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加藤政幸・ギタリスト 加藤政幸  かとう・まさゆき
ギタリスト

1947年生まれ。鈴木巌氏に師事。69年にNHK洋楽オーディションに合格、ラジオでギターを独奏。72年に渡独し、ザールラント州立放送局でギター音楽の放送に携わる。74年ヴィオッティ国際音楽コンクール銀賞、ミラノ国際ギターコンクール優勝などを経て、80年までアーヘン音楽大学ギター科講師。現在はヘルマン・ハウザー財団の理事を務めながら、各国際コンクールの審査員やコンサート、後進の指導に当たる。

現在、ミュンヘンを拠点に、世界中でコンサートを行っていらっしゃいます。最初にドイツに来られたきっかけは何だったのでしょうか?

1969年にNHKの洋楽オーディションに合格して、ラジオ放送でギターを弾いていたんです。でも、ヨーロッパに留学したいとずっと思っていました。そんなとき、地元・仙台の医師・高橋功先生が推薦してくださったんです。先生は日本ギター界の第一人者で、ドイツ人医師・シュヴァイツァー博士との交流により携わっていたアフリカでの奉仕活動を終えて、帰国されていました。先生の紹介でドイツ行きが決まったのは24歳のときでしたね。

ところが、出発直前になって、そのとき患っていたヘルニアがひどくなりまして。当時は1日11時間くらい練習していましたから、左の親指が何倍にも腫れ上がってしまったんです。ある朝、痛みで起き上がれなかった。体を支えられないんですね。体中の関節すべてが痛いんです。

これからドイツへ旅立とうかというときに、病院では薬を30日分しか出せないと言われましてね。その薬を飲んだら、不思議なようにすーっと痛みがひいていくんですよ。だから薬をやめるのが怖かった。あの痛みが戻ってくるなら死んだほうがましだと思っていましたから。

でも日本で死ぬのもドイツで死ぬのもいっしょかなと考えて、どうせならすでに決まっていることをしようと思ったんです。薬がなくなってもうだめかなーというとき、恐る恐る朝起きたら大丈夫だった。それでいまに至っているんです(笑)。

どうしてギターを弾こうと思ったのですか?

子どものころ、何か楽器をやりたかったんですね。でも何がいいのかわからなかった。家は特に音楽一家ではなかったから、身近に楽器はありませんでしたし。

12歳くらいのときでしたが、ある日、レコード屋でレコードをめくっていたんです。ふと1枚のレコードを手に取った瞬間、絶対買おうと。本当に偶然ですけど、なぜかピンときたんですね。それが、アンドレス・セゴビア※1が弾いたバッハの「シャコンヌ」だった。家に帰って聞いてみたら、すごく良くてね。15分くらいの曲なんだけど聞き惚れてしまいましたよ。それでギターをやろうと思ったんです。これしかないって。

それからギターを買ったんですね。

自分で小遣いを貯めてね。週に1回、教室に通い始めました。高校までサッカー少年だったんですけど、毎日必ず練習しようと心に決めて。目標は1日2時間でしたね。練習日記をつけて、練習内容を書いていましたよ。

楽器をうまく弾けるようになるためのアドバイスはありますか。

頭で考えて練習するといいですね。何を練習するのか、どこに気をつけて練習するのか、どの練習にどれだけの時間を配分するのか、を意識してやると、早く上達すると思います。

ご自身ではどのような練習をされていたのでしょうか。

私がパリで師事したオスカー・ギリア※2先生がおっしゃっていたのは、音を覚えるには3つの基本がある、ということ。「目で覚える」「耳で覚える」「指で覚える」ですね。これを同時にしなさいと。

例えば、移動の電車の中ではギターを実際に弾けませんよね。だから、楽譜を見て(目で覚える)、音を想像しながら(耳で覚える)、どの指で弾くか(指で覚える)を考えながらやっていました。楽譜1ページを1時間でマスターする、という目標を立て、徐々にスピードアップしていくんです。

コンサートで演奏するとき、ドイツと日本の観客の違いはありますか。

心の広さですね。ドイツの聴衆は、場を盛り立てるのがうまい。いい演奏をしたときはもちろんですが、例えば失敗したときでも、長い間、温かい拍手をして盛り立ててくれるんです。褒め上手で、人の失敗にはとても寛容な人々だと思いますね。

手が小さいとギターに向いていない、と言われますが。

そんなことありませんよ。プロのギタリストの中にも手の小さい人がいますし、そういう人は、自分に合ったギターを選べば問題ありません。

現在は主にどのような活動をされているのでしょうか。

ドイツのギターメーカー、ヘルマン・ハウザー※3が2005年に創設した「ヘルマン・ハウザー・ギター財団」で理事を務めており、同財団が主催する国際セミナーで教えたり、シュトゥットガルト国際ギターフェスティバルの音楽監督や世界各地で開催される各コンクールの審査員をしたりしています。また、コンサートやギター教室も開催しています。年によって違いますが、1年のうち9カ月くらいは海外にいますね。日本にも生徒がいるので、5~6回は帰国しますよ。

ギターの魅力とは何でしょうか。

構造が単純で、音色がだんだんとなくなっていく感じが、自然で心地いいんです。長い間ギターといっしょに暮らしていますから、ギターは私にとって、自分がこの世に存在する一つのきっかけになっています。

ありがとうございました。

※1)アンドレス・セゴビア Andrés Segovia
スペインのギタリストで、現代クラシックギター奏法の父、世界最高のギタリストと称される。自らギター用に、バッハのバイオリン曲シャコンヌを編曲したことで有名。それまで田舎の楽器とみられていたギターの地位を、ピアノやバイオリンと同レベルまで上げようと尽力し、後進の指導にも熱心にあたった。
※2)オスカー・ギリア Oscar Ghiglia
イタリアのギタリスト。祖父、父は著名な画家、母はピアニストという芸術一家に育つ。ローマのサンタ・チェチーリア音楽院で学び、アンドレス・セゴビアから強い影響を受けた。世界中で後進の指導に当たっており、その優れた教授法から、数多くの優秀な弟子が育っている。
※3)ヘルマン・ハウザー Hermann Hauser
ドイツのギター製作家の名門。初代へルマン・ハウザーがミュンヘン近郊ライスバッハ(Reisbach)でギターとリュートを作り始め、自ら演奏もよくした。1924年にセゴビアと出会ったことにより、職人としての道を本格的に歩み始め、37年に製作したギターはセゴビアから「現代の最も偉大な作品」と賞賛された。現在は3代目が跡を継いでいる。
 
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