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ドイツ女性参政権行使100年
21世紀の現在、女性は社会に何を求めるのか?

2019年1月19日、ドイツで初めて女性が選挙に参加してからちょうど100年を迎えた……。ドイツの顔とも言えるメルケル首相をはじめ、女性の影響力は大きいと感じられる一方で、あらゆる場面で男女間に格差があるのも事実だ。今年、ベルリンがドイツで初めて3月8日の「国際女性デー」を祝日に制定したことを機に、女性の権利について考える特集を組んだ。男女平等を実現させるための第一歩となった女性参政権獲得の歴史を振り返り、現代のドイツにおいて女性が求める権利を知ることで、さまざまな人々の間にある格差がまた少しずつ縮まっていくことを信じて。(Text:編集部)

次の100年で何が変わるのか?最近ホットなドイツの女性ムーブメント

現代のドイツでは男女平等が実現している?さまざまなニュースや統計によると、残念ながらその道はまだまだ険しいようだ。女性参政権が行使されて100年が経ってもなお、女性の権利の主張は続いており、新たな広がりを見せている。そんなドイツの女性を取り巻く現状と、世界的な女性ムーブメントがドイツでどのように盛り上がったのかをまとめた。

ドイツにもまだある「ガラスの天井*」

*「ガラスの天井」とは、能力があるにも関わらず昇進を阻む見えない制限のたとえ。特に男性が優遇され女性が要職につけない状態のことを指し、1980年代から使われ始めた

一番身近な男女格差といえば、職場や家庭にあると感じている人が多いのではないだろうか。それは現代ドイツも決して例外ではなく、この2つは表裏一体の関係にある。ドイツ連邦政府の2017年の報告によると、子育て中の働く女性は男性よりも毎日平均87分も家事や育児、介護に時間を費やしているという。また、そういった無償の仕事を通算すると、2013年の統計では年間10億ユーロの生産価値があるという結果に。これは製造業全体よりも多い数値だ。また、ドイツのIW経済研究所の調査では、女性が昇進の機会を逃すのは、労働時間が男性よりも少ないことを理由の1つに挙げている。その裏には、先に挙げたように女性が家事や育児に時間を費やしているという前提があるという。管理職につく女性の4人に1人がパートタイムで勤務しており、管理職につく男性よりも労働時間が3〜4時間短く、それもまた、さらなる昇進を阻む理由になっているのだ。

企業が女性のキャリアをサポートするために会社の制度を改善したり、個人レベルでパートナーと完全に家事と育児を分担するなど、さまざまな試みがメディアでたびたび取り上げられているが、それは一部の例に過ぎない。現実と理想の間を埋めるには、まだまだ課題が多そうだ。

参考記事:Welt「Führungs-Frauen machenvielzuiel im Haushalt」(2017年6月29日)、Tiroler Tageszeitung Onlineausgabe「Debatte um Mann im Haushalt: Fr uentäglich 87 Minuten länger aktiv」(2019年1月18日)。

統計

女性は男性より21.5%収入が低い

1時間当たりの平均収入を比べると、EU全体では女性は男性よりも16.2%低く、ドイツはエストニア(25.3%)、チェコ共和国(21.8%)に次いで3番目に格差がある。特に、管理職ではその差が大きい。

Quelle:Eurostat / Gender Pay Gap:Wie vielwenigerver dienen Frauenals Männer?, 2016

管理職につく女性の割合は29%

ドイツは経済大国でありながら、企業内の幹部として働く女性の割合はEU全体平均の34%を下回る結果に。ちなみに1位はラトヴィアで46%、最下位はルクセンブルクの19%。

Quelle:Eurostat / Führungskr äfte, 2017

毎日子どもの世話をする女性88%、男性64%

25〜49歳の男女に毎日子どもの世話をするかどうかを調査した結果、ドイツでは20%以上も差があることが明らかに。EU内ではスウェーデンの格差が最小で女性96%、男性90%。

Quelle:Eurofound / Tägliche Kinderbetreuung und-erziehung, 2016

毎日料理や家事をする女性72%、男性29%

18歳以上の男女で毎日料理や家事をする割合は、なんとドイツでは40%以上も差があるという結果になった。子育てに熱心なスウェーデンでも女性74%、男性56%と開きがある。

Quelle:Eurofound / Tägliche Hausarbeit und Kochen, 2016

旧東ドイツでは男女平等が実現していた?

