。

Frauentorstr. 30, 86152 Augsburg
https://kunstsammlungen-museen.augsburg.de/mozarthaus

4 最初の交響曲を作曲 ロンドン London

ロンドン

1764年、モーツァルトが8歳の時に一家はロンドンを訪れ、およそ15カ月滞在している。到着からわずか4日後には、姉ナンネルと共にドイツ出身の英国王ジョージ3世の前で演奏を披露し、その後もさまざまな場で演奏会を開いた。姉ナンネルの日記によると、ロンドンでは父レオポルトが病気の間、モーツァルトは暇つぶしのために交響曲の作曲を開始。わずか8歳にして「交響曲第1番」を完成させている。さらにロンドン滞在中には、大バッハの末子で「ロンドンのバッハ」と呼ばれたヨハン・クリスティアン・バッハとも出会い、モーツァルトの作曲スタイルにも大きな影響を与えた。

ゆかりのスポット

若きモーツァルト像
The Young Mozart

若きモーツァルト像

モーツァルトが交響曲第1番を作曲した際に一家が滞在していたエバリー・ストリートからほど近い、オレンジ・スクエアに設置されている像。没後200周年を機に彫刻家フィリップ・ジャクソンが制作し、1994年にマーガレット王女によって除幕された。

Orange Square London SW1

5 イタリア音楽の影響を受けて ミラノ Milano

ミラノ

モーツァルトは生涯で3回イタリアを旅行している。特に1769~1771年にかけて父レオポルトに連れられて行った最初の旅行では、モーツァルトは新たな音楽知識を身に付け、イタリア音楽からインスピレーションを受けるなど、音楽家としての経験を積んでいった。とりわけミラノでは、委嘱作品として三つのオペラを制作。1770年に作曲された1作目のオペラ「ポントの王ミトリダーテ」の最初の3公演では、モーツァルト自身がピアノで弾き振りをして観客を喜ばせた。レージョ・ドゥカーレ劇場(スカラ座の前身)が数カ月にわたって満席になるほどの人気ぶりだったという。

ゆかりのスポット

サン・マルコ教会
Chiesa di San Marco

サン・マルコ教会

芸術地区として知られるブレラ地区に佇むサン・マルコ教会は、モーツァルトが14歳のときに3カ月間滞在した場所で、教会内にあるオルガンを演奏したという。また、ヴェルディの「レクイエム」が初演されたのも同教会である。

Piazza S. Marco, 2, 20121 Milano

6 母アンナ・マリアの死に直面 パリ Paris

パリ

1763~1766年にかけて2度パリを訪れたモーツァルトは、ルイ15世への謁見も果たしている。1778年、22歳となったモーツァルトは仕事を求めて、母アンナ・マリアと共に再びパリを訪問。パリの貴族たちから人気を集めることに苦戦していたが、オペラ座のバレエマスターだったノヴェールの依頼で「パリ交響曲」として知られる「交響曲第31番」を作曲した。初演で成功を収めたのもつかの間、熱病に侵されていたアンナ・マリアが急死する。モーツァルトは仕事でほとんど留守にしていたため、アンナ・マリアは孤独の中、次第に衰弱していったという。その数週間後、モーツァルトは悲しみのうちにパリを去った。

ゆかりのスポット

メゾン・モーツァルト
Maison Mozart

メゾン・モーツァルト

モーツァルトが母アンナ・マリアと滞在していた建物はすでに取り壊されているが、同じ住所にはメゾン・モーツァルトが立っている。プレートには「W.A.モーツァルトとその母アンナ・マリアは1778年にここに滞在した。彼の母はここで7月3日に亡くなった」と記されている。

8 Rue du Sentier, 75002 Paris

7 モーツァルトが愛し愛された都市 プラハ Praha

プラハ

モーツァルトが初めてプラハを訪れたのは、1787年にオペラ「フィガロの結婚」を自身の指揮で公演したときだった。熱狂したプラハの人々は、街中で作中のメロディを歌っていたといわれるほどで、モーツァルトは「プラハの人々は私を理解してくれる」と感じていたという。さらに、しばらくして「プラハ交響曲」として知られる「交響曲第38番」をこの地で作曲。それらの成功から、同年にはオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の初演を行っている。1791年にはボヘミア国王レオポルト2世の戴冠式のために「皇帝ティートの慈悲」を作曲しているが、初演されたのはモーツァルトが亡くなる3カ月前だった。

ゆかりのスポット

エステート劇場
Stavovské divadlo

エステート劇場

「ドン・ジョヴァンニ」の初演が行われたノスティック劇場は、現在はエステート劇場と呼ばれている。モーツァルト作品も定期的に上演。モーツァルトの生涯を描いた映画「アマデウス」のシーンの多くはプラハで撮影されているが、本劇場もロケ地の一つとなった。

Železná, 110 00 Staré Město
www.narodni-divadlo.cz

8 人生の絶頂から死へ ウィーン Wien

ウィーン

モーツァルトが初めてウィーンを訪れたのは1762年。6歳だったモーツァルトは、シェーンブルン宮殿の鏡の間で大公妃マリア・テレジアの前で演奏し、その後皇妃の娘であるマリー・アントワネットにプロポーズしたという逸話が知られている。1781年に再びウィーンに移ると、フリーランスの音楽家として活動を開始。翌年には、父の反対を押し切ってコンスタンツェ・ウェーバーとこの地で結婚した。1790年頃にはモーツァルトは音楽家人生の絶頂期を迎えていたのとは裏腹に、パーティー好きで浪費家だったことから借金にも悩まされていたという。1791年9月30日にはウィーンでオペラ「魔笛」の初演が行われたが、制作中だった「レクイエム」が未完のまま、同年12月5日に自宅で息を引き取った。

ゆかりのスポット

聖シュテファン大聖堂
Stephansdom

聖シュテファン大聖堂

ゴシック建築の聖シュテファン大聖堂はモーツァルトの結婚式と葬儀が行われた場所。死後は聖マルクス墓地にほかの死者と共に埋葬された。お墓の正確な位置は現在も不明で、ウィーン共同墓地に記念碑がある。

Stephansplatz 3, 1010 Wien
www.stephanskirche.at

モーツァルトの姉・ナンネルの光と影

マリア・アンナ・モーツァルト(1751-1829)、通称「ナンネル」は、ヴォルフガングの5歳年上の姉だ。チェンバロとピアノを弾き、グランドツアーでは弟と共に「神童」としてもてはやされた。どんな難曲でも正確かつ情熱的な演奏で人々を魅了し、レオポルトはある手紙の中で「娘は12歳にもかかわらず、欧州で最も熟練した演奏家の一人である」と記している。しかしナンネルが18歳になると、レオポルトは娘を自宅に残し、息子だけを演奏旅行に連れて行くようになる。ナンネルはピアノ教師などの音楽の仕事をしていたものの、華やかな世界から姿を消したのであった。

聖シュテファン大聖堂父レオポルトと一緒に演奏する幼少期のヴォルフガングとナンネル

ヴォルフガングが完成したばかりの作品をザルツブルクに送り、ナンネル以外に演奏させないように指示したという逸話がある。ヴォルフガングが演奏家としての姉の才能に信頼を置いていたことを物語っている。一方で旅行先のヴォルフガングがナンネルに宛てたある手紙には「親愛なる姉よ! あなたがこんな作曲ができるとは、深く感銘を受けました」と記されており、作曲もしていたと考えられている。しかし、彼女の作曲した作品は一つも残されていない。一説によると、ヴォルフガングのヴァイオリン協奏曲全5曲のうち、3曲はナンネルが書いた可能性もあるという。

一部の研究者からはヴォルフガングよりも才能があったのではないかといわれるナンネル。女性の権利が制限されていた時代に生まれ、その人生には多くの葛藤があったに違いない。そんな彼女にフォーカスしたドラマシリーズ「Mozart/Mozart」が、2025年12月にドイツ公共放送ARDにて放映された。1780年代のモーツァルト姉弟を描きつつ、当時の女性の視点を取り入れた新たなモーツァルトのエピソードを楽しむことができる。

