Hanacell

世界が認めるスペシャリストを育てる
ドイツのマイスター制度

「ドイツ製品=高品質」なイメージの背景にあるのは、確かな技術力。その高い技術力を兼ね備えたスペシャリストを育成するプログラムがドイツでは確立されている。今日、世界中からその道のプロになるために多くの人がドイツにやってくる。もちろん日本も例外なく、年々ドイツでの研修に参加する人が増えているのが現状だ。そんなドイツ社会を支えるマイスター制度について、さまざまなポイントに迫っていこう。
(本文:ドイツニュースダイジェスト編集部、取材協力:株式会社ダヴィンチインターナショナル)

その道を究めた
日本のマイスター達

石見銀山の麓でドイツパン・菓子の魅力を伝える

パンマイスター 日高晃作さん
製菓マイスター 日高直子さん

日高さん一家製菓マイスターの直子さんと、パンマイスターの晃作さん

プロフィール

パン職人として働いていた晃作さんは、本場ドイツでパンの修行をするために24歳で渡独。同年に直子さんも洋菓子の本場、ヨーロッパで製菓の勉強をするため31歳でドイツへ。二人とも2008年にゲゼレを取得。その翌年、晃作さんはマイスターを取得し、2011年8月までドイツで働く。直子さんはゲゼレ取得後ドイツで働き2011年に製菓マイスターを取得。現在は夫婦で島根県に「Bäckerei Konditorei Hidaka」を立ち上げ、ドイツパン・菓子を販売している。
www.facebook.com/bkhidaka

マイスター取得を考えた理由を教えてください。

晃作さん:マイスターを取得すれば、ドイツで働きたいと考えた際にビザを取得しやすいと思ったからです。実はゲゼレ取得後にドイツでさらに経験を積みたいと思っていたのですが、ビザの延長(労働ビザ)が認められず、ワーキングホリデービザを使って再びドイツに戻る選択肢しかありませんでした。

直子さん:元マイスター学校の先生だった勤務先の菓子店のオーナーから勉強になるからと強くすすめられました。日本に帰ってから自営でやるなら、日本人にとって馴染みが薄いゲゼレより、知名度が高いマイスターの資格を取った方が有利と思い取得しました。

イスターになる過程やドイツで仕事をする上で苦労したことは?

晃作さん:主に金銭面ですね。それまでの貯蓄とワーキングホリデー労働可能90日間(2009年当時)を有効に使用し、夜勤で働かせてもらいました。マイスター取得後は、日本に帰る飛行機代もありませんでした。

直子さん:ゲゼレとして菓子屋で働きながら仕事を教えてもらい、同時に学費を工面したので、金銭面は苦労しました。学校では実技以外の教科(法律や教育学、会計などの座学)のドイツ語の難解さに頭を悩ませたこともしばしば。また、地域によるのかもしれませんが、EU諸国以外の外国人は、雇用主に雇う意思があっても法律上の手続きが面倒で、雇用主には雇ってもらうまでにものすごく尽力して頂いたことを覚えています。

マイスターを取得したことで変わったことはありますか?

晃作さん:ドイツの職場で若者を指導できる立場になったことと、正式にパン職人になれたんだという自信と責任感です。

直子さん:それまでは製菓の技術のことばかり考えていたのですが、マイスター学校の学習を通して自分の店を持ちたいという気持ちが高まりました。

ドイツでしか得られないことは何だと思いますか?

晃作さん:国際的に認知された資格、マイスター制度があることです。EUや世界の動きによって変化することもありますが、昔から受け継がれてきたものを背負っているという責任を感じます。また定時間労働、バカンスなど家族との時間や自分のオフの時間がしっかり取れるシステムは良いですね。

直子さん:私の通ったマイスター学校は都会ではない土地柄と比較的先生が高齢だった影響か、現在では作られていない様な古典菓子、地域色の強い菓子を多く教えてもらえました。日本では知り得ない物だったので、現代的な菓子を教えてもらうよりも興味深く、むしろ新鮮でした。

高い専門性でマイスターにしか作れない眼鏡を

眼鏡マイスター 中西謙太さん

眼鏡マイスター 中西 謙太 さん謙太さん(左)、ステファニーさん(中央)、広樹さん(右)