1980年代の東ドイツで働く女性1980年代の東ドイツで働く女性

社会主義国で自由のない国だったと思われがちな旧東ドイツだが、意外なことに現在のドイツよりも女性が経済的に自立しており、男女格差が少なかった。その背景には女性にも同等の教育機会が確保され、仕事と育児を両立させるためにさまざまな政策が行われていたことがある。今日でも、東部で組織のトップにつく女性の割合は29%で西部の24%よりも多い。また、男女の収入格差においても、2017年の統計によると東部では男女で7%しか違わないのに対し、西部では22%となっており大きな差があるという。

参考記事:Berliner Zeitung「Gehalt und Aufstiegschancen Warum funktioniert Gleichberechtigung im Osten besser?」(2018年10月14日)

ドイツではどう盛り上がってる?
3つの女性ムーブメント

2019年もドイツ各地で開催Women's March

ウィメンズ・マーチとは

2017年1月20日に行われたトランプ米大統領の就任式の翌日、首都ワシントンで50万人が「ウィメンズ・マーチ(女性の行進)」に参加した。ことの発端は、2016年11月にトランプ大統領が選出された直後、選挙キャンペーン中から女性蔑視の発言を繰り返してきた同大統領に抗議するため、2人の米国人女性がフェイスブック上でデモを呼びかけたこと。デモのドレスコードは、ピンク色の猫耳ニット帽(プッシーハット)。プッシーとは「猫」のほか「女性器」のことも指す。トランプ大統領が、スターならプッシー(女性器)を触ることだってできる、と発言したことに対する抗議の意味が込められている。デモには女性の権利を訴える男性や、歌手のマドンナや俳優のエマ・ワトソンをはじめとする多くの著名人も参加した。

同日、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなどの主要都市を含む米国全土のほか、ロンドン、ベルリン、パリなど、世界各地でも同様のデモが開催された。主催者によると、673カ所でおよそ500万人もの人が集まったという。現在ウィメンズ・マーチはNPO法人となり、毎年1月と国際女性デーを中心に抗議活動を続けている。

ドイツのウィメンズ・マーチ

2019年1月19日、3年目を迎えたウィメンズ・マーチ。米国各都市はもちろんのこと、ドイツ国内ではベルリン、フランクフルト、ミュンヘンなどで開催された。この日は、ドイツで女性参政権が行使されて100周年という節目でもあった。

ベルリンのウィメンズ・マーチでは「Frauenrechte sind Menschenrechte!(女性の権利は人間の権利!)」をモットーに、トランプ大統領への批判は大きなテーマにはなっていなかった。デモにはLGBTsや男性も含めて数千人が参加し、「大学教授の女性の割合は24.1%」や「本物の男性はフェミニストだ」など、女性を取り巻く現状やそれぞれの思いを書いたプラカードが掲げられた。また、フランクフルトのウィメンズ・マーチには約1200人が参加。女性参政権の記念日であることを踏まえ、発起人の1人が「今、私たちはほかの女性の権利のために戦い続けなければならない」とスピーチで訴えている。中絶に関する自己決定権、LGBTsの権利、労働者の権利……など、今やさまざまな基本的な権利を求めることがウィメンズ・マーチのアクションの一部になっている。そういったテーマの広がりが、ドイツで賛同者を増やした理由にもなっているのだろう。

参考記事:ハフポスト日本版「『これが民主主義のあるべき姿』全米370カ所で反トランプの"姉妹デモ"が発生」(2017年1月22日)、ハフポスト日本版「反トランプ『ウィメンズ・マーチ』:『女性の権利』のための長い闘い −大西睦子」(2017年2月5日)、Berliner Zeitung「Women's March Für mehr sexuelle Selbstbestimmung und gegen Diskriminierung」(2019年1月21日)、Frankfurter Neue Presse「Das war der zweite "Women's March" in Frankfurt」(2019年1月21日)、WOMEN’S MARCH 公式サイト:https://womensmarch.com/