「Mozart/Mozart」ドラマ「Mozart/Mozart」は全6話、ARDメディアテークで視聴可能(ドイツ国内のみ)

パリに愛されなかったモーツァルト

1791年にモーツァルトが亡くなった後もなお、フランスではモーツァルト作品は注目されず、18世紀末までコンサートホールや劇場で演奏されることはほとんどなかったという。1793年に「フィガロの結婚」のフランス語版がパリ・オペラ座のレパートリーに加わったものの、フランス革命のさなかだったこともあり、ほぼ無名のモーツァルトの作品が成功するチャンスはなかった。

転機が訪れたのは、1801年のこと。パリ・オペラ座が「魔笛」のフランス語版として制作された「イシスの神秘」を上演して成功する。また、同年にモーツァルトの伝記が2冊出版された。さらに、ドイツの劇団がオリジナル版の「後宮からの誘拐」をパリで上演し、主人公の恋人コンスタンツェ役をモーツァルトの義姉アロイジア・ヴェーバーが務めた。こうして死後10年経って、フランスでモーツァルトの名が知られるようになったのである。

「魔笛」1863年のパリ・オペラ座で上演された「魔笛」の舞台デザインイメージ(作者不明)

パリ・オペラ座は「イシスの神秘」の成功から、「ドン・ファン」の上演を決定。しかし、台本は書き換えられ、フランスの聴衆が好みそうな音楽に編曲されている。それでも1805年の初演では、多くのマスコミが「野蛮なモーツァルトの音楽がパリ・オペラ座を侵略した」と激しく非難。モーツァルトを批判する者と擁護する者との間で論争が起こった。

その後、パリのイタリア座では著名な歌手によってモーツァルトのイタリア語オペラが上演され、器楽曲にも次第に注目が集まっていく。1830年頃には、モーツァルトは「古典派」の作曲家として地位を確立。19世紀初頭はモーツァルトはオペラ歌手の才能を開花させる作曲家の一人にすぎなかったが、歌手が作曲家を際立たせる役割を担う時代になったのである。1866年には「ドン・ファン」がパリの三つの主要劇場で同時上演されるまでになり、モーツァルトの作品はパリの人々に愛される存在となったのである。

参考:Opéra national de Paris「I. Mozart’ s three stays in France」「II. Mozar tadapted to French taste (1793-1830)」「III. Acclamation on opera-house stages」

ザルツブルクで生誕270周年をお祝い!

■ モーツァルト・ウィーク
Mozartwoche 2026: Lux Aeterna

会期:2026年1月22日(木)~2月1日(日) https://mozarteum.at/mozartwoche

Mozartwoche 2026: Lux Aeterna

生誕200周年を迎えた1956年から毎年故郷のザルツブルクで開催されてきた音楽祭で、1月27日の誕生日前後に開かれる。著名な指揮者、オーケストラ、ソリストが集い、コンサート、オペラ、室内楽などを通して、モーツァルトの作品を再発見する機会となっている。モーツァルト生誕270周年、音楽祭70周年に当たる今年は、若くして亡くなったモーツァルトを不滅の存在として讃える「Lux Aeterna」(永遠の光)をテーマに掲げる。およそ70のプログラムのハイライトは、芸術監督ローランド・ビリャソンの演出による新作の「魔笛」だ。その注目度の高さから追加公演が決まったものの、残念ながら全て満席となっている。

■ 特別展「宇宙の魔笛」
Sonderausstellung: Kosmos Zauberflöte

期間:2026年1月16日(金)~4月7日(火)
https://mozarteum.at/mozart-museen/mozart-wohnhaus

特別展「宇宙の魔笛」

モーツァルトの家(Mozart-Wohnhaus)では、モーツァルト・ウィークの新作「魔笛」の上演に合わせて、特別展を開催する。「モーツァルトの魔笛」と「モーツァルト時代のフリーメイソン」に焦点を当て、貴重なコレクションの数々を展示。その中には「魔笛」の初演で掲示されたポスターも。また同施設では、モーツァルトが「魔笛」を制作時に滞在していた「魔笛の家」(Zauberflöten-Häuschen)も見学できる。

特別展「宇宙の魔笛」

最終更新 Montag, 26 Januar 2026 14:09
 
新春 英国・ドイツ2国特集

AI・SNS時代に考える欧州で暮らす私たちと
メディアの距離感

AIやSNSが生活のあらゆる場面に入り込み、私たちのメディアとの関わり方や言葉との向き合い方も大きく変化している。欧州では、未成年のSNS使用制限やメディア・リテラシー教育の強化など、情報環境の見直しが進む。2026年新年号では、英独を中心にメディアをめぐる現状を多角的に捉えながら、研究者や文化人に「メディアとの向き合い方」について聞いた。マスメディアを超えて広がる多様な声の中から、自分に合った情報の選び方を探っていきたい。(文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

メディアとの距離感

なぜ今「情報との付き合い方」を問うのか

情報の海と加速するデマ

現代社会は、かつてない規模の「情報洪水」に覆 われている。ソーシャルネットワーキングサービス (SNS)のタイムラインを開けば、真偽不明の情報が次々と流れてくる。人工知能(AI)に質問すれば、もっともらしい答えが返ってくるし、あるいは本物と見分けがつかない画像や動画を瞬時に生み出してくれて便利だ。しかし、どのAIプラットフォームにも必ず小さくこう書かれている。「回答は必ずしも正しいとは限りません」。私たちは日々、「何を信じ、どう受け止めるか」という選択を迫られているのだ。

この問いは新しいようでいて、実は古代から続いている。ギリシャのソフィストたちは、言葉を単なる写し鏡ではなく、現実に働きかける力として捉えた。プロタゴラスは「人間は万物の尺度である」と述べ、真理が人間の認識と切り離せないことを示した。ゴルギアスは「言葉は魂に作用する」と洞察し、語りが感情や判断を動かす事実を照らす。言葉が世界を組み替えるという修辞観は、私たちの時代にも通底している。

今日では、インターネット上の一投稿や映像が、社会の「現実」を塗り替える。2020年のコロナ禍では、デマがワクチン接種を妨げ、社会不安を煽った。2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、虚偽情報が爆発的に拡散し、情報戦の新局面を示した。そして生成AIの普及によって、誰もがそれらしい偽情報を「作れる」時代が到来している。

各国が模索する情報空間の安全

こうした状況に対し、欧州では法整備を通じて情報空間の安全を守る動きが進んでいる。欧州連合(EU)は2024年、世界初の包括的なAI規制法「Artificial Intelligence Act」を施行。同年、デジタルサービス法(DSA)の全面適用も始まり、大手プラットフォームに対して違法コンテンツの迅速な削除を義務付けている。EUは「技術は市場に任せるだけでは制御できない」という立場を明確にした。

英国は2023年に「オンライン安全法」(Online Safety Act)を成立させ、未成年保護や誤情報対策を包括的に扱う。きっかけは2017年、SNS上の自殺関連投稿に触れ続けた14歳の少女が自ら命を絶った事件だ。アルゴリズムが有害コンテンツを次々と表示し、少女を絶望の渦へと引き込んだこの出来事は、プラットフォームの責任を問う議論の転換点となった。

一方、日本ではAI事業者向けガイドラインの策定やSNSの透明性向上をめぐる議論が進められている。欧州のような厳格な規制ではなく、「柔軟なガバナンス」で成長と安全の両立を図る方針だ。

どんな現実を共につくるか

もっとも、法制度は乱用を抑えつつ自由を保障する「外枠」にすぎない。その内側で私たちがどう振る舞うかは、依然として大きな課題だ。プロタゴラスに立ち返れば、「真理は唯一ではなく、人の数だけ見方がある」。多様な意見が共存する社会では、他者の言葉を理解し、解釈を更新し続ける努力が欠かせない。一人ひとりが情報との付き合い方を選ぶこと、その選択の積み重ねこそが、私たちの未来を映し出すのかもしれない。

参考:GOV.UK「Guidance Online Safety Act: explainer」、Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz「Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken」、EU Artificial Intelligence Act「Official Journal」、Bundeszentrale für politische Bildung「Gegen den Hass im Netz」、The Guardian「how Molly Russell fell into a vortex of despair on social media」

疑うのではなく、理解し関わるAI・SNS時代のメディアリテラシー

技術の進歩によって、ニュースの選び方も届け方も大きく変わりつつある。AIが記事を推薦し、SNSで誰もが発信者となる今、私たちに求められる力とは何か。メディアリテラシー教育を専門とし、テレビ・ディレクターとして制作現場も経験してきた昭和女子大学准教授の村井明日香さんに、情報を「疑う」のではなく「理解する」ための視点について聞いた。

村井明日香さん 村井明日香さん
Asuka Murai
メディア研究者。昭和女子大学人間社会学部准教授。テレビディレクターとして報道・ドキュメンタリー番組の制作に携わった後、メディアリテラシー教育の研究者に。現在は大学でメディア論を教えるかたわら、学校や市民講座などでもワークショップ等を実施している。

Q1. そもそもメディアリテラシーとは何ですか?

