Hanacell
Daniel Mayer

クリエイティブな手仕事を
求めてお菓子作りの道へ

レストランで料理人と一緒に働いた経験が、
僕のお菓子作りを豊かにしてくれた

今回の仕事人
Matthias Max
マティアス・マックス

菓子職人、Herr Max創業者。リューベックの職業学校で製菓を学びつつ、メルンのコンディトライで修業。卒業後にハンブルクへ引っ越し、アトランティックホテルのレストランに就職。その後も複数のレストランで経験を積み、カフェ・シュミットで4年間、経営を担当した後、2008年に起業。

ハンブルク・シャンツェン地区の「Herr Max」は5年前の開店時から人気のコンディトライ(菓子屋)。1世紀前は牛乳屋だったという店舗は、当時の白いタイル張りの壁面を活かし、ヴィンテージもののケーキ台や、蚤の市で買い集めたチッペンデール風の白い家具が置かれ、デコレーションケーキを思わせる空間。愛情と個性溢れる店の誕生話を店主にうかがった。

クリエイティブな仕事がしたくて

オーナーで菓子職人のマティアス・マックス(43)はメルン生まれ。カメラマンだった義理の父と美容師の母に育てられた。幼い頃は絵を描くことと、粘土細工が大好きだった。マジパン細工の才能は、この頃から磨かれていたのかもしれない。

17歳の時、グラフィックデザイナーに憧れたが、そのためにはアビトゥア(大学入学資格)を取得し、大学へ行く方が良いと周囲に勧められる。しかし、マティアスは一刻も早く独立したかった。そこで、職業学校(Berufsschule)へ進むことに。料理が好きだったので、コックになろうと考え、しばらくレストランで実習したが、深夜労働が辛かったため中断し、コンディトライに移った。そして3年間、リューベックの職業学校とメルンのコンディトライを行き来した。「実習先の『Kaffeestübchen』は昔ながらの、ちょっと古臭い店だったけれど、ここの雰囲気がとても気に入ったんだ」。クリエイティブな仕事をしたいという希望も満たされた。

職業学校在学中、リューベックで菓子作りコンテストが行われた。テーマはお祝い用のケーキで、参加者は約50人。この時マティアスは、マジパンで編んだ籠と薔薇をあしらったクラシックなバースデーケーキを製作し、優勝した。「自分らしい、美味しいお菓子を作りたいと思っていたから、トップに選ばれて本当に嬉しかった」と言う。ゲゼレの資格を得て職業学校を終えると、ハンブルクのアトランティックホテルに就職。以前から漠然とこの街に住みたいと考えていたのだ。

キッチンで真剣に作業中のマックスさん
マジパンで人物を製作中

料理人たちとの出会いとデザート修業

仕事を始めた1989年当時、アトランティックホテルにはベテラン料理長のクラウス・ケッヒリングが率いるミシュラン1つ星のレストランがあった。マティアスはゲルト・メーデンバッハ率いる同ホテルのパティセリーで2年間働き、レストランでデザートも作った。「職業学校やコンディトライでは、素材の盛り付け方、季節ごとのデザートの構成などは学べないから、貴重な体験だったよ」。その後、彼はグランドエリゼホテルのレストランなどを転々とし、1995年にインターコンチネンタルホテルのパティセリー部門の主任となる。レストランではちょうど、ティム・メルツァーが修業中。同年代の2人は友人となった。

「ティムがインターコンチを辞め、リッツ・ロンドンを経て1997年にハンブルクに戻ると、一緒にレストラン『フェース(Fees)』で仕事を始めたんだ。当時のフェースは、スタッフ全員がロンドン帰りのティムに触発されて、独創的なメニューを次々に生み出す面白い職場だったよ」。その後、ティムは『ターフェルハウス』に移り、マティアスもやがて『オ・ケー(Au Quai)』に移る。料理長はトルステン・ジレールだった。「彼も非常にクリエイティブな料理人で、ティムとは違う形で影響を受けた」と言う。

マティアスは長年にわたり料理人と一緒に仕事をすることで、野菜やハーブ、世界中のあらゆる香辛料や穀物などをお菓子作りに取り入れるようになる。「レストランで働いた経験が、僕のお菓子作りを豊かにしてくれたし、その頃から僕ならではの味を作り出せるようになった。また、ティムと一緒に働いたことで、伝統的なスタイルを基本としながら、それを越えることができた」。コンディトライに固執していたら得られなかった経験だった。

「Herr Max」開店へ

マティアスはその後、オートマルシェン地区のコンディトライ「カフェ・シュミット(Café Schmidt)」で4年間にわたり経営を担当した。「シュミットで働くうちに、自分の店を持ちたいという気持ちが湧いてきたんだ」。通常、ゲゼレ資格では自分のコンディトライを持つことはできないが、経営経験があったため、いくつかの条件を満たすことで開業許可が下りた。当初話を持ち掛けた銀行が融資を渋り、途方に暮れた時期もあったが、ある時、別の銀行に相談すると、担当者が彼の考えに共感し、融資を即決してくれた。その直後、自宅の近くに理想的な店舗も見付かる。賃貸借契約から開店まで、わずか2カ月のスピード開業だった。グラフィックデザインとお菓子の写真撮影は、写真の勉強をしているパートナーのユリアが担当した。「店舗を改装しながらお菓子を作り、気に入った作品の写真をいくつもショーウインドーの全面に貼り付けたんだ。宣伝はそれだけ。にもかかわらず、開店前から予約が入り始めて、オープン当日には行列ができたんだよ、本当に驚いたし、嬉しかった」。

改良を重ねたレシピ

優に300ページを超えるマティアスのレシピ帳には、改良を重ねたレシピがぎっしり詰まっている。「伝統的なケーキのレシピは現代人の味覚には甘過ぎるので、砂糖を約半量に減らしている。ほかにも脂肪分を減らす工夫をするなど、改良を重ねているんだ」とマティアス。また、できる限りビオの素材、フェアトレードの製品を使用しているほか、ヴィーガン向け、グルテンフリーのケーキも作る。マティアスの個性が光る、ポップアート作品のようなマジパン細工のデコレーションケーキ(Schautorte)のファンも多い。

現在は、ゲゼレが3人、正社員、アルバイトも含め、計18人が入れ替わりつつ、店を切り盛りしている。ケーキは1日約25台を生産、お祝い用ケーキの注文もひっきりなしに入る。「とても忙しいけれど、自分の店を持って良かった。それは本当に素晴しい経験だよ」。

Herr Max
Konditorei & Patisserie Schulterblatt 12, 20357 Hamburg
Tel: 040-69219951
www.herrmax.de
※ パティセリー教室も開講中。10月は16、31日夜に開催。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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