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特集


追加料金なしで国境越え! Dチケットで行く
ドイツ国外旅行

ドイツ全土を自由に巡れる「Dチケット」は、通勤や通学から国内旅行まで幅広く利用できる定額パス。実は、追加料金なしでドイツ近隣9カ国まで足を延ばせることをご存じだろうか。モーツァルトゆかりの音楽都市、要塞の歴史を刻む街、現代アートの発信地、そして雄大な自然と静かな田園風景など、近隣諸国の多彩な文化・自然スポットへアクセスすることが可能だ。本特集では、そんなDチケットを有効活用する方法をご紹介する。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:taz「560 Millionen Autofahrten weniger」「Auslaufmodell Deutschlandticket?」、tagesschau「Mehr Menschen nutzen Busse und Bahnen」、Verband Deutscher Verkehrsunternehmen「Bilanz zum 9-Euro-Ticket」、TSG Tourismus Salzburg GmbH、Luxembourg City Tourist Office、Visit Arnhem、Basel Tourismus、Tourist Office of Wissembourg、Schaffhauserland Tourismus、Tønder Turistbureau、Swinoujscie Tourist information、Tourist information centres Hrádek nad Nisou、Office du tourisme Gemeinde Kelmis

Dチケットとは?

Deutschlandticket(通称「Dチケット」)は、2023年5月に導入されたドイツ全土で有効な定額制公共交通チケット。料金は月額58ユーロ(2025年10月現在)で、近郊列車(RE、RB)、Sバーン、Uバーン、トラム、バスなど、各地域の公共交通機関を広範に利用できる。一方で、ICEやICなどの長距離交通機関は対象外とされている。ドイツ鉄道(DB Navigator、bahn.de)および地域交通機関のアプリやウェブサイト、ならびにそれらの販売窓口で購入可能。

Dチケット

Dチケットで行ける都市11選!

Dチケット地図

1 音楽と歴史が響き合うアルプスの街 ザルツブルク オーストリア

ザルツブルク

アルプスの麓に位置するザルツブルクは、音楽と歴史の香りに満ちた都市であり、モーツァルト生誕の地として世界中の音楽愛好家を魅了してきた。バロック様式の建築が並ぶ旧市街は世界遺産に登録されており、石畳の細い路地を歩けば、中世以来育まれてきた豊かな都市文化を肌で感じられる。象徴的なホーエンザルツブルク城塞は11世紀に築かれ、城からは市街とアルプスの山並みを一望できる。モーツァルトの生家や旧住居は博物館として公開され、天才作曲家の息遣いに触れられるほか、夏の「ザルツブルク音楽祭」では世界最高峰の演奏を堪能できる。

ミュンヘン発の近郊列車でザルツブルク中央駅へ

名物はこれ!
ザルツブルガー・ノッケルン

ふんわりと焼き上げられたメレンゲ菓子。卵白を泡立て、砂糖や小麦粉を加えてオーブンで焼き上げたもので、外は香ばしく軽やかに、中はとろけるように柔らかい食感を持つ。皿の上に並ぶ三つの山形は、ザルツブルクを囲む山々を象徴している。

ザルツブルガー・ノッケルン

2 城壁と渓谷の世界遺産都市 ルクセンブルク市 ルクセンブルク

ルクセンブルク市

ルクセンブルク市は、断崖の上に築かれた要塞都市であり「北のジブラルタル」と称されてきた。その城壁群と旧市街は世界遺産に登録され、堅固な防御施設としてヨーロッパ史に名を残している。城塞跡「ボックの砲台」からは渓谷と公園を跨ぐ景観が一望できる。市内には大公宮殿やノートルダム大聖堂など重厚な建築が並び、歴史を深く知れる国立歴史美術博物館は必見(常設展は無料)。名物料理は白ワインを用いた「パテ・オ・リースリング」で、郷土のリースリングと合わせると格別だ。

トリーア地域交通協会(VRT)や近郊列車でルクセンブルク中央駅へ

要チェック!
公共交通機関が無料

ルクセンブルクでは、国内の公共交通機関が完全に無料化されている。国内路線が対象であり、利用者は切符を購入する必要がない。この施策は2020年に世界で初めて導入されたもので、国民の移動の利便性を高めるとともに、自動車利用の削減による環境負荷軽減を目的としている。

公共交通機関が無料

3 芸術と歴史が息づく文化都市 バーゼル スイス

バーゼル

スイス第3の都市バーゼルは、中世から交易と学問の中心として栄え、現在もスイス屈指の美術館群を誇る。旧市街のマルクト広場に立つ真紅の市庁舎は、鮮やかなフレスコ画と尖塔が印象的な、バーゼルを代表する建築。すぐ近くのバーゼル大聖堂は、ゴシック様式の尖塔とロマネスク様式の残滓を併せ持ち、内部から塔に上ればライン川と市街を一望できる。現代アートの発信地としても名を馳せ、毎年6月に開催される「アート・バーゼル」には世界中から芸術関係者が集う。

ヴァイル・アム・ラインから近距離電車、またはツェル・イム・ヴィーゼンタールからSBBのS6線でバーゼル・バディッシャー駅へ

名物はこれ!
バーゼラー・レッカリー

バーゼルを代表する伝統菓子。蜂蜜をベースに、ヘーゼルナッツやアーモンドなどのナッツ類、シナモンやクローブといったスパイスを練り込み、しっとりと焼き上げられている。起源は15世紀までさかのぼり、修道院で作られた保存性の高い菓子として広まったとされる。

バーゼラー・レッカリー

4 迫力満点!欧最大級の滝がある シャフハウゼン スイス

シャフハウゼン ライン滝

スイス北端に位置するシャフハウゼンは、自然と都市景観が調和する街。最大の魅力は、欧州随一の水量を誇るライン滝であり、轟音を立てて落ちる大量の水流は圧倒的な迫力を見せる。観光船で滝つぼ近くに迫れば、飛沫を浴びながら大自然の力を全身で感じることができる。市街には中世の商家や壁画を施した建物が並び、丘の上に立つムノート要塞に登れば、ライン川と周囲の緑豊かな丘陵が織りなす景観を見渡すことができる。ハイキングコースも充実し、川沿いを歩けば渓谷美や野鳥に出会える。

バーデン=ヴュルテンベルク州の「シャフハウゼンSバーン」でシャフハウゼン駅へ

名物はこれ!
地元産のピノ・ノワール

この地域を代表する品種であるピノ・ノワール。冷涼な気候と石灰質を含む土壌がブドウ栽培に適しており、果実味と酸味のバランスが良く、繊細でエレガントな赤ワインが生み出される。シャフハウゼンのピノ・ノワールはスイス国内でも高い評価を受けている。

地元産のピノ・ノワール

5 歴史と最先端デザインが交わる アーネム オランダ

アーネム

オランダ東部のライン川沿いに広がるアーネムは、自然と歴史、そして現代のカルチャーが交錯する都市。第二次世界大戦中の「マーケット・ガーデン作戦」の激戦地として知られ、市の象徴である「ジョン・フロスト橋」では戦禍の記憶を偲ぶことができる。一方で今日のアーネムは、ファッション都市としても名高い。市内のArtEZ芸術専門学校にはオランダ屈指のファッション学科があり、ここからヴィクター&ロルフなど世界的デザイナーが輩出されている。毎年6月に開催される「ファッション+デザイン・フェスティバル・アーネム」では、若いクリエイターの斬新な作品が街を彩り、洗練されたブティックやギャラリーも点在する。

デュッセルドルフから快速列車RE19でアーネム中央駅へ

6 デュッセルドルフ・ケルンから直通! フェンロー オランダ

フェンロー

オランダ南東部リンブルフ州に位置するフェンローは、デュッセルドルフやケルンから直通の列車が走り、特に日曜日には近隣のドイツ人に人気を集める買い物スポットである。街の中心にあるマルクト広場には、16世紀建築の美しい市庁舎がそびえる。ルネサンス様式の外観は街のシンボルとして親しまれ、広場に面して歴史的建物やカフェが並ぶ。石畳の路地を歩けば、中世から続く商業都市としての面影を感じ取ることができる。フェンローを訪れるなら外せないのがリンブルフ博物館だ。ローマ時代の遺物から現代アートまで、リンブルフ地方の歴史と文化を幅広く紹介。インタラクティブな展示も多く、子どもから大人まで楽しめる内容となっている。

ノルトライン・ヴェストファーレン州の都市からRE13でフェンローへ

7 中世の趣を残す国境のアルザス小都市 ヴィッセンブール フランス

ヴィッセンブール

アルザス地方北端に位置するヴィッセンブールは、ドイツ国境に接する小都市。ラウター川が街を横切り、木組みの家屋と石橋が織りなす景観は中世そのままの趣を残す。城門や城壁の一部も現存し、歩いているだけで歴史の深みを感じられる。中心にそびええるサン・ピエール=サン・ポール教会は13~14世紀に建造された壮麗なゴシック建築で、アルザス地方ではストラスブール大聖堂に次ぐ規模を誇る。周囲の旧修道院や中世の街並みは、静かな散策に最適。