私がよく参照するのは、メディア教育研究者である中橋雄さんの定義です。すなわち、メディアリテラシーとは「メディアの意味と特性を理解した上で、受け手として情報を読み解き、送り手として情報を表現・発信するとともに、メディアのあり方を考え、行動していくことができる能力」(中橋雄『メディア・リテラシー論』北樹出版、2014年)であると。つまり、メディアの重要性を共有しながら、それをより良いものにしていこうとする主体的で前向きな姿勢が、メディアリテラシーの本来の姿だと思います。

一方で、今の大学生にメディアリテラシーに関する授業を行うと、多くの学生が「メディアを疑うことを忘れないようにしたいと思います」というような形でまとめたレポートを提出してきます。というのも、日本では特にメディアリテラシーを「メディアを批判的に読み解く」と訳したために、「批判すればいい」と誤解されてきた面があるのです。

英語の「critical」には「批評的」や「吟味的」といったニュアンスがあり、日本語の「批判」とはニュアンスが異なります。その翻訳のずれが、メディアリテラシーの本質を見えにくくしてきた面があるかもしれません。メディアを批判したり、遠ざけたり、ボイコットしたりすることは、むしろメディアリテラシーの理念と逆行します。

Q2. このメディアリテラシーに対する「誤解」は、なぜ生まれてしまったのでしょうか?

その一因として、日本がメディアスタディーズを専門科目として中等教育に取り入れなかったことがあると思います。例えば英国やカナダでは、メディアスタディーズの専門の先生が学校にいます。私も英国滞在中に授業を見学したことがありますが、専門的な観点からメディアについてうまく教えているなという印象でした。もちろん課題もあって、英国の場合はあくまで選択科目なので、科目を選択をしなかった生徒は全くメディアについて学ぶことなく中等教育を卒業していくことになります。

一方、日本ではメディアリテラシーを教えるのがメディアの専門家ではなく、国語や社会、美術、あるいは技術の授業などで、各担当の先生が少しずつ教えるという形なんです。全ての生徒がメディアについて学ぶ機会を担保するような仕組みになっていて、これにはいい面もありますが、内容面では専門性をより高めていく必要があるでしょう。

そして今、AI・SNS時代を迎えて、このメディアリテラシーへの誤解の影響がより深刻になっていると感じています。AIが記事を選び、SNSで誰もが発信者になれる時代だからこそ、「疑う」だけでは足りない。むしろメディアの仕組みを理解し、主体的に関わっていく力が、これまで以上に求められています。

欧州でも広がる未成年のSNS規制

昨今、未成年者をSNSの有害な影響から守るため、法律による規制強化の動きが急速に広まっている。背景には、SNS利用による子どもの精神衛生への悪影響や、依存性の高いコンテンツ、暴力的な情報への曝露リスクの増加がある。

オーストラリアでは昨年12月、16歳未満の子どものSNS利用を禁じる法律が施行。国レベルでの措置は世界初となる。一方、EUはデジタルサービス法などで未成年者保護を規定し、運営企業への責任追及を強化。デンマークでは15歳未満のSNS利用禁止を首相が表明しているほか、英国やドイツでも年齢確認やアカウント保有の制限が議論されている。

もっとも、表現の自由や憲法との適合性、子どもによる規制の迂回可能性など、SNSを法的に禁止する際の課題は多い。各国は、デジタル時代の権利と保護とのバランスを慎重に模索する必要がある。

参考:European News Room「To ban or not to ban: EU countries debate social media age limits」

未成年のSNS規制

Q3. それでは、具体的に身につけるべきメディアリテラシーとは?

最も基本的な学びとしては、ニュースがどのような基準で選ばれているかを理解すること。また、経済基盤に対する視点も欠かせません。例えば、NHKは受信料、民放は広告収入が主というように、経済的な基盤が異なります。こうした違いが番組内容にどう影響するのかを学ぶことも大切です。

ロンドン大学のデービッド・バッキンガム教授は、メディアリテラシー教育を「制作」「言語」「表象」「オーディエンス」の四つに整理して説明しています。多角的にメディアを理解するための包括的な枠組みを提示してくれているので、とても参考になると思います。

バッキンガム教授による
メディアリテラシー教育の枠組み(抜粋)

制作
  • どんなテクノロジーが使われているか
  • 誰がメディアを作り、所有し、どのように利益を生むのか
  • 誰がメディアの制作や供給を制御するのか
  • 誰の声が聞かれ、誰の声が排除されているか
言語
  • メディアは理念や意味を伝えるためにさまざまな様式の言語をどのように使うか
  • メディアの文法上の「ルール」はどのように確立されているか。そのルールが破られたらどうなるか
  • 映像、音声、言葉の組み合わせや配列を用いて意味はどのように伝えられるか
表象
  • このテクストは現実に忠実であろうとしているか
  • メディアの世界に何が含まれ、何が排除されているか
  • 特定の世界観や価値観を支持しているか
  • 特定の社会集団や問題についての私たちの見方に影響を与えているか
オーディエンス
  • メディアはどのようにして特定のオーディエンスに照準を定めるのか。彼らに対してどのようにして興味を引こうとするか
  • オーディエンスは日常生活でどのようにメディアを利用しているか
  • オーディエンスはどのような楽しみをメディアから得ているか。彼らは何が好きで何が嫌いか
  • オーディエンスの行動において、ジェンダー、社会的階層、年齢、民族的背景が果たしている役割は何か

(出典:Buckingham, D. (2003) Media Education, Polity Pressを参考 に編集部が作成)

Q4. メディア上ではAI生成コンテンツがどんどん増えていますが、そうしたなかで人間の制作者が担うべき役割も変わってきていますか?

AIが記事を自動で選択して配置するニュースサイトが登場するなか、逆にメッセージ性を持った編集というのが、すごく生きてくる時代になっているように思います。例えば、日本のニュースサイトでも、AIがトップ記事を選び、自動的に表示させるようなものも増えてきました。

一方で、メディアの役割は読者の興味やニーズに合った情報を提供することだけではありません。もしAIが読者の興味だけでニュースを選んでいたなら、絶対に上位に表示されないようなニュースがあります。例えば、これまで日の当たらなかった人々や弱者に関する報道には、こういったものも知ってほしいとか、世の中がこうなってほしいというようなメッセージが込められています。思いの込められた記事作りやニュース選びには、やはりキラリと光るものが見えますよね。ほかにも、編集者や記者個人がSNSを通して発信するということも当たり前になってきました。

編集という行為は、単に情報を伝わりやすいように羅列するだけではなく、そこには必ず、送り手の価値観や社会に対する姿勢が反映されていると思います。AIの時代だからこそ、「人間による選択」の意味が際立つのかもしれません。

ネット記事の半数以上がAI生成?