プロフィール

祖父の代より二代にわたり続く、眼鏡・宝飾・時計店の長男として生まれる。高校1年生の時に眼鏡士になることを決意するが、国内に世界基準で専門知識を学べる場所がないことから世界に目を向け、高校卒業後18歳でドイツへ。2004年にゲゼレを取得、2009年には日本人最年少で眼鏡マイスターを取得。現在は同じく眼鏡マイスターである弟の広樹さんと、広樹さんの妻・ステファニーさんとともに東京・青山で「ドイツマイスター眼鏡院」を営む。
http://meister-gankyouin.com

マイスター取得を考えた理由を教えてください。

将来、眼鏡屋になるのであれば、専門知識を身に付けよう、それも世界最高水準といわれるドイツで眼鏡マイスターを取得しようと考えたからです。というのも、現在も変わらないのですが、日本には眼鏡士という公的な資格が存在しないため、高度な専門知識を学びたいと思っても学べる場所がありませんでした。そこで外に目を向けた際、父親からドイツのマイスター制度について教えてもらい、業界内のさまざまな方にお話を聞いた際に眼鏡の分野においてドイツのマイスターが世界最高水準であることを知りました。同時にその当時眼鏡マイスターを取得された日本人は一人しかいなかったほど、取得するのが大変難しい資格だということも分かりました。

周囲に伝えた時、どのような反応でしたか?

父は「どうするかは最終的に自分で決めなさい」と言っていたので、渡独を決意した際にも受け入れてくれました。内心では私が取得への道が険しいドイツに決めたことをうれしく思ってくれていたのではないかと思います。決意したその日から、父親とは二人三脚でマイスター取得に向けての準備、情報収集を始めました。また、学校や友人にはあまり理解されていないと感じていました。高校生ですし、大学受験を考えるのが一般的なので無理ないですよね。

マイスター取得のために準備していたこと、また苦労したことは?

渡独を決意した高校1年生から卒業まで、日本のドイツ語語学学校に通っていました。また、マイスター取得の際に一番大変だったことは、職業訓練先を見付けることと就労ビザの取得です。この二つに関しては本当に多くの方に助けていただきました。

この先、グローバル化によってマイスター制度が変わっていくことが予想されますが、マイスター制度でしか得られないことは何だと思いますか。

マイスターとしてのプライドではないでしょうか。マイスターになるためには長い年月をかけて、技術や知識を学びます。そのため自分の仕事にマイスターとしての自覚と誇りを持っている方が多いので、常に高水準が保たれてきました。既にいくつかの職業はマイスター資格が必要ないそうですが、そうなるとやはりプロとしての意識の低下=質の低下に繋がってしまうのではないかと懸念しています。

ドイツでマイスターを取得したいと考えている方にメッセージをお願いします。

マイスター取得によって得た技術・知識をどう生かすのか、先を見据えることが大切。マイスター取得はゴールではなくスタートラインだと思って、がんばってください。

目指せプロフェッショナルへの道

日本人がゲゼレ・マイスターを取得する際の流れ

では、日本人がドイツに渡ってゲゼレやマイスターを取得する場合には、どのような段階を経るのか。

まずは、高卒以上が職業訓練学校や研修先の受け入れ条件となる。この条件を満たしている人は、留学を斡旋している企業を探して希望の研修先を相談(個人の場合は研修先と学校を自分で探す必要がある)し、まずは、職場の人達とコミュニケーションが取れるようにドイツ語を勉強する。その後、研修先と職業訓練学校での研修期間3年~3年半を経て(日本で関連のある職種で長期間の経験を積んでいる人は、業種によって研修期間が短く免除される場合がある)、ゲゼレを取得。

すでにプロフェッショナルとして経験に裏打ちされた技術があることを証明するゲゼレ取得後は、マイスター取得を目指すほかにも、企業での就職や技術向上のために引き続き研修したり(Weiterbildung)、日本で起業するなどが考えられる。ドイツで取得したゲゼレやマイスターの資格はEU圏内では有効なため、他国でプロフェッショナルとして働く選択肢も。また、ゲゼレ取得後に数年経験を積んだ後に、改めてマイスター取得を目指すことも可能。

ゲゼレ・マイスター

ゲゼレ・マイスターまでの道のり
ドイツへ渡航
現地の語学学校でドイツ語を勉強
(語学レベルによって違いはあるが半年程度)
研修先・学校が決定し修行開始
(平均約3年~3年半)
ゲゼレ取得
マイスター学校に通う 企業などに就職
• 技術力向上のため研修を続ける
• 日本で起業

など
 
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