ラインラント=プファルツ州のノイシュタット・アン・デア・ヴァインシュトラーセ駅などから近郊列車でヴィッセンブール駅へ

要チェック!
世界最古のステンドグラス

ヴィッセンブールのサン・ピエール・エ・サン・ポール教会は、現存する世界最古のステンドグラス「キリストの頭部」が発見されたことでも知られる。現在、教会にあるのは精巧な複製であり、原品はストラスブールのルーヴル・ノートルダム美術館に収蔵・展示されている。

世界最古のステンドグラス

8 静寂と自然の豊かさを体感 トゥナー デンマーク

トゥナー/デンマーク最大の湿地帯

デンマーク最南端に近いトゥナーは、ユトランド半島の静かな田園と湿地に囲まれた街。中心街には歴史的建造物も多いが、最大の魅力は周辺に広がるデンマーク最大の湿地帯にある。この地帯の一部はユネスコ世界自然遺産に登録され、渡り鳥の休息地として国際的に知られている。春と秋には数百万羽の鳥が飛来し、空を覆う群舞「黒い太陽」と呼ばれる現象は圧巻。干潟を歩くツアーや自転車での湿地探索は特別な体験に。かつては海運業が盛んな港であり、とりわけレース貿易が盛んだった歴史を持つ。

シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のニービュル駅からRB66列車でトゥナー中央駅へ

9 バルト海に広がる白砂のリゾート シフィノウィシチェ ポーランド

シフィノウィシチェ

シフィノウィシチェは、ポーランド北西端に広がる海辺のリゾート。バルト海に面した10キロにも及ぶ白砂のビーチは、欧州でも指折りの規模を誇り、夏には避暑地としてにぎわう。松林に囲まれたプロムナードは散策に適し、潮風とともに開放感を満喫できる。街には世界一高いレンガ造り灯台がそびえ、展望台からはバルト海とウーゼドム島の緑が一望できる。プロイセン時代の要塞跡や港街の風情も残り、自然と歴史の両面を楽しめるのが特徴。

メクレンブルク=フォアポンメルン州を走るウーゼドム海浜鉄道でシフィノウィシチェ・ツェントルム駅へ

名物はこれ!
ピエロギ

ポーランドを代表する伝統料理ピエロギ。小麦粉の生地で具を包んだ水餃子風の料理であり、地域や家庭ごとに多彩なバリエーションがある。シフィノウィシチェは漁港としても知られるため、魚介を使ったピエロギが提供されるレストランもあり、海辺の街ならではの味覚を楽しめる。

ピエロギ

10 自然と歴史が交わる小都市 フラーデク・ナド・ニソウ チェコ

フラーデク・ナド・ニソウ

フラーデク・ナド・ニソウは、チェコ北部の国境地帯に位置する小都市で、自然豊かな丘陵と川に囲まれた静かな環境にある。市内からは多彩なハイキングコースが延びており、ナイセ川沿いをのんびり歩く散策路から、岩場を登る本格的な登山道までバラエティに富んでいる。ポーランドとドイツの国境に近い立地から、サイクリングも盛んで、とりわけマウンテンバイク愛好者に人気が高い。穏やかな田舎道から難易度の高い山岳ルートまで揃っており、挑戦の幅が広いのも魅力。夏にはクリスティナ湖のレクリエーション・エリアがにぎわい、水質の良い湖で水泳やウォータースポーツを楽しむ人々で活気にあふれる。

ツィッタウからローカル列車でフラーデク・ナド・ニソウへ

11 穏やかな自然で心を整える ケルミス ベルギー

ケルミス

ベルギー東部のケルミスは、丘陵と森林に囲まれた静かな街。かつて「中立モレネ」という特殊な自治領の一部であった歴史を持ち、現在は自然散策の拠点として注目されている。ケルミスとアーヘンの間に広がるプロイスヴァルトには緑豊かなハイキングコースがあり、沿道に点在する境界石は国境争いの痕跡を伝えている。また、全長7.5キロの産業教育トレイルでは、村の中心からカラミン鉱業の拠点を巡りながら、散策そのものが鉱山村としての過去を知る体験となる。道中には、解説板やクイズも設けられており、自然を楽しみながら知的好奇心を満たす散策ができるのも魅力。

アーヘン地域からASEAGバス24番でケルミスへ

2026年からは再び値上げ予定人気のDチケット、いつまで続けられる?

そもそもDチケットの始まりは2022年夏、ドイツ全土の公共交通が月額わずか9ユーロで乗り放題となる特別チケットが発売されたことだった。わずか3カ月間の試験導入で5000万枚以上が販売され、爆発的な人気を博した。その後継として2023年5月に導入されたのがDチケット。料金は当初月額49ユーロだったが、2025年1月から58ユーロへ改定された。通勤・通学から週末旅行まで幅広く活用され、現時点では約1400万人がDチケットを利用している。連邦統計局の調査によると、チケットの導入以来、公共交通機関の定期利用者は62%増加したことが明らかになっている。また連邦州交通大臣会議の発表によると、導入後20カ月間で230万トンの二酸化炭素が削減された。

一方で、制度の持続には課題もある。今年9月、州交通大臣会議は2026年1月からチケット価格を63ユーロへ引き上げることを決定した。背景には、従来の定期券に比べ割安であるために生じる交通事業者の収入減と、恒常的な資金不足がある。連邦と州はこれまで年間30億ユーロを拠出してきたが、想定を超える費用への対応をめぐって対立が続いてきた。

なお2027年からは、賃金やエネルギー費などのコスト要因を反映した「コスト指数」に基づき価格が決定される予定だ。連邦政府は2030年まで年間15億ユーロを確保する意向を示しており、制度の安定性は高まったといえる。しかし、今回の値上げには批判も出少なくない。鉄道推進団体は「値上げは利用者数の増加につながらない」とし、連邦と州が拠出額の増額を拒んでいることを非難。Dチケットが「誰もが手に取りやすい定額パス」であり続けられるのか、その行方が注目されている。

 

Guten Tag? Servus? Moin? 多様性が見えるドイツの方言

ドイツでは、いわゆる高地ドイツ語が標準語として使用されている。しかし、特に話し言葉は地域によって大きな違いがあり、生粋のドイツ人同士だとしても、生まれ育った場所が違えば、お互いに何を言っているのか分からないということさえ起きる。本特集では、そんなドイツの「方言」にフォーカス。多様な地域性が育んだドイツ方言の歴史から、失われつつある方言の未来まで、味わい深いドイツの方言の世界へとご案内しよう。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

方言をめぐるドイツ語の歴史

そもそもドイツ語は、紀元前1000年頃のゲルマン祖語から生まれた。その後ゲルマン語は、紀元600~800年の間に子音の大きな変化(いわゆる「第二次子音推移」)が起こり、その影響を受けた中南部の高地ドイツ語(Hochdeutsch)と、影響を受けなかった北部の低地ドイツ語(Niederdeutsch)に分割される。子音推移の影響を受けた古高ドイツ語は、ゲルマン語でリンゴを意味するApplaがApfulになったり、ウムラウトが見られたりするようになったりと、この時代の変化は現代の方言の違いにも残っている。中世以降、ドイツでは深い谷や高い山が点在する自然環境と、多数の小国に分かれていた政治制度の影響で、地域ごとに独特の方言を形成していき、ドイツ語は長い時間をかけてさらに細分化されていった。

現在の標準語の基礎が成立したのは16世紀、1522年に宗教改革者のマルティン・ルターが聖書をドイツ語翻訳したときのことである。ルターの目的は、それまでラテン語かギリシャ語しかなかった聖書を、誰もが読むことのできるドイツ語に翻訳すること。しかしドイツには英国でいうロンドン、フランスでいうパリのような政治的・文化的な中心地がなかったため、各地方の方言が分立した状況で標準ドイツ語が存在していなかった。ルターが形作ったドイツ語は、低地ドイツ語の語彙を取り入れつつも、高地ドイツ語をベースにしたものだった。

近世になると、標準ドイツ語は書き言葉としてさらに発達。その発展にはザクセン宮廷に仕えた書記官や作家が貢献したため、標準語はザクセン方言とプファルツ方言の影響を大きく受けている。この段階で方言は書き言葉から排除され、標準ドイツ語は統一された文法と発音を備えるようになる。さらに1920年代にラジオが導入されると、話し言葉でも標準語が普及していった。一部の方言は時代の流れの中で淘汰されていった一方で、今日でもドイツには約20の方言が存在し、それぞれ方言協会がある。特に地方では方言は日常的に使われており、村単位で発音の違いが見られることも。次ページでは、そんな彩豊かなドイツの方言をピックアップしてご紹介する。

参考:Planet Wissen「Deutsche Geschichte: Dialekte」、All About「ドイツ語の歴史!これだけは知っておきたい重要ポイント」

あいさつだけでもこんなに違う!