AIによる記事生成が急増しており、SEO企業Graphiteの調査では、2024年末〜2025年初めにかけてネット上の記事の過半数(最大55%)がAIによるものだったという。ただし、今後もAI記事が爆発的に増加するとは考えにくいとの見解も示されている。というのも、AI記事は検索結果で上位表示されにくいことが別の調査で分かっており、制作側も限界を認識し始めていると分析している。

しかし、ますます多くのメディアが、コスト削減や生産性向上のためにAI技術を導入しており、AIで生成されたコンテンツの普及は今後も加速していくと考えられる。多くの読者にとっては、閲覧している記事がAIによって作成されたものかを判断することは難しい。AI生成コンテンツには明確な表示を行うなど、読者が情報源を理解した上で判断できる環境を整備することが急務だろう。

参考:Graphite「More Articles Are Now Created by AI Than Humans」

AI生成?

Q5. AIやSNSによる情報が氾濫する現在、あらためて「あり方を考え、行動する能力」としてのメディア・リテラシーをどう実践すべきでしょうか?

メディアというのは、単にその現状を客観的に伝えるものではないということを、もっと読者に説明していいんじゃないかと思っています。例えば欧米のメディアではそれぞれが応援する政治家や政党が明確です。一方、日本のメディアは公平中立を掲げてきたところがあるので、それを受け取る側の人たちも、そこに何か送り手側の主張があるということに対して、ものすごく嫌悪感があるわけですよね。

しかしそれは、やはり現実とずれています。情報の送り手側は自分たちの判断で社会をより良くしようという意思を持って報道をしているわけで、そこには必ず送り手の視点が介在しています。それを「偏向」として忌避するのではなく、むしろその判断の背景を理解し、複数の視点を比較することこそが、成熟した情報との向き合い方ではないでしょうか。

また本来、SNSの強みは一次情報を発信する人々が増え、これまでのメディアでは得られなかった情報にアクセスできることや、これまで声を上げられなかった人が自分で発信できることがポジティブな側面のはずでした。しかし、そこにアルゴリズムによるフィルターバブルや、フェイクニュースの拡散などが複雑に絡み合い、さらにAIによって生成されたコンテンツが急速に増えている。正しい情報を判断するのはどんどん難しくなっています。

完璧な方法があるわけではありませんが、ある情報を受け取ったら、できるだけ複数のソースで確認することが重要だと思います。もう一つは、情報の発信源がどこにあるか、すなわちこの記事を書いたのは誰でどんな人なのかを調べてみるのは有効です。「誰が、なぜ、この情報を発信しているのか」を意識的に考える習慣が、私たちを情報の海で溺れさせないための、最初の一歩となります。

おすすめの書籍

『世界は切り取られてできている』

『世界は切り取られてできている』
中橋雄 編著
村井明日香、宇田川敦史 ほか著
NHK出版 2024年2月刊行

メディアは「現実」を伝えているのか?統計やグラフはどのように読めばいいのか? 動画やコンテンツを作る上でトラブルを避けるにはどうすればいいのか? 日常に浸透したAIとどのように付き合うべきか?あふれかえる情報に惑わされず、偏見や差別を回避し豊かな社会を目指すための、メディア社会に生きるすべての人に向けたメディア・リテラシー入門書。

欧州ゆかりの9人に聞いた日々の情報との向き合い方

ニュースのプロ、学者、文化人、アーティストなど、欧州で暮らす9人が日々選び取っている情報源とは。信頼しているメディアや、生活の中でどのように情報に触れているかを語ってもらった。ポッドキャスト、YouTube チャンネル、ニュースレター、雑誌、SNS、そして個人の発信まで。多様な選択の中に、今の時代を映すヒントがある。

小林恭子さん Ginko Kobayashi
小林恭子
在英ジャーナリスト。英国をはじめとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。英国ニュースダイジェストでは毎号「英国メディアを読み解く」を執筆。著書に『英国メディア史』(中公選書)、『なぜBBCだけが伝えられるのか』(光文社新書)など。

信頼できる情報とは何か

自分にとって信頼できる情報とは何か。その判断の方法ですが、正確な、あるいは正確な情報を提供しようとする組織、メディア、個人からの情報を「信頼できる情報・事実」として取り込んでいます。「信頼できる」というのは、この組織、メディア、人であれば正確なことを言っているだろうという判断です。どのように信頼できるとするのかというと、例えばBBCのように「偏りのない情報を出そうとする」方針があるのかどうか、党派的でない、特定の主義主張を基に事実をねじ曲げていない、長年にわたって主張が一貫している、ほかの人も信頼している、などが挙げられます。

ニュースの調べ方としては、BBC のほか、「タイムズ」紙、「テレグラフ」紙などのニュースサイトをチェックし、だいたいの情報と「保守系はどう考えているのか」を知り、チャンネル4の19時のニュース番組で「左派リベラル系の主張」を見ます。また、BBCやスカイニューズのほか、海外のニュースサイトも確認。BBCラジオ4の定時ニュースは毎日自分のタイミングで聴き、ポッドキャストで専門家の見解をチェックしています。欧州での生活を通じて、国際的観点から物事を見るようになりました。欧州情勢の理解には歴史の把握が欠かせませんので、世界大戦で起きたことも学ぶようになりました。ニュースで疑問があったときや、歴史的な事柄を調べたいときにAIを用いることも多いです。

おすすめメディア

Political Currency

Political Currency

元財務相ジョージ・オズボーンと元・影の財務相エド・ボールズが、経済政治について漫才のような掛け合いで語るポッドキャスト。政権の中心にいた人たちの本音が分かるほか、オズボーン氏の見方は国内政治の分析に役立ちます。

BBC Newscast

毎日1回配信されるBBCのポッドキャスト。BBCのジャーナリストたちがその日のトピックについて気軽に語り合うスタイルなので分かりやすく、リラックスして聴けます。特定のニュースのことをよく知るのにも便利です。

木村クリストフ護郎さん Goro Christoph Kimura
木村クリストフ護郎
上智大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は社会言語学、ドイツ語圏地域研究。 とりわけ、社会を形成・運営する基盤としての言語とエネルギーについて研究・教育を行っている。ソルブ語をはじめ、手話やエスペラントなどの多様な言語を話す。

言語とメディアが形作る世界の見え方

絶対に信頼できる情報というものはありませんが、実際に現場に行って取材したジャーナリストによる情報、つまり誰がどこでどのように得たかが明確な情報は、玉石混交のインターネット検索やSNSの伝聞よりは信頼できると考えています。また、AIは情報をまとめてくれて便利ですが、多数派の常識(正しいとは限らない!)に沿う可能性が高く、一見客観的に見えても、どのようなデータに基づいているかで答えが変わるので、あくまで参考程度にしかならないと思います。

メディアや言語は、単なる情報の器ではなく、情報を加工して形作る重要な要素です。だからこそ、どんなメディアやどの言語で発信された情報なのかを意識しています。速報性ではSNSやネットが優れていますが、じっくり考えるのには向きません。ネットではゴシップも災害も同列に扱われ、情報の軽重の感覚がおかしくなる気がします。その点、重要度に応じてメリハリがある新聞は、依然として重宝しています。

言語の観点から言えば、日本語のニュースは日本人や日本に住む人を念頭に置いているのは当然ですが、英語だから国際的とは必ずしも言えません。例えばBBC NewsやCNN Internationalは「国際性」や「グローバル性」をうたっていますが、前者は英国、後者は米国の動きに焦点があり、それぞれの「自国化」が明確です。他地域を理解するためには、それらの地域の言語での報道がやはり一番だと思います。

おすすめメディア

MONATO

MONATO

エスペラント語の月刊誌で、世界各地の人が現地の視点から書いた記事を、編集者がファクトチェックをした上で載せています。世界の多様な生の声を知ることができます。これを読むためだけにエスペラントを学ぶ価値があるといったら言いすぎでしょうか。
www.monato.be

住んでいる地域の新聞・メディア

ドイツに住んだことで、現地密着情報の醍醐味を知りました。ドイツは街ごとに輪郭がはっきりしていて、個性ある新聞などのメディアが充実しています。それを読んで一日を始めると、自分の住んでいる街の情報が分かって生活が豊かになりました。