ウィメンズ・マーチ2019年1月19日にベルリンで行われたウィメンズ・マーチ

ドイツでの成果はいまいち?#MeToo

#MeTooとは

ツイッターなどのソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で広まったハッシュタグで、過去に受けたセクシュアルハラスメントや性的暴力をSNSでシェアし、問題の深刻さを訴えるムーブメントのこと。2017年10月に映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラや暴行被害について、ニューヨークタイムズ紙が報道し、同氏の被害者が何人も名乗りを上げた。その後、米国人俳優のアリッサ・ミラノが、性的被害を受けたことがある人は経験をシェアしよう、と#MeTooのハッシュタグをつけてツイッターで呼びかけたのだ。そのアクションは瞬く間に世界中に広がり、多数の著名人が告発されるなど議論を巻き起こした。

ドイツの#MeToo

#MeToo ムーブメントが始まってちょうど1年後の2018年10月に、ドイツの週刊誌シュピーゲル紙が特集号「#frauenland」を発行。副題は「女性参政権から100年、#MeTooから1年―ドイツはどうモダンなのか?」。メルケル首相やドイツ人俳優のザンドラ・ヒュラーなどの12人の女性のポートレートが起用され、12種類の表紙で販売された。同誌では政治や経済だけでなく、育児や家事の問題、男女平等化が進むスウェーデンの紹介など、さまざまなテーマが取り上げられている。

この特集に合わせ、オンライン版シュピーゲルでは、#MeTooの議論が何をもたらしたか、をテーマに読者5000人以上に調査した結果を公開。その報告によると、半分の回答者は#MeTooで具体的に何か改善されたわけではないと考えていることが分かった。興味深いことに、女性よりも男性の方が#MeTooについて意見を交わしていることも明らかに。#MeTooをばかばかしいものとみなす人がいると指摘する女性読者がいる一方で、特に男性がハラスメントに対して敏感という意見もあった。また、これまでも性的な被害に対して抵抗してきたという読者からは、#MeTooのムーブメントによって自分の行いが正しかったと分かり気持ちが楽になった、というコメントも。とはいえ、調査結果が物語るように期待されるような大きな変化はなく、ドイツの#MeTooの熱は冷めつつあるようだ。

参考記事:ハフポスト日本版「セクハラや性暴力を告発する『#Me Too(私も)』 始まったのは10年前の黒人女性の"勇気"から。」(2017年10月19日)、Spiegel ONLINE「Hat #Me Too für Sie schonet wasver ändert?」(2018年10月11日)

シュピーゲル紙
「#frauenland」をテーマに掲げたシュピーゲル紙

ベルリンがドイツ初の祝日に制定国際女性デー

ベルリンの国際女性デー

2019年1月、ベルリンがドイツで初めて3月8日「国際女性デー」を祝日にすることを定め、来たる3月からさっそく施行されることになった。そもそも、ベルリンの祝日の合計数がほかの州に比べて少なかったため、長らく祝日制定については議論されていた。国際女性デーのほかにも、3月18日のドイツ三月革命の日やベルリンの壁が崩壊した11月9日なども候補に挙がっていたという。

昨年11月には、ベルリンのミュラー市長(SPD)は国際女性デーを祝日とすることを支持する意思を表明していた。特に、連立パートナーである緑の党支部長のニーナ・シュタールは女性の権利と男女平等への取り組みは同党のDNAだと述べ、この決定を非常に快く受け入れた。また、彼女は「平等権が達成されない限り、私たち緑の党は3月8日をお祝いするだけでなく、むしろ社会のためにデモを行い闘い続けます」と述べ、この祝日が政治的であることを重要だとした。また、SPDのレイド・サレーも、この祝日がすべてのジェンダー、バックグラウンド、国籍の人の平等の権利を尊重するというベルリンの精神に合致するものだ、とコメント。3月8日は各地でデモが予定されており、さらに5月8日にベルリンと欧州の各都市で、「Women for Europe – Europe for Women」と題されたウィメンズ・マーチと女性のためのフェスティバルが開催されるそう。

参考記事:DW「Berlin set to make International Women's Day a public holiday」(2018年11月25日)、WELT「Berlin erklärt 8. Märzzum geset zlichen Feier tag」(2019年1月24日)

 
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