白パンの名称の違い

外国語を学ぶくらい 難しい!?ドイツの主な方言リスト

およそ20あるといわれるドイツの方言の中から、現在も話者が多いものを中心にご紹介。標準語とのあまりの違いにもはや外国語では……と思ってしまうが、かつて小国に分かれていたドイツの歴史が色濃く反映されていると感じられる。それぞれの方言の特徴を知っておけば、旅先でも役に立つことがあるかも⁉

参考:PONS「Deutsche Dialekte」、Baden-Württemberg「Vielfältige Sprachlandschaft Dialekte」、Babbel、mdr「Ist Sächsisch das eigentliche Deutsch?」、Deutschlandfunk Kultur「Mundart: Die Berliner Schnauze ist auf dem Rückzug」、Hessen Tourismus「Der Hessische Dialekt」

白パンの名称の違い

バイエルン方言
Bayerisch

バイエルン方言はもともと高地ドイツ語とは別の言語だが、標準ドイツ語やさまざまな方言が合わさって形成されている。バイエルン州以外でもオーストリアやスイスで話されており、話者はおよそ1300万人いると推定されている。

主な特徴

  • 一般的に「ei」が「oa」になる hoaß(heiß /熱い)
  • 「母音+r」が「a」になる oba(ober /上)
  • 「k/p/t」が「g/b/d」になる Dopf(Topf /鍋) 
  • 時制の使い方が異なる

例えばこんな方言

Dangschee/Bittschee(Danke schön/Bitte schön)

例) Ein Weiße bittschee. 
白ビールください。

Ja mei!

「仕方ない」「どうでもいい」などを意味し、日常的によく使われる表現。

ババーデン方言
Badisch

バーデン=ヴュルテンベルク州ではシュヴァーベン方言が最も話されているが、それ以外の方言を総称してバーデン方言という。カールスルーエなどで話されている南フランケン方言や、フライブルクなどで話されているアレマン語などが含まれる。

主な特徴

  • 「st」が「sch」になる machsch(machst /する)
  • 「a」が「o」になる mogsch(magst /好き)
  • 単語の多くがフランス語由来

例えばこんな方言

Weggle(Brötchen/白パン)

例) A Weggle oder a Bretzele?
白パンとブレーツェル、どっちがいい?

外部から来ると分からない定番方言

Schnoog(Stechmücke/蚊)

例)Dea Schnoogeschdich beißd mi ganz aag.
蚊に刺されたところがすごくかゆいんだ。

シュヴァーベン方言
Schwäbisch

ドイツ南西部の方言で、大きな都市ではシュトゥットガルト、オーストリアのチロル州の一部でも話されている。柔らかい響きを持つが、冠詞や母音が聞こえづらいため、理解しづらいともいわれる。

主な特徴

  • 「st」が「sch」になる hasch(hast/持つ)
  • 「a」が鼻音化する naahogga(hinsetzen/座る)
  • 「ö/ü」が「e/i」になる effendlich(öffentlich /開かれた)
  • 「k/p/t」が「g/b/d」になる Babba(Papa/パパ)
  • 冠詞が一部異なる dr Budder(die Butter /バター)
  • 指小辞に「-le」を使う Häusle(Häuschen /小さい家)
  • 「wir」が「mir」になる

例えばこんな方言

Herrgottsbscheißerle(Maultaschen/マウルタッシェン)

直訳では「神を欺く」ことを意味するが、かつて肉食が禁じられた金曜に肉を隠すために作られた料理だったいう説から、シュヴァーベン地方ではこの名で呼ばれている。

Mir könnet älles. Außer Hochdeutsch.

1999年にバーデン=ヴュルテンベルク州が掲げた伝説的なスローガン。意味は「私たちは何でもできます。標準ドイツ語以外なら」。

フランケン方言
Fränkisch

いわゆるフランケン地方(バイエルン州北西部)の方言で、ニュルンベルクやアウクスブルクでも話されている。古くはフランク王国で話されていた言語であり、アルザス語やルクセンブルク語もフランケン諸語に分類される。

主な特徴

  • 「r」が強めの巻き舌になる
  • 「k/p/t」が「g/b/d」になる Fränggisch(Fränkisch/フランケン)
  • 語尾が「-ng」になる Abodeng(Apotheke/薬局)
  • 指小辞に「-la」を使う Laabla(Brötchen/白パン)

例えばこんな方言

Allmächd!(Oh Gott!/ああ、神様!)

驚いたときなどに使う感嘆詞。この叫び声を上げている人は間違いなくフランケン地方の人。

Broudwoschd(Bratwurts/焼きソーセージ)

ニュルンベルガーソーセージで有名なニュルンベルクでは特に日常的に使われる言葉。現地ではDrei im Weggla(3本入りパン)を注文しよう。

ザクセン方言
Sächsisch

ルターはザクセン方言をもとに標準ドイツ語を形成したとされている。一方で東ドイツ時代のエリート層がザクセン方言を話していた影響などもあり、最も人気のない方言の一つ。母音は丸く、子音は柔らかく発音し、旋律的なアクセントで話すのが特徴。

主な特徴

  • 「a」が「o」になる Orbeit(Arbeit/仕事)
  • 「st」が「scht」になる bischt(bist)
  • 「k/p/t」が「g/b/d」になる Abbl(Apfel/リンゴ)
  • 「sch」が「ch」になる Breedschn(Brötchen/白パン)
  • 単語同士がつながる hammer(haben wir)

例えばこんな方言

Bämme(Stulle/オープンサンド)

ザクセン地方の人々にとってBämmeは、皆で一緒に食べる文化遺産ともいうべき存在で、ただのオープンサンド以上に意味を持っている。

Modschegiebschen(Marienkäfer/てんとう虫)

例)Gugge ma, de Modschegiebschen!
見て、てんとう虫だよ!

ベルリン方言
Berlinerisch (Berliner Schnauze)

大都市ゆえにさまざまな方言や言語が混ざってできた方言で、もともと労働者階級が使っていた。東西分断時代、西ベルリンでは学校でベルリン方言を話すことは不適切とされていたが、東ベルリンでは「労働者と農民の国家」を掲げていたため、許容されていた。

主な特徴

  • 「g」が「j」になる janz(ganz/まったく、完全に、全体の)
  • 二重母音になる een(ein/一つの), ooch(auch/~も)
  • 「pf」が「p」になる Appel(Apfel/リンゴ)
  • 独自の代名詞(ich=ick, es=et, das=dit, was=watなど)
  • 4格がしばしば3格になる(Du liebst mich nicht=Du liebst mir nich)

例えばこんな方言

Bulette(Frikadelle/ドイツ風ミートボール)

例)Nu aba ran an de Buletten! さあ、食事にしよう!

Pfannkuchen(Berliner, Krapfen, Krebbl/菓子パンの「ベルリーナー」)

例)Jedes Jahr an Silvesta werden Pfannkuchen jejessen.  毎年大みそかにベルリーナーを食べます。

ヘッセン方言
Hessisch

主にヘッセン州で話されているが、さらに五つのグループに細分化される。フランクフルト地域で話されている言葉は、20世紀後半に映画やテレビ用に作られたヘッセン風の方言で「Medienhessische」(メディアヘッセン方言)とも呼ばれている。

主な特徴

  • 「pf」が「p」になり、「b」が続く  Äbbelwoi(Apfelwein/アップルワイン)
  • 「sch」が「ch」になる Fich(Fisch/魚)
  • 所有格の使い方が独特(Ulis Bruder=em Uli sei Brouder)

例えばこんな方言

babbele(sprechen/話す)

名詞の「Babbelsche」はおしゃべり好きの人のことを指す。

Dudd(Tüte/袋)

例)Brache se ne Dudd? 袋にお入れしましょうか?

低地ドイツ語
Plattdeutsch

標準語とは別の言語で、北ドイツを中心にドイツで最も多くの話者がいる方言。オランダ語とも近い。現在は話せる人が少なくなっているが(詳しくは下記)、日常的な会話では単語レベルで使われていたり、お店の看板に残っていたりする。

主な特徴

  • 「地域が幅広いため、さらに細かく分類される
  • 「f」が「p」になる slapen(schlafen/眠る)
  • 「ch」が「k」になる ik(ich/私)
  • 「schp/schm」が「sp/sm」になる smeren(schmieren/塗る)
  • 独自の代名詞(er=he, sie=se, das=dat, wir=wiなど)
  • 過去分詞にge-がつかない(getan=daan

例えばこんな方言

Moin(Hallo/こんにちは)

昼夜問わず使えるあいさつで、元々の意味は「心地よい、良い、美しい」など。

Schlackermaschü(Schlagsahne/ホイップクリーム)

「今年の低地ドイツ語2025」に選ばれた。広義の意味ではクリーミーなデザートのことを差し、家庭でも使われる言葉。

方言はいつかなくなってしまうのか?