谷口仁子さん Noriko Taniguchi
谷口仁子
Adobe Brand Studioのクリエイティブディレクターとして、ブランディング、表現全般を手がける。以前はアートコレクティブ「チームラボ」でカタリストとして活動。学生時代はロンドンでアートを学ぶ。

「つながりすぎる時代」と距離を置く

最終的には、自分の考えや判断軸を育てるために情報を得ているのだと思います。そのためには、さまざまな意見や視点に触れることが大切。ただ、SNSやAIによって情報収集が効率的になった一方で、次々と新しい情報が流れ込んできて、肝心の「考える時間」を持ちにくくなっていると感じることもあります。ロンドンにいたときは、地下鉄の中で電波が届かないなど、ちょうどいい遮断があったのですが、東京では常時接続なので、意識的に情報から離れる時間を取るようにしています。「スロー・インターネット」という言葉がありますが、情報の波に飲み込まれず、自分の意志で選び取ることを心掛けています。それでも、どうしても見てしまうときは、iPhoneの画面をカラーフィルタで白黒に設定して抑止しています(笑)。

一方、AIはさまざまな場面で活用しています。調べものや作業など、AIによってかなり効率化されたと感じています。ただ、あまりに大きなテーマを丸投げしてもうまくいかないので、基本的には、具体的に指示を出せる範囲で手伝ってもらう「相棒」のような存在として使うように。先日も、購入した英語の本が想像以上に専門的でした。そこでAIに難解な文章の翻訳を頼んでみたところ、文脈を踏まえて訳すだけでなく、用語や時代背景の解説まで添えてくれて。以前なら自分一人では到底読み解けなかった内容を理解することができ感動しました。

おすすめメディア

Louisiana Channel

デンマークのルイジアナ美術館が運営しているアートにまつわるYoutubeチャンネル。世界のアーティストたちの言葉や思想に触れることができ、知的な刺激に満ちています。内容だけでなく、映像としてもとても美しくて癒やされます。
www.youtube.com/c/thelouisianachannel

Are.na

Pinterestのようにビジュアルを集めたりリサーチしたりできるプラットフォーム。広告もアルゴリズムもなく、どこか「静けさ」を感じさせるシンプルなつくりが魅力。落ち着いて考えやアイデアを深められる場所です。
www.are.na

カセキユウコさん Yuko Kaseki
カセキユウコ
ベルリン在住。舞踏の師匠である故古川あんず氏を追いかけ、91年に渡独。ブラウンシュヴァイク芸術大学パフォーミングアーツ科に在籍した。舞踏をよりどころに、テキストや音楽、現代美術など、さまざまな分野と交わりながらパフォーマンスを行っている。 www.cokaseki.com

「知らない方がいい」で過ごしてはいけない

たくさんの人々が抱えている(であろう)問題と、顔を付き合わせる毎日です。溢れんばかりの情報に踊らされ、怒ったり泣いたり笑ったりしています。気が付けば一日中、次から次へと流される情報と生活してしまいます。特に今の戦争、紛争を知れば知るほど、複雑に絡み合った歴史が善悪を超えた様相を呈し、ただ何もできない自分へのいらだち、罪の意識にやるせない思いで身動きできないでいました。

SNSで私が得た情報をリポストすることで、反対の立場に立つ人々からの攻撃を受けることもあります。なるべく対話したいと思うのですが、話は平行線で噛み合うことは難しい。立ち位置が違うだけで対立を深め、敵にさせられていく。俯瞰の視点を持ちつつ、対話をしていく、そしてお互いに修正、認め合うことができるのかが問われていくのだと思います。

ドイツに移住してから政治について情報を集め、話す機会が増えました。日本から離れることで、かえって日本の政治状況にも興味が湧き、これまでいかに自分が社会に対して無関心であったのかと思い返されます。今の世界状況は「知らない方がいい」で過ごしてはいけない状況ではないかと思います。何が正しいのか、間違っているのかは、幅広い知識がなくては判断もできません。知ることで狭く硬くなるのではなく、柔らかく広がる判断ができるようになりたいです。

おすすめメディア

AL jazeera

アラビア語と英語でニュースを24時間放送している衛星テレビ局。本社はカタールのドーハ。メジャーなメディアでは伝えられないニュースを、さまざまなジャーナリストや識者の意見を交えて放送しています。
www.aljazeera.com

街録ch 〜あなたの人生、教えて下さい〜

著名人から一般の人まで、その人の生い立ちと現在の生き方を露わにするインタビュー番組。YouTubeでなければ知りようもない人々が登場し、人間の深さも愚かさも垣間見ることができます。
www.youtube.com/@gairokuch

久保山尚さん Hisashi Kuboyama
久保山尚
スコットランド在住。英国最大規模のビジネス利益団体で政策研究・ロビー活動に従事する傍ら、SNSなどで政治や社会情勢に関する正確な情報を発信する。エディンバラ大学人文社会科学部歴史学専攻博士課程修了(PhD, Scottish History)

情報の正確さを見極める

情報源としてはSNS全盛の時代ですが、SNSで見かける情報については信頼できる情報源、例えば新聞や報道機関のウェブなどで必ず裏を取るようにしています。報道機関は誤った情報を流すと信頼に関わるため、情報源や第三者から得られた情報と照合して、正確かどうかをチェックすることを義務付けているからです。

SNSで流れてくる情報にはそのような正確性が担保されているとは限らないので、見たものを鵜呑みにはしないようにしています。例えばSNSで最近よく「英国は移民を入れすぎて社会が崩壊している」というポストを目にすることが多いですが、統計やデータを調べると、英国では過去20年間ほどで犯罪率がほぼ全ての分野で減少しています。ニュースやSNSでは犯罪の情報が常に流れ、ひどい犯罪が日常的に報じられているため、犯罪率が下がり続けていると言われても信じ難いかもしれませんが、これは事実なのです。

一方で新聞やテレビといった報道機関は信頼度が高いですが、情報の取捨選択に関しては完全に客観的とはいえませんし、社会の関心などによって報道の重点は大きく左右されます。メディアもやはり商売なので、人々が飛びつく情報を流しがちになるわけです。その意味で、報道される情報やニュースはショッキングなものが多くなりがちなので、そこは常に頭の片隅に入れておくべきだと思います。

おすすめメディア

The Times

The Times

英メディアに関しては、精度という点では「タイムズ」紙と「フィナンシャル・タイムズ」紙が頭一つ抜けており、この二つを読めば大体のことは分かります。情報源という点に関しては、SNSはかなり注意が必要だと思います。
www.thetimes.com

城島未来さん

日本語で英国に関する精度の高い情報を得るのは容易ではありませんが、現地で記者が直接取材を行う媒体は貴重です。その中でも、TBSロンドン支局特派員の城島未来記者は丁寧で確かな取材を重ねており、信頼できる報道を発信しています。
https://x.com/mikojoburg

小畑和香子さん Wakako Obata
小畑和香子
フライブルク在住。日系企業に勤める傍ら、モビリティシフトを目指す市民活動に参加。3件の自転車市民決議(州民/住民請求)、カーゴバイクシェアシステム運営など経験。共著に『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた 人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン』(学芸出版社)。

情報との距離感と発信の倫理

私が「信頼できる」と考えるのは、客観的な伝え方をしていて、出典に紐づけることができる情報です。そのメディアや発信者の蓄積を見て、信頼性を見極めるようにしています。

自転車市民決議に参加していた時期や共著を執筆していた頃は、積極的に関連するニュースを追っていました。しかし最近は、モビリティシフトへの向かい風が強まっていることもあり、ネガティブな情報が心理的に影響するようになったため、受動的に情報に触れる形に変えました。意識的に距離を取ることも、情報との健全な付き合い方だと感じています。交通やまちづくりといったテーマでは、日本語圏のSNSにおいて男性発信者の割合が偏って多いことも気になっています。特定のテーマ発信への時間の使い方にジェンダー差があることは問題だと考えています。だからこそ、自分にとって心地よくない空間にならないよう、見る範囲を調整しながら向き合うようにしています。

