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永遠の炎が灯す広場

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ツォー(動物園)駅からバスに乗り、メッセ・ノルトの駅を過ぎると、左手に放送塔を視界に入れながら、バスは緩やかな坂を上っていく。テオドア・ホイス広場のロータリーに差しかかる時、左右の車窓にぜひご注目いただきたい。

テオドア・ホイス広場の「永遠の炎」。左奥に「青のオベリスク」が見えるテオドア・ホイス広場の「永遠の炎」。左奥に「青のオベリスク」が見える

まず右手にビスマルク通りを見下ろしながら市内中心部を一望できるポイントがある。金色の女神像が輝く戦勝記念塔、赤の市庁舎、テレビ塔……。それらが一つのフレームに収まるので、望遠レンズを使えば生き生きとした街の写真が撮れそうだ。

一方、窓の左側に目をやると、円形の台に灯っている炎が視界に入る。この炎は365日、どんな悪天候の日でも灯し続けている。そのことだけでも、私にとって何か安心感を与えてくれる場所だ。

3月頭の日曜の午後、いつもは通り過ぎることの多いこの広場に、あらためて降り立ってみた。1908年、シャルロッテンブルク市(当時まだベルリンから独立した市だった)の西側に円形の広場が造られた。その名は帝国宰相(ライヒスカンツラー)広場。19世紀末からの人口の急増に伴ってベルリンが西へと拡張するなか、Neu-Westend地区の開発の一環として生まれたものだ。同年、地下鉄が完成し、ツォー駅から1本でアクセスできるようになった。

1907年当時の写真を見ると、広場の土地と地下鉄駅の屋根だけで、その奥はひたすら自然が広がっているが、牧歌的な時代はやがて終わりを告げた。1933年4月、「アドルフ・ヒトラー広場」に改称されてしまう。時の独裁者の名が付けられたのは、ヒトラーと建築家アルベルト・シュペーアによるベルリンの首都改造「ゲルマニア計画」において、この広場が東西軸の西端に位置するためだった。

雪の日のテオドア・ホイス広場雪の日のテオドア・ホイス広場

幸いこの計画が実現に至ることはなく、戦後再び「帝国宰相広場」に戻る。1963年12月、その直前に亡くなった初代連邦大統領テオドア・ホイスにちなんで名称が変わり、現在に至る。

「FREIHEIT(自由)RECHT(法)FRIEDE(平和)」という文字が刻まれた記念碑の前に立ってみた。1955年に、避難と追放の犠牲者、つまり戦争とその後の国境変更のなかで故郷を追われた人々のために造られたものだ。オリンピックの聖火台を思わせるが、こちらは4年に1回ではなく、70年もの間、ずっと灯し続けてきた重みがある。

数少ない例外は2022年に起きた。ロシアによるウクライナ侵攻後のガス供給の状況悪化により、この年の9月末に炎はいったん消された。しかし、「ここの炎を絶やしてはいけない」というフランツィスカ・ギファイ市長(当時)の働きかけにより、わずか12日後に再び点灯したのだった。

今も続くロシアとウクライナの戦争に加え、民主主義国家を名乗る国の指導者たちによる法を無視した他国への攻撃により、世界は混迷を極めつつある。それでも、独裁者たちの戦争によって無数の避難と追放の犠牲者を生んだ歴史を忘れるなよと、日曜の午後も炎は無言でゆらめいていた。

インフォメーション

テオドア・ホイス広場
Theodor-Heuss-Platz

シャルロッテンブルク地区にある広場。古くからの落ち着いたエリアで、ここから西に伸びるライヒ通りに沿って飲食店や昔ながらの街の本屋などが並ぶ。「永遠の炎」の背後には、ベルリン在住のアーティスト、ヘラ・サンタロッサ作による「青のオベリスク」が広場を彩っている。ツォー駅から地下鉄U2で10分ほど。

住所:Theodor-Heuss-Platz, 14052 Berlin

カフェ・イム・リテラトゥアハウス
Café im Literarturhaus

クーダムの南側「ベルリン文学館」に面した有名なカフェが、改修工事のためテオドア・ホイス広場から徒歩5分の場所に現在仮移転している。かつての英国将校クラブの流れを汲むInternational Club Berlinの施設内にあり、高い天井の空間で優雅なお茶を楽しめる。本店舗の改修は2026年夏に終了し、年内に再オープンする予定だという。

オープン:月〜日9:00〜23:00
住所:Thüringerallee 5-11, 14052 Berlin
電話番号:030-8825414
URL:www.literaturhaus-berlin.de/cafe-buchhandlung

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) フリーライター。神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『ベルリンガイドブック』(地球の歩き方)、『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポストカード』(講談社)など。
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