時代の流れとともに方言を話す人は少なくなり、地域によるアクセントやイントネーションの違いは残るものの、いつかドイツは標準語を話す人しかいなくなってしまうのだろうか……。そもそも方言とは人々にとってどんな存在であるかを紐解きながら、方言の未来について展望する。

参考:WELT「Sind deutsche Dialekte vom Aussterben bedroht?」、t-online「Sprachforscher über Dialekte "Für einen Süddeutschen ist das diskriminierend"」、Babbel「Warum du stolz auf deinen Dialekt sein solltest」、NDR「"Platt mit Beo": Leicht Plattdeutsch lernen mit einer Lern-App」、NDR「Wie Grundschulen versuchen, Plattdeutsch am Leben zu halten」

方言を話す人が減少 背景に差別や偏見も

言語学習プラットフォーム「Babbel for Business」の2024年の調査によると、ドイツ人の約60%は方言を習得していることが分かった。そのうち半数が55歳以上であり、24歳未満のZ世代では方言を話す人はわずか5%にとどまる。方言を話す人が減少している背景には、いくつかの理由がある。一つは、学業や職業上の成功のため、多くの親が子どもに方言を教えなくなっていること。さらに、移動の自由が高まったことで標準語を話す人が増えていることも挙げられる。メディアによる標準語の普及もまた、方言の消滅に拍車をかけてきたといえる。

職場や学校では、標準語を話すことが望ましいとされてきたが、その背景には方言を理由とする差別がある。方言で育った子どもはかつて、文法習得の遅れやスペルミスが増えるなど、学校の成績に悪影響を及ぼし、不利になると考えられていた。方言を話す人は知能的に劣っているという印象を持たれる傾向があり、実際に差別されたことがある人も決して少なくないのである。また方言を話すことによって、どこの出身の人であるか見当がつくため、人物像への偏見を持たれることも。しかし今日、方言の習得は外国語を学ぶのと同じように認知能力の向上につながるとの研究もあり、そうした偏見は以前に比べて少なくなってきている。 

方言を話す人々の本音
  • 64%のドイツ人が方言は家庭や故郷と密接に結び付いていると考えている
  • 73%のドイツ人がドイツ語の多様性を高く評価している
  • 70.5%のドイツ人が方言よりも標準語が仕事に向いていると考えている
  • 8.7%の人が、方言を理由に見下されてたり差別を受けたりしたことがある

参考:WELT「Sind deutsche Dialekte vom Aussterben bedroht?」

下記は中部ドイツに限る

  • 86%の人が方言を保存したいと考えている
  • 11%の人が旅行先で方言を話して不快な思いをしたことがある
  • 47%の人が標準語を話すことにメリットを感じている
  • 46%の人が標準語を話すことにメリットを感じていない

参考:mdr「Mehr Jüngere sprechen Dialekt als Ältere」

方言話者に持たれやすい印象の例
  • ベルリン方言:生意気、気さく
  • シュヴァーベン方言:節約好き、居心地がいい、地道で誠実
  • ケルン方言:誠実、率直
  • 低地ドイツ語:無口、ユーモアがないわけではない
  • バイエルン方言:基本的に温厚、軽視されるのが嫌

方言を守ることは自分と文化を守ること

比較的新しい考え方として、「Regiolekt」(地域方言)という言葉がある。地域方言は、地域的な影響を受けた口語表現のことを指し、例えばヘッセンで「ich」は「isch」と発音されることや、ベルリン方言やルール地帯方言もこれに該当する。話者が減少している歴史的な方言とは対照的に、地域方言は今もなお広い範囲で話されている。標準語だと思って使っていたのが実は方言だったということも少なくなく、地域方言を含めれば、若い世代も実は方言を話しているのだ。

歴史的な方言でも地域方言でも、人々にアイデンティティを与え、特定の民族集団への帰属意識を抱かせる役割がある。例えば、旅先で馴染みのある方言を話す人に出会ったとき、どこか温かい気持ちになるのは、故郷とのつながりを感じるからだろう。また、方言にしかない表現やフレーズがあり、方言で悪態をつくからこそ気持ちがこもる場合もある。さらに、方言はその地域の文化や慣習とも深く結び付いているため、方言が消滅することで失われる文化も出てくるだろう。方言を守ることは、すなわち自分自身のアイデンティティを守ることであり、地域の文化や慣習を守ることでもあるのだ。

方言を未来へつなぐ授業やアプリの導入

上記でも取り上げた低地ドイツ語は、北フリジア語やソルブ語などの少数言語と共に「地方言語または少数言語のための欧州憲章」の保護下にある。特に低地ドイツ語の話者の多い北ドイツでは、低地ドイツ語の保存のためにさまざまな施策が行われている。

シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州では、2014年に低地ドイツ語のモデル学校に、ゲルティングのゲオルク・アスムセン小学校を指定。同校では、英語の教育メソッドを低地ドイツ語の授業に活かしているという。例えば、エリック・カール著の絵本『Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?』(くまさん くまさん なにみてるの?)を低地ドイツ語で読み、子どもたちは絵本に登場する動物や色を学んでいく。同校では、州からの助成を受け、年に8回の低地ドイツ語授業を実施し、4年生の終わりには送別会で低地ドイツ語の劇を披露。卒業までに子どもたちが少しでも低地ドイツ語を理解し、2~3文でも話せるようになることを目標としているのだという。

お隣のメクレンブルク=フォアポンメルン州では毎年、「低地ドイツ語週間」(Plattdeutsche Wochen)が開かれ、各地で低地ドイツ語によるコンサート、演劇、朗読会などが行われている。また、低地ドイツ語の教師養成にも力を入れており、同州ではおよそ1700人の生徒が低地ドイツ語を学んでいるという。2024年には、語学学習アプリ「Platt mit Beo」をリリース。メクレンブルク=フォアポンメルン州で話されている低地ドイツ語をはじめ、ほかの地域の低地ドイツ語のコースを提供。テキストの読み上げもあり、食事やショッピングなど、日常的なトピックから実践的な低地ドイツ語を学ぶことができる。

100年後には歴史的な方言は消滅するだろうともいわれる。そんななか、全国各地の方言協会は必死になって未来へ方言を残そうと奮闘している。バイエルン方言協会では、将来的にバイエルン方言、フランケン方言、シュヴァーベン方言のアクセントで話すAIの制作を検討中だという。これによって、子どもたちが方言を学べるようにすることが狙いだ。こうした最新技術は、方言を継承していくためにこれからさらに活用されていくだろう。とはいえ、技術だけでは限界がある。最終的には、その地域の人々の方言への愛こそが、方言を守っていく原動力になるのかもしれない。

低地ドイツ語を楽しむ演劇体験

ハンブルク中央駅前にあるオーンゾルク劇場では、低地ドイツ語による劇作品を中心に上演している。オーンゾルク劇場版『ふたりのロッテ』(Das doppelte Lottchen)は、ロッテが双子の妹に低地ドイツ語を教える演出があり、観客も一緒に低地ドイツ語を学ぶことができる。2025年9月28日~11月16日まで上演予定。
www.ohnsorg.de

オーンゾルク劇場オーンゾルク劇場

『ふたりのロッテ』(Das doppelte Lottchen)『ふたりのロッテ』(Das doppelte Lottchen)

 

秋の森で宝物を見つけよう ドイツでキノコ狩り

秋になると、ドイツの森には多種多様なキノコが姿を現し、人々は秋の味覚を求めて森へと足を運ぶ。本特集では、ドイツの豊かな自然と共に受け継がれてきたキノコ狩りの文化と魅力をご紹介。歴史的背景や生態系との関わり、採取のルールからおすすめレシピまで、キノコ狩りの魅力をたっぷりお届けする。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:MDR「"Wir gehen in die Pilze" - Die Tradition des Pilzesammelns in der DDR」、NABU「Die Recycling-Spezialisten unserer Wälder」「Die beliebtesten Speisepilze」「Auf geht’s in die Pilze」、DW「Aus der Welt der Pilze」、servus「Mythen über Pilze: Geschichte und Aberglauben」、Altruan「Von Steinpilzen bis Pfifferlingen: Die besten Tipps zum Pilze sammeln in Deutschland」

ドイツとキノコ 意外と知らない4つの関係性

ミイラも常備!? 5000年前に始まったキノコとの暮らし

ドイツおよび欧州におけるキノコ狩りの歴史は、紀元前までさかのぼる。代表的な例が、アルプス山脈にあるエッツ渓谷で見つかった紀元前3300年ごろの男性のミイラだ。1991年にニュルンベルクからの観光客によって発見されたミイラのベルトには、乾燥キノコなどを入れた小袋が付いており、抗菌や創傷治癒に効果があるとされるサルノコシカケ類を携帯していたという。古代ローマや中世ヨーロッパでも、キノコは薬用・食用として重宝され、春から秋にかけての貴重なタンパク源として採取された。中世の修道院では薬草と並んで毒性研究も進み、安全に食べられる種類の知識を蓄積。19世紀に菌類学が科学として確立すると、キノコ採集は食料確保の枠を超え、学術的探究や趣味の対象へと発展していった。

幸運の象徴? それとも魔女の呪い? ドイツのキノコ伝説

キノコは古来より、神話や迷信と深く結びついてきた。ドイツで特に親しまれているのは、赤い傘に白い斑点を持つ猛毒キノコ、ベニテングタケ(Fliegenpilz)だ。民間では「幸運のシンボル」として、年賀カードやお守り、クリスマス飾りのモチーフにも登場する。また、森でリング状にキノコが生える現象は「Hexenring」(魔女の輪)と呼ばれ、妖精や魔女が踊った跡と信じられてきた。ハルツ地方などでは、この魔女の輪は特にヴァルプルギスの夜(毎年4月に魔女たちがブロッケン山に集う夜)に現れるとされ、春の訪れや豊穣の兆しと結びつけられたという。一方、毒キノコは悪霊や魔女の仕業とされることもあり、薬効や魔除けの力を持つと信じられた種類も存在した。