情報を発信する立場としては、住民請求のアカウントを運営していたときには「絶対に賛成する層」と「絶対に反対する層」の間にいる大多数の人々に訴えかけることを強く意識していました。文法を正しく「ジェンダーする」こと、ボディ・シェイミングを支持しないこと、写真や動画で個人の匿名性を守ることなど、細部への配慮を大切にしながら発信してきました。

おすすめメディア

Cycle

MONATO

「自転車生活を楽しく」をテーマとした、15年以上続く日本のフリーペーパーとウェブマガジン。スポーツではなく、カルチャーとしての自転車にまつわるあれこれを知ることができます。自転車に普段乗らない方にとっても、「自転車」という切り口から多彩な世界が見えてくるはず。
https://cycleweb.jp

Ingwar Perowanowitschさん

モビリティシフトに関心があるドイツ語圏の人がよくフォローしているジャーナリスト。交通政策関連ニュースや、欧州の自転車インフラ先進事例を紹介しています。
www.instagram.com/ingwar.perowanowitsch

國枝孝弘さん Takahiro Kunieda
國枝孝弘
慶應義塾大学総合政策学部教授。専門分野はフランス文学およびフランス語教育で、異文化理解を促す授業構築や、文学と言語表現に関する研究を中心に展開。 公共メディアでの活動として、NHKの語学番組「テレビでフランス語」などで講師を務めた実績がある。

自分の立場を問うメディアとの対話

速報ニュースを追うことは少なくなりました。その代わりに、「ル・モンド」や「アルテ」など信頼性の高い媒体で、背景を掘り下げる論説系のポッドキャストを中心に聴いています。またフランスでは、ラジオ番組の多くがポッドキャストとして配信されており、時差の関係でリアルタイムで聞けない番組も好きなときに聴けるのが便利です。

もちろん、それらの報道を鵜呑みにしているわけではありません。判断に迷うときは信頼するジャーナリストのSNSを参考にしますが、その人が常に正しいとは限らない。情報を受け取る際に大切なのは、最終的に「自分がどういう立場を取るか」を意識することだと思います。

SNSはXとBlueskyを併用しています。フランスでは大手メディアがXから撤退し、Blueskyに移行しているため、後者が欠かせない情報源になっています。一方で、個人のジャーナリストの多くはいまだにXを活用しており、両方を見比べるようにしています。欧州で実感するのは、独立系メディアやフリーランス記者の重要性です。大手とは異なる視点が情報の多様性を支えていると感じます。

AIは避けるものではなく、授業の中でも実際に取り入れています。例えばフランス語の授業では、学生にAIを使って練習問題を作らせ、それを別の学生が解くというアクティビティーを行っています。AIを活用することで、学び方や考え方の幅が広がると感じています。

おすすめメディア

France Culture

フランスの公共放送「Radio France」の文化専門チャンネル。文学や映画、哲学など幅広いテーマを扱い、作家や映画監督本人が出演してパーソナリティーと対話する知的で深い番組が多いのが特徴です。
www.radiofrance.fr/franceculture

西村カリンさん (Karyn NISHIMURA)

日本在住のフリーランス・ジャーナリスト。日刊紙「リベラシオン」や公共放送「ラジオ・フランス」の特派員として活動している。当事者に近い立場から現場の声を丹念に伝える取材姿勢に定評があります。
https://x.com/karyn_nishi

新野見卓也さん Takuya Niinomi
新野見卓也
ブダペスト在住のピアニスト・音楽批評家。国際基督教大学卒業、一橋大学大学院言語社会研究科を修了後、リスト音楽院でピアノを学ぶ。現在はハンガリー国立ダンスアカデミーのバレエピアニストとして活動しつつ、演奏・執筆を通じて日欧の音楽文化を架橋している。

情報は「媒介」された世界である

「media」の原義、すなわち「媒介」ということを常に意識することが大切だと思います。私たちが受け取っているのは「生の情報」ではありません。取材の過程での取捨選択、編集方針、見出しや写真の構成、さらにはSNSのアルゴリズムや私たち自身の関心の偏りといった、いくつものフィルターを通過した結果が「情報」として届いているのです。大手メディアであれ、個人のSNS発信であれ、この媒介性から自由ではありません。

私は長くXを使ってきましたが、一般にSNSは立場を問わず極論が目立ちやすい場です。もちろん、即応が求められる場面を否定するものではありません。ただ、その都度反射的に反応するだけでなく、自分でその問題を引き受けて、または相手の立場に立って、立ち止まって考えることもときに必要でしょう。そして私は、SNSで気になったことをSNSの中だけで完結させないことを心がけています。本を読むこと、考えること、あるいは行動に移すことで初めて、その情報収集が生きるというべきでしょう。

AIについては、特段の関心はありません。人間が自分で表現し、考え、他者と触れ合うことに喜びを見いだす限り、AIがあろうとなかろうと、人間の幸福の核心は容易に変わらないのではないでしょうか。むしろ私たちは少し冷静になって、「AIとどう付き合うか」という技術論だけでなく、その裏側で何が犠牲になっているのかにも目を向ける必要があります。

おすすめメディア

ゲンロン友の会(シラス)

批評誌「ゲンロン」を中心に活動する会員制コミュニティーと、配信プラットフォーム。思想、社会、アートなど多彩なテーマの講義や対談をオンラインで発信。思考を深める場として支持を得ています。
https://webgenron.com

Dialogue for People

NPO法人。国内外の社会課題や人権問題を取材し、記事や動画、ポッドキャストなど多様な形で発信。現場の声に耳を傾け、対話を通じて共感と理解を広げる姿勢が高く評価されています。
https://d4p.world

丹羽良徳さん Yoshinori Niwa
丹羽良徳
ウィーン在住の現代美術家。公共・政治空間でスローガン的な行為を実施し、その記録映像を通じて、制度の外縁や行為が生む軋あつれき轢から社会通念・価値観の源流を探る。プロジェクトに「私的空間からアドルフ・ヒットラーを引き摺り出す, 2018」など。

メディアが映す無意識と、その先にあるもの

昨年、一時帰国した際に日本のテレビを見ました。ところが、画面に映る光景はどこか不気味で、感情的な言葉と、空虚な娯楽だけ。情報を伝えるより、現実を忘れさせるための装置に近づいているように感じました。「どうでもいいニュース」にも一応の社会的機能があります。日常の重圧や政治的対立の疲労感を和らげる現実逃避の空間として機能しているのです。

これは支配体制にとって都合が良く、テレビ、政府、視聴者が共犯関係にあると言えるでしょう。多くの番組は重要なことを伝えず、国民を無知のままに保つ姿勢が主流です。SNSは、アルゴリズムによって心地よい情報だけが選ばれ、さらにフェイクニュース拡散の温床となり、民主主義を脅かしています。人々は偽物かどうか識別能力を失い、右派の台頭も誤認や疎外感を助長しているのです。今は情報過多ではなく「検証可能な情報の不足」なのでしょう。

メディアは人間の情緒の集積で、人間が変わればメディアも変わるはずです。それには年に一度は知らない場所に行き、異なる現実に触れることや、長時間労働を見直し「立ち止まる時間」を持つ社会をつくること。それがメディアとの健全な距離を取り戻す第一歩になるのではないでしょうか。明日、電車の中で見知らぬ誰かにそっとウィンクしてみましょう。そこから、世界の見え方が少しだけ変わるかもしれません。

おすすめメディア

報道特集(TBSテレビ)

報道ドキュメンタリー番組。社会問題や国際情勢に加え、日常に潜む違和感や声なき当事者にも焦点を当てています。丁寧な取材と深い人間洞察に基づくルポルタージュを通して、日本社会の今を伝える貴重な番組。
www.tbs.co.jp/houtoku

よど号日本人村

1970年のよど号ハイジャック事件の当事者たちが、亡命先での生活を発信していたウェブサイト(2021年で更新停止)。当事者を肯定・擁護する意図はありませんが、社会を揺るがした出来事が次第に風化していく現実と、その無常を伝えています。
www.yodogo-nihonjinmura.com

