新型コロナウイルスの影響で、この2カ月間、自宅からほぼ半径2キロ以内に行動範囲が限られていた。規制が大分緩和されてきた5月の土曜日、久々に電車に乗って家族で散策に出かけることに。5歳の息子は電車に乗れることがよほどうれしいようで、「今日はいい日だねえ」と何度も口にしては興奮気味。S バーンの車内にはコロナ対策の協力を呼びかける案内が貼られ、乗客はマスクを着用している。
まだあまり遠くに行く気持ちにもなれないので、自宅から比較的近いシェーネベルク南地域自然公園に行ってみることにした。当連載の第21回(本誌910号)で取り上げた場所だが、最初の訪問から早10年が経った。あの広い公園がどう変わったかも見てみたい。S バーンのプリースターヴェーク駅で降り、入場料の1ユーロを払って公園の敷地内に入ると、緑の向こうに赤錆びた給水塔が見えてきた。ここはベルリンの鉄道史と大きく関わる場所だ。
使われなくなった線路を活用した、シェーネベルク南地域自然公園
1838年にベルリンとポツダムを結ぶプロイセン最初の路線が開業したのを皮切りに、ハレ方面に向かうアンハルト線(1841年)、ドレスデン線(1875年)という長距離路線が開業する。まさにその頃、ドイツ帝国の首都となったベルリンは空前の活況を呈するようになった。
このようななか、1879年に現在のシェーネベルクの南側に大規模な修理工場と操車場が造られた。ちょうどアンハルト線とドレスデン線が西と東へ分岐する三角地点に位置するため、貨物列車の組み替え作業を行うには最適だった。
緑にあふれた自然公園の遊歩道
1999年に、18ヘクタールもの広大な敷地は自然公園に生まれ変わったが、かつての産業遺産は今も色濃く残る。給水塔の下には巨大な機関庫があり、近くには50型と呼ばれる1940年製の蒸気機関車がどっしりと横たわっている。しばらくぶりにここを訪れ、歴史や自然についての説明プレートや公園内を彩るアート作品が以前より増えたことに気づいた。
この公園で楽しいのは、そこから北側に伸びた遊歩道を歩くことだ(自転車やペットの持ち込みは禁止)。公園内の約半分の敷地は自然保護区域に指定され、天然の森や芝がそのまま残っている。かと思うと、往年の機関車のターンテーブルに出会ったり、ベルヴェデーレという名の展望台が姿を現わしたりと、風景は変化に富む。
遊歩道を歩きながら至るところで顔を覗かすのが、廃線跡だ。無造作に置かれ、自然に溶け込んでいるものもあれば、レールの間におがくずを敷き詰めて、遊歩道として活用している部分もある。最後の方ではそれらが複雑なポイントと絡み合い、息子が「かっこいいなあ」とつぶやく。私も同じ感想であった。戦時中の1941年には、ここで1日130もの貨物列車の組み替えが行われていたという。
プリースターヴェーク駅から自然公園の先のズュートクロイツ駅までたっぷり歩き、久々にいい運動になった。自然とアート、産業遺産が溶け合った、コロナ禍の状況でもおすすめの場所である。
シェーネベルク南地域自然公園
Natur-Park Schöneberger Südgelände
1952年に操車場としての使命を終えた後、70年代後半に貨物駅の建設計画が持ち上がったが、市民がこの場所の豊かな自然環境保護を訴えたことで阻止された。公園としてオープンした後、2000年のハノーファー万博の公式プロジェクトに選ばれ、ベルリン外にも知られるように。
オープン:毎日9:00〜日没まで
住所:Prellerweg 47-49, 12157 Berlin
電話番号:030-700906760
URL:www.gruen-berlin.de
グライスドライエック公園
Park am Gleisdreieck
鉄道の産業遺産を生かした公園といえば、もう一つがこちら。旧ポツダム駅と旧アンハルター駅の貨物駅だった敷地を緑地化し、2013年に公園として生まれ変わった。設計には地域住民も関わり、芝生からビオトープ、子どもの遊び場、小菜園、ビーチバレーコートまで、出会う風景は多彩。
オープン:年中無休
住所:Möckernstraße 26, 10963 Berlin
電話番号:030-700906710
URL:www.gruen-berlin.de