ドイツのキノコ伝説

秋は森へ家族総動員! 旧東ドイツの国家事業だったキノコ狩り

東ドイツ(DDR)時代は物資不足が続いていたため、森のキノコは貴重な栄養源であり、家庭の食卓を支える重要な食材だった。そのため秋になると家族総出で森へ出かける光景は日常的で、DDR政府もこれを奨励した。この制度的な起源はナチス時代にさかのぼる。1930年代後半、ナチス政権下では毒キノコによる事故防止と食料自給の強化を目的に「Pilzberatungsstellen」(キノコ相談所)を各地に設置し、専門鑑定員制度を整備。この仕組みがDDRでも継承され、各地のキノコ専門員が市民に無料鑑定や講習を行い、学校や職場でもキノコ鑑別教育が実施された。その結果、DDRでは誤食事故が低く抑えられ、採取マナーも徹底されたという。再統一後は制度が廃止されたが、一部では民間や自治体により伝統が受け継がれている。

1987年に東ベルリンの共和国宮殿にて行われたキノコ相談会1987年に東ベルリンの共和国宮殿にて行われたキノコ相談会

絶滅危惧と放射能汚染 キノコが直面する現代の試練

ドイツには現在、約4400種の大型キノコが存在するが、そのうち約3分の1が絶滅危惧種としてレッドリストに掲載されている。ドイツ連邦自然保護庁によれば、その主な原因はキノコ狩りではなく、森林破壊や樹種構成の変化、大気中の窒素化合物の影響などによって減少しているという。また、1986年のチェルノブイリ原発事故により、40年近くたった現在でも、ドイツ東部や南部を中心に放射性セシウム137が残留している。これらの特定の地域では、ヤマドリタケなどのキノコが1キログラム当たり1000〜2000ベクレルの放射能濃度を示すことがあり、これはドイツの食品流通基準の同600ベクレルを超える場合がある。こうした地域では放射能の汚染を避けるためにキノコの収穫や販売に慎重を期す必要があるが、通常の家庭消費量では健康リスクは低いとされている。このように、キノコは森林の生態系における重要な指標であると同時に、環境汚染の影響を強く受ける食材でもあるのだ。

キノコが直面する現代の試練

森の恵みを安全に味わうためドイツのキノコ狩り入門

キノコ狩りはレジャーであると同時に、自然への配慮や採取マナー、安全な調理法への注意が欠かせない。ドイツでキノコ狩りを安全に楽しむために、ベストな気候や必要な持ち物、覚えておきたいマナーをチェックしておこう。

キノコ狩りのベストタイミングは?

ドイツのキノコ狩りシーズンは、例年8月中旬ごろから始まり、10月末、場合によっては11月まで続く。時期は天候に大きく左右されるが、特に湿って暖かい日がキノコの成長に理想的な条件となるので、以下を参考にタイミングを見定めよう。

● 雨の後
数日間の弱い雨の後に暖かい日が続くと、キノコが一斉に顔を出す。雨が土壌に水分を与え、その後の暖かさがキノコの成長を促す。

● 穏やかな気温
気温は10〜20度がベスト。暑すぎたり寒すぎたりすると、キノコは育ちにくい。

● 高い湿度
特に朝は湿度が高く成長に好条件。早朝の採取は成功率が高いので、早起きして出かけるのがおすすめ。

キノコ狩りに必要な装備は?

キノコ狩りに必要な装備は?

● キノコ用ナイフ
専用のキノコナイフを使えば、キノコを丁寧に収穫し、菌糸を傷つけずに採ることができる。刃の反対側に、キノコを掃除するためのブラシが付いているものも便利。

キノコ用ナイフ

● カゴ
カゴは通気性がよく、キノコが呼吸できるため傷みにくい。ビニール袋は、袋の中でキノコが蒸れて傷みやすくなるため、避けた方が良い。

カゴ

● 防水性のある服と丈夫な靴
森の中は地面が不安定で湿っていることが多いため、防水性のある服としっかりした靴が望ましい。

● キノコ図鑑またはアプリ
キノコ図鑑は種類の識別や、食用と毒キノコの見分けに役立つ。こちら(写真)は、自然保護団体NABUが推奨するキノコ狩りハンドブック「Handbuch für Pilzsammler」(2021年、KOSMOS Verlag)。中央ヨーロッパで採れる340種のキノコの見分け方の解説のほか、人気の食用キノコを使ったレシピが収録されている。

キノコ図鑑

● 手袋
特に種類不明なキノコに触れるときは、手袋を付けた方が良い。

キノコ狩りで守りたい6つのルール

ルール❶自然への配慮を忘れない

森の中の動物を驚かさず、繁殖期や子育ての時期に注意する。自然保護区では採取しないこと(ドイツでは規制あり)。植物や若木を踏みつけないようにし、苔をめくったり、地中の白い菌糸(菌糸体)を傷つけないようにしよう。

ルール❷注意深くキノコを採る

100%確実に識別できるキノコ以外は採らない。初心者の場合は、図鑑やアプリを必ず持参する。また、カビの生えたキノコは食用にできない。新鮮な食用キノコは弾力があり、しっかりしている。地域の市民学校(Volkshochschule)では、キノコ狩りの方法やキノコの見分け方について学べるコースが設置されていることも。

ルール❸正しい方法で収穫する

安全に識別できたキノコは、地面すれすれで切り取る。種類不明なキノコは土から慎重にねじって引き抜く(全体像と特徴が見えないと、正確な判別ができないため)。また、種類不明なキノコは、ほかの収穫した食用キノコと一緒に入れないこと。誤食時は、管轄地域の中毒緊急連絡先(Giftnotruf)に連絡する。

キノコを正しい方法で収穫する

ルール❹節度を持って採る

キノコの採集は自家消費用に限り、その日に食べきれる量以上のキノコは採らない。目安としては、1日につき1人1キロを超えない程度。ヤマドリタケ(Steinpilz)やアンズタケ(Pfifferling)などの保護対象種は、採取量が法律で制限されている。不明な場合は、該当する森林管理事務所または地域の景観管理当局に確認しよう。

ルール❺正しい調理法で食べる

全ての野生キノコは生で食べず、15〜20分加熱する。食用の安全なキノコでも、生だと胃腸障害を引き起こすこともある。

ルール❻適切な方法で保存する

できるかぎり新鮮なうちに調理する。難しい場合は必ず冷蔵する。1日以上保存する場合は、下茹でしてから冷蔵すると良い。調理済みのキノコも冷蔵庫で保存する。冷凍や乾燥後に粉末にして調味料としても利用するのも◎。

森で見つけたい!ドイツで人気の食用キノコ6種

ドイツでも特に人気の高い、食べられるキノコをピックアップ。特に初心者の方は、お手持ちの図鑑やアプリと照らし合わせながら安全に収穫しよう。香り高い森の幸を、思う存分味わって!

ヤマドリタケ
Steinpilz 採取時期:7〜11月

ヤマドリタケ

日本では「ポルチーニ」の名でも知られる香り高い高級キノコ。傘径は8〜25センチ、柄は太く樽形〜円筒形をしている。主にトウヒやマツ、ブナの下に多く、まれにカバやナラの下でも見られる。身が締まり、傘がきゅっと閉じた新鮮なものが良い。香ばしいナッツ風味が特徴で、大きさよりも鮮度が味を左右する。調理前には土をはたき落とし、汚れを切り取るか、濡れ布巾で優しく拭き取る。ドイツでは最も人気の食用キノコの一つで、ソテー、スープ、パスタ、乾燥保存など用途は多岐にわたる。乾燥品は香りが凝縮され、長期保存にも適する。

アンズタケ
Pfifferling 採取時期:6〜9月

アンズタケ

その名の通り、アンズに似た甘い香りが特徴のキノコ。傘の大きさは3〜12センチで、鮮やかな黄色〜黄橙色をしている。傘は中央がやや窪み、縁が波打って反り返っている。傘裏には、しわ状のひだが放射状に密生している。トウヒやマツなど針葉樹林のほか、まれにブナなど広葉樹の下にも群生する。締まった肉質で、熱を加えると香りが強まる。ドイツでは炒め物やクリームソース、スープなどに広く用いられる。流水で洗うと香りが失われるため、ナイフやブラシ、濡れ布巾で汚れを優しく落としてから調理しよう。

ニセイロガワリ
Maronen-Röhrling 採取時期:8〜11月

ニセイロガワリ

ヤマドリタケやアンズタケと同様に人気のキノコ。ドイツ語名の由来は、傘の色と形が栗(マロン)に似ていること。傘の直径は5〜15センチで、栗色〜暗褐色をしている。湿るとややぬめりが出る。傘裏は管孔状で、スポンジのような層が明るい黄色をしているが、押すと瞬時に青く変色する。柄はやや細長く、表面には微細な網目模様がある。トウヒやマツ林など酸性土壌を好む。香りはやや控えめだが、調理すると柔らかな風味が引き立ち、煮込み料理やソテーに適している。比較的日持ちするが、新鮮なうちに下処理するのが望ましい。