編集部スタッフがピックアップ! 心が豊かになるメディア

Lobsterr Letter www.lobsterr.co

Lobsterr Letter

Selected by 編集部(真)

毎週月曜日に届くニュースレター「Lobsterr Letter」では、未来の兆しとなるようなビジネスやカルチャーのニュースを集め、編集部の感想や考察を添えて紹介しています。ニュースの速読というより、選び抜かれたニュースが長めに書かれているため、私は月曜の朝、コーヒーを飲みながらまず見出しをチェックし、気になったトピックを後からじっくり読むのが習慣です。なかでも特に好きなのが、ニュースレター冒頭の「Outlook」のコーナー。編集部が気になっているテーマに沿って、関連する記事を挙げながら展開される小論考のような内容で、「何かおもしろいことありますかね」「面倒を見るという仕事」「ビジョンがなくても」など、毎回のタイトルにも惹かれます。

INA「BAROMÈTRE」 www.data.ina.fr

INA「BAROMÈTRE」

Selected by 編集部(沖)

フランス国立視聴覚研究所(INA)が毎月発行している「BAROMÈTRE」は、ニュース番組やラジオ放送をAIで分析し、報道でどんな言葉が繰り返され、どの地域が目立ち、誰の声が多く聞こえたのかを数値化するニュースの鏡のようなレポートです。興味深いのは「声の偏り」。ニュース番組で話す女性の割合はわずか39%。つまり、テレビの音の6割は今も男性の声に占められているのです。一方で文化系ラジオ「France Culture」は男女比が50対50と最もバランスが取れていました。数字だけを追っているのに、メディアが映す社会の影がくっきり見える「ニュースのあと読み」がこのバロメーターの魅力。ニュースをただ受け身で見るのではなく、今の社会を観察する感覚が得られます。

Time Sensitive www.timesensitive.fm

Time Sensitive

Selected by 編集部(徒)

文化・アート・政治などのジャンルから、今立ち止まって考えたいものを紹介する「The Slowdown」というメディアがあるのですが、その編集長スペンサー・ベイリー氏が手掛けるポッドキャストが「Time Sensitive」です。毎月「時間」をテーマに作家やアーティスト、建築家、思想家などをゲストに迎え、その人が時間とどう向き合い、創作や人生に生かしているかを掘り下げます。これまでに写真家の杉本博司、ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルをはじめ、第一線で活躍する人々が出演しています。最近、私はニュースを急いで日本語翻訳して読むクセがつき、さらにニュース以外でもそのせわしない読み方が定着しかかっているため、文字ではなくあえて耳から英語をじっくり味わうようにしています。

クーリエ・ジャポン https://courrier.jp

クーリエ・ジャポン

Selected by 編集部(穂)

海外の媒体から選りすぐりの記事を日本語で紹介する「クーリエ・ジャポン」は、独自の特集が組まれ、さまざまな視点から物事を考えることができる媒体で、学生時代からお世話になっていました。印象に残っているのは「9割の日本人が知らない『危機』」と題された2015年の緊急総力特集で、パリ同時多発テロ事件の発生直後に発行された号です。当時渡独を1年後に控えていた私は、今この時代に欧州に行くとはどういうことなのか、答えを求めて手に取りました。現在はウェブ版のみですが、記事だけでなく動画配信やイベント開催など、まだまだメディアの可能性を感じさせてくれます。オンラインイベントでは編集長や読者と直接話す機会もあるので、また参加したいなと考えています。

最終更新 Montag, 12 Januar 2026 17:15
 

From Staff 特別編
月刊化を迎えて
編集部座談会

1994年のドイツニュースダイジェスト創刊から32年。月刊化という大きな節目を迎えるに当たり、編集部の沖島、土井、岡島の3人があらためてこれまでの道のりを振り返ると共に、これからのドイツニュースダイジェストについて語り合いました。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

沖島沖島
2011年にフランスニュースダイジェスト入社。ドイツニュースダイジェスト編集長。

土井土井
ベルリンに恋して渡独。2018年からドイツニュースダイジェスト編集部員。

岡島岡島
2019年からドイツニュースダイジェスト編集部員。現在はライプツィヒ在住。

それぞれのニュースダイジェストとの出会い

沖島:私はもともとドイツでジャーナリズムを勉強していましたが、家族の都合でフランスに移りました。そこでフランスニュースダイジェストを知り、2010年からライターとして関わり始め、2011年1月に正式に入社。その後、2014年にフランス版を休刊することになり、ドイツニュースダイジェストに異動しました。

これまでの仕事で特に印象に残っているのは、2012年に姉妹誌であるドイツ語フリーペーパー「JAPANDIGEST」の定期発行を始めたとき。当時、社員の中でも「本当にできるのか」と議論になりました。JAPANDIGESTのウェブサイトを開設するタイミングで初めてドイツ人スタッフを雇ったのも大きな出来事でした。これまで日本人が作っていた雑誌に、ドイツ人の視点が加わったことで、ドイツニュースダイジェスト・JAPANDIGEST両方の幅が広がったと思います。

土井:私は2018年6月にドイツニュースダイジェストに入社しました。実は日本で大学生をしていたころ、授業でニュースダイジェストの記事が紹介されていたことがありました。当時は気づいていませんでしたが、それが最初の接点でした。

その後、学生時代に訪れたベルリンに住んでみたいと思い、日本でライフスタイル誌の編集者として経験を積んだ後、2016年10月にベルリンで暮らし始めました。2018年3月に当時の社員の方と出会い、その数週間後にはニュースダイジェストの拠点であるデュッセルドルフに面接のため足を運んでいたという感じです。ベルリンは今も大好きですが、気づけばデュッセルドルフ生活の方が長くなりました。今では、ニュースダイジェストは私のドイツ生活になくてはならない存在です。

Eスクーターを取材編集部の日常① Eスクーターがドイツで解禁された2019年夏、1105号特集「EスクーターのABC」の取材のため試乗!(岡島)

岡島:私はもともとベルリンの大学院で芸術学を学んでいましたが、ちょうどその頃は、ベルリンの家賃高騰で住む場所を見つけるのが難しくなってきていて、この先どうしようかなと考えていました。そんななか、先輩編集者である土井さんと出会って初めてデュッセルドルフに行き、2019年8月から編集者としてドイツニュースダイジェストで働いています。

もともとデュッセルドルフに住んでいましたが、再び学業のためにライプツィヒに引っ越すことに。リモートで働くようになったのですが、これまであまり取り上げられなかったドイツ東部地域の取材も積極的に行うようになりました。2024年には妊娠・出産を経験しましたが、編集部お二人のバックアップもあり、子育てしながら変わらず誌面作りを楽しませてもらっています。

ライプツィヒ編集部の日常② 出産後の岡島を訪ねてライプツィヒへ!(沖島・土井)

思い出に残る号、記事、人

岡島:ニュースダイジェストは創刊からしばらく週刊新聞で、2012年〜昨年12月までは隔週(年に24回)で発行していました。単純計算だと、私は約150冊、土井さんは約180冊、沖島さんは約360冊の編集に関わったことになります。その中で特に思い出に残る号はありますか?

沖島 土井 ……(ありすぎて考え中)。

岡島:では、私から話してみます(笑)。入社1年目を振り返ってみると、とにかく土井さんとがむしゃらに特集を作っていて、純粋に楽しかった記憶があります。例えば5ページの特集があったとして、私が1ページ目と4〜5ページを担当し、土井さんが2〜3ページを担当する。それでお互いの原稿を突き合わせてみると、何だかお互いの原稿が響き合っていてうれしくなる。1108号・1109号「ベルリンの壁崩壊30周年記念特集」や、1114号「ベートーヴェン生誕250周年記念」などが記憶に残っています。

読み返してみると、もう少しこうできたのになとか、肩の力が入っているな、というものもあるんですが、同時にすごく熱量を感じる。今はむしろ経験を積んで質は上がっていると思うので、月刊化をしていく上でも、あらためて純粋なものづくりの楽しさを大切にしていきたいなと思う今日このごろです。

ドイツ東部の村ザイフェン、くるみ割り人形の生産の職人さん編集部の日常③ 1182号特集「ザイフェンの木工おもちゃに会いにいく」では、くるみ割り人形の生産地であるドイツ東部の村ザイフェンで職人さんたちを取材(岡島)

土井:岡島さんがそう思ってくれていることを、知らなかったわけではないですが、単純にすごくうれしいです。当時は、私も先輩としていろいろ教えなきゃと思っていたんですが、いつの間にか自分も一緒に楽しくなっていました。連載「ドイツの逸品」でドレスデナー・シュトレンを紹介する記事を入社したての岡島さんに書いてもらったとき、「バターがたっぷり」という表現が3回くらい出てきていて、「この人本当にバターが好きなんだな」と思って。それを私が指摘して、二人でゲラゲラ笑いましたね。

岡島:土井さん、そのエピソード何回も言ってきますよね(笑)。

土井: はい、何回でも言います(笑)。さて、最近だと、1248号「都市ガイドシリーズ⑮ロストックの魅力再発見!」を制作するのが本当に楽しかったです。この都市ガイドシリーズは2022年から続けていますが、2025年からはドイツ政府観光局にご支援いただき、現地での取材をもとに制作させてもらっています。ダース半島を自転車でめぐる取材は体力的にも大変でしたが、今の自分だから作れる記事になったと思います。

岡島さんの「バターがたっぷり」もそうですし、ロストックの取材もそうですが、記事の中に人柄が出ることや、実際にその場に行って見たこと・感じたことをまとめるというのは、これからの時代にもっと大切にしていきたいと感じました。

ダース半島のビーチ編集部の日常④ 1248号特集「ロストックの魅力再発見!」の取材のため訪れたダース半島のビーチ(土井)

沖島: 連載でいうと、中村真人さんの「ベルリン発掘の散歩術」は、読むと本当にその場に行った気分になれますよね。私は特に、1121号掲載の「マレーネ・ディートリヒの美に酔って」が好きです。熱狂的なディートリヒのファンである高橋さん(掲載当時87歳)が、人生をかけて追い求めたディートリヒへの愛が伝わってくる、大変印象的な記事でした。

土井:ニュースダイジェストの良さは、編集者・ライターさん・読者の距離の近さにもありますね。読者が友人であり、知り合いであり、同じ悩みを共有する仲間でもある。知り合いから、誌面で紹介した内容について「実際にあそこに行ったよ」とか「これを買ってみたよ」と言われることも多々あります。あるいは連載「Dr.馬場の診察室」では、以前私が馬場先生とのやりとりの中で坐骨神経痛に悩んでいるとお話したことがあったのですが、それをテーマにしてくださったことがあります(笑)。

ダース半島のビーチ編集部の日常⑤ 毎年5 月にデュッセルドルフで開催される「日本デー」は、ニュースダイジェストにとっても読者と直接会える貴重な機会です(土井)

岡島:ほかにも、1218号「ドイツの小学校入学準備ガイド」や1226号「ドイツで初めての妊娠・出産」などは読者へのアンケートをもとに制作していますが、現地生活者ならではの喜びや苦労、葛藤がにじんでいて、いつも回答を読むだけで泣きそうになります。

AI時代のニュースダイジェストの役割とは

沖島:実際に現地生活者として、自分が疑問に思ったことをすぐ企画にできたり、同じくドイツに住む日本人と悩みを共有したりできるというのは、編集者としてとても恵まれた環境ですね。特に最近では、SNSやAIの登場によって情報が溢れかえっているので、ネットで拾えるニュースではなく、実際にコミュニティにとって役立つ生活情報や体験談がうちの強みになると思います。

岡島:本当にそうですね。というのも、本号の特集「欧州で暮らす私たちとメディアの距離感」は、読者の方々に情報との向き合い方のヒントをお届けすることが主な企画意図でしたが、裏テーマには「私たち編集部がこれからすべき仕事は何か」ということがありました。AIに頼めばすぐにそれらしい記事を書いてもらえるようになり、果たして編集者の仕事はなくなってしまうのか? メディアの未来はどうなるのか? という、作り手として抱える不安や葛藤に向き合う時間にもなりました。

沖島:1257号の特集「欧州で暮らす私たちとメディアの距離感」での村井明日香さんへのインタビューには、英独編集部全員で参加させてもらいましたね。村井さんは英国滞在中に英国ニュースダイジェストを読んでくださっていたこともあり、インタビューの後半では、自分たちの制作者としての悩みや疑問を共有させていただき、ご意見をいただくなどとても勉強になりました。そのなかであらためて「意志を持った編集」ということの重要性を感じました。

パリオリンピック 2024編集部の日常⑥ 1209号特集「パリオリンピック 2024」の発行後、現地で観戦もしました!(沖島)

土井:それはもちろん、誌面の編集だけに限りません。例えば最近、インスタグラム(@pickup_doitsu)の投稿に力を入れていますが、そのなかでドイツのニュースにまつわる投稿へのフォロワーさんたちの反応がいいことに気づきました。

沖島:そもそも名前が「ドイツニュースダイジェスト」ですしね。読者の方々が私たちの「ニュース」の部分に信頼を置いてくださっているのは、創刊当時から変わらないのかもしれません。

土井:私たちはドイツ生活のキラキラした側面ばかりを見せる必要はなくて、自分たちの目線でキュレーションしたドイツ語のニュースをしっかりとした日本語で届ける。それは創刊当時からの使命であり、32年間受け継いできたものです。AIの台頭に不安になる部分もあるけど、私たちにできることはまだまだあると思います。

岡島:AIとの差別化ということでいえば、あらためて「一次情報の価値」を大切にしていきたいと思います。例えば連載「私の街のレポーター」で各地のレポーターさんが書いてくださる記事の中は、日本語で検索しても出てこないような情報だらけなんです。

レポーターさんにはいつも、「ネット上には『ドイツのおすすめ○選』といった記事が山ほどあるから、それよりも、ご自身が実際にその場にいて何をどう感じたのか、どういう感情がそこで生まれたのか、ということを知りたい」とお伝えしています。さまざまな背景や個性を持った方々がレポーターを務めてくださっていて、一読者としても大好きなコーナーです。ほかでは得られないローカルでパーソナルな声もしっかり取り上げていきたいです。

「全ては知ることから始まる」

岡島:月刊化するに当たり、どうしても「速報性」という意味ではネットには叶いません。SNSやウェブサイトを使ってそこを補いつつも、誌面ではより深く読み込める記事をもっと作っていきたいですね。ページ数もこれまでより増えるので、一つの号のなかで複数の視点から特集を組むことができるようになり、よりドイツを立体的に感じていただけたらうれしいです。

土井:あとは、読者の声をもっと知りたいです。私たちは三人とも文化や芸術が好きだったり、一緒に誌面を作るなかで似てきている部分もあると思うので、もっとこういう切り口がある、こういう情報を知りたい、というような声を聞きたい。先ほども言ったように、ライターさんや読者の皆さんとの距離がとても近いので、インスタライブや読者会などのよりインタラクティブな機会を増やしたいですね。そうした出会いのなかで、ゲスト的に読者の方に記事を執筆いただいたりするのも面白いかもしれません。

沖島:編集部では、月刊化に当たって私たちが目指す方向性を言葉にする作業を進めてきました。そのなかで読者に届けたいメッセージの一つは「全ては知ることから始まる」ということ。まずはニュースダイジェストを通して、ドイツのニュースや文化、社会、政治、経済、生活を知る。そして、知ったことで実際に行動してみたり、ドイツをより深く理解できたり、生活がより豊かになったり。そういう「知ることの先」まで一緒に届けられる誌面作りを目指したいと思っています。

編集部一同 これからのドイツニュースダイジェストに、どうぞご期待ください!

●編集部からのお知らせ●

月刊化第一号の発行を記念して、
1月 14日(水)21時(ドイツ時間)
からインスタライブを開催予定です。ぜひご参加ください! https://www.instagram.com/pickup_doitsu
最終更新 Dienstag, 13 Januar 2026 17:29
 

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