ササクレヒトヨタケ
Schopf-Tintling 採取時期:5〜11月

 ササクレヒトヨタケ

円筒形〜卵形の白い傘を持ち、高さは最大25センチ、傘径は3〜7センチ程度。成長とともに傘がめくれ上がり、やがて黒く溶ける「自己消化」(自己溶解)を起こす。この性質から「インクキャップ」とも呼ばれており、過熟すると食用に適さなくなる。若く白く硬い時期だけが食用可能で、味は繊細で癖が少ない。窒素分の多い土地を好み、埋立地や畑、道端、庭、肥沃な草地などに発生する。採取後は数時間で劣化するため、なるべく早く調理すると良い。卵形の若い状態は、フリッターやソテーにすると風味が際立つ。

クロラッパタケ
Herbsttrompete 採取時期:8〜11月

クロラッパタケ

ドイツ語名は「秋のトランペット」を意味する、灰褐色〜黒色のラッパ形キノコ。傘径は3〜12センチで、柄の基部まで中空で、傘の縁は外側に強く反り返る。主にブナ林に群生するが、ほかの広葉樹林にも出現することも。香りは乾燥させるとさらに引き立ち、パウダー状にしてソースやスープの香り付けに用いられる。フランス語では「トランペット・ドゥ・ラ・モール」(死のトランペット)とも呼ばれるが、毒性はなく安全な食用種。ただし乾燥品や冷凍品は条件によって毒素が生成される恐れがあるため、保存方法には注意が必要。

アカハツタケ
Edel-Reizker 採取時期:8〜11月

アカハツタケ

傘は黄土色〜れんが色のオレンジで、直径4〜10センチ。表面には濃い環状模様や斑点、銀色の条線があり、年を経ると模様は不鮮明になる。柄には円形の浅いくぼみが多数あり、傷つけると鮮やかなオレンジ色の乳液を分泌する。主にマツ林に発生し、地中の菌糸と樹木が共生する外生菌根菌。風味はややスパイシーで、焼くと旨味が増す。スペインやカタルーニャ料理、プロヴァンス料理などでよく調理され、ロシア料理では伝統的に塩漬けにして保存される。ドイツでは希少種として扱われる地域もある。

本誌連載「簡単おいしいレシピ」より採れたてキノコを味わうレシピ

 
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東京フィルハーモニー交響楽団ヨーロッパ・ツアー2025 フィルハーモニー・ベルリンに東京フィルがやって来る!

東京フィルハーモニー交響楽団は、1911年に創立された現存する日本最古のオーケストラ。長い歴史と伝統、そして革新によって国内外で評価されてきた同楽団が、10年ぶりにヨーロッパにやって来る。その初日を飾るのが、世界最高峰のコンサートホールとして名高いフィルハーモニー・ベルリンだ。東京フィルがヨーロッパの地でどんなサウンドを響かせるのか、出演者の声と共にご紹介。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

東京フィルハーモニー交響楽団

世界的マエストロとのツアー チョン・ミョンフンと東京フィル

ツアー全公演を指揮するのは、東京フィル名誉音楽監督で2027年より世界最高峰の歌劇場ミラノ・スカラ座の音楽監督にも就任予定のチョン・ミョンフン。2001年に東京フィルの公演に初めて登場して以来、25年にわたって楽団と関係を深めてきた世界的マエストロだ。7カ国8都市の名門ホールをめぐる今回のヨーロッパ・ツアー開催は、「東京フィルという素晴らしいオーケストラをもっと世界に知らしめたい」というチョン・ミョンフンの熱い思いによって実現した。

さらに東京フィルは、ツアーのモットーに「音楽がつなぐ、分断を越えた未来へ―響き合う世界のために」を掲げ、文化的外交の担い手として、さらに海外でのプレゼンスを高めていくことを目指している。

チョン・ミョンフンと東京フィル

クラシック初心者でも親しみやすいドラマ溢れるプログラム

今回の演目は、チョン・ミョンフンが得意なレパートリーの中から、ドラマ性があり、幅広く愛されてきた作品がピックアップされている。ベルリン公演のメインは、シェイクスピアの悲劇を題材にした、プロコフィエフ作曲のバレエ音楽「ロメオとジュリエット」。さらに、現代版の「ロメオとジュリエット」としても知られるミュージカル「ウエスト・サイド物語」よりシンフォニック・ダンス、そしてシンフォニック・ジャズの代名詞である「ラプソディ・イン・ブルー」が演奏される。

バレエ、ミュージカル、ジャズと、ジャンルを問わずに演奏をしてきた東京フィルならではの演目で、クラシック初心者も親しみやすいプログラムになっている。

ジャズとクラシックの懸け橋ピアニスト 小曽根真が登場!

ピアニスト 小曽根真

「ラプソディ・イン・ブルー」で登場するのは、ピアニストの小曽根真。ニューヨークを拠点にジャズとクラシックの両分野で活躍する同氏は、独特な存在感を放ち、唯一無二の演奏で世界中の人々を魅了している。今回の演奏会に際して、小曽根は次のように語る。「『ラプソディ・イン・ブルー』はジャズピアニストにとっては、オーケストラと一体となれる最高のレパートリー。聴衆の皆様や素晴らしいホールの響きにインスパイアされ、毎回違ったアドリブ演奏が生まれるのもこの作品の醍醐味です」。

また、かつて共演した世界的指揮者アラン・ギルバートは、小曽根について「ガーシュインの名作を完璧に解釈し、毎回新たな境地へと導いてくれる」と述べ、「マコトの『ラプソディ・イン・ブルー』は決定版」とも語っている。クラシック音楽の聖地ベルリンでこの名作にどんな魔法がかかるのか、注目の公演になること間違いなしだ。

東京フィルハーモニー交響楽団
ヨーロッパ・ツアー2025 ベルリン公演

ピアニスト 小曽根真

日時: 10月28日(火)20:00
会場: フィルハーモニー・ベルリン
指揮: チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
ピアノ: 小曽根 真
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団
曲目: バーンスタイン/「ウエスト・サイド物語」よりシンフォニック・ダンス
ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルー(ピアノ:小曽根 真)
プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」より
料金: 85€/80€/75€/70€/65€/60€/50€
学生割引あり(一律25€)

チケット販売
Konzertdirektion Hans Adler
月~土9:00~20:00、日・祝日14:00~20:00
Tel:030-826-4727

チケット購入はこちらから

東京フィルでは、ヨーロッパ・ツアー2025に関連してクラウドファンディングを実施中!

詳しくはこちら
 

事実は小説より奇なり 英国・ドイツで本当に起こった20の珍事件

私たちの世界は、フィクション顔負けの奇妙で驚くべき出来事があふれている。ましてや、異なる歴史や文化を持つ国に暮らしていれば、その驚きもひとしおだ。本特集では、英国とドイツで実際に起きた珍事件を、歴史的な出来事から現代の時事ニュースまで幅広く紹介する。予測不可能で奇妙な展開から、思わず笑ってしまうユニークなエピソードまで、どれも一筋縄ではいかない実話ばかり。きっとあなたも誰かに話したくなるはず! (文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

歴史的ミステリー

1 UK英国 リチャード3世の遺骨が
500年後に駐車場で見つかる

薔薇戦争(1455-1485)時代の王であるリチャード3世は、二人の幼い甥をロンドン塔に幽閉したり、シェイクスピアの「リチャード三世」による否定的な描写もあったりで、冷酷で残忍なイメージが強くもたれている。その遺体は500年以上行方不明だったが、なんと2012年に英中部レスター市内の駐車場の地下から発見された。遺骨の分析から、頭部に複数の致命傷を負っていたことや、実際に脊椎側弯症を患っていたことが明らかに。15年にはレスター大聖堂に埋葬された。遺骨の発見に尽力したのは歴史家フィリッパ・ラングレー氏。同氏はリチャード3世を支持し、その治世や評価を擁護する歴史家や研究者を指すリカーディアン(Richardian)の 一人だ。

参考:リチャード3世協会ウェブサイト

現在はレスター大聖堂に眠るリチャード3世現在はレスター大聖堂に眠るリチャード3世

2 UK英国 英国版ロズウェル事件!?
1980年に起きたUFO遭遇

1980年12月、英東部サフォークのレンドルシャムの森で数人の米空軍兵が、金属のような外観で色とりどりの光を放つ謎の物体を目撃。不規則な動きをする光が、数日にわたり森の中を移動したり空に浮かんだりする様子も報告された。地面には着陸の痕跡が残され、放射線反応も記録されたという。現場近くにはNATOの軍用基地があり、当時は米空軍が駐留していた。この事件については、当時中佐だったチャールズ・ホルト氏による公式報告書「ホルト覚書」が英米両政府に提出されている。「英国版ロズウェル事件」と呼ばれるほど有名だが、真相は今も明らかになっていない。現在レンドルシャムの森には、UFO目撃があったとされる場所をたどる散策ルートがある。

参考:BBC「Rendlesham Forest UFO: Are we any closer to the truth 40 years on?」

レンドルシャムの森レンドルシャムの森

ウッドブリッジの旧空軍基地ウッドブリッジの旧空軍基地

3 UK英国 犬が次々に飛び降りる
謎の多いオーバートン橋

スコットランド西部、ダンバートン近郊のオーバートン橋は、美しい19世紀の石造りのアーチ橋。しかし1950年代から、300匹近い犬がこの橋から飛び降りて命を落とすという奇妙な現象が報告されてきた。この現象が注目を集めるようになったのは2000年代以降。犬たちは全て橋の同じ側の、特定の箇所から飛び降りるという。しかも、突然興奮した様子で橋の欄干に向かって走り出し、ためらうことなくジャンプしてしまうのだそう。命を落とすケースも少なくなく、「犬の自殺橋」という異名まで付けられた。地元では超常現象との関連を疑う声もあるが、動物行動学者たちは橋の下に野生のミンクの巣があり、その強い臭いが犬の本能を刺激している可能性を指摘している。

参考:Independent「 ‘Dog Suicide Bridge’: Why do so many pets keep leaping into a Scottish gorge?」

オーバートン橋オーバートン橋

4 UK英国 切り裂きジャックの正体
21世紀になって明らかに?

「切り裂きジャック」は、署名入りの犯行予告を新聞社に送りつけるなどした劇場型犯罪の元祖。1888年8月31日~11月9日までの約2カ月間に、分かっているだけでも5人の売春婦が狙われ、特定の臓器を取り除かれた死体が発見された。事件現場はいずれもロンドン東部のホワイトチャペル周辺。厳重な捜査網が敷かれたにもかかわらず、犯人は捕まっていない。臓器摘出の跡などから、犯人は医者だったのではないかといわれているが、真相は謎に包まれたままだ。しかし2019年、ある被害者の遺体のそばにあったショールでDNA鑑定が行われた。それによると、すでに被疑者の1人として浮上していた当時23歳のポーランド人理容師アーロン・コスミンスキーが犯人である可能性が高いという。

参考:Metro「The Polish barber who could have been Jack the Ripper」

ホワイトチャペル周辺であった切り裂きジャックの犯行と思われる七つの現場ホワイトチャペル周辺であった切り裂きジャックの犯行と思われる七つの現場

5 Germanyドイツ ライン川の城に眠る少女の伝説
イディリア・ダッブの悲劇

ライン川中流域には数々の伝説が息づくが、そのなかでも19世紀に実際に起きたとされる少女の悲劇が、今なお人々の心を捉えている。1851年、スコットランド出身の17歳、イディリア・ダッブは家族とドイツを旅行中、城跡のスケッチを行うために一人で高さ約20メートルの塔に登ったが、観光用に設けられていた木製階段が崩落して取り残された。助けを呼ぶも誰にも気づかれず、塔の上で4日間、脱水症状によって(と推測されている)命を落とした。その遺骨と彼女が孤独の中で死の間際まで書いていた日記が発見されたのは9年後の1860年、塔の修復作業中のことだった。現在、城では150本以上のろうそくを灯す夜の「キャンドル・ツアー」が開催されており、イディリアの物語は訪れる人々の胸に静かに刻まれている。

参考:Rheinland-Pfalz Tourismus GmbH「Das Schicksal der Idilia Dubb Geheimnisvolle Burggeschichten vom Rhein」

ライン川の城

6 Germanyドイツ デュッセルドルフの吸血鬼
ペーター・キュルテン

1930年5月24日、「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれて世間を震撼させていた連続殺人犯が逮捕された。その人物は、当時46歳のペーター・キュルテン。少なくとも9人を殺害し、その血を飲んだといわれている。幼少期から暴力と貧困に満ちた環境で育ったキュルテンは、放火、暴行、強姦、窃盗、横領など多数の前科を持っていたが、殺人犯としてはノーマークだった。彼は常にスーツの手入れ用のブラシを持ち歩き、魅力的で教養のある人物のように見えたため、被害者らも油断したという。さらに犯行時には化粧をしており、生存者の証言から、警察は犯人がキュルテンよりも10~20歳年下だと推測していた。最終的に、別の犯罪で逮捕されたのをきっかけに連続殺人を自白し、死刑判決を受けた。

参考:WEB.DE「Er trinkt das Blut seiner Opfer – und wird nur durch einen Zufall gefasst」

「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれたペーター・キュルテン(1883-1931)「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれたペーター・キュルテン(1883-1931)

7 Germanyドイツ 世界を騒がせた
「ヒトラーの日記」贋作事件

1983年4月、雑誌「シュテルン」は「ヒトラーの日記」とされる記事を発表したことで、世界から注目を浴びた。1970年代、シュテルンの記者でナチス研究をしていたゲルト・ハイデマンはイラストレーターのコンラッド・クジャウと知り合った。クジャウによれば、戦争末期に飛行機墜落によって失われたと思われていたヒトラーの個人的所有物が、戦後に東ドイツで発見されたという。その中にあったとされる「ヒトラーの日記」は、クジャウを通じて高値で取引された。しかし間もなくして、日記がクジャウによる贋作だったことが発覚。実際は演説や教科書からの引用が多く、歴史修正主義的な内容だったという。ハイデマンは懲役4年8カ月、クジャウには懲役4年6カ月が言い渡された。

参考:NDR「Vor 40 Jahren: Urteile nach Skandal um die "Hitler-Tagebücher"」

雑誌「シュテルン」の記者会見で話すゲルト・ハイデマン雑誌「シュテルン」の記者会見で話すゲルト・ハイデマン

世間を驚かせた犯罪

8 UK英国 ゴヤの絵を盗んだ
テレビ受信料反対派

1961年8月21日、ロンドンのナショナル・ギャラリーでスペインの巨匠ゴヤが1812~14年に描いた「ウェリントン公爵の肖像」が盗まれた。警察は当初、国際的な犯罪組織の関与を疑い、犯人はなかなか特定されなかった。だが事件から4年後の1965年5月、定年退職した元バス運転手ケンプトン・バントンが、絵画をバーミンガム駅の手荷物預かり所に預け、その預かり証を英タブロイド紙「デイリー・ミラー」に郵送。6週間後には自ら警察に出頭した。裁判でバントンは、絵画を返却する代わりに政府が14万ポンドを寄付し、テレビ受信料を払えない人々の支援に充てるべきだと訴えた。絵画が無傷で戻されたことや、行為が抗議の一環とみなされたことから、美術品の窃盗罪は成立せず、額縁のみの窃盗で有罪となり、3カ月の実刑判決が下された。

参考:The National Gallery「Hugh Courts' papers relating to the trial of Kempton Bunton」、BBC「The bus driver who confessed to stealing a Goya masterpiece」

9 UK英国 高齢者の熟練犯罪集団が
高級宝飾品で強盗

中世以来、宝飾を扱う店舗や職人の工房が軒を連ねるロンドンの高級宝飾品店街ハットン・ガーデン。その88〜 90番地にある地下の貸金庫に強盗が入ったのは、2015年のイースター4連休中のことだった。犯人たちは連休を利用して、厚さ180センチのコンクリート壁に産業用ドリルで穴を開けて金庫室に侵入。貸金庫から金品を奪い去った。CCTV映像には作業用ヘルメットをかぶった男たちが手際よく金品を運び出す様子が記録されていた。細部に至るまで計画された、この大胆な犯罪による被害総額はおよそ1400万ポンド。しかも実行犯の6人は最高齢76歳を含む高齢の熟練犯罪集団だった。グループはその後逮捕されたが、回収された盗難品は約430万ポンド分にとどまっている。この事件は世間に大きなインパクトを与え、「Hatton Garden: The Heist」(2016年)や「The Hatton Garden Job」(2017年)など複数の映画の題材にもなった。

参考:Tavexbullion「The Infamous Hatton Garden Safe Deposit Heist」

右手が事件のあった貸金庫会社の建物右手が事件のあった貸金庫会社の建物

10 UK英国 5人で5000万ポンド以上
英国最大の給付金詐欺

イングランドとウェールズで、ブルガリア国籍の5人が2016〜2021年の間に約5390万ポンドを不正受給していたとして有罪を認めた。偽の雇用証明や賃貸契約書、給与明細、医師の診断書などを駆使し、数百件の生活保護申請を偽装。犯人らは、これらの偽書類を含む「申請パック」を自宅に保管し、第三者のための虚偽申請を助ける仕組みまで構築していた。犯人宅からは現金、高級車、ブランド品が押収された。労働年金省(DWP)とクラウン検察局(CPS)の合同捜査により摘発。政府は給付金詐欺対策を強化しており、2022/23年度には約180億ポンドの不正支出を防止。今後5年間でさらに6億ポンド規模の削減を見込んでいる。

参考:GOV.UK「Fraudsters behind £53.9 million benefits scam brought to justice in country’s largest benefit fraud case」

11 Germanyドイツ 「クッキーモンスター」が犯人!?
黄金ビスケット盗難事件

2013年1月、ドイツ・ハノーファーでビスケット「ライプニッツ」でおなじみのバールセン社から、重さ約20キロの金メッキ製巨大ビスケット像が何者かによって盗まれた。事件後、犯人は「クッキーモンスター」のコスプレ写真とともに慈善団体への寄付を要求。バールセン社は恐喝には応じなかったが、約2週間後に像はハノーファー大学の前に再び姿を現した。犯人は不明のままだが、この事件でバールセン社は国内メディアに600回近く取り上げられ、広告効果は170万ユーロ相当とも。一方で同社は慈善団体への寄付を実施し、結果的に騒動は社会貢献に転じた。現在、黄金のビスケット像は再び元の場所に戻され、監視カメラに守られており、この奇想天外な事件は今もなお語り継がれている。

参考:stern「Keks da, alles gut?」、「Krümelmonster beschert Bahlsen Millionenwert」

黄金ビスケット盗難事件

12 Germanyドイツ 警察官が事故車から
チーズ180キロをねこばば

2019年9月の高速道路の事故現場。現場を確保すべき立場にあった警察官が、なんと横転したトラックからチェダーチーズ約180キロを持ち帰るという前代未聞の行動に出た。この警官は引き揚げ業者に声をかけ、20キロ入りのチーズパック9個(総額約5000ユーロ相当)を要求。うち数個は警察署に、残りは家族や知人に分けたとみられる。本人は「チーズは廃棄される運命だった」と釈明し、「自分はチェダーを食べない」とまで主張したが、ラインラント=プファルツ州の裁判所はこれを一蹴。「制服と武器を所持したまま、任務中に窃盗を働いた」として、州警察の信用を著しく損なったと判断。刑事訴訟と罰金に加え、最終的に懲戒免職が確定した。

参考:LTO「Polizist fliegt raus wegen Käse-Klau」

チーズ180キロをねこばば

13 Germanyドイツ 古民家で40万マルクを発見
逆に罰金1万ユーロが科せられた夫婦

とある夫婦が、ヘッセン州ヘルプシュタインにある古民家を購入。元の所有者は亡くなっており、大掛かりな片付けと改修が必要だった。そして2023年12月、夫婦はベッドサイドテーブルの中にコーヒーとお菓子の包み紙に入った現金を発見する。その額なんと38万6680マルク、約20万ユーロに相当する大金だった。夫婦はそれを改修費用に充てようと考え、虚偽の紛失届を提出。その後、現金が全く関係のない場所で見つかったとして自分たちのものにする計画だったが、不信に思った警察当局が捜査を開始。結局、裁判に発展し、夫婦は大金を手に入れるどころか1万ユーロの罰金が科せられたのだった。裁判所によると、最初から警察に届け出るべきだったという。

参考:hessenschau「Geld bei Haus-Renovierung entdeckt: Ehepaar findet 400.000 D-Mark - und wird verurteilt」

古民家で40万マルクを発見

珍裁判・法律エピソード

14 UK英国 無許可でレモネードを売った
5歳少女に150ポンドの罰金!?

2017年7月、ロンドン東部の通り角で、小さな手作りのレモネード屋を開いた5歳の少女が、まさかの犯罪者扱いを受ける騒動があった。音楽フェスティバルが開催された週末、マイル・エンドの住宅街で1杯50ペンスでレモネードを売っていた少女に、タワーハムレッツ区の取締官が接近。「無許可営業」として150ポンドの罰金を言い渡した。父によると、娘は「人を笑顔にしたい」との思いで屋台を開いたが、娘は泣きながら「悪いことをした」としがみついてきたという。その後、世論の批判を受けた同区は謝罪声明を出し、「担当者には常識ある判断を求めている。今回の対応は誤りだった」とし、罰金は即座に取り消された。

参考:The Guardian「Girl, 5, fined £150 for running homemade lemonade stall」

レモネード販売

15 UK英国 「プリングルズはポテチじゃない」
その主張は認められず課税対象に

英国で販売されているスナック菓子「プリングルズ」が、付加価値税(VAT)の課税対象に当たるかどうかが争点となった訴訟で、控訴裁判所は2009年5月「課税対象とするのが妥当」との判断を示した。そもそも英国では、基本的な食品は付加価値税が0%だが、スナックなどの嗜好品には20%かかる。一方で、軽食になるようなケーキや一部のビスケット類は0%。このケースの発端は2008年7月、高等法院が製造元の訴えを支持し、プリングルズを「ジャガイモの含有率が42%と比較的低く、成形された粉末生地から作られることなどを理由に、ケーキやビスケットに類似する」と判断したこと。これを受け、課税対象外との判決が一度は下された。しかし、税務当局がこの判決を不服として控訴。市場関係者の間では「合理的な線引き」との評価がある一方、「食品分類の基準には依然として曖昧さが残る」との声もある。

参考:BCC「Pringles lose Appeal Court case」

プリングルズはポテチじゃない

16 UK英国 ボールが家に直撃!
クリケット場 vs 新住民の裁判

イングランド中部、ノッティンガムシャー州リンビーにあるクリケット場。その隣に新築住宅を購入したミラー夫妻は、試合中に飛んでくるボールが庭や窓に当たり、安心して暮らせないとして、地元クリケットクラブの代表ジャクソン氏を相手取り提訴した。一審のノッティンガム高等法院はプレー差止めの仮処分を出したが、1977年の控訴審でロンドンの控訴院はこれを覆す。クリケットは地域社会にとって有益な活動であり、完全な禁止は行き過ぎだとして、クラブの過失や権利侵害は認定しつつも、損害賠償の支払いのみに留めた。この裁判は、「後から引っ越してきた住民にも静穏な生活を求める権利はあるのか?」という争点とともに、個人の権利と地域の伝統とのバランスを問う例として、現在も引用されている。

参考:LawTeacher「Miller v Jackson – 1977」

クリケット場 vs 新住民の裁判

17 Germanyドイツ まずい料理は誰の責任?
ザウアーブラーテン事件

ザクセン州アウアーバッハ地方裁判所は2002年、あるレストラン客が「ザウアーブラーテン」(ドイツ風酢煮込み肉料理)の味に不満を訴えて支払いを拒否した事件で、料理の出来が契約通りであったことを証明する責任は店側にあるとする判決を下した。事件の発端は、被告となった客が13.80マルクのザウアーブラーテンを注文し、提供された料理のソースが豚肉のローストソースのように「小麦粉っぽくて味が薄い」と感じたこと。会計では98.50マルクのうち85マルクだけ支払い、残りの料理代金の支払いを拒否した。レストラン側は未払い分を求めて提訴。しかし裁判所は、店側が料理が「契約通り適切に調理・提供された」ことを明確に証明できなかったとして、訴えを退けた。

参考:urteile.news「Sauerbraten-Fall: Zur Beweislastverteilung bei der Frage der Schmackhaftigkeit eines in einem Restaurant servierten Sauerbratens」

ザウアーブラーテン事件

18 Germanyドイツ 野鳥を守るため
猫に数カ月の外出禁止令

2022年7月9日〜8月31日まで、ドイツ南部ヴァルドルフ市で、絶滅危惧種カンムリヒバリの保護を目的に、猫の外出が禁止された。ライン=ネッカー郡によると、市内にはわずか3組の繁殖ペアしかおらず、特に飛べないひなが猫に襲われる危険が高いため、種の存続のための厳格な措置を取ることにしたという。違反すれば500ユーロの罰金、鳥を傷つけた場合は最大5万ユーロが科されるルールだった。ただし、カンムリヒバリの生息地を通らない猫や、リード付きでの散歩は例外とされ、猫を禁止区域外の親族に預けることも認められた。ヴァルドルフ市長は「現実的でない」と懸念を示したが、市として郡からの命令を覆すことはできなかったという。野生動物の保護とペットの自由をめぐる議論は今後も続きそうだ。

参考:Der Spiegel「Kreis verhängt monatelange Ausgangssperre für Katzen – zum Schutz der Haubenlerche」

猫に数カ月の外出禁止令

19 Germanyドイツ 連邦最高裁判所が判決
「ビルケンシュトックは芸術ではない」

2025年2月、連邦最高裁判所は世界的サンダルメーカー「ビルケンシュトック」の商品は「芸術ではない」との判決を下した。同社は自社のサンダルは芸術であることを主張し、定番モデルの類似品を販売する3社を訴えていた。本件を担当した弁護士は、「同社のサンダルは、サンダル界のポルシェのようなものだ」と発言。創始者のカール・ビルケンシュトック氏は存命で、もしビルケンシュトックが芸術と認められれば、死後70年までは著作権で保護されることになるはずだった。一方で、意匠権(物品や建物のデザインの知的財産権)は20年で失効する。同社はすでに意匠権を失っており、今回訴えられていた3社は販売継続が認められた。

参考:WDR「Bundesgerichtshof: Birkenstock-Sandalen sind keine Kunst」

ビルケンシュトックは芸術ではない

20 Germanyドイツ 恋のおまじない効かず
「魔女」を相手取って裁判

2005年、元恋人との復縁を望む女性が「魔女」に恋のおまじないを依頼。女性は1000ユーロ以上を支払い、魔女は数カ月にわたって毎月の満月の前に「愛の儀式」を実施した。ところが、いつまでたっても恋人は戻ってこない。失望した女性は、魔女を自称する人物を相手取り、返金を求めて訴訟を起こすことに。女性は「魔女がそのおまじないが成功することを保証した」と主張したものの、魔女はこれを否定。儀式を遂行しただけで、必ずしも効果が得られるわけではないことも警告したと述べた。さらに、自分は本来は魔力を持っていることも主張したという。ミュンヘン地方裁判所は魔女の魔力は認められないと判断し、依頼主には1000ユーロが返金されることになった。

参考:JURios「Hokus Pokus Zivilrecht: Hexe hat keinen Anspruch auf Bezahlung eines Liebeszaubers」

「魔女」を相手取って裁判

 

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